第16話 暗視
「ゴジラくんまたね~」
会計を済ました高木さんは笑顔で手を振りながら車に乗り込んで帰っていった。
駐車場で手を振り返していた俺は高木さんの車が見えなくなると自分の手に視線を落とした。
俺はこの手でついさっき筋肉痛をものともせず二十キロの米を片手で持ち上げたのだ。
「どうなってるんだ?」
そんな力が俺にないことくらい自分が一番よくわかっている。
この五年間筋トレはおろか運動らしい運動も一切していないのだから。
この時の俺はまだ自分の体に起きたことを理解してはいなかった。
それに気付いたのは俺が晩ご飯を食べ終えた頃だった。
スーパーから帰った俺はブランチ代わりにトーストを二枚食べた後パソコンの前に陣取った。
それから約四時間ネットサーフィンとネットショッピングで時間を潰してからポチにエサをやった。
俺の晩ご飯はカップラーメン。スーパーでまとめ買いしたものだ。
昨日の深夜に録っておいたアニメを見ながらカップラーメンをすする。
二十五分かけて食べ切ると俺は風呂に入ろうとリビングを出ようとした。
部屋の明かりを消そうとして、
「……あれ? 俺、部屋の電気……?」
そこで俺は初めて気が付いた。
もうとっくに夜だというのに部屋の明かりをつけていなかったことに。
そしてそれに気付かず普通に生活できていたことに。
結論から先に言うと俺の目には魔眼が宿ったままでしかもレベルも7に上がったままだった。
つまりダンジョンの中で俺に起こった事象はダンジョンの外でもすべて引き継がれていたのだ。
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