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召喚師さまの勇者の勇者  作者: 桜山うす(J.I.A)
第一章 もしも勇者が勇者を召喚したら
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11連召喚

「……まず、僕みたいな駆け出しの召喚師の声に応じてくれて、ありがとう……ござい、ます」


「営業か」とどこからかツッコミが入ったので振り向くと、いのりんがドアの隙間からこっそり様子をうかがっていた。


 なんでまだいるんだろう。

 金輪際関わらないんじゃなかったのか。

 いのりんがぐっと唇を噛んでドアを閉めて、ようやく僕とサクラハルの2人になった。

 サクラハルの鋭い視線が僕にまっすぐ向けられた。すごく痛い。


「私の方から確認したいことがいくつかある。私は召喚師がどんな人物か、この世界にくるまではまったく分からなかったのだが。あなたが私を召喚した召喚師、という事でいいのか?」


「はい、たぶんそのはず……です」


 こっちもどんな勇者を引き当てるかなんて、まったく分からなかった。

 あらゆる世界と通じる『九天』では、勇者たちはみな魂と呼ばれる光の粒になっていて、生き物かどうかの区別もつかないのだった。


 勇者どころか、動物も、植物も、アイテムすらも、まったく同じ光の粒になっていて、見分けがつかない。

 この状態でこちらの世界に来てもらうよう交渉するのだから、マイコフの言った通り、ガチャそっくりだった。


 僕はあんまりガチャをしたことがない。

 というか、学生はお金がないからあんまり課金できないので、レア物を引き当てた生徒は羨望の眼差しで見られたりするんだ。

 そうなると、この女の子の評価がハイパーレアってことは……。

 これって大当たりってこと……で、いいんだろうか? どうなの?


 サクラハルの冷たい視線が、さらに確信的な冷たさを帯びた。


「すまない、私の目には、あなたに召喚師の資質があるようにはとても見えないのだが?」


「うぐっ……そ、それは、これから勉強して、徐々に改善していこうかと思っている所でして……」


「まあよい。貴方の事はとりあえず保留にしておこう。では、私は何のために召喚された?」


「……というと?」


「召喚された勇者が召喚師のために戦うことは分かっている。具体的には、私は勇者としていったいどのように行動することが求められている? どのような敵と戦う必要があるのだ?」


「さぁ……?」


 眉を思い切りしかめたサクラハルの口から「お前、ふざけているのか?」という言葉が飛び出しそうな気がした。

 僕は立ち上がるほど慌てて、まくしたてた。


「く、詳しい話は、あとで大召喚師さまがしてくれるから! 一緒に聞きに行こう、今はとりあえずそうしよう!」


「………………ちっ」


 上手く逃げた、と思った。

 上手く逃げられた、と思われた。


 僕も召喚されたときは、この世界で戦うという事をぼんやり知っていただけだ。


 大召喚師さまが『召喚の対価』として願いをなんでもかなえてくれる、というので、僕は召喚師になることを選んだ、それだけだ。


「勇者として戦っている間は願いの変更がいくらでもできるから、とりあえず戦うための能力を選んでおきなさい。勇者契約が切れる直前までに、元の世界で必要な願いを考えておくのが一番賢いやり方よ」


