3 小野寺麻里奈は異世界でもやっぱり残念な人だった ⑤
「なあ、麻里奈」
「なによ」
「ヒロリンがこれだけ強い魔法が使えるなら、もしかして魔法を使って元の世界に帰ることができるのではないか」
圧勝に大喜びする麻里奈に、今回の戦いではある意味で活躍の場がまったくなかった恭平が素朴な疑問を麻里奈にぶつけた。
……しまった。
言ってすぐに恭平は後悔した。
こういう場面の後にやってくるのは、「あんた、バカなの?」と言う声とともに、すぐさま飛んでくる拳によるお仕置きか、「それは私が考えていたことよ。あんた私のアイデイアを盗んだわね」などと、アイデイアの横通りをされたうえに殴られるというどちらにしても恭平にとっては痛い思いをするだけでいいことなどまったくない二者択一だったからである。
ところが、今回は少々違った。
「それは……無理だよ。きっと。そういうことをやると異次元空間に閉じ込められる……かもしれない」
「そうか。まあ、そうだろうな」
麻里奈の煮え切らない返答に、恭平がそれ以上のツッコミを入れなかったのは、藪蛇を避ける以外に、なにか確証が掴んで言ったわけではなく、ぼんやり心に浮かんだことを口にしただけだったのだが、そうでない者もいた。
「……実は、私もまりんさんに聞きたいことがありました」
普段は、このような会話に参加しないまみである。
「城を出る前に、まりんさんを呼びに行って部屋で、このようなものを見つけたのですが、これについて説明してもらえますか?」
まみがポケットから取り出したのは、以前いた世界ではごく普通に見られるものだが、こちらの世界にはあってはいけないもの、具体的に言えば、コンビニおにぎりの包みとコーラのキャップ、そして麻里奈がいつも利用しているコンビニのレシートだった。
「あれれ、転移した時になんでそんなゴミを持ってきちゃったのかな。アハハ」
瞬時に集中する疑惑の眼差しの中で、苦しい言い訳を始める麻里奈だが、いつもは優しいまみも今日ばかりは追撃に手を緩めなかった。
「そうですか。でもおかしいですね。レシートに書かれている日付というのは私たちがこちらに来てからのようですけど」
「本当に?……どれどれ。本当だ。えーと、先生、こっちに来てから何日経った?」
「たぶん今日は十四日目だよね」
「ということは、レシートは昨日と一昨日の日付だよ。何?昨日って」
「おい麻里奈、これはどういうことか説明しろ」
「まりん」
「まりん」
「まりんさん」
「……もちろん天から、かわいい私への特別プレゼント的な……ってことではやっぱりダメだよね……ヒロリン助けてよ」
「知りません。ゴミを片付けないだらしないまりんさんが全部悪いです。自分でなんとかしてください」
それは麻里奈にとって、この世界に来てからどころか、人生でも最大ともいえるピンチであった。
「……みんな、泣いたら許してくれる?」