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召喚師さまの勇者の勇者  作者: 桜山うす(J.I.A)
第二章 もしも勇者の勇者が死んでしまったら
9/23

勇者保険

 浮遊島ジェンヌに数ある『転移ゲート』で、もっともよく使われるのが『サポセン』である。

 星2世界の『勇者サポートセンター』に直通していて、あまりによく使われるために、ゲートそのものを『サポセン』と呼ぶようになったのだ。


『サポセン』は、古くは『勇者ギルド』、たんにギルドと呼ばれたりもしていたらしい。

 つまりは、召喚師によって召喚された勇者たちの組合である。


 サクラハルは、その『勇者ギルド』に初めて足を踏み入れていた。


「ふむ、ここがギルドか。相変わらず奇妙奇天烈な建物だな」


 勇者サポートセンター星2世界支部。

 この施設も、浮遊島ジェンヌに負けず劣らず、混沌とした景観をしていた。


 庭先にマテ車がいくつも立った、チベットの寺院のような木造建築。

 なのに中に入ると、いきなりゴシック教会風になっていて、ステンドグラスから色とりどりの光が降り注ぎ、パイプオルガンの音色が響いてくる。

 奥の小部屋には木魚を叩くスペースがあって、ぽくぽくとビートを刻み続けていた。

 どうやら宗教法人という肩書にすることによって、税金を安く抑える試みだったらしい。


 薄暗い屋内の、いい具合に湿気た長椅子には順番待ちの人が並んでいて、音楽を聴きながら番号札を持って待たされている。


 番号札は、使い込まれたプラスチック製のもので、ここまで召喚技術の発達した世界にしては、妙にアナクロな印象を受ける。


 じつは勇者ギルドは召喚師ではなくて、勇者の有志が独自に運営している組合なので、設備にそんなにお金がかけられないのだった。


 サクラハルがこんな施設に通っていることを、僕は知らなかった。

 というか、勇者なのに勇者ギルドの存在すら知らないでいる、僕が普通ではないのかもしれない。


 どうやら、新米の召喚師をサポートするケットシーと同じように、新米の勇者に助言を与え、各世界でもろもろのサポートをしてくれる団体が勇者ギルドということらしかった。


 サクラハルは、この前いのりん委員長に、


「勇者ギルドには行っておいた方がいいわよ」


 と、しつこく言われていたらしかった。

 召喚師になった委員長は、僕の代わりに何かとサクラハルに手を焼いてくれている。


「あそこなら、召喚師と何かトラブルがあったときにも、召喚師連盟と直接やりとりをする窓口になってくれるらしいのよ。サクラちゃんが戦って稼いだクエスト報酬を、マツヒサによこせって言われたら、迷わずここに駆けこむのよ、わかった?」


「わかった、駆け込むことにしよう」


 つまり、いのりんは僕が信用ならないのだった。

 僕はそんな悪徳召喚師ではないし、そんな度胸もないのだけれど。


 ともあれ、勇者ギルドの受付けには女の子が1人、ぽつんといた。


 ケットシー

 クラス 星1妖精

 レアリティ UCアンコモン

 職業 召喚師連盟所属:勇者サポートセンターの総合受付け係ネコ

 ひと言 簡単な召喚魔法も使えます。お気軽にご相談くださいにゃ。


 サクラハルは、彼女のキュートなネコミミをじっと見つめていた。

 女の子の頭から生えているのに、ぴこぴこ、と動く、本物のネコミミである。

 あんまり見つめすぎて、サクラハルの視界は、ぽこぽこと表示されるステータスによって、ほとんど埋め尽くされかけていた。


(ふむ……やはりネコと言えば、こうだな)


