2 ヘタレ勇者は異世界でもやっぱりヘタレだった ③
「とにかく、城に入って、おいしいものとは言わないけれど、とりあえずは、普通のものを食べたいの」
「だからと言って、やはり破壊はいかんだろう」
「で、そこまで言う恭平君は、強硬突破以外になにかいい案を持ち合わせているのですか?」
「そうだな、入場料を余計に払うとか」
「却下」
「手ぬるいだろう」
「だいたい町に入るのにお金を払うところが気に入らないよね。それに誰が払うのよ。それを。言っておきますけど、私は一円たりとも払いません」
「先生、それは心配ない。こういうときに払うのは勿論提案者だから。ということで、全員分を橘が払え」
「俺が全部?」
「当たりまえだ。こういうものは言った者が出すものと決まっている。まあ、貴様にその金がないなら私が貸してやるが」
「そういうことなら、交渉できるかもしれないな。『城内にいる人間すべてに金貨千枚ずつをこいつが払うから入れてくれ』と」
「千枚?金貨千枚ということは、だいたい一千万円。おい、麻里奈よ、全員に金貨千枚はさすがに気前がよすぎるだろう」
「払えない場合は、『恭平君を全裸でこき使っていいです』と付けるのもいいかもしれません」
「いいな。それ。橘よ、全裸でついでに悶絶パフォーマンスも披露しろ」
「どこがいいのだ。俺はちっともよくないぞ。しかも、なぜ全裸にならなければならないのだ」
「冗談はやめてください。この前の旅人さんの話では、私たちの悪評はかなり広まっているみたいですから、たぶん入場料の増額程度では解決しないと思います。もうすぐ入口ですから、もっとまじめな案を考えましょう」
「さすがまみたん。では、一芸を披露して親愛の証を示すのはどうでしょうか」
「一芸?ヒロリン、具体的にはどういうの?」
「風魔法で、まみたんとハルピのパンツを見せるのはどうでしょう。これなら城内の皆さんに喜んでもらえます」
「いいね。それでいこう」
「ヒロリン、まりんさん、それはひどいです」
「まったくだ。そのようなものはもちろん却下だ。そして、お仕置き!」
「ぐわッ○▼※△☆▲※◎★●」
ここで、例のハリセンが、話に加わっていないので、火の粉を浴びることはないと油断していた無防備な恭平の頭にさく裂した。
恭平が涙目で抗議する。
「……おい、提案したのはヒロリンで賛成したのは麻里奈だろうが。それなのに、なぜ俺が殴られなければならないのだ」
「おっと間違えた。いつものクセだ。まあ肉体的苦痛を最高の悦びだと感じる変態のお前には、いいご褒美になったわけだから、大いに感謝してもらっても私はいっこうに構わないぞ」
「ふざけるな」
「じゃあ、二十四歳の女教師の全裸披露とか」
「いやよ。タダで裸を見せるなんて」
「そもそも先生の裸ではお金は取れません。そのようなものを見せても石が飛んできても、中に入れてはもらえないでしょう」
「それもそうだな。たしかにおばさんの全裸なんか見せられても向こうだって困るだろうな」
「幼児体形のおばさんの全裸なんか見せたりしたら困られるどころか、怒りを買うに決まっているだろう」
「ちょっと待ってよ。私は二十四歳だからおばさんではないし、幼児体形でも貧乳でもないから。言っておきますけど私の見事な裸身は町中の男たちを悩殺すること間違いなしだから。ホラ、この通り」
そう言いながらいかにも無理をしてつくった幼児体形が自慢の強欲守銭奴教師が披露した渾身の悩殺ポーズだったが、残念ながら誰にも感銘を与えられず、悲しい感想だけが返ってきた。
「……まあこれはないな」
「あかん」
「失格です」
「もちろん俺もまったくない方に一票」
「私もちょっと無理だと思いますけど……」
「そこまでみんなで完全否定するなら、私を無料で脱がさないでよね」
「ここは、やはり橘に悶絶パフォーマンスさせよう。全裸で」
「ふざけるな。俺は絶対やらん」
「橘君に悶絶パフォーマンスをやらせるにはヒロリンの料理を食べさせなければならないのでしょう。捨ててもいいような余分な食材がないから無理よ」
「なんですか?捨ててもいい余分なものとは」
「それに、私は城のヤツらに自分が恭平の仲間だと思われるのは嫌だよ」
「そうですね。私も全裸大好き恭平君の仲間と思われるのは嫌です」
「もちろん私もこの変態悶絶パフォーマーの同類などと思われては馬場家の名誉に関わる」
「私だって嫌よ。橘君の仲間だなんて思われたら」
「おい、ちょっと待て。それはおかしいだろう、今の流れでは俺が仲間ではないみたいだろう」
「そもそも仲間じゃないし」
「そうそう仲間じゃない」
「仲間ではないです。恭平君は、ただの『まりんさんの奴隷見習い候補』です」
「……ヒロリン、それは以前の下僕よりひどくなっているだろう」