合流阻止作戦3
アディン達が三体の魔女との戦闘に突入したタイミングとほぼ同じ時刻。
遺跡方面へと向かった飛燕小隊は慣れない機体との疑似神経接続に戸惑いながらも、互いの移動速度から想定される異形との遭遇地点付近へと近付きつつあった。
「確認だ。シオとエクウスは突撃して牽制と撹乱。俺ぁそれに合わせと切り込む。お嬢は……」
「後方からの射撃支援。戦いを俯瞰できる位置からの指示。ようはいつも通りです」
「まあ、違うのは機体と使う得物の使い勝手くらいですかね」
シオは軽く両手に持った短剣タイプのキャストブレードを降ってみる。
いつもの機体ではカタナ型のものと短めのもの――オウカ国ではワキザシと呼ばれているタイプを同時に使っていたが、これはこれで使いやすいと感じていた。
重さが左右で均一である、というのもあるのだろうが、カタナ型のものを片手で振った時と異なり遠心力で振り回されるといった感覚が殆ど存在しないというのが大きい。
「これを学生上がりが造った、なんて思えません。是非今後も使っていきたいですね」
「ズワウルじゃあ規格があわないって。特にプレスガンは」
初めて触る他国の新装備。それもまだ一般流通していないものを触っている事で、やや興奮ぎみのエクウスはさっきから何度もプレスマシンガンを取り出しては構えては戻す動作を繰り返している。
何せ、この武器の形状は今まで無かったものである。
開発者であり命名者曰く、かつては存在した銃という携行射撃武器の形状を真似ている、とのことだ。
弓や大砲などといった遠距離攻撃が可能なものは現代にもあるが、なぜその銃だけが失われてしまったのかはわからないが、今はそれを追求すべき時ではないことをエクウスとて理解はしている。
とはいえ、エクウスにとって面白い武器であるという事には違いなく興味が尽きない。実際に使ってみるのが楽しみで仕方ないようだ。
「僕もこんな武器や機構を作ってみたいなあ」
「んなこと言ってる場合じゃあ無くなったみたいだぞ、エクウス」
「……ですね」
四機のエーテルセンサーの関知範囲に微弱な魔女の反応が現れた。
最大望遠でその姿を確認すると、遺跡内でレンナ達を襲ったあの異形の姿があった。
魔女の反応もその異形から出ている。
「しかもアゲートの反応ってのはなんかの冗談ですかね」
「というか、あれ大きくなってませんか?」
シオの言葉通り、遺跡で遭遇した時よりも遥かに大きい。
レンナ達が遺跡から離れてそんなに時間が経っていない。その短期間で何があってこうなったのだろう。
だが考察は後からいくらでもできる。それよりも今はやるべき事をする。
「……各機。戦闘開始」
レンナ機が矢をつがえた弓を構え、弦を引く。
きりきりと音をたてながら弓がしなる。
「……!」
ぱっ、と指を離した瞬間。矢が空を割いて飛んだ。
その一射に続いて三機が目標の異形めがけて飛び出す。
第一射に続き、二射目の準備を整えつつ、レンナは標的を睨む。
最初に放たれた矢は後発のヘスティオンよりも早く異形に到達し、その背中に突き刺さった。
『――――!』
初めて使う弓の癖が解らず狙った場所から少し逸れた。だが効果はあることは確認でき、その癖も理解できた。
ならば、次は狙った場所に当てることができる。
レンナはすぐに二射目を放つ。
一方、異形へと突撃した三機も交戦を開始していた。
シオが接近し、両手の短剣型キャストブレードで素早く斬りつけて離脱。すかさずエクウスがプレスマシンガンで牽制し、意識を自身に向けさせる。
続けて素早い動きでシオが別方向から攻撃を仕掛ける。
流石に二度も簡単に攻撃を受けたくないのか、異形は槍のような脚を振り上げて反撃に出るが、反対からエクウスが再度攻撃を仕掛けて攻撃を中断させる。
どちらの攻撃も決定打になり得ないが、シオの役目は牽制。注意を引き、相手の行動を制限することにある。
そしてエクウスの役割は素早く動いて四方八方から攻撃し、場をかき乱して混乱させることにある。
普段は魔女をシオが牽制して抑え込み、エクウスがシオに近付かないように使い魔を撹乱しているのだが、今は相手が一体しかいない。どうしても役割が被ってしまうが、やることは変わらない。