 しっくりくる、といった感じで、サクラハルはうんうん頷いていた。

 じつは星7世界の動物は、2歳を超えると人間化する習慣があるのだ。


 知能も魔法もずば抜けている、いわば精霊とか魔獣のような存在なので、他の種族と対等に話し合うために、人間の姿になる決まり事があるらしい。


 なので、人間化する前の獣の姿は、あんまり公的な場では見かけなかったりする。

 王女であるサクラハルは、獣の姿のネコを今までまったく見たことがなかったのだ。


 なので、サクラハルが見慣れているネコと言えば、こういうネコミミの生えた女の子を指す。

 名前がケットシーで、僕のサポート猫と同じなのが若干気になったが、安心して声をかけることができた。


「クエストを完了したのだが……どうすればいい?」


「はい、貴女は……召喚師マツヒサさまの勇者サクラハルさまですね?」


「まるで私がマツヒサのもののような言い方だな……まあ、別にいいが」


「硬いかと思ったら意外と柔軟ですにゃん。ではでは、勇者カードをご提示ください」


 サクラハルは文句をいいつつも、首に提げていた勇者カードを差し出した。

 受付ケットシーがバーコードリーダーのような機械をピッとかざして情報を読み取り、それで手続きは完了した。

 サクラハルは、不思議そうに勇者カードを見ていた。


 ステータスをみると、


 勇者カード

 クラス 星1アイテム

 レアリティ レア

 職業 勇者専用の身分証明書

 召喚ポイント:3400SP


 と表示されている。

 受付ケットシーは、耳をぴこぴこ、と震わせた。


「サクラハルさまの勇者カードに、クエスト報酬の『召喚ポイント』を振り込ませていただきました。『遺物回収』のクエスト達成報酬の1000SPに、MVP報酬として100SPが加算されています。また『チュートリアル達成』と『はぐれマルウェア・ウルフ討伐』のサブ・クエスト報酬もありますので、合計で3400SPとなります」


「ふむ、よく分からないが、これをマツヒサに渡せば、マツヒサがまた召喚魔法を使えるということだな?」


「絶対ダメですマツヒサに貢ぐなんてもったいないですにゃん!」


「そうか?」


「そうですにゃん! 手に入れた報酬は、また次の報酬を手に入れるためによく考えて使うべきです。まずは、ヘタレ召喚師のことなど一旦忘れて、ご自分の為に使うのが一番だと思いますよ?」


 受付ケットシーは、さりげなく僕のことをディスりつつ、にっこりと微笑んで説明した。


「SP(召喚ポイント)は、召喚師が召喚魔力を売り買いするために使うポイントですが、召喚世界イージーワールドではそのまま通貨としても使えることになっています。すぐそこに市場がありますので、お買い物をなさってはいかがでしょう? この辺りのお店でしたら、安心していいお買い物ができると思いますよ」


「ふむ、そうか。わかった、礼を言うぞ、ケットシー」


「どういたしましてにゃん」


 ひらひら、と手を振る受付ケットシー。

 こうして、最初のクエスト報酬を手に入れたサクラハルが建物から出て行くと、サポートセンターの近くには市場がずっと続く大きな街道があった。

 彼女の王宮のクローゼットにも入りきらない衣類に、彼女の国民全てを養いきれるほどの食料。異国と仲の悪いアルン・デュン・ミリオンではお目にかかれない、様々な国の職人が入り乱れる工房。


 この市場なら、彼女が望めば、欲しいものはなんでも手に入りそうな気がした。


 買い物客だけでなく、冒険で獲得した素材を売ろうとしている勇者たちの姿も見える。

 さすが勇者ギルドが近いだけあって、勇者にとってとても過ごしやすい環境が整っていた。


 サクラハルは、眉をひそめて踵を返した。

 サポセンのお香くさい建物に戻ってゆき、受付ケットシーのところに戻っていった。


「はいはい、なにか御用ですかにゃ?」


「何を買えばいいのか分からない。いっしょに来てくれないか?」


 サクラハルが手を差し伸べると、受付ケットシーは、にゅふふ、と笑って、サクラハルの腕にぎゅっと抱き着いた。


「仕方ありませんねぇ。特別ですよ?」


 それから2人でサポセンから出て行って、楽しそうに市場をデートしてまわった。

 受付を待っている人たちも、ぽかーんとして2人のデートを見守っている。 

 サクラハルはたまにこういう事するからカッコいいんだ。


「この大きな町は、迷宮のアイテムを手に入れて一攫千金を狙う星2世界人が築いたものです。どの店も、のぞくたびに新しい掘り出し物のアイテムが売られています。近くに来るたびに見ておくといいですよ?」


