第1話 松井秀喜
俺の名前は松井秀喜。
……もちろんプロ野球選手だったあの人ではない。ただの同姓同名だ。
両親が無類の松井秀喜好きだったため父はわざわざ母の名字である松井姓に婿入りし二人の姉の後に生まれた男の俺に両親は一も二もなく秀喜と名付けたのだそうだ。
そんな両親も五年前、俺が大学四年生で就活真っ只中の目が回るような忙しい夏の日に水難事故に遭いこの世を去った。
あれからはや五年。
現在俺は愛犬とともに実家でだらだらとニート生活を送っていた。
結婚して家を出ていった姉二人から毎月五万円ずつ実家の維持費という名目のお小遣いを銀行口座に振り込んでもらい朝はパチンコ、昼はネットショッピング、夜は録りためたアニメ番組の鑑賞をして過ごす日々。
ニートなので当然のことながら一切の友達付き合いを断っているし彼女もいるわけがない。
こんな現状に満足などしていないが一度こうなってしまうと蟻地獄にはまってしまった蟻のように抜け出す方法がみつからないのだ。
「完全に名前負けだな、ポチ」
俺と一緒のソファでくつろぎながらアニメを観ているゴールデンレトリバーのポチに顔を向けるとポチは俺に遠慮でもしたのか申し訳程度に「くぅ~ん」と返事をした。
うつらうつらしつつ俺は部屋にかけてある大きな鳩時計を見上げ時間を確認する。
この鳩時計は両親が結婚記念に自分たちで買ったものらしい。当時にしてはかなり高価だったとか。ってそんなことどうでもいいな。
「はぁ~あ、もうすぐ十二時か……そろそろ風呂入って寝るかな」
俺がテレビの電源を消そうと腰を上げたその時、ポチがバッと顔を上げた。
ソファから飛び下り凛々しい顔で宙を二、三度見上げると俺の服の袖にかみついて引っ張りだした。
「なんだよ、ポチ。晩ご飯ならさっきやっただろ」
俺の言葉には耳も貸さずなおもポチは俺を引っ張る。
どうやらテーブルの下に引っ張り込もうとしているようだ。
「おいおい、遊びたいなら明日付き合ってやるから放してく――」
そこまで言った次の瞬間だった。
ドォン!!
耳をつんざくような爆発音が俺の鼓膜を襲った。
と同時に窓ガラスが一斉に割れる。
「うわっ!?」
俺はポチと一緒にテーブルの下に身をかがめ小さくなった。
窓ガラスの破片が当たらないようポチの頭を抱え込む。
どれくらいの間そうしていただろうか。
結局爆発音はその一回きりだった。
俺はポチとともにテーブルの下からはい出る。
辺りは夜の静寂に包まれまるで何事もなかったかのように時計の針は時を刻んでいた。
俺は爆発の被害を確認するため窓ガラスの破片を踏まないように気をつけながら庭に出た。
「……え?」
庭には古いプレハブ小屋があったはずなのだがきれいさっぱりなくなっていた。
そしてその代わりといってはなんだがプレハブ小屋のあった場所には大きな穴が開いていて地下へと続く階段があった。
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