引きこもりの26 ずっとずっと大事にしたいと思いました
腹ごしらえも済んで、私とアルさんはアルさんの部屋に集合して、工房に入ることにした。さっき戦った分の摩耗具合と、スタンピードが来た場合の備えの相談をしないといけないからだ。
「ただの試験が大変なことになっちゃったね」
わざと軽口のようにアルさんが言うので、私も合わせて笑ってみせる。
「本当ですね。でも、はやく気付けてよかったです」
そうしたら、きっと被害も減らせる。今はそれしか考えられない。
「もう少し、刃にも強い素材を使います。あと、握りが強いようなので、こちらも滑りにくい素材と耐久性のある素材を組み合わせてみますね」
受け取った長剣をひとつひとつ確認しながら、改良点をメモして微調整を加える。戦いの中でしか見えなかったものを、取りこぼさないように反映させるのが私の仕事だ。
【お前は本当にバカ真面目だな】
仕事をしていた時に言われた言葉を何故か思い出す。今思えば、あれはきっと叱咤激励の類だったのかもしれない。ただ、もういっぱいいっぱいになっていた私にとっては、何も響かなかっただけで。真面目に取り組むことしか出来ないのは、私の短所でもあると常々思っている。手抜きが出来ないから、つい根を詰めて作業をしてしまって、気付けば食事も睡眠もとっていないこともしばしばあった。
(……死因のひとつかもね)
一通りの素材をピックアップして、振り返ればアルさんが私をじっと見ている。
「どうかしました?」
「マーヤ、ここって特殊結界の中だよね」
「そうですけど」
「戦が始まったら、ここに居て」
真剣なアルさんの表情は崩れない。まっすぐに私を見る瞳は青と紫を行ったり来たりしている。
「ここなら安全だから」
それは知っている。私が誰よりも一番、分かっている。でも、
「いやです」
にっこりと微笑んで、お断りしてやった。アルさんは私が断るとは思っていなかったみたいで、ものすごく驚いた顔をしている。
「私、こう見えて実は戦闘の心得もあります。実戦は不足しているかもしれませんが、お役に立ちますよ」
「そうじゃなくて」
「アルさんが、私を大切に思ってくれるのと同じくらい、私もアルさんが大事です」
初めてあった異世界のひと。行き倒れていてびっくりして、でも助けなきゃって思って、気付いたら気になって仕方がなくて、この人が傷ついたら嫌だと思っていた。
「だから、私も戦います」
「マーヤ」
「置いて行ったら一生恨みますからね?!」
そこまで言ってようやく、アルさんは折れた。ちょっとだけ、ほんのちょっぴりだけ、アルさんの耳が赤かったのには、興奮状態で真っ赤っかになっていた私は気付かなかったのだった。




