第169話 アロハ
俺たちは地下十二階層に下り立った。
ここはトロールが出てくるフロアだ。
トロールは丸々と太った不細工な面のモンスターで金属製のこんぼうのような武器を持っている。
「マツイさん、前回はフロアボスのボストロールは魔石で倒しちゃいましたからトロールコレクターは手に入れてないんですよね」
ククリが話しかけてくる。
「そういえばそうだったな」
前回はスラが空腹を訴えていたからトロールを千体も相手にする時間はなかった。
「今回はどうします? アイテムだけとって次の階に行きますか? それともトロールコレクターを取得しておきますか?」
「そうだなぁ……」
一番厄介なフロアボスを倒してしまっている以上今さらトロールコレクターは必要ない気もするが……。
「この先もトロール系のモンスターは出てくるのか?」
「そうですね。トロールと名のつくモンスターはまだいますから出てくるはずですよ」
とククリが返す。
「だとすると後々のことを考えるとスキルはあった方がいいのか」
ここまですべてのモンスターのコレクターをゲットしてきている以上トロールコレクターだけとらないのも気になるし。
「マツイさんならそう言うと思いました。では久しぶりにモンスターを千体狩りましょうか」
「ああ。でもその前にこの階層のアイテムを全部手に入れてからな」
「はーい」
「スラもそれでいいか?」
『全然いいよー』
俺はククリとスラを連れてフロアにある宝箱を求めて歩き出した。
通路を進んで行くとすぐに宝箱を一つ発見する。
俺は罠でないことを確認してから開ける。
中には魔力草が入っていた。
「わあ、これでスラさんの魔力が回復できますね」
「スラ食べるか?」
『ちょうだいちょうだいっ』
俺は手渡しでスラに魔力草を与えた。
スラはむしゃむしゃと美味しそうに魔力草を食べる。
満腹草を食べているからお腹は膨れているはずなのだが食い意地の張った奴だ。
食べ終わるとスラの魔力は34まで回復した。
魔力が回復しまた物質変換能力が使えるようになったスラに、
「じゃあ例の特技を頼む」
と俺はワーム草を差し出した。
『マツイさん、これ食べ物じゃん。もったいなくない?』
「でもほかにいらないアイテムがないんだよ」
持っているアイテムは草以外はにおい袋や万能キーなどあとで使えそうなものばかり。
『さっきの布の袋があったでしょ。あれでいいじゃん』
「え……これか?」
異次元袋から布の袋を取り出すが……。
「これはさっき錆びた剣を磨くのに使ったから汚れてるぞ」
布の袋は錆びと研磨剤でべとべとになっている。
なんなら捨てようかなと思っていたくらいだ。
『別にあたしは全然気にしないけど』
「マジで……?」
『マジマジ、ほら、あーん』
そう言って口を大きく開けるスラ。
うーん、こんなの食べて体を壊さないのだろうか。
いくらモンスター相手とはいえ気が引ける。
『ちょっとマツイさん、疲れるから早くしてくれるっ』
「お、おう」
俺はためらいながらもスラの口の中に布の袋を落とした。
スラはそれをごくんと飲み込む。
そして次の瞬間ぼえっと派手な布地を吐き出した。
「……ん、なんだこれ?」
俺はそれを拾い上げると広げてみた。
「これは……アロハシャツか?」
赤い布地にカラフルな花の模様が描かれている半袖のシャツだった。
「やったじゃないですか。防御力+1のアロハシャツです。待ちに待った防具ですよっマツイさん。スラさんもやりましたねっ」
『いぇーい、やったやったー』
ククリとスラはハイタッチをせんばかりの勢いで喜んでいるが、
「これって防具って言えるのか?」
ペラペラのうっすい布地に防具としての価値があるとは思えない。
「マツイさん上半身裸なのを気にしてたじゃないですか」
「そりゃそうだけどさ……」
「またスラさんに飲み込んでもらってもいいですけど下手にたわしとかになっちゃったら最悪ですよ」
とククリ。
そうなのだ。
スラの物質変換能力はまだあと二回使えるが確かになぜかたわしが出てくる確率が異常に高い。
欲に目がくらんでこのアロハシャツもたわしになってしまうかもしれない。
だったら……。
俺はヒーローマントを一旦外しばさっとアロハシャツを着込んだ。
そしてマントを再びつける。
アロハシャツでもないよりはマシか。
「似合ってますよマツイさん」
俺が何を着ても多分そう言ってくれるのだろうなと思いながらも俺はククリに一応礼を言う。
「そうかい、ありがとうなククリ。スラもな」
『いいっていいって』
俺は自分のキャラとはおよそそぐわないアロハシャツという防具を身に纏ってフロアを歩き出したのだった。
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