「そうか、それは良い事を聞いた」


 2人で市場をぐるぐるめぐっていると、向かいから見覚えのある勇者が現れた。

 相変わらずメモをガリガリ書いているいのりん委員長と、威圧感のある星4勇者ベオック。

 その足元に、なにやら見慣れぬちびっこい子供がいる。


 パリン

 星2世界勇者

 UCアンコモン

 魔羊飼い

 若干の回復魔法と、ラック上昇の補助スキルが使えます。


「来たのね、サクラ」


「いのりん委員長か。今日も相場の分析をしているようだな? 熱心なことだ」


「それもあるけど、新しい勇者ユニットを召喚したから、装備を買ってあげているのよ」


 先ほどから足元をうろちょろしていたちびっこい子は、よく見ると髭もじゃで、買ってもらった杖を掲げて、得意そうにしていた。


「戦いはベオックが頑張ってくれているから、サポート役が欲しかったのよね。いい選択だと思う? ケットシー」


「ふむふむ、なるほど、いい選択にゃ。ひょっとしてすごく勉強してるにゃ?」


「当然でしょう」


 いのりんも得意そうだ。

 ラック上昇は、あまり目立たないが、魔法職にも戦士職にも有効なバフ効果だ。

 攻撃でも回避でも確実に数字が出せる。

 次にどんな勇者と組もうとも、無駄にならないのも大きい。長期的にみれば、かなりの費用対効果と言えるだろう。


「サクラ、私たちは明日、クエストを受けるの。コカトリスの討伐、あなたもぜひ来てちょうだい」


「ああ、いいだろう」


「いい装備が欲しかったら、私が見繕ってあげるわよ? 買い物に来たんでしょう?」


 いのりんは、サクラハルの恰好を見て言った。

 初期装備の剣に、粗末なドレス。

 この前酒場で出会ったときと、一見何も変わっていなかった。


「いいや、必要ない。欲しい物なら、もう買ったからな」


 サクラハルは、不敵に笑った。

 まるで、もう何も怖くない、といった風に。

 いのりん委員長が眉をひそめていると、サクラハルは、言った。


「保険に入った……マツヒサには、内緒にしてくれ」


 サクラハルが最初の報酬でした買い物は、じつは保険加入だった。

 

 ギルドの待合室には、生命保険のチラシも張り出されていて、「冒険に安全地帯はありません、万一の事故に備え、勇者ギルド保険に加入しましょう」とうたっていたのだ。


「この生命保険というのはなんなのだ?」


「これは保険料を支払い続けると、高額な蘇生魔法を、それまでの加入日数に応じてかなり減額して受けられる、ありがたい保険制度ですにゃ」


 などと、受付ケットシーは、サクラハルに説明していた。

 アルン・デュン・ミリオンにも保険制度はあるのだろうか。


「さらに、加入したまま無事故でずっと過ごし続けていれば、次に召喚されるときは勇者ギルドからログインボーナスとして、回復薬セットや蘇生アイテムを無料でプレゼントしてくれます」


「それは素晴らしいな。よし、入ろう」


 次に召喚される機会があるかどうかは不明だが。

 どうやら、勇者ギルドはこのログインボーナスによって、召喚師連盟の保険制度との差別化を図っているらしい。


 サクラハルは、召喚師が勇者を復活させられることを、なんとなく理解していたようだ。

 同じ顔の高校生勇者と、何回も顔をあわせているし。

 けれども、彼女が僕にその話題をすることはなかった。


「きっと、マツヒサには負担が大きすぎて、私を復活させるなど無理だろうからな。自分の身くらい自分でなんとかしないといけないのだ」


「本当によくできた勇者ですにゃ。ヘタレにはもったいない!」


 ケットシーは、よよよとハンカチを濡らして泣いていた。

 サクラハルが僕にもったいないのは常々思っていることだった。

 もともと優秀な勇者だったサクラハルは、その後も毎日大量のクエスト報酬を手に入れることとなったのだ。


 それでいて、彼女の装備はどんどん充実していった。

 頼りないブラウスだったのが、いつの間にか軽くて頑丈な魔術素材の鎧を身に着けるようになり。

 護身用の剣の他にも、メイン武器の長剣をもう一本身に着けるようになった。


 さらに、僕にクエスト報酬を渡してくれるようになったのは、自分に必要なものをあらかた手に入れてしまってからだ。

 この世界では、たいていの勇者はお金を余らせてしまう。

 結婚したり子供を育てたりするわけじゃないからな。


 こうして、ひ弱な王女でしかなかったサクラハルは、勇者として自立の道を歩んでいった。


 一方で、召喚師の道を選んだ僕は、彼女とは真逆の展開になっていた。

 どんどん部屋に閉じこもって、どんどん腐っていった。

 自分で外に出て稼ぐこともせずに、毎日毎日、ただひたすら勉強を続けて、たまに女の子が稼いでくる召喚ポイントを使って11連ガチャを回していた。


 なんだこれ。

 召喚師って、本当にこれでいいの?

