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引きこもりの23 お揃いのマントを羽織ることになりました

 うきうきしているアルさんに対して、若干ちょっと言いすぎたかなー調子に乗らせた感じもしなくもないなーと思いながら、自分もマントを羽織ってみる。うん。見た目ほどの重さもないし、いい感じかな。マッドサイエンティスト風にマントの裏にポーションとかを仕込めるポケットなどを付けてみたけど、見た感じでは分からないし良い感じ。


「本当にお揃いだ」


 にこにこしながらアルさんがマントを羽織って駆け寄ってくる。本当になんだか犬みたい。


「似合ってますよ」


「マーヤも似合う。深緑色なんだな」


「アルさんのは焦げ茶色にしちゃいましたけど、気に入らなかったら他の色にしますよ?」


 ちゃちゃっと染色が出来るのもクラフターの職業を取得している者の特権だ。その私の言葉にアルさんは首を横に振る。


「いや、これでいい。この方が目立たないだろうから」


 戦闘で使うんなら実用的な色合いの方がいいかなーと思って、選んでみました。まぁ、ここじゃない別の場所が戦いの場になるというのなら、また考えるし。



「! マーヤ、ちょっとこっちに」


「? はい」


 ちょこちょこと歩み寄ると、樹の影にがばちょと隠された。アルさんは私よりも頭ひとつ分背が高いので、覆いかぶさるような格好だ。


「?!?!?!?!?」


 とりあえず叫ぶのだけは回避したけど、何々?! どうしたの?!


「……ゴブリンだ」


 小鬼。そういう名前でも呼ばれる割とスタンダードなモンスターの種族のひとつ。某ゲームのせいで弱いようなイメージがあるけど、実はそうではない。徒党を組んで獲物をはめる術を知っている魔物。背筋がぞくりと寒くなる。


「3匹、ですか?」


「多分。でも組んで戦っているわりには軽装だな」


 装備しているのは弓。これが一番厄介で、矢の先端に毒が塗られていることが多い。毒と言っても精製されたようなものではないから、さらに面倒だ。例えば家畜の糞尿、腐った肉、汚れた泥、そういうものを組み合わせた感染症を引き起こすようなもの。

 この毒は錬金術スキルで似たようなものを作ることも出来るけれど、治す手段が神聖魔法の<<浄化>>か最高級レベルの解毒薬でしか回復出来ないものだから、使用は限られる。じわじわとHPが減っていくので冒険者界隈でもゴブリンを相手にするのは嫌がられていた。そこまで経験値はもらえないくせにリスクが高すぎる。


「……何か、様子をうかがってますね」


「? 変だな。他のチームを探している感じもしないし、どっちかというと、何か、道を確かめているかのような」


 その時、私の頭の中で神様の言葉がよみがえった。近いうちにたくさんの魔物が街に襲来するのだという。もしかして、こいつらは……。


(……斥候(せっこう)?)


 斥候とは軍などが派遣される場合に先んじて敵陣営を探る役割を持つもの。ぞわぞわと鳥肌が立っていく。嫌な予感しかしない。いや、多分この予感は当たっているせいだ。


「マーヤ、顔色が」


「アルさん、多分、あいつらは街へ向かうための道を確認しています」


 はっとした顔をして、アルさんはゴブリンたちの様子をさらに丁寧に観察する。


「確かにおかしい。戻って冒険者ギルドに報告だな」


「は、い」


 緊張で吐きそうな自分を奮い立たせて、笑ってしまいそうな膝をなんとかこらえて、私は顔を上げる。その瞬間、ゴブリンたちの一匹と、目が合った。


「や、ばっ!」


 先手必勝、私を抱きかかえるようにしてアルさんがさっきいた場所から飛びのくと、その場所に矢が何本か突き刺さる。


「見つかったか」


「すみませ」


「どちらにしろ、帰すつもりはなかったからいい」


 長剣を鞘から抜き、アルさんが構える。私はポケットの中にある薬の位置を確認して、アルさんが動く前にそれを三匹のゴブリンに対して放り投げた。着弾点はかなり手前。うーん、これはパチンコとかあった方がよさげ。

 たちのぼった煙幕は目に作用するものだ。刺激物と墨が混ぜてあって、目に入ると痛くて目を開けていられなくなる、命中率を下げる薬。相手の武器が弓であるならば、かなり有効のはず。


「ギィギャアアァ」


 目を抑えながらも私たちがいると思われる地点に矢は放たれる。マントに触れるか触れないかのところで風が巻き起こり矢の軌道は無事に逸れた。


「まず、一匹」


 私を抱えながら、アルさんはゴブリンの一匹を仕留める。えええ。どういう身体能力してるの? ていうか、


「おろしてください!」


「抱えてた方が安全だし、効率がいい」


 片腕だけで抱っこされるとか、どんな筋肉してるんだ! 怖くて思わず首につかまると、なんだか嬉しそうな笑い声が聞こえた。余裕だな?!


「あと1匹!」


 後ろを向いている間にもう一匹屠られたご様子です。本当に勇者様ってすごいんだな。


「ギィギャギィギイギィィィ」


「うるさい!」


 ごとん、と何かが地面に落ちた音がする。腐った卵のような匂いがする。気持ちが悪い。

 アルさんは自分のポーチの中からぼろ布を取り出すと血を拭って剣を鞘にしまった。血のりが残っていると剣が劣化しやすいですもんね。冷静だなぁ。


「マーヤ」


「はい」


「もう大丈夫だよ?」


 ふわ、と顔の近くでイケメンが嬉しそうに笑うので、本当に心臓に悪い。慌てて私は手をほどいてアルさんに地面に降ろしてもらう。


「……嫌な予感がする」


 アルさんの言葉に私はひたすら頭を縦に振る。もし、本当にこいつらが斥候だとして、殺されたのに気付いたら? こいつらを派遣した奴らはどう行動する?


「とにかく早く戻ろう」


「はい」


「じゃあ、マーヤ」


 先ほどまでの殺気立った感じとは裏腹に、アルさんはいい笑顔で両手を広げて私を見る。うん? それは?


「抱えて走った方がはやい」


 ですよねー。


「……門の手前で降ろしてもらえますか?」


 コンマ何秒かの逡巡をして妥協をした私は、そう告げるのが精いっぱいだった。残念そうな顔をしたって、ギルドまでお姫様抱っことか無理ですからー!


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