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蒼天のヘクス・イェーガー  作者: 銀色オウムガイ
第五章 魔神編
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霧中に差し込む光を探して

バトルコスモスがアゲートの反応のあった地点に到着した時には既に戦いは終わっていた。

残されたのは大穴が空いた大地に、焼かれた森林。そしてバラバラにされた五機のヘクスイェーガー。

その内四機は飛燕小隊が使用していた機体。最後の一機はアストライアである。

「……士気が下がってしまっているのである」

無理もないことだ、と戦いの場となった地を直に眺めながらシュデムは呟いた。

ウィスタリア王国の人間にとってアストライアとは、それを駆って戦場を駆け抜けた女騎士ウーノ・ミデンの(意図的に誇張された)華々しい活躍の印象が強く、まず負けないし壊れないものというイメージが強い。

故に。四肢が崩れ、胸部装甲を失い、頭すら地に転がる姿など誰も想像していなかった。

シュデムとてそうである。だが、アストライアも所詮は機械である。壊れるときは壊れる。そう割り切れているだけ、周りよりは気落ちせずに居られた。

(いや、それだけではない、か)

アストライアが大破した。それは確かにそれは大なり小なり各々を狼狽させ、士気を下げる要因となった。

だがそれ以上に、アディン・アハットが未だに発見されていない事実がより大きな理由となっていた。

戦場に向かう以上、いつかは仲間を失う日がくるものである。

だからと言って、さっきまで普通に話していた相手が突然いなくなるというのはショックが大きいし、簡単に割りきって前を向こう、などと気楽に振る舞えるものではない。

「アディン・アハットが死んだとは我輩は思えぬ。思えぬが……」

何より操縦席が――内装こそ派手に壊れていたが、原型を残したままであると言うのに、操縦していた人間が見つからないのは不自然である。

何よりシートには乾きだした赤黒い液体――つまりは血液が付着していて、その量からして深傷を負っているのは間違いない。もし脱出していたのならば、そう遠くへは移動できないはずだ。

