引きこもりの19 勇者様にお願いをしてみました
「すごいよ、本当に。足も全然痛くないし、軽いくらいだし、それに剣もなんかいつもよりもスパスパ切れて怖いくらいだったし、ありがとう」
うん。アルさんの語彙力もなんかおかしいな。小学生男子の自慢話を聞いてる感じだぞ?
「お役に立てました、かね?」
「十分すぎるくらい! ありがとう!!」
嬉しそうにしているアルさんに、何故か心が痛む。なんでこんなに胸の奥がもやもやするんだろう。私はそれを振り払うようにして、無理やりに笑顔を作ってみせる。だって、私が不安を感じているなんて知られたくない。……なんで、知られたくないのかな。
「アルさんは、冒険者登録もされてるんですよね」
「うん。それがどうかした?」
勇気を振り絞る。いい装備は出来た。でも、まだ不安なんだ。
「あの、実戦でその装備がちゃんと使えるかどうか、見たいんです、けど、ギルドからの依頼に付いていってもいいですか?」
私がそう提案した時のアルさんのぽかんとした、びっくりした顔をしたので、何か失敗したかと思って胃がキリキリしてくる感じがした。いやー、変なお願いだったかな。そんな顔をされるほどの。
「え、でも」
「私もちょっとだけ、ほんのちょこっとだけ、心得はあるので足手まといにはならないようにしますから! お願いします!」
とりあえずジャパニーズ土下座を披露してもよかったんだけど、誠心誠意頭を下げてお願いすることにする。ていうか、この世界にも頭を下げるっていうのは使い方あってるっけ? 失礼なことしてないかな? なんか急にいろんなことが不安になってきたぞ。
「マーヤ、顔を上げて」
「アルさん」
「……いいの?」
「はい?」
「俺なんかと一緒に、ギルドの依頼に行くことになっても、いいの?」
その質問の意図が分からない。私には。
私が首を傾げてみせると、アルさんは少し泣きそうな顔をして、それからいつもの笑顔に戻った。
「いや、今のは忘れて。俺がついてるんだから、マーヤに何かあるなんてことにはならないから、大丈夫」
「? はい」
誰に向かってなのかは分からない釈明をしながら、アルさんは私をまっすぐとみる。綺麗な目をしている。顔面だけは傷がないのは……怖いことを想像してしまったから考えないようにしよ。
「でも、本当に危険なところには近づかないようにする。約束する」
「もちろん」
にこっと私が笑って同意をすれば、アルさんは私の手をとって、祈るようにその両手の甲を自分の額に押し付けた。
「ありがとう、マーヤ」
絞り出すようなその声が、震えているような気がしたけれど、私は気付かないことにした。
アルさんが抱えている問題は、案外、いや、とても根深いのかもしれない。
私がアルさんに出来ることは何なんだろう。装備を作って、無事を祈るだけが私の仕事なのかな。
引きこもって生産だけしていたいのは私の望み。でも、今は……今までとは、少しだけ、ほんの少しだけ違うことがしたい気もするんだ。
「約束ですよ」
いつ、この街に魔物の群れが来るかも分からない。それでも私は勇者の助けになると決めたのだから、それだけは譲れない。そのためには引きこもってばかりもいられないのだ。