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蒼天のヘクス・イェーガー  作者: 銀色オウムガイ
第五章 魔神編
99/315

雲海に散らす2

何者かによる攻撃で、エンゲラーラブを挟んで反対の位置にいたもう一隻のアンバジオンが沈む。

そんな信じがたい光景を、幾度も起きた爆発が映し出す。

少し離れれば視界すらまともに確保できないようなこの場所で戦闘が起こるなどとは全く思っていなかったこのアンバジオンのクルーはある事に気付いて戦慄する。

自分達も攻撃されるのではないか、と。

まさか、と思いはした。だが僚艦が沈められた以上はあり得ない事ではない。

ならば、予定とはかなり違ってきてしまうが機体を出撃させ艦の周辺の警戒にあたらせるしかない。

エーテルセンサーの有効範囲が限られる以上、互いに感知し合えるギリギリの距離で散開し、索敵範囲を広める以外に敵を早期に発見する術はない。

「くそっ、誰だよこんな作戦考えたやつは!」

出撃間際のアターカのイェーガーライダーがそう吐き捨てる。

上官の侮辱ともとれる――というかそれ以外の何物でもないが、誰もそれを咎めようとはしない。

すでに戦艦一隻を沈められているのだ。

連携がとれるのはたった三隻で、僅か八十四機での国落とし。

よく考えなくてもわかる。無謀にも程がある。

他にも雲海の中に展開している部隊はある。だが攻撃を仕掛けるにはまだ早い。

何よりここでの戦闘は雲海に阻まれて周囲の味方部隊にも知られる事はなく、援護など望めそうにない。

「くっそ。やっぱり何も見えな……」

「おい、どうした?」

「いや、今何か動いたような」

雲の中に視線を送る。

だがそこには何もいない。

「気のせいだろ」

「だとい――」

すべてを言い終わる前に、雲を突き抜けてきた炎の槍がアターカを貫き炸裂した。

「なっ?! 敵襲だ!」

それは、不幸にも彼等の懸念は現実のものとなってしまった瞬間であった。



視界はなく、センサーもまともに機能しない。

得られる情報は少なく、少しの操作ミスで岩石群に突っ込んで機体はズタズタになってしまう。

そんな状況でありながら、ヴィールは迷う事なく機体を動かす。

アルの指示は信用している。だがそれだけではない。

彼女もまた、ヴィールの能力を信用しているのだ。

「全く……アル嬢からの信用が重いな」

迫る岩石群に突っ込みながら、最低限の動きで直撃を回避。なおも進む。

「まあ、トリア嬢が派手に動いてくれたお陰で、奴等が慌ててるのが聞こえる(わかる)ぜ」

常人以上の聴力を持つヴィールには、見えなくても相手の位置がわかる。

当然、聞こえていてもその音の位置を把握出来るかどうから別の話であり、実際ヴィールにはそこまでの事はできない。

だが、音によって位置の特定はできる。

エコーロケーション。

コウモリやイルカなどが持つ、音の反射によって対象との距離を確認する能力である。

今のヴィールはまさにそのエコーロケーションによって周囲の状況を把握している。

簡単なことではないし、雑音も多く把握は困難を極める。

だが、特定の波長を持つ音だけに、それもヴィールにしか聞こえないような音に集中すればどうだ。例えば――アルトエミスのエーテルコンバーターの駆動音。

常人には聞こえない領域の音。自身から発されるその音により周囲の状況を把握し、さらに相手から発する音との照らし合わせでヴィールの頭にはかなり正確な配置図が浮かんでいる。

「センサーが効かないから機体を広範囲に配置して索敵範囲を広げるつもりかもしれないが……」

相手が動きを止めた。

距離はやや離れている。大体の狙いはつけられるが、弾が散らばるプレスマシンガンでは倒しきれないだろう。

スクロール弾に切り替えるというのも考えたが、たった一機のヘクスイェーガー相手では弾をばらまくプレスマシンガンでは無駄が多い。

「なら、これならどうだ!」

《フレアジャベリン》の投射。

これならば命中さえすればヘクスイェーガーを撃破する事ができる。

だが相手からはこちらが目視できず、当然センサーの範囲外。こちらの攻撃が外れることはまずあり得ない。

事実。ヴィールの放った《フレアジャベリン》は、彼の読んだ通りの位置で爆発を起こした。

「よしっ。命中した。こういう時はたしか……ああ。そうだ。撃ったら移動。だったな」

狙撃手であるトリアにいつか言われた話を思い出しながら、移動を始める。

距離こそ違うが、相手からは見えない距離で一方的に攻撃を仕掛けるという意味では同じ事だろう。

相手からすれば気味が悪い事だろう。

自分達からは全く見えないのに、相手は確実に攻撃を当ててくる。

「さあて、次々落としていくか!」



僚艦が二隻とも攻撃を受け、うち一隻はすでに轟沈が避けられない状態。もう一隻は艦載機を撃墜された。

「なぜ接近に気付かない!」

「それが、相手はセンサーの範囲外から攻撃を仕掛けてきているようで……」

「そんなバカな事があるか! センサーは……いや、そうか。雲海が有効範囲を狭めているのか! 何故誰もそれに気付かなかった?!」

今さらになって認識の誤りに気付いたが、すでに手遅れ。

敵機の存在に気付けず貴重な戦力を大量に失った。

どうやってこの状況を悪化させないように事を進められるのか。

(いや、待て――)

ある疑問に行き着く。

(アンバジオンのように大型のものなら、上空から発見される可能性はあったかも知れない。だが、()()()()()どうやって位置を把握しているんだ?!)

