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蒼天のヘクス・イェーガー  作者: 銀色オウムガイ
第一章 学園編
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実機訓練4

 休憩を終えて、ガドルの試験に合格した生徒達の機体が一斉に空へと浮き上がる。

 合格できたのは第一班と第十二班が全員。ほかの班も最低一人は合格者を出し、第五班は三人もの合格者を出した。

 こうなってくると第五班の残りの一人がちょっとかわいそうな気もするが、当の本人はむしろ気合が入ったようで別段落ち込むといった様子はなかった。

「ああいうのって恥ずかしいやら、哀しいやらでぐちゃぐちゃになるのよね」

 と、アルが呟くがそれは班内のチャンネルで筒抜けである。本人は気付いていなかった。

「イスナイン嬢。班内チャンネルで筒抜けだぞ」

「ふえっ!? え、嘘でしょ!?」

「ヴィール。空気呼んで」

 トリアがつまらなそうにヴィールを責める。

「確かに。こういうのはもうすこし弄るのが定番だったか。すまんトリア嬢」

「ヴィールさん! トリアさんも!」

 真っ赤になって何か言い返そうとしているアルだが、言葉が出てこないのかうーうー唸っている。

 改めて、機体と繋がっている感覚を確かめつつアディンは周囲を見渡す。

 全二十機のヘスティオンとそれを先導するラキシス。まさに壮観とはこのことだ。

「というか、二十機もいるのか。ここに」

「そりゃ第一班と俺たちの班は全員。他の十班がほぼ一人ずつ。で、第五班は三人だったか」

 一人ずつの班が九。第五班が三。第一班と第十二班が全員参加で合計八。全部合わせれば二十機。何も間違っていない。

「でも、なんでそんな確認を今更したんだ」

「いやちょっとな」

 嫌な事を思い出した。

 二年前。初めて王都に来てアルと出会い、学園の門をくぐったあの日の事。

 格納庫へ降りて行くヘスティオンの編隊を見てアルが呟いた言葉。

「また、数が減ってる」

 その一言を今思い出してしまった。

 だが今は目の前の事に集中するしかない。

 そうでなければ、自分が真っ先に空から落ちる事になる。

「時に。アディン、アル、ヴィール」

「なんだトリア」

「ヘクスイェーガーの損失原因のトップ3。知ってる?」

「いまする話かそれ!?」

 流石にヴィールがツッコむ。

 間違いなく今する話ではないし、すべき話でもない。

 受験生に滑るだの落ちるだのという言葉を使うレベルにしてはいけない話だ。

「ちなみに下からマナの過剰供給による自爆、フレンドリーファイア、魔女との戦闘」

「教えなくていい。教えなくていいから!!」

「ていうか味方の攻撃で撃墜とか嫌すぎるんですけど!」

『なんだか愉快な話をしているようだが、私語は慎め』

 流石にガドルに注意される。

 当然だろう。オープンチャンネルでそんな会話をしていれば全体の士気が下がる。

 とはいえガドルとしては耳の痛い話である。

 魔女との戦闘で機体が失われるならともかく、友軍機からの攻撃を受けての撃墜とマナを過剰供給させての自爆特攻による機体損失が多いのも事実だ。頭数は増減することはあっても、割合は相変わらず多い。

 熟練騎士同士になるとフレンドリーファイアによる撃墜などという事故も減ってくるのだが、新人騎士がいるとそういった事故も起きやすくなる。

 それを防ぐためにも、少しでも学生のうちに練度を上げておく。そのためのクエルチア騎士学園だと言ってもいい。

『おい、アル・イスナイン! お前の班だろ。その毒舌電波女黙らせろよ!』

「無理です」

 他の機体から苦情がくるが、早々にアルは諦めた。

 お前がリーダーなんだからメンバーの手綱くらい握って見せろ、と周囲からのクレームが来るもそれを聞き流すと決めてアルは早々に受信するチャンネルを班内のみのチャンネルに切り替えた。

