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召喚師さまの勇者の勇者  作者: 桜山うす(J.I.A)
第三章 もしも勇者の勇者が挫けてしまったら
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『被』召喚能力の高さ

 一方その頃、海賊王ゴードンは海の上にいた。

 それは、召喚の対価によって得られた、自分の所有物である海。


「あー……今日でもう3日目か……はえぇなぁ」


 海賊王ゴードンは、いかだでのんびり漂流しているところだった。


 異世界で勇者として働いた彼には、約束通り『召喚の対価』として、惑星グランドステラのすべての海の支配権が与えられた。


 具体的には、歴史書、証書、契約書にいたるまで、海に関するすべての公式文書には、「ゴードンが海の支配者となった」、という記録が記されていて、人々の記憶も「ゴードンこそ海の支配者」と、それが周知の事実となるように書き換えられていた。


 つまり彼は、海の支配者となった。

 それは、すべての海域が、ゴードン率いる海賊たちの天下、ということだ。


 海賊たちは、至る所で暴れまくった。

 どこでも密漁はし放題、領海権は犯し放題。


 港から出港する船は、ゴードンに通行料を支払う義務が課せられ、新しく船を作るのにもゴードンの許可が必要となり、ゴードンは税の徴収のために西に東に毎日大忙しになった。


 もしも、違反する船があれば襲い、もしも違反していなくても、海賊船ベリーランド号2でどこまでも追いかけてゆき、「護衛料だ」といって金品を好きなだけ頂戴していった。


 世はまさに、大海賊時代。

 だが、そんな時代が長く続くはずは、なかったのである。


 みんなゴードンたちの横暴が腹にすえかねていた。

 まあ、そりゃそうだ。


 世界中で海の支配者ゴードンに対する反逆が始まったのだ。

 4列強は結託し、軍艦を率いてゴードンに次々と襲い掛かった。


 すべての海賊が結集した新生ゴードン海賊団も、度重なる攻撃で散り散りになり、ついにゴードン本人も破れてしまい、今は筏に縛られて海を漂流しつづけていたのである。


 これが『召喚の対価』を得てから、わずか2カ月の出来事であった。

 なんでも考えなしに願いをかなえてはいけないという、典型である。


 またしても裸にひんむかれた上に、船のもやいに使われるチクチクするロープで縛られ、あおむけに寝そべるしかない状態のゴードン。


「くそ、なぜだ……いったい俺の何がいけなかったんだ……!? 俺の何が悪かったんだよ、チクショー!」


 彼の何が悪かったか、と言われれば、ぜんぶが悪かったとしか僕には言いようがなかった。

 あえて一言で言えば『ゴードンが海の支配者の器ではなかった』という事である。


 そう、たとえ魔法の力で支配者になったとしても。

 それと彼がその支配を維持できるかどうかは、まったく別の問題なのである。

 もしも運が良ければ、支配者のままでいられたかもしれないのだが。


「そうか……願い方が違ったんだ……! 俺がもっと強ければよかったんだ……! あいつらから、俺の海を守り続けられるぐらい強ければ、よかったんだ……!」


 ゴードンも、ようやく効率のいい願いの叶え方に気付いたみたいだった。

 こうして、本当に自分の必要な願いに気づくこともしばしばあるため、『召喚の対価』の内容は基本的に変更が可能になっていた。


「おい召喚師! さっきの願いはなしだ! 取り消してやる! だから、もう一度俺を召喚しろぉ!」


 ゴードンは、遠いようで近い異世界に呼びかけた。

 僕は、偶然にも光召喚でその様子を見ていたのだけれど、音声はまだ召喚できなかったので、「ゴードンがなにか叫んでるなぁ」ぐらいしか分からなかった。


 だが、ゴードンは勘がよかった。

 彼のようなSR勇者ともなれば、他の雑魚キャラとは比べ物にならない、恐るべき『被』召喚能力を発揮する。


(考えろ……! 召喚師の動きを……! そして、次に召喚師が召喚をするタイミングを……!)


