第215話 決死行
『とりあえずあの宝箱開けとく?』
緊張感のない声でスラが訊いてくる。
「スラ……お、お前手がないのにどうやって開けるんだよ」
俺はカンフル剤の副作用で身動きが取れないから今もただ地面に倒れたままだ。
「そ、それよりもドラゴンが出たら逃げろよ……お、俺なら大丈夫だから」
『ぷぷっ、何かっこつけてるわけ? まったく動けないくせに』
確かにその通り、まったく動けないのだが。
『あたしに任せとけばいいって』
「ク、ククリ……あと何分だ?」
「あと九分です」
まだあと九分も動けないままか。
実際問題、今ドラゴンが出てきたらどうする……?
とその時だった。
「ドラゴンですっ! ドラゴンが来ましたよっ!」
ククリが声を張り上げる。
間の悪いことに俺の真正面の方向にある通路からドラゴンが姿を見せた。
『ギャオォー!』
ドラゴンは俺の方に、つまり俺の前にいるスラの方に向かってきている。
体が動けば多分俺がなんとかできるのだろうが今はただ見ていることしかできない。
「逃げろスラっ!」
『やだっ!』
スラはそう言うと灼熱の炎をゴオォォォー!!! っとドラゴンに向かって吐いた。
『ギャオォー!』
だがやはり炎には耐性があるらしくドラゴンは構わず向かってくる。
『えいっ!』
スラはドラゴンに体当たりをした。
ぼよん。
ドラゴンにダメージを与えるどころかはね飛ばされてしまう。
「ク、ククリっ、あと何分だっ」
「八分です」
ドラゴンはスラをまったく相手にはせず俺の方に向かってきた。
そして大きな足を俺の顔の前で上げた。
俺の頭を踏みつぶす気だ。
やられるっ!
ドラゴンは足を勢いよく下ろして――
『ピューィ!』
部屋に響いた口笛の音とともにピタっとドラゴンは足を止めた。
そしてスラの方を向き直る。
『ギャオォー!』
スラの口笛によってドラゴンの攻撃対象がスラに移った。
「スラっ」
『あたしにもたまにはカッコつけさせてよねっ』
言うなりスラはドラゴンから距離を取った。
ゴオォォォー!!!
灼熱の炎を吐きながらスラを追うドラゴン。
スラは炎を避けながら素早く逃げる。
『どうよマツイさんっ。あたし素早さだけは自信あるんだかんねっ』
スラの言う通り確かにドラゴンよりスラの方がかなり動きが速い。
これなら時間いっぱい逃げ切れそうだ。
だが次の瞬間ククリの一言が俺の安易な想像を打ち砕いた。
「マ、マツイさんっ、見てくださいっ! ドラゴンの大量発生ですっ!」
『ギャオォー!』
『ギャオォー!』
『ギャオォー!』
『ギャオォー!』
『ギャオォー!』
『ギャオォー!』
『ギャオォー!』
『ギャオォー!』
数えきれないほどのドラゴンが部屋に押し寄せてきた。
「……あ、あと何分だ?」
「よ、四分です」
俺は絶望に打ちのめされていた。
十数体のドラゴンが所狭しと灼熱の炎を吐きながらどしんどしんと俺に向かってきている。
もう駄目だ……。
「スラ、もういいっ! お前は俺の後ろの通路から逃げろっ!」
『やだっ! マツイさんを守るっ! ピューィッ!』
スラは口笛を吹き全ドラゴンの攻撃対象を自分に移すとなおも逃げ続けた。
「スラやめろっ! もういいから……俺のことはいいから逃げてくれっ!」
『いやだっ! ピューィッ!』
気付くとスラは二十体ほどのドラゴンに囲まれてしまっていた。
『ギャオォー!』
『ギャオォー!』
『マツイさんっ!』
『ギャオォー!』
『ギャオォー!』
スラの声がドラゴンたちの咆哮の合間からうっすらと、でもはっきりと聞こえてくる。
『マツイさんっ!』
「スラっ!」
『どうやらあたしはここまでみたいよっ!』
「スラ……まさか……やめろっ!」
『あたし今日までマジ楽しかった、絶対死なないでねっ!』
「スラーーーっ!!!」
その瞬間部屋の中心で大爆発が起こった。
☆☆☆☆☆マークとブクマを押してもらえるととても嬉しいです!
よろしくお願いいたしますm(__)m