「トリア嬢。今のは流石にお前が悪いぞ」

「俺も同意する」

「そう? ちょっとしたジョークのつもりだったんだけど」

「「「どこがだ!!」」」

 全機一斉にツッコんだ。

『えー。あー。そうだな。うん。とりあえず武装の確認をしてくれ。各機、キャストブレードは装備しているな』

 キャストブレードとは、ヘクスイェーガーの基本装備である剣のことである。

 腰に携えるのが基本スタイルであり、近接戦での主力武器となる。それと同時にこの剣は操縦する騎士が魔法を使う為の補助を行う機能があり、所謂魔法使いの杖としての役割も果たす。

 これさえあれば剣術による近接格闘と魔法による中距離から遠距離での戦闘が可能という優れ物だ。

 現在この場にいる全てのヘスティオンに最低一振り腰に装備しており、差異といえば操縦する生徒の利き手によって右か左かという程度。

 ただ唯一、トリアの機体だけ別の者を持っていた。

 柱のような形状ではあるが、れっきとした武器だ。

 これこそがプレスガン。その試作型である。

 なぜこんな装備をトリア機が装備しているかと言うと、プレスガンの考案者が彼女であるからという理由が大きい。あとは少しでも扱いを心得た人間による運用データが欲しいという事情もある。

 何せ有用性こそあると国が判断した装備ではあるがキャストブレードのみでの戦闘に慣れた騎士たちはこの新装備を使う事を渋っている。

 判り易く言えば、急な仕様書を変更をされても困る、と言った感じか。

『トリア・サラーサ。君の装備は、解ってると思うが』

「コアブロックは壊さずに持ち帰る。理解している」

 トリア機がプレスガンを構える動作を見せる。

 間違っても発砲なんてことはないだろうが、その先に居たヘスティオンは慌てて横へ移動する。

 そりゃ武器を向けられたら気持ち悪いよな、とアディン達第十二班の面々は苦笑する。

『各機、何度も言っているが目的地であるビルケ島までは絶対に自分の機体を追いぬかないこと。もし万が一の場合、対処が遅れる原因になる。帰りは自由にすると言ったが、操縦が不安なら自分の機体の後を付いてこい』

「おっさんの一人称が自分だからかな。どういう意味の自分なのか判らない時あるよな」

「同意」

 言葉って難しい。

『それでは各機、速度を一定に保ちつつ進路を北西へ。これより飛行訓練を開始する』



 クエルチア騎士学園から騎士科中等部の生徒たちが飛び立ったのとほぼ同時刻。彼等の目的地であるビルケ島の周辺には先行して小隊規模の偵察隊が展開していた。

 正規の騎士が一人ついているとはいえ学生ばかりの編隊が魔女や使い魔と遭遇して戦闘にならないように飛行ルートをくまなく調査する為のものだ。

 クエルチア騎士学園にとっても王国騎士団にとっても毎年の恒例行事であり、飛行ルートはあらかじめ魔女や使い魔の目撃例が少ないまたはないルートを選択している為安全性も高い。

 そのため王国騎士団の新人はこの任務に駆り出される。

 彼等の機体は周囲数キロほどのエーテル濃度の変動を計測できる円形の大型エーテルセンサーを背中に背負った姿から『テントウムシ』などという呼び方もされる形態のヘスティオン。

