表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
蒼天のヘクス・イェーガー  作者: 銀色オウムガイ
第四章 遺跡編
77/315

考察・黒い魔女

 ヴィールの持ちかえった情報は、正体不明の魔女に迫る事のできる貴重な情報であった。

 撮影された写真は現像にかけられ、ヴィールは確認できた特徴――特に実際に攻撃された際にどのような攻撃を使ったのかなどを出来るだけ思い出しながら、それを箇条書きで纏めていた。

 エーテルセンサーに反応しない遠距離攻撃。恐らくはサピュルス同様、荷電粒子砲だ。

 荷電粒子砲を使う魔女がまた現れた、というのは警戒すべき事態であるが、それよりも気になったのはその魔女が脱力して落ちて行った事だ。

 連射までの間隔が短くなっていたにも関わらず、十分射程内であったはずなのに、ヴィールを攻撃せず雲の下へと消えて行った。

 人間に対して異様な執着と攻撃性を見せる魔女らしくない行動である。

 つまり、その魔女の行動にはなんらかの理由がある。

 こう言う考察はいつもシュデムがやってくれていた。

 だがそのシュデムは今バトルコスモスを離れ、先日調査に入った遺跡の再調査を行っている。

 通信用のモフモフは持っているはずだが、変なタイミングでの通信は作業の邪魔になる可能性があるので、シュデムが出発前に連絡しないようにと釘を刺して回っていた。

 まあ、何かあればあちらから連絡してくるだろう。

「どうだ、ヴィール」

「ん? ああ。駄目だ。短い間の接触だったから情報が足りな過ぎる。行動の理由揉みえない」

 そう言いながらヴィールはアディンに自分が想い出せる限りの事を書き記した報告書――予定のものを見せる。

「魔女が人間を見逃した? 確かに妙な感じだな。どんな見た目だった?」

「それは今機体から抜き出して現像中。もう少しでできると思うぞ。あ、でも……」

 落ち着いた今。ヴィールはある事に気付いた。

 むしろ極限状態においては邪魔になったがために思考の片隅に追いやられていたものが、湧きあがってきたと言うべきだ。

 それは違和感ではある。妙な行動をする魔女であった事がその原因であると、勘違いしていた。

 ヴィールの感じた違和感は、その魔女が見たことがある(・・・・・・)姿をしていたからだ。

 そう。既視感である。その既視感こそが、ヴィールの感じた違和感の正体である。

「そうだ。あいつ等に似てたんだ」

「あいつ()?」

 その言葉に引っ掛かったアディンは、すぐに察した。

「まさか、この前のあの二体の魔女か?」

「ああ。だけど色が黒くて……」

「サピュルスやカルブンクスルと似ている黒い魔女、か。なんかそれどっかで聞いたような」

 いざ思い出そうとしても、出てこないものである。

 こう言う時は焦らず、頭よりも身体を動かして思考を切り替えるのも一つの手である。

「とりあえず報告に行くか」

「えっ、この報告書出すの?」

「駄目か?」

「駄目だろ」

 流石に箇条書きのメモ同然のものを報告書として出すのは問題がある。

 一応はもう学生ではないのだから、そのあたりはしっかりしておかなければならないだろう。

 けじめはしっかりと、だ。

「俺苦手なんだよなあ、こういうの」

「そういやお前、いつも俺にレポート代筆させようとしてたな」

「それに相手はガドルのおっさんだぜ? そこまでかしこまる必要性はないだろ」

「……それ、陛下も見る可能性あるんだぞ」

「……マジで?」

「仮にお前の見つけた魔女が新種だったら確実にそこまで報告書が回るぞ」

 半分はでたらめだ。

 流石に箇条書きを報告書です、と提出するわけがない。

 最低でも報告書らしく纏まった書類として編集して提出する事になる。

 が、編集するもなにも得られた情報が少なすぎる上に報告が雑では、その編集も不可能だ。

「せめてもう少し情報を多く書いておいたほうがいいぞ。あと遭遇した際の違和感や、攻撃に関する情報とかをだな」

「そんなの覚えてる余裕ある訳ないだろぉ……」

 今にも泣きそうな情けない声を出すヴィールをなだめ、アディンは自分の仕事を始めた。

 機械工学の専門知識はないが、ずぶの素人というわけでもない。

 故に。シュデムを欠いて、結果的に作業量の増えた機械工学科の代りに設計までやらされる事になった。

 元々はエリマの手伝いだけのはずだったが、それがシュデムが進めていたプロジェクトと合流したが故にこうなった。

 頼まれたのは、アルブスを運用する為の四肢。

 何せ当初の予定より大型化したアルブスは複数個同時に背負う事ができなくなってしまっており、四肢に一基ずつ装備させるという方法でとりあえず運用できるようにする、という方針が打ち出された。ガドル

