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蒼天のヘクス・イェーガー  作者: 銀色オウムガイ
第四章 遺跡編
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偵察

 高機動エーテルブースターユニット――通称トンボ。

 実際に使用したヴィールの感想は、優秀、の一言に尽きる。

 装備しているのがヘスティオンであるのに、その速度はアルトエミスに匹敵する速度を出せる。

 かつそんな速度が出ているのに、あの身体を押し潰されるような不快感がほとんどない。

 操縦席の開閉ハッチを避けて配置された防御術式展開装置が優秀だということなのだろう。

 さらに、この防御術式展開装置は追加装甲を兼ねるのだが、形状が風の抵抗を受けにくい流線形の形状になり、その分推進に必要な力が減少。結果としてマナの供給効率も若干ではあるが向上している。

「あー。思いついたから呟いておく。最初からトンボの頭みたいな形状にすれば飛行時のマナ効率あがるんじゃないかな」

 と、モフモフに向かって喋りかけると、ざわついた複数人の声が返ってきた。

 このモフモフ。技術部の人間が勝手に押しつけて来たもので、思った事を呟くだけでいいと言われたので、ヴィールは言われた通り思いついた事をモフモフに向かって口にしている。

 正直。これを繰り返しているとむなしい気持ちにもなる。

 何せこっちが勝手に思って呟いた言葉で、勝手に盛り上がられるのだ。

 モフモフ越しでは声こそ聞こえても相手の顔までは見えない。これでは完全に独り言である。しかもそれに勝手に周囲が反応してざわつくのだから、結構恥ずかしい。

「……はあ。あと術式は正常に展開。アルトエミスより快適だ。負荷レベルも問題ない。結構な速度出てるはずなんだけどな」

 バトルコスモスのエーテルセンサーが反応した地点まではまだ距離がある。

 その間に出来る限りのマニューバはやっておきたい。

 何せ万が一(・・・)になった時に不具合が発生して動きません、では話にならない。

「ウイングの稼動をチェックする。一応は展開できてたけど、これ本当に戦闘になったらついてくるんだろうな?」

『ああ。うん。そのはず。ちなみに最初に羽根が動いたのは電気信号による稼動だから、実際にヘクスイェーガーから操作できるかどうかはわからん』

 などとアルツが言ってくる。わりと冗談抜きで殴りたくなった。

 とはいえ本当に動くならば、ヘカティアの肩シールドやスカートアーマーも完成に近づくというものだ。

「はぁ。んじゃあ。やるか!」

 急制動をかける。瞬間、身体が一瞬だけ後に引っ張られる。が、その衝撃を術式が軽減する。

 頭部を回し、背後のウイングの稼動を確認する。確かに、角度が変わっている。

 どんな術式を組んだのか、どんな技術をつかったのかはわからないが、これで人体にない部位の稼動も可能である、ということが証明された。

 続いて急旋回。急降下。急上昇など翼に負荷のかかる動きをしてみるが、もげる事もなく基部にしっかりとくっついたまま角度を変えている。

 結果は上々というやつではないだろうか。

 即座に技術部がトンボに使われた技術をフィードバックし、ヘカティアに増設された稼動部の制御技術は完成に近づくことだろう。

 それにこのトンボも実用に耐えうる完成度であると言え、この少しの間で得られた結果はまさに上々。

 しばらくして元の高度へと機体を戻し、姿勢制御ウイングの角度を調整して姿勢を戻す。

 機体の揺れが気になったが、許容範囲だろう。

「えっと。まだエーテルセンサーでこっち捉えられているか」

『勿論。現在の速度を維持するとあと二分で問題の地点に到着します』

「速いな……」

 オペレーターの言葉を信じるのならば、この機体の飛行速度は正式な記録があるものでは最速と言う事になる。

 アルトエミスでも直線移動し続けるとこれほどの速度が出るということなのだろうか。

 実際の戦闘では振り回され過ぎて回避行動以外では高速モードを使った事はないが、きっとそうなのだろう。

 同時に、その速度に対応してくる魔女の恐ろしさも再認識させられた。

 特にアマティスタ。直接戦った訳ではないが、アルトエミスが自壊する限界の速度を出していた、とログにはあったらしい。

 勿論アルトエミス単体ではそんなことにはならない。だがそれでは――アルトエミス単体で出せる推力だけでは速度が足りず、≪エアロスラスター≫による加速まで行っていた。

 それゆえの自壊寸前。そこまでしなければ、魔女と単体でやり合うなどまず不可能だ。

 だがしかし。今後、そんな相手がまた出てこないとも限らない。

 幸いアマティスタはあれ以後確認されていないらしいが、もし今後あのような特化した能力を持った魔女が出現すると対処しきれるのだろうか。

 今までヴィール達が覚えている限り、三度の遭遇。計四体の魔女と交戦している。

 マルジャーンとも一応は交戦したと言えるのだろうが、魔導砲による一撃で消滅してしまったためにノーカウントとする。

 その四体はどれも強力だった。

 人間の常識など通用しないのだ、と交戦する度に思い知らされる。

 それ以上に強力な魔女が、また出現するのではないだろうか。あまり考えたくはないが、可能性が無いわけではない。

 が、それ以上考えるのは無駄だ。ヴィールはヴィールのやる事をやるだけであり、そういう事を考えるのは自分のやる事ではない。

 今は、与えられた仕事をこなすだけだ。

「目的地に到着、でいいのか」

