第132話 スラの涙
グリュプスを仲間にするにはスラと別れないといけない……?
「……それってどういうこと?」
「あれ、言ってませんでしたっけ。同時に仲間に出来るモンスターは一体だけですよ」
「いや、初耳だけど」
「あ、そうでした? すいません。えへへ~」
ククリはいつもの如く笑ってごまかそうとする。
「いやいや、え? そうだったの? モンスターって一体しか仲間に出来ないの?」
「そうですよ。だって考えてもみてくださいよ、何体でも仲間に出来たらそれはチート過ぎるじゃないですか」
「ちーと?」
「とにかくあの宝箱の中のアイテムをとるためにグリュプスを仲間にするんでしたらスラさんとお別れしないといけませんよ」
とククリは言った。
すると、
『ピキー! ピキー! ピキー!』
スラがまるで体当たりをするように俺の胸に飛び込んできた。
「おっと……なんだスラ?」
見下ろすと目に涙を浮かべたスラが『ピキー! ピキー! ピキー!』と必死に何かを訴えている。
「なんだよ、どうしたんだ?」
『ピキー! ピキー! ピキー!』
「スラさんがマツイさんと別れたくない! って言ってますよ」
ククリが通訳してくれる。
『ピキー! ピキー!』
「なんだスラ、そんなこと気にしてたのか。大丈夫だよ、お前と別れるつもりはないから」
俺はスラを抱きかかえながら頭を撫でてやった。
『……ピキー?』
うるんだ瞳で見上げてくるスラ。
「本当に? だそうです」
「ああ、本当だよ。スラと別れることなんてこの先もずっとないよ。だから安心してくれ」
『ピキー!!』
「あっおいこらっ」
スラは俺の頭の上にぴょんと飛び乗った。
居心地よさげにぷるぷると体を揺すっている。
「やれやれ……まあとにかくそこの二つの宝箱は一旦置いといて他の宝箱を探そう。もしかしたら空を飛べるアイテムが手に入るかもしれないし」
「はーい、そうしましょう」
俺たちは毒の沼地に囲まれた宝箱を保留して再度フロアを歩き始めた。
途中魔眼の透視能力でグリュプスの姿を見かけると俺は出遭わないように通り道を変更してなんとかグリュプスとの戦闘を避ける。
戦って勝てないことはないが今は魔力が尽きているので万全を期したい。
慎重な行動のおかげで俺はグリュプスとの遭遇を回避しつつフロアを回ることが出来た。
そして宝箱を四つも発見していた。
宝箱の中身はそれぞれ薬草と研磨剤とたいまつとにおい袋だった。
正直大したことのないアイテムに肩を落とす俺。
「っつうかいつまで乗ってるんだスラ。いい加減下りろ」
俺はずっと俺の頭の上に乗っていたスラを地面に下ろすと、
「これからグリュプス狩りをするからな。手は出すなよ」
念を押しておく。
「マツイさん、グリュプスコレクターも手に入れるんですね」
「ああ、コレクターを持っていれば後々役に立つんだろ」
「もちろんです。このフロアのボスのエルダーグリュプスはもとよりもっと深い階層に行けばもっと強力なグリュプスと名のつくモンスターも出てきますからね」
とククリ。
「エルダーグリュプスっていうのか、このフロアのボスは。強いのかそいつは?」
「普通のグリュプスに比べると強いですけどグリュプスコレクターを取得しておけば問題ないはずですよ」
ククリは笑顔で説明してくれた。
「問題ない……ね」
ククリのその言葉を信じて何度痛い目に遭ったことか。
こういう時に魔石があればフロアボスでも一撃で倒せるから気が楽なんだけど……。
俺は保留にしておいた宝箱の存在を思い出していた。
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