 なんとゴードンは、僕がいったいどんなタイミングでガチャを回すかを考えはじめたのである。


 じつは、僕が必ず召喚魔法を発動するタイミングというのがあった。

 まずは、サクラハルがクエストから家に帰ってきて、なにか召喚しろとせがむころ。

 そして、1日1回の基本召喚チケットが手に入る、日付変更の直後あたりである。


 いままで僕は、ずっとサクラハルを触媒にした召喚をしていたし、サクラハルも毎日決まった時間に家に戻ってくるため、このルーティーンは崩れたことがなかった。

 必然的に、これらの召喚は、毎日ほぼ同じ時間帯に発動していたのだ。


 なので、この世界に対する僕の干渉には、はっきりとした周期があった。

 魔力を感じることのできる星7世界人ならば、召喚魔法の気配を感じ取り、次に僕が召喚するタイミングを推測することは、けっして不可能ではなかったのである。


 そうして、僕の召喚魔法が発動するタイミングを、先読みし始めるゴードン。


「時間だ……!」


 ゴードンはふっと気配を隠し、全神経を研ぎ澄ませた。


 やがて、空の濃淡が変化しはじめ、空気がぼんやりと光りはじめた。


 深海魚のように大気の変化を敏感に察知したゴードンは、僕の声が異世界から届くか届かないかのタイミングで、カッと目を見開いた。


「答(いら『俺だあああああああああああああああああッッ!』)」


 僕の声に、ゴードンの野太い声が思いっ切り被さった。

 彼はこの瞬間、この世界の誰よりも早く、僕の呼びかけに応じた。

 しかし、召喚されたのは、ゴードンではない。


「……ああっ!?」


 そのとき、ゴードンは視界の隅に、凄まじい勢いで飛んでいくひと筋の光を見つけた。

 それは、空に立ち上る光のカーテンに向かって、真っ直ぐに吸い込まれていく、何者かの魂。


「あ、あれは……! 間違いねぇ、召喚魔法だ……!」


 時空の歪みが波紋となって、世界に広がっていく。

 召喚師がこの世界に干渉したという、はっきりとした痕跡が認められた。


「くっそ……一体なんなんだ、あいつは……! 俺様の召喚に割り込みやがって……!」


 もちろん彼の召喚などではない。思い上がりもはなはだしい。

 異世界に飛んでいく勇者の姿は、海上に取り残された海賊王ゴードンの目に、やけに眩い光を放って見えた。


 誰が召喚されたのかは、わからない。

 だが、恐らくその魂はゴードンよりも圧倒的に強い思念によって、僕の異世界召喚に強引に割り込んだのである。


「いい度胸だ、覚えていやがれ! 召喚師どもも、海賊どもも、いずれ俺の前にひれ伏すことになる……見ていろ、俺はぜったいに、再召喚されてやるからなぁぁぁ!」


 ゴードンは、謎の魂に向かって敵愾心をあらわにし、吠えたてていた。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆


「すごい……いまのところ、9割がたの精度だな」


 僕の前にあるのは、異世界召喚・レベル7の魔法陣。

 7000SPを使った、単発召喚だった。


 本当は11連召喚をした方が1回ぶんお得なので、普段は基本召喚チケットを手に入れた時以外、使わないのだが……。

 今回は実験のために必要だったので、単発召喚を行っていた。


 それによって僕が呼び出した勇者が、魔法陣の円からすっくと立ちあがる。

 それは、漆黒のメイド服に身を包んだ黒髪少女、ツバキサラだ。

 進化した彼女は、ネコミミ尻尾がぴょこん、と生えて、いかにも


「ふふん、王女さまの貞操の危機を感じれば、ボクはいつだっていの一番に駆けつけてみせます! うえへへへ」


 どこか誇らしげなツバキサラは、僕が召喚の触媒に使っていたサクラハルの部屋着に顔をうずめて、くんかくんか匂いを嗅いでいた。


 そう、それは僕とツバキサラが共謀した作戦だった。

 その後もなんとかアルンの兵士を召喚する方法を考えていた僕だったけれど、進化したツバキサラが、それに待ったをかけた。


「マツヒサさま……お言葉ですが、いま、アルンは戦争中なのですよ? 優秀な兵士がこの世界に召喚されてしまえば、それだけ王国を危機に近づけることになってしまいかねないでしょうか?」


