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蒼天のヘクス・イェーガー  作者: 銀色オウムガイ
第四章 遺跡編
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異形、再来

 時間は少し遡り、シュデムがモフモフを用いてバトルコスモスへの連絡を取った直後まで戻る。

 シュデムはコンソールの記録を閲覧し続け、それを一言一句漏らさず持ってきた紙に書き写して行く。

 伝えた部分以外にも、興味深いことが記載されている。また過去の超技術のデータそのものである。

「あの、これ本当に壊しちゃうんですか?」

「何をいう。エクウス・セイラン。ここにあるのはロストテクノロジーであり、オーバーテクノロジーである。今は我々だけがこの存在を知っているが、もしこの情報が外部に漏れたらどうなると思う」

「それは……」

「オーバーテクノロジーだからといって、現代の技術で再現できないという事はないのである。例えば、火を(おこ)したいとする。火を熾すという結果だけなら、摩擦熱を使った原子的な着火法で十分である。それをより効率化させたものがライターでありマッチであり、そして魔法である」

「何か話がズレてるような」

「否。オーバーテクノロジーであっても、その理論さえ解っていれば代替手段などいくらでもあるという話である。人間、答えが出ているのならその答えにたどり着く方程式などいくらでも思いつく。事実、吾輩も先史時代に開発されたバッテリーの存在を知り、魔法を応用してバッテリーを作った訳であるからな」

「じゃあアンちゃんは、ここのデータを見た人間が、超技術の再現をする可能性がある、って言いたいのか?」

「ゼロではないであろうな。故に、破壊しておくのである」

 そう言うのならば、今シュデムがやっているアナログな方法でのコピーもすべき事ではない。

 形が残るような手段で記録を持ちだせば、それがどこかへ流出する可能性も高い。

 言っている事とやっている事が矛盾しているようにも見える。

「でも、それを持ちだしたら……」

「まあ。奪われればどえらい事になるであろうな。何せ、このコンソールから閲覧できるデータは今のエアリアの技術水準を十年単位で向上させるほどのものであるからな」

「だったら、紙になんて書き写さないほうが……」

「シオ・シラギク。それは違うのである」

「え?」

「少し考えれば解る事である。伝説上では四体存在する魔神。その四体が製造された場所が異なるとするならば、ここの他にあと三か所、魔神を建造した施設が存在するはずである。その施設に、ここと同じような記録が残されている可能性は十分にある。否。確実に残っているだろうな。そして吾輩達のようにこのデータを閲覧できた人間がいる可能性が高い。と、なると……」

「オーバーテクノロジーを再現した兵器を作っている勢力が出現する可能性がある、か」

 もしそうなった時、今この惑星エアリアに対抗できるほどの機体は存在しない。

 コスト度外視のワンオフ機や試験的に最新鋭の技術が投入されている試作機ですらない量産機ですら、魔女――先史時代の呼び名を使うのならばスタインを圧倒する事が出来るほどの技術力と戦闘力だ。

 それと対抗するには同じ技術を持つ以外にはない。

(とはいえ、だ)

 シュデムは魔女を圧倒するとまではいかないが、対等に戦える機体の存在を知っている。というか、自分達で造った。

 アルトエミス。および同様の内部フレームを持つアストライア――より正確に言うならばアストライア改というべきか。

 それを生み出せたのは、シュデムの才能があってこそである。それは自他共に認めるところであろう。

 だがそれ以上に。そこへ至る切っ掛けはたった一人の少年の一声である。

 そしてその少年のアイデアがなければ、シュデムもアルトエミスのプロトタイプとも言えるブラックボックスを生み出す事は出来なかったであろう。

 故に、シュデムはこう思うのだ。

 もしかしたら、アディン・アハットという少年がいれば自分が今持ちかえろうとしているデータなどなくとも、先史時代のオーバーテクノロジーで造られた機体に匹敵する戦闘力を持った機体を作れるのではないか、と。

 過大評価しすぎているかもしれない。それは尤もである。

 だがその過大評価すら、過少ではないかとすら思える。

(いや、あれだ。身内贔屓と過大評価であるな)

