引きこもりの1 物語のはじまり
むかし、むかしのお話です。
思えば昔からそういう語り口から始まるおとぎ話が大好きだった。
「……最後に水飲んだの、いつだったっけ?」
絶賛引きこもりニートになって3年は経っていたかと思う。
わたし、本澤真彩は今年確か二十八、いや、二十九かな? まぁ、そんな年ごろで人間関係に疲れてしまって社会人生活からドロップアウト。一人暮らしの部屋に引きこもってただひたすらにMMOに没頭していた。ハズだった。
オンラインゲームの中での私は生産職のエキスパートを名乗っていた。まぁ実際、その時実装されていたスキルレベルの最大値にはなってましたし? 外国のユーザーを装って無言でジェスチャーだけで反応していれば話しかけられなかったし、人間不信気味だったわたしにとっては居心地がとてつもなくよかったのだ。
で新レシピが公開になってその難易度の高さに浮かれて夢中でそれを作成し続けていたことまでは覚えているんだけど。
「最後にごはん食べたのっていつ?」
完全にダメ人間の様相を呈していた。
なんでこんなことを言いだしたかって言ったら、なんかものすごく顔色の悪いわたしが、わたしの足元に転がっているからだ。白目をむいて倒れている。ぶちゃいく。ひどい顔だな、これ。
わたし自身は何故だか宙をぷかぷかと浮いているような状態。えーと、これは幽体離脱ってやつ?
「半分正解で、半分間違いだなぁ。おねーさん」
声に気付いて振り返ると、金髪の美少年がそこにたたずんでいた。服装は真っ白。ハーフパンツからのぞく膝小僧が眩しい。変態か。
「一人ボケ一人ツッコミもいいけど、置いてきぼりはやめてよねー」
くるんと私の目の前まで回り込んできた美少年は上目遣いでこちらを見てくる。何? 何なの、このシチュエーションは。
「おねーさんさ、あのゲームすっごく好きだったんでしょ?」
「あのゲーム?」
「ずーっとログインして、せっせとアイテム作って、アイテム作るためのレベル上げもして、ほんと作った方としては創造者冥利に尽きるよ」
突然そんなことを言いだし始めて、私を見上げていた少年はにこにこと笑う。
「だからさ、おねーさん。どうせなら、ぼくの世界に来てほしいんだよね」
ぎゅっと手を握られた。なぜか背筋にぞくぞくと悪寒が走る。何だ、これ。
「ぼく? ぼくはね」
そこまででわたしの意識は暗転する視界に奪われた。何も見えなくなって、何も聞こえなくなっていく。
「神。人ならざるもの。なんでもいいよ。ぼくが楽しむために、おねーさん、ぼくの世界においで」
すでに意識を手放した真彩の体はぼんやりと発光する球体の形をしている。
少年はそれを大事そうに抱きかかえてその場所から姿を消した。
新しい遊び道具を見つけた、子どものように無邪気に笑いながら。