第177話 ミノケンタウロス
「結構でかいなあいつ……」
俺とククリとスラは地下十三階層のフロアボス、ミノケンタウロスのいる部屋の前まで来ていた。
ミノケンタウロスを通路からじっと眺める。
「下半身が馬ですからね。大きいですよ」
ククリが俺の独り言に返す。
『マツイさんなら勝てるっしょ』
「そうですね。レベルも上がりましたし勝てます勝てます」
ふたりが根拠のない自信をひっさげ俺をフロアボスの部屋に押し込もうとする。
「こら、押すなっ。自分で行くから」
俺たちが部屋に足を踏み入れるとゴゴゴゴゴ……と後ろの出入り口が石の壁で閉ざされた。
そしてミノケンタウロスがギロッとこっちを振り向いた。
「じゃ頑張ってくださいね、マツイさんっ」
『マツイさんあとよろー』
ククリはすいーっとスラはぴょんぴょんと俺から離れていく。
他人事だと思って……。
俺がククリとスラに恨みがましい視線を送っていると、
『ウボォーッ!』
ミノケンタウロスが駆けてきた。
はやっ……!
ミノケンタウロスは手に持った長く大きな円錐状の槍を俺に向けて突いてくる。
「うおっ」
俺はなんとかしゃがんでこれを避けるがヒーローマントに風穴があく。
「あ、くそっ」
三万円もするマントなのに……。
俺は一旦空中に飛んで逃れようとするが穴の開いたヒーローマントはもうただのマントでしかなくなっており飛べなくなっていた。
「あぶっ」
執拗に槍で突いてくるミノケンタウロスは徐々に俺の動きをとらえ始めてきて、
「ぐあっ……」
ついに俺は脇腹に一撃をもらってしまった。
パワードスーツのおかげで腹にまで風穴があくことはなかったが電子回路がいかれたかパワードスーツも今の攻撃でただの重たいスーツになってしまったようだ。
「バトルウインド!」
俺は至近距離から切れ味鋭い風の刃を放った。が動きの素早いミノケンタウロスはこれを後ろにジャンプしてかわした。
「なにっ……!」
バトルウインドは避けられてしまったがバトルウインドを使った甲斐あってミノケンタウロスとの距離が開いた。
「ま、まあいい、これだけ離れれば充分だっ。バトルメテオっ!」
俺はミノケンタウロスに手を伸ばして今の俺に使える最強の魔法を唱えた。
その瞬間天井から無数の隕石が出現して高速でミノケンタウロスの頭上に降り注ぐ。
隕石に気付いたミノケンタウロスだったがもう遅い。
これでミノケンタウロスは体中に穴が開く――
「――って嘘だろっ!?」
俺は自分の目を疑う。
それもそのはず雨のように降り注いでいる無数の隕石をミノケンタウロスは素早い足さばきですべてかわしていたのだ。
「そんな……」
華麗なステップで隕石群をかわし続けるミノケンタウロス。
「攻撃が当たらないんじゃどうすればいいんだ……」
俺が呆然とみつめていると、
「マツイさーん、バトルアースを使ってくださーいっ」
ククリの声が飛んでくる。
俺はククリに言われるがまま「バトルアース!」と唱えた。
……。
だが何も発動しない。
「マツイさーん、魔力が足らないんじゃないですかっ?」
『マツイさん、魔力草魔力草っ』
今度はククリとスラふたりがかりで助言をしてくる。
俺は異次元袋から魔力草を取り出すも一瞬躊躇する。
これあとでスラにあげようとしてたんだけどなぁ……。
だが、
「そうも言ってられないか……」
俺は不味いのを我慢して魔力草を飲み込むと再度、
「バトルアース!」
とミノケンタウロスに手を向け叫んだ。
その瞬間石畳の割れ目からツタが伸びてきて無数の隕石に気をとられていたミノケンタウロスの前足と後ろ足に絡みつく。
『ウボォー……ッ!?』
途端に身動きの取れなくなったミノケンタウロスの頭上に最後の隕石が落下した。
ミノケンタウロスは頭部に隕石の直撃を受けボロボロに崩れた地面にどすんと倒れ込む。
それでもまだ消滅はせずそれどころか地面に槍を突き刺し震える足で立ち上がろうとしている。
「タフだな、お前……」
敵ながら心の中で称賛を送りつつ俺はミノケンタウロスのもとに近付いていく。
「でも、これで終わりだっ」
『ウボォォ……!』
俺が胸に剣を突き刺すとミノケンタウロスは最期の声を上げて泡となり消えていった。
☆☆☆☆☆マークとブクマを押してもらえるととても嬉しいです!
よろしくお願いいたしますm(__)m