 それぞれの索敵範囲が重複しないぎりぎりの距離を保ちながら島の周りを飛び回っている。

「こちらアルファ。エーテルセンサーに以上なし」

「デルタからアルファへ。こちらも異常はない」

「アルファ了解。チャーリー。そっちはどうだ」

「異常はな……いや、エーテル濃度に変動あり。大きさからして使い魔かと」

 エーテルの濃度は何もなければ大きく変動することはない。だが魔女や使い魔が存在するとその場所だけは大きくその濃度を増大させる。

 その特性を利用したものがエーテルセンサーである。これによって広範囲の索敵が出来、魔女や使い魔を早期発見できるというわけだ。

「使い魔か。数はわかるか」

「確認して見ます。≪ホークアイ≫」

 視力を強化する魔法≪ホークアイ≫を使用し、チャーリーはエーテル濃度の濃い方向を睨む。

 そして、見た事を後悔する。

「っ……」

 目が痛む。そしてこみあげてくる強烈な吐き気。

「どうしたチャーリー! 動きが乱れてるぞ」

「使い魔がうご――――」

 そこでチャーリーからの通信が切れた。

 通信が切れる直前に聞こえたのは何か金属同士がぶつかるような音。それが意味することは一つ。

 撃墜されたのだ。

「ブラボー、チャーリーの様子は見えたか!?」

「攻撃を受けたのは間違いない。胸を一撃で抉られて……くそっ」

「……ブラボー、デルタは撤退しろ。デルタは飛行訓練のルートに合流し担当騎士に報告。ブラボーは学園へ向かい事態の報告を! 私はここでチャーリーを撃墜した奴を叩く。野放しにはできない」

 アルファ機がチャーリーが撃墜された方向へ向かい、エーテルセンサーの索敵範囲を最大にする。

 即座にエーテル濃度が高い場所を感知。それがチャーリーの報告した使い魔であると判断したアルファは、即座に高威力の魔法を準備する。

 一方でブラボーとデルタはアルファに背を向けてその空域から離れて行く。

 アルファの指示を受け入れ、それに従った。それだけのことだが、これによってアルファの状況は非常に悪くなった。

 まず相手の規模が判らない。

 実際に相手を見たチャーリーが正確な情報を伝える前に撃墜されてしまったからだ。だがこれは空で戦っているならば良くある話である。

 だが別の問題がある。それこそが重要。

 相手の射程が判らないのだ。

 今判っているのは、少なくともこちらが≪ホークアイ≫を使用しなければ見る事ができないほどの距離にいると言う事。そしてその距離からでもこちらを攻撃することができるということだけ。