だというのに周辺を捜索しても見つかる気配がなく、捜索隊の強化外骨格のバッテリーの都合で捜索は一旦打ち切られた。

「いや、我輩も随分弱気になっているであるな。自分の仕事をするのである」

下半身を無限軌道に換装したヘスティオンが、台車に積まれた残骸をバトルコスモスへと運んで行く。

イスナイン邸から寄贈された古の技術を記した本にあったものを面白半分にエリマと共に再現させたものである。

「実際に動いているのを見ると感慨深いものがあるであるな。まあ、我輩だけ雑巾の如く絞られたのは納得いかんのであるが」

予算をちょろまかして秘密裏にやっていた為、今日それが発覚。シュデムは大目玉を食らった訳だ。

だが、もう一人お咎めを受けなければならない人間は今、意識を失い未だ目覚めていない。

「……うーむ。凡人眼鏡がいないと調子がでないであるな」

深いため息を吐きながら、シュデムは自分のやるべき仕事を始めた。




一方、アルトエミスの操縦者とイスナイン姉妹、そして飛燕小隊がガドルの呼び出しで集められたバトルコスモスのブリーフィングルームは異様な緊張状態にあった。

理由は、普段ならばガドルがいる部屋の最奥の椅子に座っている女性――ウーノ・アハットである。

未だ彼女自身が名乗っていないため、多くのクルーにとって、いきなりヘクスイェーガーで乗り込んできた危ない女程度の認識だ。

だが、一部の人間はそうではない。

特にガドルとゴウトは警戒心を隠そうともせず、ひりついた空気の原因となり、実際に戦う姿を見ていた飛燕小隊の面々からは畏怖に近い感情を抱いていた。

トリアはウーノと顔を合わすなり目眩を起こし、椅子を集めてベッド代わりにしたものに寝かされている。

またエルアは飛燕小隊の状態を診ながらも、まるで今にも腰のカタナで斬りかかりそうなほど攻撃的な意思をウーノに向けていた。

「随分と嫌われたなあ、私。ま、艦長やオウカのごついのは解るけど、そっちのお嬢さんに恨まれたり嫌われたりはした覚えがないんだけど?」

「……失礼。でも貴女相手に気を許せるほどの余裕は私にはない」

最後の一人であるエクウスを診終わるなり、エルアは腰のカタナに手を伸ばした。

「エルア姉さん、やめてください。ムビリ姉さんも止めてください!」

「うん? いやーこの人相手だと真っ当な反応だと思うけどニャー? ですよね、ウーノ・ミデンさん?」

「なっ……?!」

ウィスタリア王国出身者でその名を知らぬ者はいないほどの有名人。王国史上最強と呼ばれる女騎士。

そんな大物が目の前にいる。ざわつくのも無理はない。

同時に、あらかじめ正体を知っていた訳でもなく、その力を感じ取って警戒していた訳でもないトリアが倒れた理由も推測できた。

「トリア嬢はこの人に流れ込むエーテルの異常な流れ方を見て処理しきれなかったから倒れた、ってことか?」

「アディンさんでもかなりのモノだって言ってましたけど、まさかそれ以上の……」

常人以上のマナを扱えなければ起動すらしないアストライアを操るアディン以上のマナ変換能力を持つ人間がいる。

その事ですら驚愕に値するが、ウーノ・ミデンであるなら当然である。

何せ彼女は、かつてアストライアを駆っていたのだから。

「あー。勝手に盛り上がってる所悪いんだけど、ミデンは旧姓ね。今はアハットだから」

ウーノがそう告げた瞬間、アルとヴィールが固まった。

寝かされていたトリアも勢いよく飛び起きて勢い余って転げ落ち、エルアとムビリは目をこれでもかと見開いてウーノを凝視。

ゴウトは暫く聞き覚えのある単語の意味することを理解できていなかったが、理解した瞬間にガドルゆアイコンタクトで説明を求める。

レンナ・シオ・エクウスの三人は理解が追い付いていないようであった。

「……まずは彼女についての紹介だ。旧姓ではウーノ・ミデン。まあ、それについての説明は省くが、今の姓は……」

「アハット。ウーノ・アハット。どうも、息子がいつもお世話になってます」

にっこりとウーノが笑う。

だがアディンの母親があのウーノであると言う事実を受け入れきれないのか、暫しの沈黙が続く。

「あれ。なんかマズった?」

「いや、アディン・アハットは親の話など一度もしたことがないから、皆驚いているだけだ」

「あらそう。ならいいけど」

ガドルはこうなることはある程度予想できていたのか、落ち着いた様子で話を進めた。

「ウーノ・ミデ……失礼。ウーノ・アハット。お前ほどの人間が無意味にヘクスイェーガーを動かすとは、自分は思えない。何があった」

「んー? そうだな」

とぼけたような仕草をしながらしばし間を開けて話し始める。

「分割思考ってわかる? 詳しく説明するのはめんど……難しいんだけど、簡単に言うと複数の事柄を同時に処理できる、っていう能力――というよりは技術(スキル)なんだけど」

「なんだそれは。自分は聞いたことすらないが」

「……アディンさんが、その様なことが出来るようになった、と以前話してくれた事があります」

「俺も聞いたな。あれ、おっさんに言ってなかったっけか?」

「聞いてないぞ……」

「……言っても信じないから言わないでおこう、って話になった。まあ、アルもヴィールもあまり信じてなかったみたいだけど」

確かにトリアの言うとおり、そんな事を言われたとしてもガドルがそれを信じたか、と言うと間違いなく信じなかっただろう。

人間は複数の事を同時に思考することは不可能とは言わずとも困難を極める。

もしできたとしても脳にかかる負担は相当なものになる。

「話を戻すけど、私の場合は千里眼で得られた情報を元にして限りなく未来予知に近い未来予測が出来るんだけど……」

「ちょ、待て。さっきから情報が多すぎる!」

ガドルは眉間にシワを寄せながら、一旦話を遮る。

「分割思考に千里眼、更に未来予知? いや、予測と言ったか?」

「言ったよ? 得られた情報を多角的に処理して少し先の未来を予測する。まあ、分割思考のちょっとした応用さね。で、こっからが本題」

にこっと笑うウーノ。確かに笑顔ではあるが、若者達を萎縮させる。

「……なんか嫌われるような事したかしら。まあいいや。その未来予測で私が見たのは――()()()()()()()()()