 そうしているうちに、シュデムはコンソールから閲覧できる情報全てを書き写し終え、コンソールを停止させる。

「エルア・イスナイン。頼むのである」

「……ん」

 カタナを抜き、それを一振り。否、一瞬にして幾度も斬り付けたのだろう。

 鞘にカタナを戻すとほぼ同時。先ほどまでシュデムが触れていたコンソールはこれ以上壊せないと言うほどに切り刻まれていた。

 とはいえ、これが情報を閲覧する為だけの装置ならば、どこかに情報の元となるデータを保存している場所があるはずだ。

 たとえこの端末を破壊したところでそれがある限り、再度閲覧されるという懸念は残るが、何もしないよりはマシだ。少なくとも、現状この遺跡――もとい施設において探索できる場所はこことその前の部屋であるアストライアもどき改めジャスティアが並べられた部屋くらいだ。

 ここの端末を破壊しておく事で、当面の間は第三者がここのデータを閲覧する事は不可能になった。

「一応この後も調査を続けますか?」

「あー、お嬢。そうしたいのは山々だがな。仮にここよりも先に行ける場所があったとして、今は無理だ。準備が足りねえ」

 レンナの問いにゴウトが答える。

 この再突入は先遣の調査隊に気付かれずに行う必要があり、それ故にかなりの軽装で行っている。

 長期の調査を行うのであれば、それこそキャンプを用意し、それ相応の物資も用意する必要があるのだが、それすら用意できていない。

 シュデムがいくらかの薬品と紙を持ってきた程度で、あとは個々人の武器くらいのものだ。

 一応はゴウトが着用している強化外骨格はあるが、これはバッテリー残量が心もとなく、充電用のスクロールの予備は無く、現在機体に装填されている分を使いきれば行動不能になる。