「あ……ごめん、確かに、それは盲点だった」


「逆に、戦争に影響を与えない弱い兵士を召喚しても、それはそれでマツヒサさまが困ります」


「うーん」


 僕は頭を抱えた。

 つまり、アルンが戦争中である以上、アルンのものを積極的に召喚するのはやめた方がいい、という事だ。

 けれど、召喚の対価を必要としているのは、戦争中の国の勇者なんだけどな。

 召喚の難しさをようやく理解した。

 サクラハルを触媒にするのは、やめた方がよさそうだ。


「けど……アルン以外の国の勇者は、みんなアルンを敵視しているし……それで、ちゃんと契約を結べる勇者を引き当てられなかったんだよなぁ」


「では、マツヒサさま……ボクをアルンに帰還させてください」


「え……ツバキサラ、帰っちゃうの?」


「はい」


「…………?」


 ツバキサラが、向こうの世界に戻って何かしようと企んでいるのは、僕にはすぐにわかった。


「……なにか考えがあるんだね?」


 こくり、と頷くツバキサラ。


「はい、私がアルンに帰ったら、召喚師様は、『光の窓』で、私の様子をずっとご覧になっていてください……そして、次の召喚で、私を必ず引き当ててください」


 そう……そうしてツバキサラを引き当てるために使ったのが、この召喚である。


 どうやら、生まれた時からサクラハルの着替えを手伝っていたツバキサラは、裸の状態のサクラハルに唯一近づくことの許された人物だったらしく、その研ぎ澄まされた直感は神秘の域にまで達していた。


 裸の状態のサクラハルを触媒に使えば、100パーセントツバキサラを引いてしまう。

 もしもそれが本当なら、これをうまく利用する方法を考えたのである。


 部屋着を使ったのは、その代替案だったのだけれど、今のところ9割がたの成功率だ。


 基本的なランダム召喚。

 なのに、かならずツバキサラを召喚できる。

 この『抜け穴』は、じつはとても重要だった。

 僕も、むやみにツバキサラばかりを引いていたわけではない。


「ツバキ、例のモノは」


「はい、ここに」


 星7世界に帰還したツバキサラは、アサシンスキルを駆使して、惑星グランドステラのあらゆる場所に潜伏することができた。

 次に僕が召喚したとき、ツバキサラは、ふわふわもこもこした髪の毛の女の子を小脇に抱えていた。


「な、な、なんじゃ……ここはどこなのじゃ? いったい、ボタンに何が起こったのじゃ?」


 ボタンタニ

 クラス 星7勇者

 レアリティ レア

 職業 辺境国ミザヤカンデ軍師

 補足 国際連盟会議に出席予定の軍師です。お昼寝が好きで、寝ることによって体力を1パーセント毎秒回復させます。


 そう、異世界に勇者を派遣し……目的の勇者を探し出させて、一緒に帰還させる。

 通称『友釣り召喚』と呼ばれる、異世界召喚のスタイルのひとつであった。


 だが、召喚師連盟は、勇者の『友釣り』を原則禁止にしていた。

 なぜなら、それを許すと、召喚師が勇者の世界に過度に干渉してしまい、その世界の勇者をたった1人の召喚師が独占してしまう恐れがあるからだ。


 これは『勇者の乱獲』と呼ばれる、召喚戦争で起こった悲劇を防止する策なのである。


 あくまで召喚師と勇者が魂の状態で直接対話して、こちらの世界に来てもらう、という手順を踏まなければならない。


 例外として、すでに勇者契約を結んだ相手だけは、この手順を飛ばすことができる。

 じつはそのための召喚師のアイテム『召喚ポーション』を使えば、100パーセントの確率でツバキサラを呼び出せられるのだけど、それで『友釣り召喚』までしてしまうと、もう完全にアウトだそうだ。