「≪ホークアイ≫よりも長距離の射程となると……≪スコープレンズ≫!」

 ≪ホークアイ≫よりもより遠くを見る事ができる補助系魔法≪スコープレンズ≫を使用し、チャーリーが最期の瞬間見たものを確かめようとする。

 ただこの≪スコープレンズ≫には欠点があり、≪ホークアイ≫と違い見える範囲が限られる。それこそスコープを覗き込んだくらいの範囲しか見ることができない。

 それでもこの状況ならば問題ない。相手のいる方向は把握している。ならば視界が狭くても、その方向を向けばいいだけの話だ。

「……これは」

 アルファはなぜチャーリーがあの時狼狽していたのかを理解した。

 そして、彼が最後まで言い切る事が出来なかったあの言葉の意味も理解した。

 彼はこう言いたかったのだ。

 ――使い魔が蠢いている。

 無数の使い魔が身体をくねらせ絡ませあうその様に抱くのは不気味さ。あるいは醜悪という感想。生理的嫌悪とも言える。

 まるで両生類の卵のような塊になって小島の底面にこべり付いている。

 半透明な膜の中を蠢く異形。それらが一斉にアルファの方を向いた。

「っ!?」

 あり得ない。こちらは≪スコープレンズ≫を使い通常では察知不能な遠方から観察していた。それを相手は察知したとでもいうのか。

 その原因を考察するよりも先に、機体を動かす。

 騎士としての直感がそうさせたのだろうか。だが結果的にそれは正しかった。

 先ほどまでアルファの機体がいた場所を何かが通り過ぎた。

「なん……」

 振り向くとそこには異形の存在がにたりと笑っていた。

 使い魔だ。そして、それはアルファの方を向いたまま膨張し、破裂した。

 まるで風船でも割れるかのような。しかしその勢いと音は爆発といったほう近い。

「なるほど、これがチャーリーを撃墜した攻撃の正体か」

 続けてまた使い魔がアルファ機めがけて飛んでくる。方角からして、あの小島に張り付いた使い魔の群れからであると見て間違いない。

 飛んでくる方向が判れば迎え撃つのは容易い。だが先ほどと同種の使い魔ならば、恐らく攻撃した所で破裂しダメージを与えてくる。

 防御も駄目だ。防いだところで至近距離で自爆されては耐えきれない。よって選択できるのは回避以外ない。

 突っ込んできた使い魔を回避しつつエーテルセンサーの感度を最大にしつつ接近を試みる。

 これによって使い魔が動きだした時エーテル濃度の変化を察知する事が出来、より確実に回避運動を取ることができるようになる。

「ぐっ……」

 避けたところで後方で使い魔が爆発する。そのあおりを受けて機体のバランスが大きく崩れる。

 そのタイミングでも爆発する使い魔は襲いかかってくる。更に、距離が縮まるにつれ必然的に使い魔の特攻の間隔が短くなりより回避が困難になる。

 それでもなお接近を試み、腰に携えたキャストブレードを抜く。より確実に相手を仕留める為に。

「≪エアシールド≫!」

 補助系上級魔法≪エアシールド≫を使用し、自身の前方に空気の層を何重にも展開する。

 この魔法は物理的な攻撃に対しては圧倒的な防御力を誇る魔法であり、その出力次第では自身よりも巨大な物体ですら押しのける事が出来る。

 被弾すれば致命傷になりかねない。実際、ヘスティオンの装甲を簡単に貫き撃墜できるだけの威力を持っている以上防御手段はいくらあっても足りない。

 アルファはさらに防御能力を強化する魔法を付与しようとしたが、止めた。

 防御にリソースを割き過ぎては攻撃に回せるマナがなくなる。

 何度目かの特攻を回避し、使い魔の群れにキャストブレードの切っ先を向ける。

 直後、無数の使い魔が同時に飛び出し、アルファ機めがけて殺到する。

 避けきれない。だが、≪エアシールド≫による防御がある。それを信用して速度を緩めずになおも接近する。

 幾度となく空気の層に弾かれる使い魔と、弾かれた使い魔が爆ぜる音を聞きながらキャストブレードを使い魔の群れへと突き立てる。

「≪フレアジャベリン≫!!」

 炎の魔槍を放つと同時にキャストブレードを引き抜き、エーテルリバウンダーの出力を最大にして一気に後退。

 アルファ機が離れ始めた直後に≪フレアジャベリン≫の爆発が起き、それに連鎖するように使い魔が次々と炎の中に消えて行く。

 爆発に巻き込まれる前に離脱には成功したアルファであったが、最大稼動を想定していない機体が軋み、アルファ本人の身体に激しい痛みを与える。

 ともあれ、これでこの使い魔の群れは殲滅できたはずだ。

「しかし、どうしてこんなところに」

 今までこの周辺は魔女の出現報告どころか使い魔の発見報告すらなかった。

 それなのに何故、蠢くほどの使い魔がいたのだろう。

「たい、ちょ……」

 アルファが考え事をしていた時、ブラボーからの通信が入る。

「どうしたブラボー。お前には飛行訓練中の騎士科生徒達と合流し、その教官役の騎士に連絡をと言ったはずだが」

「にげ――――」

 直後、通信機から聞こえてくる爆発音。あとはノイズだけがブラボーとその乗機に起きた惨劇を伝えてきた。

 まだどこかに敵がいる。

