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蒼天のヘクス・イェーガー  作者: 銀色オウムガイ
第四章 遺跡編
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合流阻止作戦1

進路予測が何度も繰り返され、その度に同じ答えにたどり着いてしまう。

繰り返された計算によって精度が増した結果だ。

同時に、反応をより強く感知できるようになった結果、接近中の魔女――以前ヴィールが偵察中に遭遇した黒い魔女についても、ある程度のその存在についての予測ができた。

それは、以前交戦し撃退したカルブンクスルとサピュルスが欠損部位を補うために融合したものである、と言うものだ。

勿論前例はないが、だからといってあり得ないことではなかったのだろう。何せ、魔女に常識は通用しない。

厳密にはアゲートではなかったにしろ、アゲートのような魔女は特殊個体である認定され、便宜上バンデットアゲートと呼称される事になった。

その魔女の移動速度と、それと呼応するように移動し始めた遺跡から現れ、バトルコスモスのアーカイブに記録されていたアゲートと同じ反応を示す怪物の移動速度を条件に加えた結果――二体が合流するのは一時間後。

もちろんこれは現時点での移動速度が変わらなければ、という話であるし、バンデットアゲートは三十分もあればここパステークと接触していまう。加速してくるというなら、この計算結果は簡単に覆る。

端的に言えば、時間的猶予は全くない。

遺跡から迫るほうが加速するならまだいい。こちらは反応が小さい。つまりは()()ということ。

勿論、だからと言って危険な存在には代わりはない。

最悪なのはパステークに迫る方――バンデットアゲートが加速した場合だ。

こちらは現在の移動速度のままでもたった三十分しか猶予がない。

各自の配置にたどり着くまでに場所によってはかなり時間がかかってしまう大型艦であるバトルコスモスでは、この三十分というのは短すぎる猶予である。

『艦長のガドル・ストールだ。各員の配置完了までには時間が足りない。かつ敵は挟み撃ちしようとしている。よって、バンデットアゲートにはこの艦の艦載機部隊を投入する。そして後方のアゲートと思わしき反応を見せる存在――恐らくは飛燕小隊が目撃したという異形だろう。それへの対処は飛燕小隊に一任した。機体はこの艦のヘスティオンを使用する。装備などは彼等に一任する。使える試作装備も片っ端から用意してやれ』

ガドルからの指示を受けて格納庫が慌ただしくなる。

使う予定のなかった四機のヘスティオンの準備をする作業員や、戦闘に耐えうる装備を武器庫から引っ張り出す強化外骨格を装着した作業員などが慌ただしく格納庫を走り回っている。

「アルトエミス各機、準備はどうか!」

「二号機は予備パーツとの接合調整でもう少しかかります!」

「四号機は問題なし。いつでも!」

「ヘカティアはスカートアーマーの調整が間に合わない。代わりにマガジンホルダーでも付けて出す!」

やはり先日の戦闘で大破したアルトエミス二号機の完全な修理は間に合わなかった。

特殊な装備を施されているが故に調整をできる人間が少ない事。慢性的な人手不足故に使えない機体よりも使える機体を優先した整備を行った結果、胴体だけの修理で放置されていたのである。

が、普通のアルトエミスのパーツならば予備がいくらかある。それを取り付け、調整を済ませればすぐにでも出撃できるようになる。

一方でヘカティアことアルトエミス三号機は高機動エーテルブースターユニット――通称トンボの稼働翼からフィードバックされた技術により左肩のシールドが稼働するようになっているのが最大の変化だろう。が、肝心のスカートアーマーの製造と技術フィードバックが間に合わなかった。

その為にプレスガン用マガジンを多数携行できるようにマガジンホルダーを取り付けられているのだが、結果だけ言えば装甲がないだけで用途としては本来想定されていた仕様にかなり近いものになっている。

そして四号機であるが、これは万全の状態である。何せ先の戦闘による破損も少なく、余計な改造を施されていない分他の二機よりも整備に手間がかからない。短い時間でも十分な整備ができていた。