エンゲラーラブのエーテルセンサーでも二隻の戦艦の状態と、展開した機体が撃墜された際の反応しか関知できない。

いわば、相手にとっても完全に()を失った状態である。

だというのに、なぜ機体を狙って攻撃が出来るのか。

その手段に全く見当がつかない。

「どうしますか、艦長」

「味方機の援護に三小隊出撃。七小隊で艦周辺の警戒!」

今艦を動かすことはできない。

航路図はあるが、回避のために下手に動けばそのまま岩石群に突っ込み沈みかねないし、雲の外に逃げたとしてもヘクスイェーガー程度の大きさすら捉えるような相手がそれを見逃すはずがない。

むしろ上に逃げる方が危険だ。艦載機の運用能力に特化しすぎたエンゲラーラブは攻撃手段に乏しい。自衛程度に魔導砲は存在しているが、流石に真下への攻撃は出来ない。

皮肉な話だが、自分達を追い詰めるこの環境こそが自分達が最も安全なのである。

「艦長、敵機らしい反応があったと報告が!」

「よし、警戒状態は維持。残りの機体を出撃させて必ず落とせ!」



敵が向かってくる。戦力差は圧倒的。

しかも相手は魔女ではなく人間だ。

ヴァナディスの操縦席で、これが初陣となるラミターは振るえていた。

「センパイ、アタシ……」

声も震えている。

敵が見えない。どこから攻撃が飛んでくるか判らない。何より自分で動かせない(逃げられない)