 僕が彼女の召喚師じゃなかったら、ただのヒモじゃないか。


 しかも、僕が異世界に召喚されてから、2週間。

 いまだにサクラハル以外の勇者ユニットと契約を結べていない。


 本当は僕、召喚師の才能ないんじゃないか、と思わない日はなかった。

 何度も何度も壁にぶち当たっている気分だ。

 いのりん委員長は着実に成果を伸ばしているみたいだし。

 召喚師としてやっていく自信も意欲も、次第になくなってきていた。


「ただいまだ、マツヒサ」


「おかえり、サクラ……どうだった?」


「今日はみんな張り切って遠出をしてきた。ワイバーン・ロードとかいう大物をしとめてきたぞ」


「へー、よかったね……」


「ふふん、勇者ギルドのクエストでもランクBの大物賞金首だ。アツシとミミコは卵を盗もうとして2回崖から落ちた、あれは傑作だった」


「そうか……みんな元気でやってるんだなぁ……」


「報酬が7万SPある。さあ、これでまた11連召喚ができるぞ、マツヒサ」


「…………ぐっ」


「ん? どうしたんだ? マツヒサ。さあ、さっそく召喚しようじゃないか」


 サクラハルは、窮屈な鎧を脱いで、ひらひらしたブラウスとスカート姿になり、僕の前の床にぺたん、とあぐらをかいて座った。

 スカートの中が見えそうになっても、僕が相手なら平気らしい。

 僕は相変わらずネコ以下の身分なのだった。


「……召喚しても、意味ないじゃないか」


「なんだ?」


 サクラハルは気楽に召喚しろと言うが、僕はもう召喚するのが嫌になっていた。

 1日1枚、無償で貰える基本召喚チケットを使って、これまで色々なアイテムを引き当てていた。

 だが、これはレアだぞ、と引いたときは喜んでいたアイテムも、サクラハルには満足に使ってもらえなかったのだ。


「何を腐っているんだ、意味がないわけがないだろう? 大召喚師さまが言うには、こういうのは毎日の積み重ねだそうだ」


「いったい何が積み重なるっていうんだ? 僕がこの前引き当てた白銀のプレートメイル(R、耐久値1500)だって、翌日には見たこともないライトメイル(UC、耐久値800、炎耐性上昇)に切り替わっていたじゃないか。どこにいったんだよ、白銀の方は」


