第128話 腹が減っては……
「それにしてもすごい威力だったな、バトルメテオって」
消費魔力が100なのでもう口にしても発動はしない。
「地面がバラバラだぞ」
フロアボスの部屋の石畳はボコボコにえぐれ無数の小さいクレーターのようなものが出来ていた。
「ふんっ、そうですね」
つっけんどんな返しをするククリ。
賢者の石を売らないと言ったのを翻したことをククリはまだ怒っているようだ。
「ククリ、俺はニートなんだよ。このダンジョンでしか稼げないんだ」
長らく人と距離をとってきたため今さら普通の職場でまともに人間関係を築けるとは思えない。
「賢者の石が三百万円で売れるって聞いたら売らない手はないんだよ」
「むぅ……激レアアイテムなのに~、売らないって言ったのに~」
「まあ、そうなんだけど……」
ククリはこれでもかというくらい頬を膨らませている。
「私、誰かが賢者の石を使うところ見たことないので見たかったです」
「うーん、そう言われてもなぁ…………じゃあ、こうしよう。ベアさんに会ったら売る」
「は? それじゃあ何も――」
「待て待て、けど会えなかったら俺が使うよ。ククリの前で俺が賢者の石を使ってみせる、それでどうだ?」
俺としてはかなり譲歩したつもりだ。
売値三百万円、ましてや何が起こるかわからない賢者の石を使うのは抵抗があるがククリのためだ。
「今回ダンジョンを出るまでにベアさんに会えなかったら賢者の石を使うところを見せてくれるんですね」
「ああ」
「嘘じゃないでしょうね」
「約束するよ」
俺の目をじっとみつめるククリ。
「……わかりました。それで手を打ちましょう」
「そうか、ありがとなククリ」
なんとかククリの機嫌が直ったようで何よりだ。
ククリは、
「ではマツイさん、気を取り直して地下十一階層に行きましょうか」
「そうだな」
「すいませんでしたスラさん、お待たせしました」
スラに向き直る。
すると、
『ピキー、ピキー』
スラが何か言いたげに口を開いた。
「なんて言ってるんだ、ククリ?」
「私たちの話が終わるのを待っていたらお腹がすいたそうです」
「なんだ腹減ってるのか」
俺は腹減らずのお守りを身に着けているからそんなことまったく感じないがスラはそういうわけにはいかない。
「といってもなぁ、今食べられそうなものは……」
皮の袋の中を見るが布の袋と黒曜の玉と麻痺を治す効果のあるムカデ草しか入っていない。
「これくらいしかないんだけど」
俺はムカデ草を取り出してスラの前に差し出した。
と、
ムカデ草を見たスラは『ピキー!』と嬉しそうにそれを頬張った。
もぐもぐと美味しそうに味わっている。
「そんなのが美味しいのか?」
『ピキー』
「薬草の類は私たち精霊にとってもスラさんたちにとっても好物ですから」
とククリ。
「ふーん、それならよかった」
俺からしたらトウキョウダンジョン内に出てくる草は不味くて食べられたものじゃないんだけど。
ムカデ草をごくんと飲み込むとスラは満足げに俺を見上げた。
『ピキー』
「さあ、スラさんもお腹が膨れたようですしそろそろ次の階層に行きましょうか」
「そうするか」
俺は賢者の石をそっと皮の袋の中に入れると地下十一階層へと続く階段の前に立った。
足元の階段を見下ろしながら、
「次の階層はどんなモンスターが出てくるんだ?」
ククリに訊ねる。
「グリュプスといってワシとライオンが合体したようなモンスターです。キマイラよりも空を飛ぶスピードは速いですがキマイラが倒せるのならそう大した敵ではないと思いますよ」
「そっか。それなら安心だな」
キマイラロードを倒したことによって自信をつけていた俺は階段をさっそうと下りていった。
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