2 ヘタレ勇者は異世界でもやっぱりヘタレだった ②
さて、兵士たちが恐怖するその魔王軍幹部御一行様であるが、現在それを聞いたら真剣に恐怖した兵士たちが怒りだすような実に低レベルの言い争いが起こっていた。
「だから、城壁を破壊するなどという物騒なことには、俺は反対だと言っている」
「じゃあ、相手が城内には入れないと言ったらどうするのよ。また、味はともかく見た目の悪い魔物の肉を食べることになるのよ。ゲテモノ好きなあんたはそれでもいいかもしれないけれど、私やまみたんは違うのよ。本当はそろそろクリスマスだから、クリスマスケーキだって食べられたのにどうしてくれるのよ」
「私だって嫌よ。この前のアレの調理させられたのは私とまみたんなのですからね。まあ、あの魔獣のお肉は本当においしかったけど」
「そうですよね。料理だけならともかく解体は私もちょっと……」
「では、次回は天才料理人であるこの私が、みなさんのために異世界にふさわしい創作料理を披露します。まずは暗黒魔獣のスーパーエレガントな丸焼きに……」
「それだけはやめておこう」
「うんうん。それはだめだ。いつぞや登場して、橘が瞬殺された『黒毛和牛の三百パーセントカーボンステーキ、レインボーカラーソースを添えて』異世界バージョンがここに降臨するのだけは避けたいな」
「あれは……私も食べるのは遠慮したいです」
「それはヒロリンの専属試食係である橘君に任せることにしましょう」
「俺だって御免被るぞ。せっかく空気のよい場所で失った心身の健康を取り戻してきているのに、なぜ異世界に来てまでわざわざ違法製造物を体に入れて、健康を害するようなことしなければならないのだ。言っておくがヒロリンの料理を体に入れるなど、最高レベルの拷問だぞ。俺は拷問など受けない。受ける必要もないし、受ける理由もない。もちろん拷問を受けることなど好きでもない」
「ン?拷問大好き恭平君は随分失礼なことを言いますね。部活中は私の料理を食べては、毎回涙が出るほど笑える感謝の踊りを披露しているではないですか」
「ヒロリン、一応あれは『悶絶パフォーマンス』という名だ。橘、異世界に来た記念にこちらの皆さんに披露したらどうだ?恥を恥とも思わないお前にしかできない悶絶パフォーマンス」
「ふざけるな。俺はやらん。やってたまるか」
ちなみに、現世では恭平は創作料理研究会において自称天才料理人ヒロリンこと立花博子の専属試食係なるものに就いており、日々博子作の創作料理によって懲らしめられていた。
そして、自称天才料理人がおいしいと自慢するその創作料理は、創作料理研究会関係者でそれを唯一口にしている恭平によって最高ランクの凶器または違法製造物に指定されている。