「あれはプレートメイルが破損してしまったんだ。ゴブリン・ジェネラルが投石機を使ってきてだな」


「最初はめちゃくちゃ喜んでくれた名刀ライキリ(R、攻撃力80)だって、1回使ったきり玄関の傘立てに置いてあって、全然使ってくれないじゃないか」


「あれはメメノスが少なすぎてなんかしっくりこなかったから、元の剣に戻したんだ」


「だからメメノスってなんだ。多い方がいいの、少ない方がいいの。そもそも一体なんなの」


「……そんなに知りたいか?」


「ぜひ」


「本当に知りたいか?」


「ご飯のたびにメメノスが足りない、メメノスが多すぎるって言われてるんだもの、知りたくもなるよ」


「じつは……私もメメノスが何なのか知らない」


「なんだって!?」


「ああ、私はまるで料理ができないので、適当にそれっぽい新成分の名前をでっちあげたのだ、許せ」


 謎はすべて解けた。

 それは召喚言語でも翻訳できないはずだった。


 不覚にも、僕は笑ってしまった。

 こんなに堂々と開き直られたら、もう笑うしかない。


 自分のプレゼントしたアイテムがサクラハルの役に立っていないのは、かなり残念だった。

 けれどもサクラハルはご覧の通り、僕がプレゼントするとすごく喜んでくれる。

 仕方ないものとして、割りきっていくことにした。


「さあ、いいから召喚してくれ」


「召喚するたびに楽しそうだな。そんなに面白い?」


「ああ、実は毎回楽しみにしているんだ。お前の11連召喚」


 そんな事を言われてしまうと、僕はあっけなくやる気を取り戻してしまうのだった。

 まあ、何だかんだ言って、自分の勇者は一番可愛いものだ。


「……よし、今度こそ」


「お、復活したな、マツヒサ」


「今度こそ、ネコかコックを引き当ててやるからな」


「ネコでコックならなお良いな」


「オーケー、次はケットシーみたいな奴を引いてやる、こい、ケットシー!」


 サクラハルは、手を合わせて


「お願い、お願い、お願い!」


 と願掛けをしながら、僕の召喚を見守っていた。


 そうそう都合よく出るわけはないだろうけれど、ケットシーを必ず引き当てるような意気込みで挑む。


 手のひらから光の球を放ち、サクラハルを小さな円で包んで、彼女が胸に提げている勇者カードをぼっと燃やす。


 7万SPの召喚ポイントを消費して、それらを触媒にした召喚魔法レベル7を発動した。


いらえよ、九天に集いし御業みわざ御霊みたまよ」


 水槽のエアーみたいに、ぽこぽこと地面からあふれてくる光が乱舞し、漆黒の『第九天ナインスヘヴン』に僕の『声』が響き渡った。


 召喚師も魔法職に分類され、この世界では『鍛錬』することによって強くなっていく。

 僕の声の響き渡る範囲も、最初と比べてずいぶんと広くなった気がする。


 サクラハルを触媒にすることによって、僕の『声』には、主に彼女に縁故のある人物が反応しやすくなる。


 ……はずだったのだけど。


「おおっほぅ! ここが異世界ですかぁ!」


 現れたのは、キラキラ宝石の光る貴族っぽい服を着た男だった。


 サウザンド公爵

 クラス 星7世界人

 レアリティ R

 職業 南国サウザンド公爵

 備考:先月、勇者サクラハルとお見合いをしたことがある人です。


 サクラハルとの関連性は、とても分かりやすかった。

 けれど、サクラハルは露骨に嫌な顔をしている。


 性格的にも嫌な奴だ、というのは一目でだいたいわかった。


「おっほん、よろしいでしょう、呼び出された以上、勇者として、あなたの為に尽くしましょう!」


 公爵は、ちょびひげを指でちょいちょい、とつまんで、きらり、と白い歯を光らせた。

 南国の海で採れる塩で毎日磨いているらしく、歯はつるつるだ。


「ではでは、アルン・デュン・ミリオンの精霊石通商権の全権を、いや半分ほどでよろしいので我が公国におゆずりいただけませんでしょうか? それで手を打……」


「帰れ!」


 下心満載だったのでおかえり願った。

 元の世界のいざこざを、こっちの世界にまで持ち込まないでくれ。

 まあ、レア度の高い勇者を召喚したおかげで、基本召喚チケットが貰えたのでよしとする。

 腐ってもレア勇者だ。

 その基本召喚チケットを使ったノーマル召喚で出てきたのは、またしてもサクラハルのお見合い相手だった。


「は、は、話は、聞いたよ! 召喚師さま! はぁ、はぁ! 僕がサクラちゃんと世界を救うんだって!?」


 レモネード王子

 クラス 星7世界人

 レアリティ R

 職業 西国スプーチ第6王子

 備考:先月、勇者サクラハルとお見合いをしたことがある人です。


 またしても、サクラハルは嫌そうな顔をした。

 サクラハルが旅をする先には必ず現れて、移動する馬車にはサクラハルの写真をぺたぺた張り付けている熱狂的なファンらしい。そういうのストーカーって言わない?


「しょ、召喚師さま! さ、さ、サクラさんのために戦うから、彼女をぼ、ぼ、僕にくださいぃぃ!」


「帰れ!」


 せっかく熱意のあるレア勇者だったけれども、気持ち悪いのでおかえり願った。

 強そうな勇者だったのに。

 サクラハルを触媒にした召喚で、新しい勇者ユニットが何体か出てきた。

 召喚師として、サクラハルの相棒となる勇者を見繕ってあげるのは、義務かもしれない。けれど、彼らとはろくに勇者契約を結べなかった。


 なぜかサクラハルと縁談の話があった列強の貴族ばかりが次から次へと出てきて、サクラハルがいつも自慢しているアルンの兵士などは一向に出てこない。


 一体、どういうこと?

 あんな奴らよりも、兵士の方がサクラハルと関係性が深いんじゃないの?

 なんだか無性に腹が立ったし、疲れた。

 サクラハルの国を救うという契約を結んだ手前、とても契約を結べる連中ではない。


 それでも、連続でレア勇者を引き当てた僕は、もう1枚基本召喚チケットをもらうことができた。腐ってもレア勇者だ。

 ほとんど期待せずに、適当にそれを使ってみると、いままで青白かった召喚陣が、急に黄金色の光を放ちはじめた。


「あ……確定演出」


「ん? 確定演出? なんだ、それは」


「SR以上が……来るってことだ!」


 SRの出現確率は、0.005パーセント。

 星7世界から、圧倒的レアリティを持つ何かが、やってくる。


 やがて、二つの小円を内包するひときわ大きな円の中心に、潮の気配とともに長身の男が現れた。


 耳をすませば聞こえてくる、寄せては返す、波のリズム。

 船のマストのように広い背中に、サメの刺青がぐるぐる泳ぎ回っている。

 彼は、僕の顔を見たとたんに、日焼けした顔をニカッとほころばせた。


「よう、また会ったな、召喚師サマ!」


 海賊王ゴードン(2回目)だった。

 僕とサクラハルは失望のあまり、その場にくずおれた。

 ダブった……こいつSRのくせに……ダブった……。

 この尋常でないハズレ感は、きっとこいつにしか出せない。

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