第158話 カンフル剤
狭い通路を抜け広い部屋に出るとしばらくして、
「マツイさーん、スラさーん!」
発光する球体が飛んできた。
ククリだ。
「ククリ、ちょっとまぶしい」
「あ、はーい」
言うとククリの体から発せられていた光が弱まる。
『ククリちゃん、久しぶりー』
「三日ぶりですね。元気でしたか? スラさん」
『うん。あたしちょー元気だよ』
スラが跳び上がって元気なことをアピールする。
『いっぱい朝ご飯食べてきたし』
「そうですか~」
「ククリ、今回は行けるところまでガンガン行くつもりだからククリもそのつもりでよろしくな」
前回はスラの空腹というしょうもない理由でダンジョン探索を諦めてしまったからな。
今回はそんなことのないようにするつもりだ。
「気合い入ってますねマツイさん」
「もちろんさ。いっぱい潜っていっぱい稼ぐぞっ」
「おーっ!」
『いぇーい』
声を合わせた俺たちは早速地下一階層を歩き出した。
俺の姿を見てびくっとなりずざざっと逃げ出すスライムを無視して俺たちはアイテムを探しフロアを進む。
地下一階層など今やうちの庭のようなものだ。
危険は一切ない。
「マツイさん、宝箱ですよ」
「おう、サンキュー」
ククリは俺よりも視力がいいのだろう、宝箱を俺より先に発見する。
俺はククリがみつけた宝箱に近付き罠でないことを確認後これを開けた。
ガチャ。ギイィィ……。
『なになに、何が入ってるの?』
スラが顔を覗かせ中を見ようとする。
「ほら、たいまつだよ」
俺は中にあったたいまつを取り出しスラに見せてやった。
『ククリちゃん、たいまつだって』
スラがククリを見上げる。
「はい、そうですね~」
『マツイさん、たいまつ嬉しい?』
スラが今度は俺に振り向いた。
「いや、正直いらないな」
『えーなんで? なんで?』
「なんでって俺は魔眼っていうスキルを持ってるからたいまつがなくてもばっちり見えるんだよ」
『マジで? ちょーヤバくないそれ』
「うん、ヤバいな」
スラはきらきらと目を輝かせながら他愛もない会話を楽しそうにしている。
喋れるようになったスラの相手は少し面倒くさいがスラ自身は俺と会話が出来ることが嬉しいのかもしれない。
仕方ない、ギャルみたいな口調は大目に見てやるか。
「マツイさん。たいまつがいらないんでしたらスラさんに飲み込んでもらって別のアイテムにしてもらったらどうですか?」
ククリが手を上げ提案する。
スラの特技である飲み込むと吐き出すによってスラは魔力を10使いある物質を別の物質に変えることが出来るのだ。
「うん、そうだな。いいかスラ?」
『オッケー』
言うとスラはんあーと口を開いた。
俺はたいまつをスラの口に入れる。
ごくん。
スラはたいまつを飲み込むと口をもごもごさせ次の瞬間ぼえっとたいまつとは別のものを吐き出した。
それはたわしだった。
「出たよ、たわし」
「出ましたね」
『変わった変わった。すっごー』
スラだけはテンション高く体を揺らす。
「スラ。もう一回いいか?」
『ん、全然いいよー』
友達のような受け答えをしてスラは再度口を開いた。
たいまつとたわし以外、たいまつとたわし以外……。
俺は心の中で祈りながら願いを込めてたわしをスラの口に入れる。
俺とククリが見守る中スラはごくんとそれを飲み込むとぼえっと茶色くてかなり小さな物体を吐き出した。
俺はそれを手に取り、
「なんだこれ? コンソメスープの素みたいな……」
いろんな角度から眺める。
「マツイさん、それはカンフル剤です」
とククリ。
「何それ?」
「それを食べると一時的に攻撃力が十倍になります」
「十倍っ!?」
「はい。マツイさんの攻撃力は現在167なのでそれを食べれば1670になります」
「なんだそれ、バケモンかよ」
めちゃめちゃいいアイテムじゃないか。
攻撃力十倍になったらどんなボスが現れても一撃で倒せるだろ。
「ですが効果が切れると十分間まったく身動きが取れなくなります」
「あ……そう。やっぱりそういう副作用があるのね」
世の中そうそううまい話はないか。
身動きが取れないんじゃあその間にモンスターに襲われたらアウトじゃないか。
「ちなみに売るといくらだ、これ?」
「四万円です」
「また微妙な値段設定だな」
こうなってくると高いのか安いのかわからん。
「まあ四万円なら一応取っておくか」
俺はカンフル剤を手に持ったままスラを撫でる。
「スラ、よくやったぞ。またあとで頼むな」
『いぇーい、マツイさんに褒められたしー』
「よかったですねスラさん」
『うん、最高!』
スラは嬉しさからかその場でバク宙を披露してみせた。
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