最後にアストライアであるが……こちらも先の戦闘で大きな損傷はなかった為、修理は短時間で終了していた。

とはいえ魔女相手に殴り合いをやったのだからさすがに無傷というわけではなく、いくらかのパーツは交換する必要があったが。

「トリアさん。機体を起動させたらまず肩のシールドのチェックをしておいて下さい。実戦でも動かせるように」

「了解。ところで、あれ使っていいの?」

「あれ、ですが……?」

アルはトリアの指す方へ視線を向けた。

そこには今まで試作していたヘクスイェーガー用装備が種類ごとに並べられていた。

その中でも一際目立つ筒状の物体があった。

「出してきてるから使えるとは思いますが」

「ああ。試作型の携行魔導砲か。撃てる事は撃てるが、収束が上手くいってなくてな。拡散して威力なんて殆んどないぞ」

ようは試作と言う名の失敗作だ、と丁度通りかかったエリマは語った。

「むしろ拡散する方が好都合。使い方は?」

「プレスガンと共通規格だ。ただ、消費するマナの量はプレスナイパーライフルの何倍も多い。連射もできるが機体が機能不全になる」

「了解。持っていく。プレスナイパーライフルも」

「よし、聞いたかお前等! ヘカティアはいつもの装備に試作の携行魔導砲を追加だ! 装備の準備急げ!」

エリマの号令に作業員達が声をあげて答えた。

そのエリマも、アルとトリアに手を振ってその場から足早に立ち去り、格納庫の奥に押し込まれていたヘスティオンの調整に向かった。

「アディン、そっちの調整はどうだ?」

「指の稼働チェックが終わった。脚は工程カット。フレームに破損がないかだけチェックしたら出れる。ヴィールは?」

「もう終わった! それよか……」

手慣れたアディン達よりも、慣れない他国の機体に乗って出撃しなくてはならない飛燕小隊のほうが何かと問題があるだろう。

「……今なんてった?」

事実、説明を受けていたゴウトは思わず聞き返した。

搭乗するのはヘスティオン。ウィスタリア王国の正規主力量産機であり、ヘクスイェーガー開発技術に乏しい国への輸出も行われている、惑星エアリアにおいては今さら機密事項もなにもないような、ありふれた機体。

だからこそ、詳しい説明が必要だと言われたとき、そんなものが必要なのかと思ったのだが……必要であった。

「ですから、この艦に搭載されているヘスティオンはみんなアルトエミスの技術をフィードバックしていて、見た目こそヘスティオンですが中身は全然違うんですって」

「アルトエミスっていうとアルさん達の機体ですよね。それのフィードバックって事は……」

エクウスの目が輝く。機械いじりが好きな彼としては、通常機とほぼ外見が変わらないにも関わらずその性能を向上させるというのは興味が尽きないだろう。

だが今はそれについて追求している場合ではない。

「極力性能に差が出来ないように心掛けてますが、その。うちの騎士の予備機体だったり新装備試験機だったりなので……」

「通常機よりも扱いにくい。そういうことですね」

「はい。ですのである程度の希望を伺ってから用意した方がいいかと」

ふむ、とレンナは考える。

バトルコスモスが運用する機体は、明らかに異質である。

魔女を単体で撃破した機体を運用しているという噂も、事実であるのだろうと、先の戦闘でレンナは確信していた。

その性能そのまま、という訳ではないがその機体に使われた技術のフィードバックを受けた機体を操縦できると言うのは貴重な体験だろう。

故に慎重になる。

先の戦闘――カルブンクスルとサピュルスの猛攻を凌ぎきり、追い詰めすらしたアルトエミスやアストライアの動きはオウカ国の機体であるズワウルでは不可能であり、見るからに操縦する人間に対する負荷が大きすぎるほどの高機動戦闘であった。

そんな化け物じみた機体の劣化版。そう考えれば目の前で膝を抱えた姿で待機している鋼の巨人が恐ろしく見える。

「……だったら俺ぁ近接戦がしやすいやつだな」

レンナが考え込んでいる横で、ゴウトがあっさりと決めた。

確かに、レンナの知るゴウトの戦い方は近接戦が主体。オウカ国の機体には標準装備されるカタナ型のキャストブレードを豪快に振り回す。それ故に鋭い切れ味を持ちながら壊れやすいカタナの特性を持つキャストブレードをいくつも駄目にしている。