 などと裏技っぽいのを教えてくれつつ、職業と能力のリストを僕たちに見せてくれたのだった。


 けれど、僕に召喚スキルを与えた直後に、「とりあえず、なにか召喚してみてよ?」と言って召喚させられるとは思いもよらなかった。


 しかもそれが一発で成功するなんて。

 おかげで、自分の勇者に召喚した理由の説明すらままならない、変な召喚師になってしまったのだ。


 いま大召喚師さまは、他の高校生グループに大事な話をしている最中だ。

 誰かが話の途中で冗談を言ったのか、笑い声がドアの隙間から漏れ聞こえてきたりしている。


 サクラハルは。


 装備:バスローブ1枚。


 まともに服も着ていない状態で人前に出るのは嫌だろうし、僕も自分の勇者が笑いものにされるのは見ていていい気分じゃない。


 いまごろみんな、この世界の便利機能に関する説明を受けているんだろうな。

 というか、視界に現れるこの『ステータス』っていったいどういう仕組みになっているんだろう。

 何気に楽しくて、現れてくる説明をどんどん追いかけていってしまうんだけど。


 そういえば、僕の勇者には、僕と同じ風にステータスが見えているんだろうか。


 黙っているのも気まずいので、何か話かけるきっかけはないものか、と必死に考えていると、


「うにゃにゃーん」


 という気の抜けた声と共に、空中からぽんっとネコっぽい風船が現れた。

 よく見ると、この風船生きている。

 鉛筆で落書きしたような羽が生えていて、お腹もたるんでいて、まったく飛ぶ気が感じられないのに飛んでいる。

 いかにもゆるゆるな生き物だった。

 視線をあわせると、これにもステータスがでた。


 ケットシー

 星1妖精

 レアリティ UCアンコモン

 職業 召喚師連盟所属、連絡係ネコ

 ひと言 簡単な召喚魔法が使えるにゃん、よろしくですにゃん


 自分のステータスにひと言なんて書き込めるのか。

 はじめて知った。

 とにかく、新しく召喚師になった僕に、召喚師連盟から連絡係ネコが送られてきたみたいだった。


「いよーう、新人召喚師ぃ。右も左も分からないユーに、召喚師連盟からヴァリアブルなプレゼントがあるから、心して受け取るにゃー」


「ほんと? ありがたい、こういうの助かる」


「な……なんだ? その生き物は……!」


 サクラハルは大いに動揺して、目をぱちくりさせている。

 まるで正体が分かっていないような反応だった。


「もふもふで……目がくりくりしていて……手足が、短くて……!」


「連絡係ネコ」とステータスに書いてある通りの事を言おうとしたのだけど、どうやら彼女の視界に、ケットシーのステータスは見えていないのかもしれなかった。

 そういえば、勇者契約をまだ結んでいないんだ。


 ケットシーが、毛づくろいをするみたいにうにゃうにゃ~、と唸って呪文を唱えると、ぽんっと小さな爆発が起こった。

 煙とともに金色の福引券が1枚、ケットシーの頭上の何もない空間にあらわれ、ひらひらと僕の手元に落ちてきた。


「ただいま召喚師連盟では、『悪の召喚師マイコフ討伐戦、勇者支援キャンペーン』が実施されているにゃ。期間中にレア勇者を引き当てた召喚師には、レア勇者1人につき同じ召喚レベルの基本召喚チケットが毎日1枚ずつプレゼントされるという、超豪華なキャンペーンにゃ! 初回に限り、なんと11連召喚が可能なゴールドチケットになっているにゃ!」


「おお、なんか知らないけど、太っ腹だなぁ」


「召喚師は大変だから、途中で投げ出したりせずに勇者を大切に育ててもらいたいのにゃ。勇者を召喚したら食料も装備も与えずに敵陣の真っただ中に投げ込むマイコフみたいなダメ召喚師になっちゃダメにゃ! ケットシーとの約束にゃ!」


 そんな事はもちろんしないけれど、お陰で新人はこんなサポートが受けられるようになったらしい。

 ゴールドチケットに視線を合わせると、


 ゴールドチケット

 星1アイテム

 レアリティ レア

 職業 召喚チケット・レベル7

 ひと言 召喚に1度だけ使用できて、使うと11回ぶんの召喚魔力を召喚できます


 と出た。


 ほほう、召喚に使うと、『召喚魔力』が召喚できる……?


