第114話 猶予は三日
キマイラとキマイラロードが待つ地下十階層へ行く前に万全の状態にしておきたい俺はオークのいる、ここ地下九階層でレベル上げを開始することにした。
今の俺の装備は攻撃力+5の銅の剣と防御力+6の青銅の鎧、防御力+1の皮のズボンと運動靴だ。
オークのドロップアイテムで今の頼りない装備が強化できれば言うことはないのだがオークのドロップアイテムは鉄の槍かオークの肉の二種類のようなので期待は出来ない。
俺は長時間のオーク狩りに備えて布の袋から目覚まし草を取り出すとそれを食べた。
「えっ、マツイさんそれ今食べちゃうんですか?」
ククリが驚きの声を上げる。
「地下十階層で使うんじゃなかったんですか?」
「そのつもりだったけど目覚まし草の効き目は三日間もあるんだろ。だったらその効果があるうちにキマイラロードを倒しちゃえば何も問題はないはずだ」
キマイラとキマイラロードの催眠攻撃を目覚まし草の効果で防ぎつつ戦うわけだ。
「まあそれはそうですけど」
「二日間寝ずにオークを倒しまくってレベルを上げてから残りの一日でキマイラコレクター取得を目指すよ。そうすればキマイラロードも倒しやすくなるし万々歳だろう」
そう言うと俺は首からぶら下げていたにおい袋の口を開けた。
「さあ、これでオークがわんさか寄ってくるぞ。スラはうまく逃げてろよ」
『ピキー!』
壁を背にして待っていると早速においにつられてオークたちがやってきた。
『フー……』
『フー……』
『フー……』
「まずは三体か……」
俺は銅の剣を握る手に力を込める。
オークたちは大きな腹を揺らしながらこっちに近付いてきた。
俺は自らオークたちのもとへ駆けていくと先頭にいたオークの足を斬りつける。
足を斬られ態勢を崩したオークの首をはね飛ばすと二体目のオークの胸を一突きにした。
さらに体を反転させ三体目のオークの首元に剣を突き刺す。
『フー……!』
『フー……!』
『フー……!』
三体のオークは声にならない声を上げ、泡となり順に消滅していった。
『ピキー!』
「マツイさん、今度はたくさん来ましたよっ」
「わかったっ」
俺はオークの群れに飛び込んでいくと続けざまにオークたちを滅していく。
一段落したところで、
「ふぅ……」
と息をつく。
「マツイさん腕から血が出てますっ」
「ん? あー、本当だ……ヒール!」
どこで切っていたのかわからないが小さい傷だったのでとりあえずヒールで回復。
自然治癒に任せてもよかったのだが魔力はまだ半分近くも残っているから問題はない。
『ピキー』
「マツイさん、また来ましたっ」
「よし、たまには魔法で一気に片づけるか」
俺は手をオークたちに向けると、
「バトルウインド!」
と唱えた。
俺の手から弧を描いた薄緑色の風の刃が飛び出してオークたちを斬り裂いていく。
「わあっ! マツイさん見てください、スラさんがさっきからずっとレベルアップしてますよ!」
『ピキー!』
見るとスラの背面に刻まれていた数字が光を放ちながら10から11、11から12とどんどん変化していっている。
このペースなら二日も戦い続ければスラも戦力として役に立ってくれるかもしれない。
そんな期待を胸に抱きながら俺はにおいにつられてやってきたオークたちを倒し続けた。
一時間の制約を守り上の階層に時折り移動しては戻ってきてオークを狩る、の繰り返し。
腹減らずのお守りと目覚まし草の効果で効率よく経験値を稼いだ俺はオーク狩りを始めてからおよそ四十時間後――
ブシュッ!
「ふふっ、どうだククリ? だいぶ強くなったんじゃないか?」
「すごいですマツイさん! もうキマイラにだって負けませんよ!」
俺は素手でオークの胸から心臓をえぐり出し握り潰すことが可能になっていた。
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