その言葉に真っ先に反応したのはヴィールだった。

テーブルを叩き、先ほどまで萎縮していたのはなんだったのかと思えるほど激しい感情を眼差しと共にウーノにぶつける。

「あり得ない。あのアディンが死ぬだって?」

「私がエグザストライアで駆け付けなければ確実に死んでいた。事実、アストライアはバラバラになって自壊。そこの四人はアゲート相手に手も足も出せずにバラバラにされてたし」

「それを言われると何も言い返せませんね」

「でもレンナさん……」

「いいえ、エクウス。私達があの異形を倒せていればこんな事にはなってなかったはずです」

「え? 過失十割でウチのバカ息子のせいでしょ?」

落ち込みかけたレンナに対し、ウーノはそう言って笑い飛ばした。

「むしろアレ相手によくやった方だよ。何せ弱体化してるとはいえアゲート本体と戦ってたんだしね。そこにアゲートの身体持っていったのがウチのバカ息子。あの状況を作ったの張本人だからあんた達はその点は気にしないように」

ははは、と笑い飛ばすが、周囲はそれどころではない。

異形と呼称し続けていた存在がアゲートの本体であるなど誰も知らなかった情報であるし、バンデットアゲートがアゲートの身体だと言われても理解できない。

何より息子の安否が不明な状態であるのにそれをネタに笑い飛ばせるウーノに引いている。

「ま、それはおいておいて。確かに私が介入しなければ息子は死んでいたはずだった。だからこそ私は事象に介入して未来を変えようとした。そしてそれは確かに変わった。ただし、私の予測を越えた形で」

「っ!」

「おい、まさかそれは……」

飛燕小隊が明らかに動揺した様子を見せる。

それについて訪ねる前に、レンナが呟く。

「魔神、シオウル……」

「そ。で、うちのバカ息子はその魔神シオウルに連れ去られて行方不明になりましたとさ。はっはっは。笑えないわーマジで。おまけにアゲートには逃げられるし、状況は最悪さね」

「………はっ。ちょっと情報を処理するためにフリーズしてたニャ。重要なのはあの異形とバンデットアゲートは二体で一つ――いや、()()で一つの魔女アゲートで、出現したアゲートは逃亡。アディンくんは覚醒した魔神シオウルによって拉致された、っていう事でいいかニャ?」

「あら解説どうも。じゃあこの先、私が言いたい事はわかる?」

「まあニャー。どーせ、アディンくんを探すのを手伝えってところじゃニャいかと」

「その通り。その為の移動拠点と食糧の提供と機体のメンテナンス。それが私の要求」

さらりと言っているが、元騎士であるとは言えども民間人が一応は正規軍に属する艦に対して要求するような内容ではない。

(……まてよ)

ようやく落ち着きを取り戻したガドルは思考する。

この女が意味もなくこんな要求をするだろうか、と。

ウーノの要求は結局ムビリも言ったように魔神に連れ去られたアディンの捜索およびその協力である。

確かに生きている可能性があるならば、バトルコスモスとしても捜索をする理由にはなる。

それに空間転移が可能な機体――ウーノ曰くエグザストライアと言う黒いアストライアの改造機があるのならば個人でも広範囲を捜索できるはずだ。

だというのに、何故移動可能な拠点が必要なのか。

(なんらかの理由があるのならば、こちらからの要求を飲ませる事も可能ではないのか?)

「うん? どうした、ガドル艦長。私の要求は……」

「交換条件だ」

「……ふぅん」

ウーノが、面白いものを見た、と言う風に目を細めて笑みを浮かべた。

「で、条件は?」

「アディンの救出までバトルコスモスの戦力として戦ってくれ」

そうガドルが告げると、ウーノは歯を見せ笑いながら手を差し出す。

「交渉成立だ。()()()()()()であることを望むわ」

「そうだな。短い付き合いのほうがいい。では、()()()よろしく頼む」

ガドルは差し出された手に応えた。

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