さっきまでとは恐怖のベクトルが違う。

「レーザーセンサーは良好。位置もはっきりわかる。ラミターさん、サブアームのコントロール、一旦こちらで預かりますね」

一旦機体との疑似神経接続を腕部だけ解除してサブアームと繋ぎ直す。これは操縦系統が二つある機体ならではの光景といえる。

感覚を確かめサブアームが正常稼働し、問題がない事を確認すると握っているプレスライフルの角度を調整し固定。再びメインの腕と接続し、手持ちのプレスライフルを構えた。

「ラミターさん、アルブス準備してください。動かしかたはわかりますね?」

「シルキーと同じ要領ッスよね。でも……」

相手は魔女ではない。人間だ。

戦って撃墜すれば、相手が死ぬ。それに抵抗がない訳がない。

「抵抗があるなら頭部か脚部を狙って」

「それでも相手の機体は!」

ヘクスイェーガーは共通して頭部の破損により全機能が停止する。それに加えアターカの浮力と推進力は脚部に集中しており、脚部の欠損は墜落に直結する。

「……やらなきゃやられる。解ってますよね?」

「じゃあ! センパイは人間が相手でも、たとえ死なせるような事になっても平気なんですか?!」

「平気、なわけないでしょ」

「ッ!」

失言だった。

アルもラミターと大して歳の変わらない少女である。

専用機を持っていようと、戦果をあげていても、それは変わらない。

自分がそうなのだから、アルもまたそうであるはずなのだ。

「すいません……」

「気にしないで下さい。でも、たとえ相手が人間であったとしても躊躇した途端にこちらがやられる。だから戦うときだけは」

「……了解ッス。やってやるッス!」

「それじゃあアルブス展開準備。目視可能距離に入った相手に向かって射出してください。それまではサブアームで向かってくる敵を撃ち落とします」

「任せてください! 全部蹴散らしてやるッス! それじゃあ……」

「攻撃開始!」

右手と二つのサブアーム。それに握られたプレスライフルから弾丸を、左手のキャストブレードからは《アクアスフィア》を。それぞれが別の相手へ向けられ一斉に放つ。

レーザーセンサーで感知した敵の数が減る。

例えエーテルの流れがどれだけ乱れようと、光によって対象との距離を測るこの機能は、このような状況においては絶対的なアドバンテージになる。

二人の操縦者は共有される敵の位置情報を元に、競い合うように迫る敵を撃ち落としていく。

流石に攻撃を繰り返していれば位置を割り出されるだろうし、撃ち漏らしが距離を詰めてくる。

「ッ! ラミターさん!」

「はいっ!」

雲を突き抜け、槍の切っ先が視界に入ってくる。

その全身が二人の視界に入る直前にヴァナディスの両腕両肩に装備されていた装甲が外れる。

一瞬の自由落下の後、それは意思を宿し迫る敵意目掛けて飛び出した。

「……そこッ!」

四つが大きな弧を描いて散開。そしてアターカの横を通りすぎ、背後から四肢の関節目掛けて突撃し、同時に切断する。

相手からすれば何が起きたか全く解らないだろう。

敵の意識外からの攻撃を単一の機体で行える。それこそがアルブスの真骨頂だ。

「トリアさん。聞こえますか」

『聞こえる。こっちは終わった』

モフモフによる通信。距離や環境に左右されず仲間と連絡を取れるというのも大きなアドバンテージだろう。

「現在地の真上に照明弾。合流を」

『了解』

ラミターに迎撃を任せつつ、プレスライフルに照明弾を一発装填し、真上に向けて発射する。

その後は通常弾に切り替え、再び迎撃を開始する。

「相手が散らばり出したッス」

「位置が特定されたみたいですね」

散開し、多方面からの同時攻撃を仕掛けるつもりなのだろう。

だが相手側とこちらでは、情報の正確さが違う。

それに、だ。アルトエミスの移動速度は、既存のヘクスイェーガーを圧倒する。

「上から何か来るッス!」

「それは味方!」

「速すぎじゃないッスか?!」

ヴァナディスの前にヘカティアが降りてくる。

「お待たせ。どの方向?」

「十二時方向。上に十五度、左に二度。スクロール弾で一発。その後は接近して敵母艦を制圧しましょう」

「ブリッジを破壊しても?」

「構いませんよ」

それを聞いた直後にプレスナイパーライフルを構えて発砲。

即座に敵艦に向かって飛んでいく。

「さて、私達は上に行きますよ」

「えっ……? でも」

「ヴィールさん、そっちはどうですか」

『かなり潰した。今から敵艦に攻撃を仕掛ける』

「では制圧後即座に撤退を。あとはオウカの部隊に任せましょう」

『あーなるほど。確かに。了解した』

「トリアさんもそれでいいですね?」

『……勿論』

一瞬の沈黙があったトリアの反応が気掛かりであったが、アルは機体を上昇させ始めた。



エンゲラーラブのブリッジは混乱していた。

次々と撃墜されていく味方機。自身もまた直接攻撃を受け、艦体が傾き始めていた。

「ダメージコントロール、なにやってる!」

「リバウンダーの出力が安定しないんです! さっきの一撃で破損した模様」

「冗談ではないぞ。エンゲラーラブが沈むと、どれだけの機体を失うことになると……!」

限界まで機体を搭載したこの艦が沈めば、 アドルミデラの損失は非常に大きい。

まだ艦内には出撃すらしていない機体が残されている。それらをここで失うのは避けなければならない。

「くっ。艦載機を全部出せ!」

「艦長?!」

「本艦が沈むとしても、艦載機まで失うわけにはいかんのだ!」

『その必要はない』

「?!」

突如ブリッジに響く声。

その声の主に心当たりなどない。だが、()()()()()

『貴様等はよくやってくれた。我等は本来の任務に戻らせてもらう』

「誰だ貴様は。私の艦には貴様のような人間はいな……い……?」

叫んだところで、急に思考がクリアになっていくような感覚を覚え、言葉に詰まる。

そしてクリアになった思考が答えを弾き出し、その瞬間に戸惑いは怒りへと変化した。

「貴様ァ! ()の者か。我々に呪術を使ったな!」

『実に御しやすい相手であった。恨み辛みで(まなこ)曇りし者の認識をすり替える事の容易いことよ』

「か、艦長……」

「その狼藉、デファンス様が知れば、ただでは済まぬぞ」

『冥土の土産に教えてやろう。貴様等は最初から我等をオウカに届けるための捨て駒。他部隊がいると思っているのは貴様の艦隊だけ。例え貴様等が壊滅しようと、アドルミデラに大した影響はない。何より。全ては()()()()()()()()()()

そう告げられた途端に全身から力が抜けた。

最初から作戦などなかったのだ。自分達はいいように使われ、友軍など現れない、ありもしない強襲作戦に備えていた。

それが指導者たるデファンス・クルイークの指示であると聞かされた今、やり場のない感情が立ち上がる力を失わせる。

声の主が乗っていると思われる機体が艦を発つが、それに対して何も言えず、頭を抱える。

「何故です! 我等が何をしたというのですか?! 我等は、アドルミデラの為に……」

「か、艦長! 敵が……」

「はっ――」

絶望を叫びながら振り返った瞬間。ブリッジの正面にはスカートを履いたような姿のヘクスイェーガーの姿があった。



敵艦の真正面に回り込み、ブリッジの位置を確認したトリアは、すぐにプレスナイパーライフルのマガジンを通常弾に交換する。

「……」

自分は今どんな顔をしているのだろうか。そんな事をぼんやりと考えながらブリッジ目掛けて機体を突撃させ、プレスナイパーライフルを握ったままの右腕を突き出す。

銃口がブリッジを守っていた装甲を打ち貫き、深々と敵艦に突き刺さる。

「沈め」

回避など出来ないその状態で引き金を引く。

一発、二発と撃ち続け、マガジンが空になった所でスクロール弾に切り替えて一発。その直後にプレスナイパーライフルを引き抜き、離脱する。

「……八つ当たりじゃないか」

内部からの爆発で沈んでいく敵艦を眺めながら、トリアはそう呟いた。

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