シオは注意を引いて、エクウスはシオが攻撃されないように場をかき乱す。
「でぇぇぃあぁぁっ!」
そして、全く意識が向いていないゴウトが急降下しつつ大剣を異形の脳天めがけて振り下ろした。
振り下ろした勢いにそのまま機体が振り回されて投げ出されそうになるが、その勢いを利用して大剣を振り抜いて離脱する。
「なんて重さだ。確かに普通のヘスティオンなら腕を持ってかれるな」
壊れにくい、ということはそれだけ固い材質でできているか、それだけの強度を得られるほどの密度があると言うことである。
ゴウト機があつかう大剣は後者であり、それ故に振り回しただけで機体の腕を破壊しかねないほどの超重量級の武器となってしまった。
尤も、扱えたとしても機体を振り回すほどの重さがあるからこその一撃の重さと、その頑丈さ故に盾としても使える汎用性を持つのだが……そもそも汎用性を求めるのならそこまで重たい武器は必要ない。もっと言えばキャストブレードと高い防御性能を持った盾を装備すればそっちのほうが軽いし汎用性でも勝る。
だが、この大剣を使ったゴウトはたった一振りでこの大剣を気に入っていた。
ゴウト機が距離を取り、二太刀目を振りかぶったのとほぼ同じタイミングでレンナ機の放った矢が異形の頭に突き刺さった。
『――――――!』
苦痛に悶える叫びか、またほまとわりつく敵に対する威嚇か。異形が大口を開けて咆哮るが、直後に振り下ろされたゴウトの一撃を受けて途切れさせられた。
どちらにしろ、ダメージこそ与えられてはいるが足止め程度にしかなっておらず、倒すには至っていない。
「……このままでは駄目ですね」
異形が身体を震わせて自身に突き刺さっていた矢を抜く姿を見ながらレンナは呟いた。
何が駄目なのか。レンナ達は目標の足止めという意味では十分に役割をこなせている。
シオが牽制し、エクウスが乱し、レンナとゴウトが強烈な一撃を食らわせる。それによって異形はレンナ達を敵であると認識し、迎撃するために足を止めた。
それはいい。だか言い方を変えればそれだけだ。
飛燕小隊が向かった方向とは逆方向に出たアディン達。いくらアストライアやアルトエミスが優れた機体であろうと、プレスガンが優れた武器であっても、相手は魔女である。
魔女との戦いにおいて人間の常識は通用しない。故に、それと戦う者は常に最悪の展開を想像しなければならない。
現状においての最悪とは、接近してくる魔女と今レンナ達が戦っている異形が合流してしまう事。つまり、何らかの要因でどちらかの足止めが失敗してしまうことだ。
二体を合流させない事がこの戦いの目的である。合流した時点で作戦は失敗となり、魔女側の目的が達成される。もしそうなった時、何が起こるか全く見当もつかない。
事はそれだけには留まらない。どちらかが突破を許せば、もう一方が挟み撃ちにされる。
もしそうなれば挟み撃ちにされた方は絶望的な状況に陥る。
そう、この同時展開作戦は、どちらかが足止めに失敗した時点で全てが瓦解するという誰も口にはしないが理解はしている欠点だけではなく、最悪の場合は出撃した騎士全員が死ぬ可能性すら十二分にあるのだ。
失敗すればパステーク全体が魔女によって蹂躙される。その被害に比べれば八人の命など安いものだろう。
だが、レンナはそんな事など些細な事なのだと考える。
例えどれだけ失敗を重ねたとして、その結果汚名にまみれたとしても。
例えどれだけの屈辱を味わったとして、その結果心が折れたとしても。
生きていれば機会がくる。生きていなければ、何もできない。
「総員、ならしは終わりにして本気でやりなさい」
そうレンナは三人に命令する。
アディン達を信用しないわけではない。だがたった四機で魔女の足止めなど、普通ならば無謀でしかない。
まず突破されると考えるのが自然だ。
そう考えた時、全員が生き残る可能性が最も高いのは、今ここでレンナ達が異形を早々に撃破し、アディン達の援護に向かうことだ。
「お前等! 聞いたな。叩き潰すぞ!」
ゴウトが叫び、大剣を肩に担ぐ。
それを合図にシオとエクウスは短剣を手に異形目掛けて一直線に飛び出した。
