第166話 お金はみんな好き
ベアさんから少し離れ地下十一階層への階段の前まで移動すると俺は今買ったばかりの研磨剤を錆びた剣に塗りたくった。
そしてこれを適当な布で拭く――
「あっ、しまった。拭くものが何もないっ」
俺は適当な布地がないことに気が付いた。
「マツイさんマツイさん、ヒーローマントがあるじゃないですか」
とククリが笑顔で口を開く。
「いやいや、これ三万円もするんだぞ。汚したらあとで買い取ってもらえなくなるだろ」
「え、そのヒーローマントも売るつもりなんですか?」
「ああ。今は売らないけど必要なくなったら売るよ」
「は~、マツイさんてほんとお金が好きなんですね」
呆れた口調のククリ。
「おい、ククリ。一応俺のメンツのために言っておくがお金を好きじゃない人間なんてこの世にはいないからな。俺だけが特別なんじゃないぞ」
ククリに銭ゲバだと思われるのもしゃくなので弁解をしておく。
「でもじゃあどうするんですか? ほかに何もありませんよ。今履いてるダメージジーンズで拭きます?」
「うーん、最悪そうするか……」
「え、本気ですか?」
俺とククリがああでもないこうでもないと議論しているとスラが、
『さっきベアさんに売った布の袋をまた買い取ればいいんじゃね?』
俺とククリを見上げて言った。
「え……?」
『布の袋って百円だったっしょ。それで拭けばよくない』
「あ、あー……それもそうだな」
「そうですね。いい案だと思いますスラさん」
『そう? ならよかったし。あたし行ってきてやるからマツイさん百円ちょうだいっ』
ぼうぜんと突っ立っていた俺の手から百円玉をひょいとくわえるとスラはベアさんのところにぴょんぴょん跳んでいった。
そしてベアさんと二言三言会話を交わすと布の袋を口にくわえて戻ってきた。
『はいこれっ』
「お、おう。サンキュースラ」
「スラさん頼りになりますね~」
『べっつにそんなことないってばー』
スラは口ではそういうもあからさまに喜びの感情が表にもれ出てしまりのない顔になっている。
うーん……。
口調こそギャルギャルしいがその実スラは意外と賢いのかもしれない。
そんなことを思いながら俺はスラから受け取った布の袋で錆びた剣をよーく磨いた。
それなりの時間を要したが俺はゲームのレベル上げのような淡々とした作業は嫌いではないので心地良い時を過ごせた。
そして――
「出来たぞっ!」
十五分ほどかけて俺は錆びた剣を攻撃力+25の黒極の剣へと生まれ変わらせたのだった。
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