 それもブラボーの向かった方角、つまり自分の後方に。

「デルタ! まだ通信圏内にいるか!?」

「こちらデルタ。どうした」

「ブラボーがやられた。そちらも気をつけろ」

「りょうか――っ!?」

 突如通信が途切れ、静寂が流れる。

 ついさっき、ブラボーが撃墜されたばかり。嫌な予感が頭をよぎる。

「応答しろデルタ。デルタ!!」

 呼びかけには答えない。

 これはもう、駄目なのかもしれない。

「畜生ッ」

 アルファが諦めかけた時、エーテルセンサーに反応があった。

 方角を確認し、そちらのほうに頭を向けて≪ホークアイ≫を使用する。

 視界に映ったのデルタの機体。左肩に書かれた機体ナンバーがそれを証明していた。

「デルタ! 無事だったのならば応答しろ」

 呼びかけてみるが、デルタからの応答はない。

 変だ。そう思った直後、異変に気付いた。

 デルタ機の下半身がおかしい。

 まるで別物だ。人為的に作られたヘクスイェーガーのものではなく、有機的で、女性的だ。

 怖気が走る。

 その直後デルタ機の上半身がずれおち、そのまま落ちて行く。

 残されたシルエットは、有機的で女性のような姿をしたもの。

 ――魔女だ。

 アルファがそれを魔女であると認識した瞬間、エーテルセンサーが警報音を鳴らす。

 拙いと思った時にはすでに遅い。センサーが反応する距離ということは、既に逃げられない距離にいるということだ。

「せめて相手の情報だけでも掴まないと」

 しかしセンサーは途轍もないエーテル濃度を観測している。それ即ち、それだけ強力な魔女であると言う事。

 拙い。そう思ったがここで引くわけにもいかない。何としても生き延び、この場に魔女がいると言うことはなんとしてでも伝えなくてはならない。

 最悪機体を捨てる事になったとしても。

「このおぉぉぉぉぉぉ!!」

 自分を振い建てるように叫びながら、キャストブレードの切っ先を現れた魔女に向けて突撃する。

『――――――!!』

 アルファが敵対行動をとったからなのか、魔女は口元を釣り上げて笑う。そして金切り声をあげた。

 魔女は両腕を大きく開き、息を吸い込むような動作を見せた。

 何かが来る。明らかにそう思える動作だ。

「≪エアシールド≫!」

 どんな攻撃が来るか判らない。だが≪エアシールド≫を展開し攻撃に備えつつ、なお距離を詰める。

 より攻撃の命中精度を上げる為に。必殺の一撃で、

 だがそれを見た魔女は、口を開いて笑った。

『――――――!』

 笑い声が空に響く。そして、魔女は自らの腹に両手の指を突っ込み一気に引き裂く。

 突然の行動に一瞬面食らったアルファであるが、こちらも迎撃のために魔法の用意をする。

「≪フレアジャベ――――」

 魔法を発動させるよりも速く、魔女の腹部から無数の使い魔が放たれた。

 それは蛇のように長く、うねりながらアルファへと殺到する。

 先ほどのような使い魔ならば問題ない。そのはずだった。

 使い魔の群れは≪エアシールド≫にぶつかった瞬間、弾けて液体になった。

(さっきの使い魔と違う!?)

 突撃したせいでもあるが、破裂した使い魔の液体が≪エアシールド≫をすり抜けてヘスティオンの全身に付着する。

 その感触がマナを通してアルファに不快感を与える。

 粘度が高くべったりと纏わりつくような感覚。ただの液体ではないと言うのはわかる。そしてそれが何であるかを知っている気もする。

 だがこの時、戦闘の高揚と魔女への恐怖で興奮状態になっているアルファは自身にまとわりついた液体について考察する余裕などなかった。

『――――――!!』

 魔女が笑った。決定的だと言わんばかりに。

 両腕を大きく広げ、それを勢いよく閉じて開手を打つ。

 乾いた音が空に響く。それと共に青い炎が魔女の手から放たれ、アルファ機へと襲いかかった。

 まるで生きているかのような動きを見せる炎。

 それを見た瞬間、アルファは自分の浅慮さに気付いた。

 ≪エアシールド≫の特性として、物理的な衝撃は緩和できても、魔法や魔女術による攻撃は一切防げない。

 それどころか火属性の攻撃を受けると展開した空気の層がすべて燃え上がる為、むしろダメージに繋がる。

 なおかつ、先ほど使い魔が爆ぜた際に浴びた液体。それが魔女の仕掛けた攻撃の一環であるならばただの液体であるはずがない。

 かつその液体を浴びた感触。思い当たるものが一つある。それは日常的によく使うもの――油だ。

「あっ……」

 アルファが最後に見た光景は、視界一杯を埋め尽くす青い炎。

 全身を焼かれ皮膚どころか骨すらも熔かされる激痛の中、叫ぶ事すら出来ず苦しみもがきながら手を伸ばす。

 だがその伸ばした手すらも、灰さえ残さず青き炎に消え去った。

『――――』

 魔女は何もなくなった空間を見つめ、にやにやと笑う。

 邪魔ものを排除した後、魔女は自らの使い魔を繁殖させるため小島に使い魔の卵を張り付かせ、自身は静かに雲の中に消えて行った。

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