故に他国で使われるような剣タイプのキャストブレードを手配しようかという話もあったほどだ。

「では装甲とパワーを強化した機体を用意します。武器は……」

「壊れにくいキャストブレードはあるか? あとプレスガンとやらも使ってみたい」

「大剣タイプのがあります。頑丈で盾にも使えるんですが、いかんせん重たくてただのヘスティオンでは振っただけで折れるんですよ」

「ただの、だろ?」

「ええ。今から用意する機体なら多少武器に振り回されますが、折れる様なことはありません」

「よし、それで頼む。シオの嬢ちゃんにエクウスも、要望をぶつけてみろや」

にっと笑ってゴウトは二人に機体の要望を告げるように促す。

二人は顔を見合るが、整備員に促されて自身の要望を伝える。

「わたくしはキャストブレードを二つで。手数が欲しいので」

「僕は機動力と運動性重視で。武器は取り回し重視で」

「了解しました。シオさん、武器に関してなんですが短剣タイプのが有るんですが、どうですか? 普通のキャストブレードよりリーチは短くより近づく必要性がありますが、軽い分手数は多くできますよ」

「ではそれで」

「エクウスくんのほうはシオさんに用意した短剣タイプのキャストブレードとプレスマシンガンを用意しましょうか」

「でもプレスガンの使い方は……」

「大丈夫です。説明しますから」

次々と隊員が自分の使う機体を決めて行く中、レンナは今もなお悩んでいた。

ゴウトは近接戦。シオは牽制。エクウスは撹乱。

飛燕小隊においては何時もの役割分担であり、各自のオーダーもそれに因むものだ。

ならばレンナも普段の役割――遠距離攻撃に特化した機体をオーダーすべきだ。

それはいい。レンナが悩んでいるのはそこではない。ここまで他の三人がいつも通りの選択をしたのだから、自分もそうすればいいだけだ。

ではなぜ悩むのか。それは()()()()()()()、という葛藤があるからだ。

「あとはお嬢だけだぜ?」

「えっ、と。機体は通常通信範囲の広いやつをお願いします。あとは……弓とか、ありますか?」

とんでもない事を言ったぞ、という顔で三人がレンナを凝視する。

当然の反応だ。弓矢なんてものを対魔女戦どころか模擬戦で使うような酔狂な人間はいないし、そんなものを使うより魔法で攻撃した方が手っ取り早い。

故にいままで弓を作ろうとする者はいなかった。そもそもヘクスイェーガーが引いても耐えられるような弦を作れないのだから作られなかったのは当然だろう。

また射撃武器としても魔法と比較しても真っ直ぐ飛ぶわけではない為、扱いづらいというのも作られなかった理由だ。

だから、自分か得意な武器である弓がないか、と冗談半分で聞いてみた……のだが。

「ありますよ」

「「「あるの?!」」」

驚きのあまりゴウト以外の三人が叫んだ。

「いや、いやいや。何でそんなものを?」

「トリア・サラーサの発案です。ほら、ウチのスナイパー。弦に関しては強獣の金属繊維を使ってるんで強度もばっちりですよ。まあ、テスターが誰一人として弓なんて使ったことがないから使ったことはないんですけど」

「……いや、うん。もう細かい事には突っ込みません。私の機体はそれを装備します」

レンナは深く考えず、今は自分が得意な弓をヘクスイェーガーでも使えると言うことを素直に喜ぶべきだろう、と思うことにした。

「ではプレスガンの説明はあっちにいる人間から聞いてください。レンナさんの弓に関しては自分から」

「? ただの弓ではないんですか?」

「この弓ですが、実際には弓としても使えるキャストブレードです。万が一矢を使いきっても近接武器としてだけでなく、魔法の照準として使えます」

「成る程」

「あと、使用する矢の方にも仕掛けがありまして、スクロール弾を装着出来ます」

「スクロール弾……」

以前、この艦が所属不明機からの攻撃を受けた際、アディンがスクロール弾を満載されたプレスライフルのマガジンを投げ捨て起爆させた時の爆発を思い出した。

さすがに単発ならあそこまでの爆発は起きないが、それでもすさまじい威力を発揮するのも、その時に見た。

「使用しますか?」

「……いえ、止めておきます。私達の向かう方には各国の施設もあります。流れ弾で施設を吹き飛ばしかねないので」

「了解です。ではそのように」

飛燕小隊が機体や武器の説明を受けている間に、アストライアやアルトエミスは準備を終え、今まさに飛び立とうとしていた。

作戦開始だ。理由はわからないが、魔女の反応をもつ二体を合流させないための戦いが。そして、この時点では誰も想像していなかった結末に向かう戦いが始まったのである。

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