第145話 金庫
「ないっ。なかった」
地下十三階層を二十分かけて歩き回った結果、宝箱こそ見つけたが食べ物はみつからなかった。
手に入れたのは空を飛ぶことの出来る防御力+3のヒーローマントと古びた金庫だけ。
『ピキ~……』
「マツイさん。もうこれは一旦家に帰るしかないんじゃないですか」
ククリが言う。
「とか言って俺に今回のダンジョン探索を切り上げさせて賢者の石を使わせる気だろ」
「えへへ~、バレました? でもでもスラさんがお腹を空かせているのは事実ですよ」
「うん、まあそれはそうなんだよな……」
スラを見ると空腹が限界に達してか目をぐるぐる回していた。
「ククリ、スラの空腹を放っておくとどうなるんだ?」
「まさか放っておくつもりですか? そんなことしたら私マツイさんの神経疑いますよ」
半目にしてククリが俺を見据える。
「違うって、念のため訊いてるだけだよ」
ククリに冷たい人間だと思われたくないのでちょっとだけその気があったということは黙っておく。
「それは人間と同じで最終的には死んじゃいますよ。モンスターの場合は消滅するって言った方が正しいかもしれませんけど」
「……そっか」
今回は妖刀ししおどしやらシルバーメイル、海賊の盾、腹減らずのお守りに影縫いのお守りなどいいアイテムが揃っているから出来ることならもっと深層階まで潜りたかったが……。
「ここまでか……」
俺は覚悟を決めた。
「……うん。地上に戻ろう」
「はい、そうしましょう」
『ピキ~……』
俺は海賊の盾を異次元袋にしまうとスラを抱きかかえて上の階へ続く階段のある部屋に向かうことにした。
その道中、
「そうだククリ、さっきのボロい金庫。あれ何に使うんだ?」
ついさっき手に入れていた古ぼけた金庫のことを訊いてみた。
「中にお金でも入ってるのか?」
なあんて、そんなことあるはずないよな。
「入ってますよ」
「だよな~そんなことあるはず……って、えっ!? お金入ってるのっ!?」
「だって金庫ですから」
とククリ。
「ちょ、ちょっと待って……」
俺は一旦立ち止まるとスラをそっと地面に寝かせて異次元袋から縦横三十センチくらいの金庫を取り出した。
「これの中にお金が入ってるのか?」
「だからそう言ってるじゃないですか。何回訊くんですか」
「い、いくらだ?」
「えーっと、ここは地下十三階層ですよね。ってことは百三十万円ですね」
ククリは宙を見上げながら答える。
「な、なんだよ、その意味深な言い方は。まるで階層が違ったら入っている金額も違うみたいな……」
「あ、マツイさん、冴えてますね~。そうですよ、その金庫は開ける時の階層の深さに応じて中身が変化するんです」
「なんですとっ!?」
おっと、つい驚きのあまり変な口調になってしまった。
「地下十階層で開ければ百万円ですし地下一階層なら十万円です」
「じ、じゃあもし地下百階層で開けたら……一千万円?」
「このトウキョウダンジョンがそんな深くまで存在してればですけどね」
マジかよ……ダンジョンすげぇ。
「じゃあこれ開けるよ。今開けるっ」
どうせあとは上の階層に上がっていくだけだからな。
「どうぞどうぞ」
ククリが手を差し出しすすめる。
「うん、じゃあ」
俺は金庫の取っ手に手をかけるが、
「ん、ん~……ん~……はあぁっ、はぁっ、なんだこれ、開かないぞっ」
びくともしない。
「マツイさん。その金庫は力ではどうやっても開きませんよ」
「じゃあどうやって開けるんだよ。刀で叩き切るか?」
「マツイさん、マツイさん。どんなカギでも開けられるカギってなんでしょうか?」
ククリは急に子どもをあやすようなテンションでなぞなぞみたいなことを言い出した。
どんなカギでも……?
――って、
「あっ!」
俺は異次元袋からあるものを掴むとそれを取り出してみせた。
「万能キーだなっ」
「正解で~す」
ぱちぱちと手を叩くククリ。
ちょっとバカにされてるような気がしないでもないが多分気のせいだろう。
俺は銀色に鈍く光る万能キーをカギ穴に差し込んで回し再度金庫の取っ手に手をかけた。
すると、
「……おおっ、開いたぞっ」
頑丈な金庫の扉が開いていく。
そして隙間から徐々に見えてくる札束。
いやがうえにも心臓の鼓動が早まってくる。
俺はつばを飲み込むと金庫の中の百三十万円に手を伸ばし――
『ピキ~……』
「あ、ごめんなスラ。これ取ったらすぐ帰るからなっ」
百三十万円に手を伸ばしこれを見事手に入れたのだった。
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