自称・大怪盗の持つお宝がショボすぎる件
俺は怪盗に憧れ続けていた。
誰にも侵入できない場所に華麗に入り込み、警察をきりきり舞いさせる。
俺は怪盗になりたい一心で、現役の怪盗がいないかを探し続けた。
そして、大怪盗がいると噂される一軒の家を突き止めたのだ。
「何か御用かな?」
姿を現したのは初老の男性。
「貴方が大怪盗・シンクですか?」
「ほう、ご存知とは……」
やった! やはり怪盗は実在したのだ!
「貴方のような大怪盗を探していました。私は怪盗に憧れているんです」
「なるほど。たまにそういう方がいらっしゃいますね」
「あの、私を貴方の弟子にしてくれませんか?」
「良いでしょう。では自己紹介がてら私の盗んできた品々をお見せしましょう」
怪盗のコレクションを見られるとは!
「では、まずこちら。イギリスの歴史ある有名ホテルにて飾られている最高級の金食器……」
「おお!」
「……は、警備が厳しくて盗めなかったので、ホテルにあったマグカップやバスタオルです」
「それホテルに置いてあるただの備品じゃん! お土産代わりに持ってってんじゃねぇよ! 持ち出して良いのは精々、お茶のティーパックぐらいだ!」
「いや、このバスタオルを触ってみて下さいよ! もう、ふわっふわですよ!」
「有名なホテルならふわふわのバスタオルを使っているかもしれんが、怪盗がそんな物で満足してんじゃねぇよ!」
これじゃあ、怪盗どころかただのがめつい観光客だよ!
「お次は、有名な美術館に展示されているフェルメールの絵画……」
「本物だろうな?」
「……は、やはり上手く盗めなかったので、美術館の入り口近くにあったレプリカです」
「それミュージアムショップの品じゃん! 何で美術館に盗みに入って、盗んだものがお土産品なんだよ!」
「いや、本当に警備厳しかったんだよ!? 警備員もいるし、警報もいっぱい付いてたし、あんなの無理ゲーだよ!」
「そこから華麗に盗むのが怪盗の業だろ!」
「このレプリカはすごいんだよ!? 実物大だよ!? 値札見たら3万円もしたんだよ!?」
「だから怪盗がその程度の物で満足するなよ! 庶民か!」
ダメだ、この男はただのコソ泥だ!
「では、お次は……」
「もういい、貴方は怪盗なんかじゃない。俺は帰る」
「ほっほっほ、最後の品は貴方も必ずその価値を認める貴重な盗品ですぞ?」
「どうせ大したことないんでしょ? まぁ、最後に見てやるよ」
「私が盗んだものは、貴方の貴重な時間。老人の与太話にお付き合い頂きありがとうございました」