 そうなってしまうと強化外骨格はただの鉄くずと化す上に、自力では脱げずその構造を知る人間でなければ外す事もできない。

 現時点でレンナ達が取れる行動は撤退以外になかった。

「ああ。それとこの紙であるが。これはレンナ・ムラクモに渡しておくのである」

「えっ? でも……」

「あの内容なら全部覚えた(・・・)のである。故にこちら側になくとも問題はないのであるな」

「……そういう事なら」

「これは抑止力である。二つの国家のうち、どちらかがこれを悪用するような事になってもどちらかの国家がそれを制圧出来るようにするための、な」

「同時に、第三者が超技術を得ていた場合の保険でもある……ってことですか」

 レンナはシュデムから受け取った紙の束を斜め読みしながら、その内容にとりあえずで目を通す。

 まともに見たところで理解できるものではないので、しっかり読んだ訳ではないが見る人間が見れば喉から手が出るほどの宝の山そのものなのだろう。

「とりあえず今後、この情報についての扱いは慎重にしなければなりませんね」

「レンナさん。それ、ルー女王には見せるんですよね」

「当然です。他の人間はともかく、女王は信頼できる方ですから」

「おいエクウス。何当たり前の事を言ってンだ?」

「いや、その。女王の周りには結構胡散臭い人間が多いから、ちょっと気になって」

 そう言われると、とオウカ組が一斉に眉間にしわを寄せた。

 どうやら思い当たる節があるようだ。

「と、とりあえず私は女王と二人きりになった時にこれを渡すようにします。ルー女王なら、私との時間を作ってくれるでしょう!」

「ではこちらはバトルコスモスに持ちかえり、一端ガドル・ストール艦長に報告。その後国王陛下に、という流れでいくとするのである」

 とりあずは両国ともに方針が定まった。

 あとはここから引き上げ、それぞれの国に戻るだけ。

 各自がそのつもりで行動を開始しようとしたその時、エルアの表情が変わり、制止させた。

「……何か、嫌なモノが来る」

 エルアがしっかりとした言葉を発する時。それはその必要性があると言う事であり、それだけ危機的な状況であるという事に他ならない。

 短い付き合いであるが、そう言う事であると理解しているシュデムは一気に青ざめ、レンナ達はエルアの勘の良さを知っている為に周囲を警戒し始める。

「エルア・イスナイン。数や規模はわかるか?」

「……」

 エルアは静かに首を振る。

 だが続けて、口を開く。

「でも。この感じは前にどこかで……」

 直後、シュデム達の周囲を地面から染み出て来た蜥蜴人間(リザードマン)が取り囲む。

 一瞬レンナ達戦闘能力のある者たちは身構えた。

 だが明らかにシュデム達ではなく、別の何かに敵意を向けているように見える。

「……! 来る」

 エルアの言葉と共に、天井を突き破って何かが降ってきた。

 それめがけて、蜥蜴人間(リザードマン)達が一斉に飛びかかる。

 土煙の向こう側で、蜥蜴人間(リザードマン)達が叫びを上げながら何かと戦っている。

 だが、すぐにその勝敗は決する。

「! しゃがんで!!」

 エルアが叫んだ。

 その声に従い、レンナ達がしゃがむと、その頭の上を上半身だけになった蜥蜴人間(リザードマン)が通り過ぎ、壁に叩きつけられて砕け散った。

 やがて土煙が落ち着いてくると、蜥蜴人間(リザードマン)を蹴散らした存在が姿を現した。

 爬虫類のような頭に、別の生き物のように動く蛇のような尾。それに特徴的な円錐型の四肢。

 見た事のない異形の姿に、シュデムを始めレンナ達飛燕小隊の面々は身構える。

 パニック状態にあったとはいえ強化外骨格を纏った兵士が苦戦するような相手である蜥蜴人間(リザードマン)を一方的に蹂躙するほどの相手だ。当然の反応だろう。

 だが、一人だけ違う反応を見せた人物がいた。エルアである。

 こちらも当然の反応である。何せエルアはこの異形に見覚えがある(・・・・・・)からだ。

「……」

 シプレースで遭遇したものと同じ姿をしている。そしてその時はアディンとアルがいて、二人の協力を得られたからこそ倒す事が出来た。

 だが今。この異形の力を知っている人間は自分しかいない。故に、最初から本気を出す。

 カタナを鞘から抜くと共に一気に振り抜いた。

 それは紛れもなく、必殺の一撃であった。――普通ならば。

 刃は異形の身体に浅く傷を付ける程度。致命傷には至らない。しかも付けた傷がみるみる修復していく。

「あれは、強獣なのか……?」

「言ってる場合じゃないですって! エクウス。魔法で援護!」

「あ、ああ!」

 シオとエクウスが異形に向かい≪ファイヤボール≫を放ち、エルアの援護を試みる。

 だがしかし、その直撃を受けてもびくともせず、口を大きく開き吼える。

『――――――――!!』

 その叫び声で部屋全体が震えだす。

「ええい。まさかこんな所で持ってきた薬品が役に立つとは思わなかったのである! ゴウト・アキツ。吾輩が合図したら吾輩を抱えて全速力で撤退。当然、他の者も撤退である!」

「それがよさそうだ。お嬢もいいな!」

「勿論です。各自、撤退準備。最低限のもの以外は放棄で構いません」

 当然その最低限の物の中には、この施設で得られたロストテクノロジーについての記録を書き写したものが含まれている。

「よし。こいつとこいつを混ぜて……投げる!」

 白衣の内側からどうみても怪しい色の液体が入った試験管を二本取り出し、それらを混ぜ合わせると異形めがけて二つの液体が混ざり合った試験管を投げつけた。

 それは異形に直撃すると、大爆発を起こして異形を怯ませた。

「今である! 走れええええええ!!」

 シュデムの合図とともにゴウトが彼を抱え、レンナ達が一斉に走りだす。

 さらに部屋を出ると同時にシオがシステムを操作。部屋の扉を閉じる。

 これでしばらくは何とかなるだろう。

「……一端バトルコスモスへ戻ろう」

 そうエルアが提案する。当然、それに反対する人間はいなかった。

閉ざされた扉に何度も巨体がぶつかる音がする。

一瞬怯ませる事こそできたが所詮はそれまで。扉もそう長くは持ってくれないだろう。

一行はその後、一切振り返ることなく遺跡を駆け抜けた。

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