――まるで異形の攻撃を誘うかのように。
実際、効果はあったようで長い尾を槍でも突き出すかのように二人目掛けて伸ばす。
「やっぱあいつ、馬鹿だ。魔女ほどは賢くない」
これが普通の魔女なら、魔女同等の思考を有した存在であれば馬鹿正直に真っ直ぐ突っ込んでくる複数の相手に対して点の攻撃を行うことはまずない。
もしそれほどの思考力を持っているのならば横凪ぎの一撃――つまり線の攻撃を行ったはずだ。
故に、二手に別れて攻撃を避けられるなどという失態を犯す。
左右に別れた二機のヘスティオンが短剣を振り上げる。
「魔法剣――」
「――抜剣」
呟くほどの声。それに答えるように二機の持った短剣型キャストブレードが輝きを放ち、それはすぐに別のものへと変化していく。
シオのものは燃え盛る紅蓮の業火と大気すら凍てつかせる極寒の冷気。エクウスのものは雷を凝縮したかのような閃光。
それぞれがそれぞれの剣に纏わせたのは、勿論改造されたヘスティオンの機能などではなく、シオとエクウスが使う魔法である。
だが、普通は発動と同時に放たれる通常のものとは異なり、彼等の使った魔法は短剣から離れることはなく、剣の動きにも追従している。
彼等オウカ国の人間はこの魔法を――正確にはそれから派生した戦闘技術であるこれを魔法剣と呼んでいる。
この魔法剣は魔女に対して確実に一撃を与える事を目的にしたものであり、被弾が致命傷になりやすいが機動力・運動性・膂力はヘスティオン以上にあるズワウルで戦う為には必須の技術でもあった。
「はぁぁぁぁっ!」
「せいやぁぁっ!」
計三つの斬撃が左右から異形を深く斬りつける。
一撃を入れたら即座に離脱し、後続のゴウトが二人と同じように魔法によって纏わせた大量の鋼鉄によってもはや超重量の鈍器と化した大剣を振り下ろす。
『――――』
異形はその一撃を防ぐため伸ばした尾を振ってゴウト機を弾こうとする。
しかし、その尾はゴウト機を捉えることなく、地面へ貼り付けられた。
「助かったお嬢!」
レンナの援護により異形の尾は矢によって地面に貼り付けられた事により、邪魔をするモノがなくなったゴウト機の攻撃は首の根元に叩き付けられた。
しかし切断するには至らず、ゴウトは舌打ちしながら魔法剣を解除して即座に離脱を試みる。
『――――!』
この異形。思考の方はともかく、諦めの悪さは魔女に匹敵していたようだ。
尾に突き刺さった矢を引き抜くのではなく、力任せに尾を持ち上げて振り回す。
当然ながら地面にすら突き刺さった矢が簡単に抜けるはずもなく、矢は完全に尾を貫通し、大穴をつくる。
「いっ!?」
ゴウトを凪ぎ払わんと自由になった尾を薙ぐ。
完全に直撃コースであり、大剣の重さも相まって思ったほどの加速できないゴウト機は回避が間に合わない。
「させない!」
そこへシオ機が割り込み、両手の魔法剣を叩きつける。
たった一撃。だがその一撃でゴウト機に直撃するはずだった尾はくの字に曲がり軌道が変化。
僅かではあるが時間の余裕ができた事でゴウト機は離脱。続けてシオ機も離れた。
「助かったぞ、嬢ちゃん」
「……」
レンナは一度状況を整理しようと弦を引く手に力をいれながら思考を巡らせる。
この数回のやり取りで、相手にこちらの攻撃は十分に通用している。あちらの攻撃に対応出来ていないわけでもない。
損傷の修復なども起きておらず、このままならば押し切れるだろう。
だが、違和感がある。あまりにも一方的ではないか。
ただの使い魔や強獣であるならレンナもここまで慎重になったりしない。
だが今目の前にいる異形は微弱ながらも現在確認されている最強の魔女であるアゲートと同じであるとエーテルセンサーが認識している。これにはなにか意味があるはずなのだ。
機械で見れるものが全てではない。だが機械は嘘をつかない。ただ誤魔化したり偽れたりするだけである。
「解らない……」
やることはは変わらない。ただの足止めではなく、目の前の敵を撃破できる可能性が高い自分達がこの異形を倒し、アディン達の援護に向かう。
だが、レンナはどうしてもまとわりついてくる違和感を拭えず、放たれた矢は狙いからややずれた位置に命中した。




