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2 ヘタレ勇者は異世界でもやっぱりヘタレだった ⑤

 身の危機が目の前にまで迫っている恭平以外にとっては実にどうでもいい話をしながら、城門近くまでやってきた麻里奈一行を盛大に迎えたのは、弓矢だった。


「おっと、こっちは平和的に解決したいと思っていたけど、相手はそうではないようだよ。仕方がない。ヒロリン」


「物理攻撃防御魔法発動、ペンタゴン」


 両手をあげてそれを唱えたエセ文学少女の防御魔法により魔王軍を防ぐための城兵たちの必死の攻撃も目標までは届かず、皆あらぬ方向へ飛んでいく。


 一人分を除いて。


「おい、なんで俺にだけ弓矢だの石礫だのがちゃんと命中するのだ」


「あれ、すいません。ちょっとした手違いで恭平がいることを忘れていました。ヘキサゴンと唱えるところをペンタゴンと言ってしまいましたので、六人分ではなく、五人分の防御魔法になってしまいました」


「おい、それでなんで足りないひとりが毎回俺になるのだ」


 ということで、これはもちろん手違いなどではない。


「とにかく早く俺にも防御魔法をかけてくれ」


 だが、このような事情のため元エセ文学少女からの返答は、当然恭平にとって非常に残念なお知らせとなる。


「う~ん、面倒なので我慢してください。無駄な魔法を使いたくないですし。それに恭平君には立派な鎧があるので魔法がなくても大丈夫ではないのですか」


「大丈夫じゃないから、言っているのだろうが。それに、なんで俺にかける防御魔法が無駄なのかをじっくり聞かせて……なんだコレは。油?火矢が……熱っ。死ぬ。早くしないと俺の丸焼きか蒸し焼きが出来上がるぞ!」


 博子と時間を浪費するだけの言い争いの最中に油に続き火矢が命中に火だるまになる恭平だった。


 熱さに転げまわる恭平にさらなる悲劇が訪れる。


「うっ、今度はなんだ。臭い。熱い、おい早く助けろ」


 熱した糞尿が降ってきたのである。


 糞尿まみれで悪臭をまき散らしながらのたうちまわる恭平を見て、城内から嘲笑とともに歓声が上がる。


「やった。暗黒騎士をやっつけたぞ」


「もう一息だ」


「これなら勝てるかも」


 一方の麻里奈たちは糞尿まみれの恭平に遠く離れた場所から軽蔑の眼差しを投げかけていた。


「どうしますか。まりんさん」


「糞尿まみれではさすがに丸焼きでも食えないし仕方がない。助けてやるか」

「わかりました」


 博子が指を鳴らすと、ほんの一瞬前まで糞尿まみれだったことが嘘のようにすっかりきれいな姿になったものの、精神的ダメージはまったく消えない恭平がノロノロと立ち上がった。


「ヒロリンのせいでひどい目に遭ったぞ」


「失礼なことを言いますね。憧れのまみたんの前で糞尿まみれになった恭平君を救ったこの私に感謝してください」


「ところで橘よ、ずいぶんうれしそうに糞尿まみれになっていたではないか。お前は本当に変わった趣味をしている」


「本当だよね、ところで橘君、身体からまだ糞尿臭がするよ」


「……橘さん。すいません。近寄らないでください」


「くそっ。ヒロリンよ、お前がグズグズしていたから、俺に対するまみの評価が下がったではないか」


「そのようなものは最初から存在しません」


 博子が格好は暗黒騎士らしいが実際には戦闘にまったく役にたたない恭平を黙らせている間に、麻里奈が春香に出動を命じる。


「ヒロリンの魔法で壊すのもいいけど、今回は春香のハリセン攻撃にしようか」


「ラジャー」


 ということで、紙製のハリセンで城壁を力いっぱい叩いた。


 普通なら城壁がどうにかならないどころか、ハリセンのほうが使用不能になるのだろうが、なにしろここは魔法やその他諸々の不思議が充満する異世界である。


 轟音とともに城壁が崩れ落ちた。


 城兵たちの希望とともに。


「終わりだ。皆殺しにされる」


 これまで見栄と義務感だけで恐怖に耐えていた兵も市民と同じように泣き叫びながら逃げまわる。


 その時、よく通る声が町中に響く。


「市民たち、そして兵士たちよ。落ち着くがよい。我ら王国魔法騎士が邪悪な者たちを退治する」


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