 なので、僕の召喚は、そんな違法アイテムを一切使わずに行われていた。

 触媒にサクラハルの部屋着を使っただけの、純度100パーセントのランダム召喚だ。


「い、いったい、何者なのじゃ! ボタンをこんなところに連れ込むとは! これは国際法に照らし合わせても、重大な犯罪じゃぞ!」


「犯罪? いったい何を言っているのかよく分からないね」


「んな」


「僕はいったい何を引くか分からないランダム召喚を行っているだけだよ? たまたまそこのツバキくんがえげつない高確率で何度も召喚されてくるだけにすぎない」


「ええ、本当に。不思議ですこと」


 僕とツバキサラはにやりと笑った。

 さすがなんでもバニラの星1世界だけのことはある、法も抜け道だらけだ。


 ボタンタニは、首をかしげて「? ? ?」と狐につままれたみたいになっていた。

 僕の呼び声も何も聞いていないのに異世界召喚されたら、やっぱりそうなるか。


 ふむ、と、僕は呼び出されたボタンタニのステータスを見て、思案した。


「ところでキミは、辺境国ミザヤカンデの軍師ボタンタニだね?」


 ぴくり、とボタンタニの可愛いウサギ耳が揺れた。

 いろんな世界のウサギがいるが、星7世界のウサギは格別に可愛い。

 ほっぺたもぷくぷくしてお餅みたいだ。


「今は国際連盟の会議に参加しているようだけれど、発言権はないに等しい小国だ。……現在話し合われているアルン・デュン・ミリオンの割譲支配に関しても、ほとんど利益を主張することができないでいる……」


「そ、それがどうしたのじゃ!? もともとミザヤカンデは、我らミュウ族の自治区! 一族の知恵を持って、いままで十分な平和を保っていられたのじゃ、余計な国力をつけて、4列強と張り合う気などさらさらないのじゃ!」


「けれど、いつまでもこの平穏が続くとは限らないよね? それに、仲の悪い隣国のオオカミ族から身を守るために、最低限の国力をつけたいと願っているのも確かだ。……国土は山道ばかりで、整備された道路なんて2キロしかない、コンビニもカラオケもない、超ど田舎だものね」


「なッ……! なんとッ……!?」


「住民はみんなウサギ族で、草のスープに草餅をもそもそ食べてお昼寝していれば、それで幸せな連中ばかり……本来ならば、戦争とは無縁の中立国だった……だが、君には野望があった」


「うぐッ……!?」


「君の野望は、首都ダンホール領の特産品である『きなこもち』、これを世界的に普及させることだ。そのために、連合軍の兵糧として提供する案を会議で発表する予定だったな?」


 顔を真っ赤にして、耳をピコピコさせる軍師ボタンタニ。

 僕は彼女から読み取れるステータスを見ながら適当にしゃべっているだけだったけれど、知名度の圧倒的に低い小国出身のボタンタニは、自分の全てを見透かされたかのように、うろたえていた。


「さっ、最近の若い者は『きなこもち』の良さがわからんのじゃ! あの清涼感とのど越し、甘み、暑いのが苦手なボタン的にもオッケー、みたいな? というか、お、お主! どうしてそんなにボタンの事に詳しいのじゃ!?」


「どうして? どうしてかと言われれば、うーん、そうだな、僕が召喚師だからじゃないかな?」


「しょ、召喚師……? 召喚師とは、いったい、何者なのじゃ!?」


 青ざめたボタンタニは、扇を振って、ぺしぺし床を叩きながら訴えた。


「国際連盟では、どんな王族も『ダンホール領』? 『きなこもち』? なにそれ! 知らんぷい! みたいな顔をする連中ばかりじゃったのに……! 何者なのじゃ! 何者なのじゃあぁぁ! 名を名乗れぃ!」


 口では警戒しているみたいだったが、どうやらよほど嬉しいらしい、顔がにやけてしまっている。

 すごく可愛いウサギだった。

 ツバキサラは、なかなかいい所を連れてきたものだ。

 こんな生き物がいる国なら、ぜひとも保護すべきだろう。


「僕は、大召喚師アレクサに連なる勇者、召喚師マツヒサだ。キミのささやかな願いを叶えることは、とても簡単だ。僕と勇者契約を結べばいい」


 そこで僕は、ようやく軍師ボタンタニを召喚した本題に入った。


 さあ、ここからが、召喚師の腕の見せ所。

 交渉の場だ。

 アルンの兵士を、召喚することができないならば。

 アルンの敵を、1人ずつ味方につけていけばいい。


「その代わり、勇者としての役割もしっかり果たしてもらう。キミの勇者としての役割は、アルン・デュン・ミリオンを救済する計画を、僕たちと一緒に考えることだ……軍師としてのキミの知恵を、存分に活かしてもらいたい」


 僕がそう言うと、軍師ボタンタニは、ぺこっ? と首をかしげた。

 まだなんだかよく分かっていないような顔つきで、ふぬーん? と呟いた。


「ゆうしゃけいやく……? なにそれ?」

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