2 ヘタレ勇者は異世界でもやっぱりヘタレだった ⑦
「暗黒騎士を倒した」
「ほかのやつらも弱いのかもしれん」
「全員で風魔法と炎魔法を」
恭平を倒して勢いに乗る騎士たちは、二組に分けて別々の魔法を放つ準備をしたのだが、その中のひとりからある提案がされた。
「あの暗黒騎士は囮かもしれない」
「理由は?」
「あまりにも弱すぎる。それに愚かとはいえ弱点を教えるというのもどうも腑に落ちない。もしかして彼らに対してふたつの魔法を一緒に撃つと彼らの糧になるという罠かもしれない。ここは試しに風魔法を全員で撃ち、効果を確かめてから全員で炎魔法を撃つのはどうだろうか」
「それは考えられる。なにしろ悪逆非道な魔王軍の幹部。どんな卑怯な手を考えているのかもわからない。あの暗黒騎士など手ごまのひとつかもしれない」
「では、全員で風魔法を」
相手の手のうちがわからない中ではきわめて常識的な作戦といえるのだが、まず選択したのが風魔法だったため、結果的に今回の戦闘では恵理子のスクール水着はダメージを負うことなく終わることになる。
「撃て。『かまいたち』」
「キャー」
「くそ。変態セクハラ魔法なんたらめ」
さすがは、王国が誇る魔法騎士七人の一斉攻撃であり、春香とまみのスカートは豪快に捲り上がった。
そして見えた。
「ウォー」
男性のものであろう地響きのような歓声が上がる。
その後に少なくない数の頭部を激しく殴打する音と男性のうめき声が聞こえたのだが、それが女性たちによる夫や恋人を制裁するものだったことはいうまでもない。
だが、麻里奈の言うところの下品で単純な生き物である男の欲望が一度や二度の制裁程度で消えるはずもなく、そのあとの厳しいお仕置きを覚悟した多くの勇者から、騎士に再攻撃を要求する声が飛び交った。
「もう一回やれ」
「いけ~もう一回見せろ」
もちろん魔法騎士七人も、本来は敵の肉体を切り裂くはずの風系魔法「かまいたち」の効果がスカートを捲り上げるだけしかなかったことには驚いたが、まみの白いパンツを見た瞬間、彼らはそれに目覚めた。
そして力強く再攻撃を約束する。
「もちろんだ」
「任せろ」
「約束するぞ。今度はもっとよく見せてやるぞ」
のちに、騎士たちは、自分たちが敗北した原因は、「効果のない風系攻撃を続けるように我々に強要した男性市民の圧力より自分たちの判断が狂ったこと」と市民にすべての責任を擦り付けたのだが、それがなくても、このエロ騎士たちが風魔法による反復攻撃はおこなっていたことは十分予想できるところではある。
ちなみに、この場にいた男たちの春香のパンツについての感想だが、よくてオマケ、中には「まみのパンツの引き立て役なので我慢して見てやった」などという春香が聞いたら怒り狂う証言まで残されている。
「もう一度。風魔法を」
「よし。今度は最大魔力で」
再びふたりのスカートが捲れあがり大きな歓声、そしてやや遅れてうめき声があがる。
「もういい加減にしてください」
「このセクハラ騎士。あとで貴様たちがやったこのセクハラ行為にふさわしい罰を与えてやるからな」
恥ずかしさのあまり涙目になるまみの隣で、自らもスカートを必死に押さえながら春香が騎士たちを呪う言葉を吐くが、完全に本来の目的を忘れた騎士たちは、その後も魔力のかぎりに風魔法を撃ち続け、そのたびに、ふたりのスカートが捲り上がる。
「アホですね」
「まったくアホだな。そんなに珍しいものなのか。高校生のパンツ。まったくそこまでして女子高校生のパンツが見たいとは恭平並みに情けない男どもだ」
「まあ恭平君が見たいのは、小学生の妹のパンツですけど」
「それはそうだ。恭平は小学生の妹のパンツが本当に大好きだからな」
もちろん、彼が小学生の妹のパンツを覗き見したというのは麻里奈や博子によって捏造された現世に数多く存在する恭平の冤罪のひとつなのだが、残念ながら現在パンツ一丁という恥ずかしい姿で永眠中の恭平には博子と麻里奈の会話に反論できず、その結果これがダハシュール市民全員の常識となる。
さて、まみのパンツが見えるたびに大いに盛り上がる男たちの様子を冷ややかに眺めながら、新たな可能性を発見した博子が麻里奈に自らが考えたその新説を披露した。
「もしかして、まみたんのパンツには、男の人たちを夢中にさせる特別な催眠効果があるのかもしれません。まみたんのパンツは『まみたんの魔法の白いパンツ』というレアアイテムなのかもしれません」
「そうだな。それはあり得る。これは強敵に出会った時に使えるな。こちらの最初の攻撃としてまみたんのパンツを見せるのもいいかもしれない」
麻里奈は重々しく頷きそれを肯定するが、当然ながら強い反対意見も存在する。
「そんなことあるわけないです。それよりもあの人たちのスカート捲りを早くやめさせてください」
「自分たちに被害がないからといってまた適当なことを言っているな。この戦いが終わったら、私が公衆の面前でふたりのスカートたっぷり捲ってやるから覚悟しておけ」
「まみたんはともかく、学校でもパンツを見せながら階段を上っていたハルピにはそういうことを言われたくないです」
「そうだよ。春香は恭平にだってよくパンツを見せていただろう。恭平がよく言っていたぞ。『春香は男子にパンツを見せるためにスカートを短くしているに違いない』と」
「おのれ、橘。あの変態にはこれが終わったら、言った言葉にふさわしいだけの厳しいお仕置きをしてやるぞ」