 つまり、これを使えば弱い魔力しかもたない僕みたいな新人召喚師でも、一流の召喚師と同等の働きをして戦いに貢献できる、そういう事か。


 さすが召喚ですべてが成立している星一世界だ。

 新人を育てるためのシステムも、ばっちり整っているらしい。


「かわいい……」


 その間、サクラハルの視線はネコに釘づけだった。

 顔をくしくしこする手の動きを真似して、雌のネコみたいにぽーっとしている。

 そんなサクラハルの方がもっとかわいい。


「使い方はステータスをよーく見るにゃ。じゃ、がんばるにゃ、新人召喚師!」


 しゅうっ、と、色素が薄れて、消え去ったケットシー。


「あ……」


 サクラハルは、空中に手を伸ばして、心なしか寂しそうだった。

 ちょっと指先にもふっとした毛が触れたのか、せつなそうに、大事そうに自分の手を見つめている。


 あとにはゴールドチケットを手にした僕が残された。


 ふふん、さて、これからが召喚師の交渉。

 これからが僕のターンだ。


 僕はチケットを軽く振って、けほん、けほん、と咳払いをした。


「なにか召……」


「黙れ、駆け出し召喚師、余韻が台無しだ」


「ちょっとはしゃべらせてよ!? 仮にも君の召喚師がなにか大事なことを言おうとしてるんだよ!?」


 僕の事を完全に召喚師だと思ってはいないサクラハルの険悪な態度に、僕は傷ついた。

 僕の方にちらっと横目を向け、不承不承、サクラハルは僕の方に向き直った。


 いかにもめんどくさそうなオーラをまとった一挙手一投足にイライラする。

 完全に見くびられていた。

 まったく、なんでこんなにイライラするのか。

 けれども、サクラハルなりになにか覚悟を決めていたらしくて、言った。


「よし、いいだろう」


「?」


「正直、貴方の事をペテン師か何かだと思っていた。こんなちっぽけな魔力しかもたない男に、異世界召喚のような大それた魔法が使えるわけがない、と」


「あ、そういうの見える人だったんだ……」


 サクラハルが住んでいたのは、星7世界、別名が魔法世界だった。

 彼女も魔法のような力が使えるし、相手の力量ぐらいなら見分けられるのだろう。


 なるほど、それはごもっともだ。

 この世界のシステムを知らなければ、わからないだろう。


「けれども、考えが変わった。ここは異世界、従来の私の世界の常識は通用しないのだと。貴方を信用するために、まずは貴方の実力をこの目で確かめさせてもらいたい」


「僕の実力……召喚魔法ってこと?」


「そうだ。貴方が私に召喚魔法を見せてくれるのなら、私もあなたの事を召喚師として認めよう」


 僕は、ようやく人心地ついた。

 その瞬間、サクラハルの身体が淡い光を放った。


 勇者契約が成立しました。

 所有中の勇者ユニット:0体→王女サクラハル獲得


 というステータスが視界に浮かんで、思わずわくわくしてしまう。

 これはぜひともいいものを召喚して、面目躍如といこうじゃないか。


「そうだな……できればサクラハルの身に着けられる装備が召喚できればいいんだけど」


 とりあえず、服は必須だろう。

 11連も召喚するのだから、きっと何か出るはずだ。

 今もほとんど裸のような状態では、サクラハルが可哀想だし、いのりん委員長から何を言われるか分かったものではない。


 僕はチケットを使った召喚を行った……召喚スキルを渡されている僕は、このチケットをどう使えばいいのか、まるで本能のレベルでわかっているみたいに、手が動く。


 手のひらから蛍のような光の球が四方に飛び出し、頼りなさげなそれが指に挟んだチケットの周りを飛び交い、ばたばたと風でなびかせた。


 ついさっき、女神アレクサによって与えられた召喚師スキル。

 そして一発でHRを引き当てた強運による召喚魔法が発動した。


 サモン・マトリクスによって、脳裏にいつの間にか植え付けられた技術の記憶。

 それを頼りに、僕はその光の球を動かし、空中に呪文を、地面には、円形のいわゆる召喚陣と呼ばれる図形を書いた。


いらえよ!」


 ぼふっと火を噴く魔法陣。

 陽炎のようにゆらめく呪文。

 呪文をじっと見つめると、その意味を日本語に翻訳した「ステータス」が浮かんだ。


 召喚魔法陣・レベル7。

 イージーワールドの公式召喚魔法陣です。星7世界に限定した召喚を行います。


 よろしいですか?

 はい/いいえ


 むろん、はい一択だ。


 その瞬間、世界は崩落し、暗闇に溶けていった。


 僕の意識は、『第九天』の暗闇の中を泳ぎ、電子回路の中のように曲がりくねった複雑な経路を迷いなく伝っていった。

 何かに急かされるように、先へ先へと急いでいく。

 僕のちっぽけな魔力は、星1世界の柔らかすぎる空間を苦もなく突き破る。

 すると、そこからぞっとするような膨大な召喚魔力があふれ出てきた。


 ゴールドチケットと同じ金色の光に満ちている。

 世界の壁を突き破るほどの力を秘めた、眩い召喚魔力だ。


 こんな魔力を浴びて、耐えきれるはずがない。

 そこから先の出来事は、記憶にない。

 思い出せないのだ。


 気が付くと、僕は九天から元の世界に戻ってきていた。

 召喚魔法は、とどこおりなく終わっていた。

 11個の環が目の前にずらり、と整列し、そこから次々と異世界の物質が飛び出してきた。


 まず、縄につるされた大量の燻製肉。

 食料は基本だ、これは幸先がいい。

 さらに烙印の推された木箱からこぼれんばかりの大量の魚、やはり食料。

 食料はあればあるほどいい。

 においたつ大量の白いパン。

 うん、まずは食料だね。

 大量のニンニク、大量のオリーブオイル、太陽の日差しを吸った大量のレモン、大地の恵みを凝縮した大量の野菜たち。大量のワイン樽は、僕にはちょっと早いかもしれない。

 いいね、これで当分、食べ物には困らないだろう。

 そして煉瓦製の大きなコンロ。

 ナイフから深鍋まで調理器具一式の収まった収納棚。

 すばらしい、調理ができる環境まで整っているなんて。


 極めつけに、最後に出てきたのは、なんとフリルのついた可愛らしいエプロンだった。


 アイテム同士のシナジーもそろっていて、まさに理想の引き。


 僕は、11連ゴールドガチャで引いたアイテムを見渡して、満足していた。

 なんて豪華なラインナップだろう。

 えっ、ここまでやっていいの? という。

 狭い部屋は、瞬く間に大量の食糧で満たされ、11連召喚は完了した。


「あー……」


 僕はサクラハルの装備が欲しかったことを思い出した。

 辛うじて装備できそうなアイテムといえば、エプロンだけだった。

 とりあえず、これ着てみてください、なんて言えるわけがなかった。


 似合わないという意味ではない、むしろちょっと似合いそうではある。

 おかしい。

 アレクサはみんなの装備をちゃんと召喚してくれたのに、なぜか僕は失敗したようだ。

 これが新人と玄人の違いなのか。


 あれこれ考えていても仕方がない、サクラハルはお待ちかねだ。

 不審さは消えたものの、今度は失望して不満げな顔つきになってしまったサクラハルに対して、僕はお茶を濁すしかなかった。


「えっと。きっと、お腹が空いたんじゃないかな、と思って……」


「そうか」


 サクラハルはとても彼女らしい、鷹揚なしぐさでうなずいた。

 彼女なりに、何か言いたいことを堪えているのが分かった。


「で、だれが私の為に料理をしてくれるのだ?」


「……僕ですよね」


 僕は自分でエプロンを装着して、調理場に向かったのだった。

 召喚師って、思った以上に大変だ。

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