 が、そうなると当然現在使用している四肢は使えない。

 ヘスティオンだろうとアルトエミスだろうと、アルブスを運用する為には換装する必要がある。が、それ用の四肢がないのだ。

「なあ、アディン」

「なんだ」

「代ってくれないか?」

「お前に図面が描けるのか」

「……」

 ヴィールは黙って報告書作成作業に戻って行った。

 アディンも作業に集中する。

 何せ作業量が尋常じゃない。

 頼まれたのはアルブス運用のための四肢の設計だけでなく、アルブスそのものの設計まで頼まれている。

 現在進んでいるプロジェクトに専門知識を持った人間が出払ったが故に、ここまでする必要性が出てきてしまったのだが、ヘクスイェーガーの操縦者がやる事ではない。

 間違いなく、普通の騎士ならこんなことはしない。

 それだけこの艦の人手が不足しているという事でもあるのだが、現状では人員の補充が望めない。

「はぁ」

 ペンを進めながらため息をつく。

 そりゃあそうだろう。一つ図面を描くだけでは駄目だ。

 この図面はあくまでも机上の空論。魔法的な要素を一切度外視した設計である。実際に術式を組み込むとなると設計の変更をするしかなくなる事だってある。

 それに実際に稼動したら邪魔になって没、なんて事がないとも限らない。

 複数の図面を描き、予備案も作成しておく。人によっては無駄な作業が多い、と言うだろう。

 だがずぶの素人ではないと言っても、専門職には知識も技術も及ばない。

 だから数撃ちゃ当たるでひたすらに図面を描くしかない。いくつもある中の一つでも実現すれば、門外漢としては上出来なのだから。

 前にも同じような事が合ったな、と思い出したりもするがあの時は自分からの持ち込みだった。

 そしてその持ちこんだものがエリマ達技術班の手によって一つ。また一つと実現していったのは、感慨深いものがある。

 だから、ちょっとだけ恩返し、という訳ではないがこういう手伝い方があってもいいだろう。

 気持ちを切り替え、ペンを走らせる。

 心なしか、少し前よりは軽やかに手が動いていた。




 ヴィールが撮影した写真の現像が終わると、即座にそれは艦長であるガドルの許へと直接届けられた。

 現像を担当したクルーは息を切らし、顔が青くなるほど慌てていたが、無理もない。

 写真に映っていた魔女の正体を、そのクルーは知っていたのだ。

「アゲート、か」

「なんなのニャ、そのアゲートって魔女は」

 サロンスペースで写真を受け取ったガドルは、その写真をその場にいたムビリにも見せた。

「そこに写っている黒い魔女の名前だ。カルブンクスルとサピュルスと酷似した黒い魔女でな。同類か派生種かは不明だが、酷似した姿をしている」

「で、そのアゲートがこの近くにいるということニャ?」

「ああ。残念ながらな」

 近く、といっても200キロ先。人間の感覚では遠く思えるが、魔女の移動速度を考えれば数時間もあればパステークに到着し蹂躙し尽くしてもあまりあるだろう。

「深刻そうな顔をしてるニャけど、アゲートって魔女はそんなにヤバい魔女なのかニャ?」

「どの魔女も一体現れたら甚大な被害をもたらすという点で差はないが、その戦闘力はこれまで確認された魔女の中でも最強クラスだ。それにな。こいつは分裂する」

「分裂?」

「毎度のことながらアテにならん目撃証言だがな。暴れに暴れたアゲートが裂けて、二体の魔女と強獣に分裂したとな」

「二体の魔女? まさかそれって……」

「ああ。カルブンクスルとサピュルスだ。アゲートの戦闘能力はその二体が一つになったものよりもはるかに上だと考えておいた方がいい」

「……警戒するように言っておくニャ」

「頼む」

 危険な魔女が現れた。ただその行動には謎があり、断定するには早急だろう。

 魔女についての研究は全く進んでいない。アゲートが分裂し二体の魔女になるという事も最近になってやっと上がってきた情報である。

 故に、自分より強い戦闘力を持つ魔女に擬態する魔女が存在していても不思議ではない。

 あるいは生物の収斂進化のように、全く異なる魔女が偶然似たような姿になると言う事もあり得る。

 考えたくはないが、アゲートよりも上位の魔女が自身よりも弱い存在に擬態している、などというケースもあるかもしれない。

 この場でいくら考察を続けても仕方がないのだが、目と鼻の先にいると思うとどうしてもいろいろと考えてしまう。

 心配性、と言われてしまえばその通りだ。

 だが。命に関わる事なのだから、いくら考えても損にはならない。少なくともそうガドルは考えていた。

「それよりも、ヴィールが言っていた行動が気になるな」

 情報にあるアゲートの特徴とは異なる。魔女の攻撃があったという状況証拠も、アゲートの存在を肯定してはいない。

 なぜならば。アゲートの放つ光線は文字通りのレーザーである。これはアゲートに攻撃された艦艇やヘクスイェーガーの損傷と、当事者達の証言によって断定されている。

 だが、今回の場合は違う。

 残された痕跡は荷電粒子砲によるものの可能性が高い。それがエリマの見解である。

 ガドルは荷電粒子砲がどういうものであるか、というのを理解している訳ではないが、それがサピュルスの攻撃手段であったと言う事はあの戦闘の後シュデム達から説明された。

 説明を聞いてもよく理解できなかったが、とりあえずは物理的な防御ができない上にマナの反応がなく事前に察知する事ができない超長距離攻撃である、程度の認識だ。

 いや、その程度ではないが。その情報だけも十分驚異的な存在だ。

 その荷電粒子砲を使うというのは、現在確認されているのはサピュルスのみ。

 だとすると、今回確認された魔女はアゲートに酷似した新種、あるいはアゲートの変異種ではないか。

「駄目だな。考え過ぎだ。それよりも……」

 魔女についてはバトルコスモスのセンサーを最大にして監視し続ける以外、現状とれる手がない。

 故にこれについての考察は今は必要ない。

 問題とすべきなのは、その空域に出現したアターカである。

 あれには間違いなく人間が乗っている。

 今の世界地図には存在しない島、アドルミデラで造られたと思われる謎の機体。それがなぜそんな場所にいたのか。

 そもそもどのような目的を以って活動しているのか。

 魔女の動向よりも、そちらのほうが気掛かりである。

「全く。艦長になんてなってから胃が痛い日が続く」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