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第1話 異世界転生を固辞した結果異世界を結ぶパーキングエリアで働くことになりました。

 ここは、これから異世界転生する人や、大冒険を終えて元いた世界に帰ろうとする勇者、はたまた異世界間を行き来する人や種族でごった返している。


 各スペースに描かれた魔法陣が紫やら青やらに光っては中から悪魔や神獣がひょこひょこ現れては消え、本線道路は目にもとまらぬ速さで何千、何万もの飛行物体やらドラゴン乗りやらが駆け抜けていく。この道を走っていくと脇に出口が現れるらしい。ゲートを抜ければその先は異世界に繋がっているのだ。


 ――こんなに世界って広かったんだな。


 米田こめだ道夫みちおは満杯になっているゴミ箱のふたを引き開けると、袋の口を閉じていく。青いスライムのような元は何だったのかわからない粘着質のゴミもあれば、菓子パンの空袋など見慣れたごみもある。嗅いだことのない何とも言えない鼻を突く奇妙な臭いに咳き込みながら、仕事を片付けていく。


 小学生になるかならないかくらいのころに、「アメリカってなに?」と父親に尋ねたときのことを思い出した。アメリカってのは海の向こうにある国で、日本よりずっと大きいんだよ。なんて言われても初めは信じられなくて、想像力が及ばなくて、この小さな家の周りの町内と小学校で世界は完結していて。でも、テレビの向こうに見えるあの見た目が違って言葉も違う謎の人達の存在や、空に白く浮かぶ小さな虫のような点が本当は大きな飛行機で、人を乗せて飛ぶ乗り物だと図鑑は言っていることから、どうやら海の向こうには本当に別の国があるらしいことを次第に理解したとき、道夫は冒険心に打ち震え、胸がいっぱいになって叫びたくなった。


 でもそんな時代も、過去のことだ。


 なんとなく忙しなく高校を卒業し、受かった大学の中から知名度とか感じのよさとか交通の便とか親の希望とかを総合的に判断して入学して、コンビニで日が暮れるまで淡々としたアルバイトをしながら通った。ああ、こんな感じに年を取っていくのねと納得しながら。苦しいことはできるだけ避け、楽しいことはできるだけ取り入れて。


 そしてうっかり事故で死んだ。

 本当によくある話である。


 そして、神の前に連れてこられて、「ワシが転生させてやろうフォッフォッフォ、特別に好きに選ばせてやろう」みたいな会話をしたと思う。一週間くらい前の話だ。


 それなりに驚いた。

 それなりに慌てたし、それなりにわくわくした。

 これから俺はどこへ行くことになるんだ!? とか、前にいた世界とは別の世界で冒険が始まってしまうのか? とか。


 だけど、心のどこかで思っていた。


 やっぱ死んでまで、前の世界でよくあるファンタジー小説と似たような感じなんだな、と。神様まで想像通りの見た目じゃないか。


 そんな様子では、どっかで聞いたことのある世界を、どっかで聞いたことのあるような流れで、たぶんなぞるんだろうと。


 それはきっとそれなりに意味のあることで、それなりにかけがえのないことで。


 まあいいけどさ。

 いいけど。

 

 どっと疲労感を覚えた。足が重い。


「別にどこも行きたくないです。思いつかないし」


 道夫は神に対しそう答えてみた。


「すみません、でもいいんです」


 神は戸惑っていた。


「何のために生きるのか、掴む自信もない。疲れるし、空しいし。せっかく死んだのにまた生きなくちゃならないなんて。すみませんが、本音言うと、生きるのはもうウンザリです」


 神は「うーん」と唸って白いひげをなでると、ちょっとすまなそうな顔をした。


「じゃあ、ここにいるか?」


 少しだけ、突き放すようにそう尋ねてきた。

 ここ?

 神にまで匙を投げられている気がして軽くショックを覚えたものの、それ以上に疲労感と捨てぶちのような気分が勝った。ここはどこなのか尋ねるのも面倒で「はい」と答えた。


 ここは異世界や並行世界を移動するための道路の中だということは後から気づいた。そして、道中の勇者やら魔法少女やら魔族やら召喚獣やらがちょっと羽を休ませるために立ち寄るためのパーキングエリアだということも。


 こうして道夫は異世界ゲート・パーキングエリアの管理人をやっている神の手伝いをすることになったのだった。

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