第182話 ガチャ
「え……階層をスキップしたら初めからアイテムを持ってスタートできるのか?」
「できるのかって、あれ? マツイさんにあげたダンジョンのすすめに書いてませんでしたっけ?」
子どものように可愛らしく首をかしげるククリ。
「書いてないよそんなことっ。今初めて知ったぞ」
出たよ、ククリの物忘れの激しさが。
「え~、そうでした? すいませんっ。えっと、写し鏡の門のところで毎回訊かれますよね、何階層からスタートしますかって」
「ああ、訊かれるよ」
毎回地下一階層と答えるのも億劫になってたところだ。
「マツイさんはいつも地下一階層からスタートしますよね」
「ああ、アイテムもなしにいきなり地下十階層とか行くのもちょっと不安だからな」
慎重な性格の俺からすれば当然のことだ。
「でもそこで階層をスキップするとスキップした分だけガチャが引けるんです」
「ガチャ?」
「はい。トウキョウダンジョンに出てくる全アイテムの中からランダムでアイテムがもらえます。といってもレアなアイテムは当然出る確率も低いんですけどね」
「ほう、なるほど。じゃあ例えば地下十階層から始めたらランダムでアイテム十個持ったところからスタートできるってことか」
「違います。九個です」
「あ、そうか」
もし気に入らないアイテムだったらダンジョン出て入り直せば何度でも挑戦できるんじゃないのかそれ。
それでいい武器やレアアイテムを手に入れたらスタートすればいい。
ふふふ……いいじゃないか。
「そういうことなら次からは階層スキップして入ることにしようかな。正直ゾンビとか相手にするの面倒だったんだよな」
「そうですか。もっと早く言えばよかったですね~」
「でも階層スキップしてもククリは俺の居場所はわかるのか?」
「大丈夫ですよ。私は上位精霊ですよ、マツイさんの居場所の探知くらいわけありません」
ククリは胸をぽんと叩いて自信満々に言い放つ。
「ふーん、そっか」
何はともあれ次回が楽しみだ。
「じゃあ話はこれくらいにして次の階層に下りるとするかな」
「そうですね。スラさんお待たせしてすいませんでした――ってあら~?」
俺とククリが足元に目を落とすとスラは気持ちよさそうにすやすやと眠っていた。
「目覚まし草の効果もきれていますから眠くなってしまったんですね」
「らしいな」
そう言う俺も少しだけ疲れている。
「マツイさんもちょっと眠っていきますか? ミノタウロスが来たら起こしてあげますから」
「そうか? じゃあほんのちょっとだけ」
俺はククリの言葉に甘えることにした。
スラの隣に横になると目を閉じる。
あー、体が休まる。
「あっマツイさん、ミノタウロスですっ」
「えっ。なんだよもうっ」
俺はすぐさま立ち上がると黒極の剣を持ってミノタウロスめがけて駆け出した。
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