3 小野寺麻里奈は異世界でもやっぱり残念な人だった ③
「まったく、この町の男どもは私をなんだと思っているよ」
「変わった趣味を少女たちに伝え広げる悪の変態伝道師といったところでしょうか」
「だから私はそんな趣味ないから。こうなったら魔王に手紙を書いてでも、この町を攻撃させるしかない。そして、この町ごと証拠隠滅して黒歴史を完全封印する」
「またそのような物騒なことを言う。それとも、もう戻りますか?」
「う~ん。それはちょっと惜しい。もう少し楽しみたいかな。これが手に入るからこっちでも全然不自由さがなくなったし。あとは『ファイユーム』のアップルパイが手に入れば完璧だ」
「そうですか。それにしても、まりんさんは本当に好きですよね。コーラとコンビニおにぎり」
「ヒロリンだってお菓子を大量に買ってきたでしょうが。冬だっていうのにアイスを貪っていたし。今の時期はやっぱりおでんでしょう」
「おでんもたしかに捨てがたいですね。でも、私たちばかりいい思いをして、まみたんたちには本当に申し訳ないです」
「まあね。でもまみたんも恭平も融通が利かないから仕方がないよ。とにかくクリスマスケーキも予約してきたし、クリスマスの時は、また向こうに戻っておいしいものをいっぱい食べよう……それから今度は『ファイユーム』に行こうよ」
「でも、あそこのアップルパイを手に入れるためには並ばなければなりません」
「……それはちょっと嫌だな」
問題発言が続々と登場しているのだが、とりあえず、そういうことでその晩魔王軍来襲の報を聞いて一番喜んだのはもちろん麻里奈であり、誰からも頼まれないうちから大急ぎで出動準備を始めていた。
もちろん、町の人を守るためなどと爪の先ほどにも思っていないことを堂々と口にしながら。
「なんか、まりんは随分張り切っていない?」
「私は、まりんがあんなに積極的に動くところを初めて見た」
それは普段のだらしない彼女を知る春香と恵理子がびっくりするほどの勤勉さであった。
「悪いわね。一緒にいたかったけれども、今からあなたたちを守るために魔王軍と戦ってくるから」
白々しい嘘を、戦うのは本当なので完全な嘘ではないのだが、そんなことを言いながら、とりあえず町中の少女から熱狂的に送り出された麻里奈であった。
「ところで、ヒロリン。勢いで飛び出してきたけど、相手はどんなの?」
「私も知りません。まあ、たいして困らないとは思いますけど」
「まあ、そうだね」
「いや。そこはやはり橘を使って念入りに調べるべきだろう。こいつはその程度にしか役に立たないのだから」
「それもそうだね。この前みたいに全裸の恭平を突撃させるか」
「またかよ……いや、ちょっと待て。俺は全裸では突撃していないぞ。ちゃんとパンツを履いていたからな。俺が他人の前で全裸になる露出狂であるかのような誤解をまみに与えるような発言は謹んでもらおうか」
それは前回の戦いのことである。
たしかにパンツは履いていた。
だが、正確にはパンツだけを履いていた。
だから、当然こうなる。
「同じだ」
「同じです」
「同じだな」
「橘さん、やっぱり同じだと思います」
「くそっ」