『周囲の状況報告を』

「つってもなあ」

 機体を制止させ、その場で旋回する。

 周囲には特に変わった物はない。

 救難信号を出していた、とされる何者かの姿もないが、これは撃墜されて落ちて行ったと考えれば不思議ではない。

「センサー感度最大、っと。これで拾えれば御の字だが」

 全く反応しない。

 不自然なほど、全くだ。

「……少し周囲を見て回る」

 静かすぎる。それが強烈な違和感となってヴィールの鼓動を逸らせる。

 異様なほどの静けさが不気味さとなり、言い知れぬ恐怖がふつふつと湧きあがってくるようだ。

 近くに島はある。が、魔女が隠れていられるほどの大きさはない。島影にも隠れるのは不可能だろう。

 よくよく見渡すと、小島の一つに明らかに人為的に作られたと見えるくぼみがあるのに気付きそれに近づいてみる。

「なんだ、これ……」

 あまりにも綺麗に抉れている。

 人間が機械を使って削った、というよりも丸ごとその周囲が消失したという風に見える。

 小島に近づき、そっと手で触れてみる。

 マナによる疑似神経接続によって触感が伝わる。ヘクスイェーガーだからこそできる事である。

 肝心の触感は、というと気持ちが悪い、としか言いようのない奇妙な物である。

 少なくとも岸壁を触っている感触とは違う。

 近いのはガラスに触れたような感触か。よくよくみると抉られた岸壁の周辺にガラスのようなものが見られる。

「こちらヴィール。不審なくぼみを発見。周囲にガラスのようなものも見える」

『ガラス? 少々お待ちください』

『待たなくていいぞ。こっちでも聞いてた。恐らくその周囲に高熱の何かがぶつかって、岩石中のケイ素が変化したものだ。そして抉られている場所ってのが直撃した場所だろう』

 アルツの言葉を聞いて納得した。

 確かに、彼の言う通り高熱で抉り取られたとするならば、納得できる。

 が、この感触はなんだ。

 高熱が直撃して抉られた場所。触った感触が悪い。

 触っていて気持ちが悪い。

「――違う」

 気付いてしまった。

 これが単なる破壊の痕跡ではないと言う事に。

 ただ抉り取られただけはこんな風にはならない。

 ただの高熱で焼かれた訳でもない。

 当たった場所が消失した(・・・・)としか思えない。

 空間が抉られた訳ではない。そこにあった物質が跡形もなく消失した、というだけだ。

 そんな事が出来るのか。少なくとも現代における人類はそのような技術を持ち合わせていない。例えそれが魔法であったとしても。

「アルツ先輩。ちょっといいですか」

『なんだ』

「高熱を発し、かつ命中した場所を完全に消失させることのできるものって、ありますか」

『は? そんなもの……』

『今、なんて言った!?』

『うおっ、エリマ!?』

 突然会話にエリマが割り込んできた。

「エリマ先輩?」

『完全に消失させる? しかも高熱? あるぞ、一つだけ』

「本当ですか?」

『ああ。だが、だとしたら最悪だ』

「……一応聞きます。なんですか、それは」

『荷電粒子砲。お前が戦ったあの青い魔女、サピュルスが使っていた遠距離攻撃だ』

 最悪だ、と言われた時点で覚悟していたが、思った通りの最悪だった。

 救難信号を出した何者かは、魔女に攻撃された。それが確定した瞬間である。

「だとすると……!」

 その場から急加速して下がる。

 嫌な予感というのは当たる。嫌な()がする。

 空気を振わせる音。風が乱され、空気が割かれる音だ。

『センサーに反応! 識別は……不明です! ですが、この大きさは』

「わかってる、魔女だ! 攻撃を受ける前に撤退する」

 バトルコスモス側のエーテルセンサーが感知する少し前に機体のセンサーも反応していたが、感知したのはほぼ同時。

 つまり魔女は上か下のどちらかに隠れていた、という事になる。

 それが接近してきた、ということはヴィールは完全に目を付けられたと言うことだ。

 撤退を始めなければまずい。

 逃げなければまずい。

 機体を反転させ、最大加速で撤退を開始する。

 だが、センサーが新たに接近する存在を感知した。

 数は四。大きさからして輸送機や艦艇ではない。ヘクスイェーガーだ。

 なぜ単独でヘクスイェーガーが、という疑問はすぐに晴れた。

「こいつら! こちらヴィール! この前やり合った連中まで隠れてやがった! ベイルを背負ったアターカが四機だ!」

 ようするに、八機のヘクスイェーガーがヴィールに向かって近づいてきているということだ。

 だが、今のヴィールならそれらを振り切る事など容易い。スピードでは間違いなくトンボを装備したヘスティオンのほうがベイルを背負ったアターカよりも上だ。

 問題は、相手の出現位置がこちらの前を塞ぐような位置になっているということだ。

 そのまま突っ込めば、文字通りの正面衝突。アルトエミスならともかくヘスティオンだと機体が持たない可能性がある。

 何よりトンボを破損する危険性が高い。今トンボを失い、速力が落ちると逃げ切れなくなる。

 では避けるか。それも拙い。

 回避運動は一時的に速度が低下する。それに回避運動は遠くから見れば案外と読みやすく、偏差射撃される可能性が高い。

「考えてるだけ無駄か!」

 最低限の装備はしている。

 それを使って正面突破を仕掛ける。

 腰に携えたキャストブレードを抜いてその切っ先を正面にいるアターカへと向ける。

「死にたくなけりゃ、避けろよ!!」

 切っ先から≪フォトンスピアー≫が放たれる。

 目視してから回避は不可能であるそれを、避けろというほうが無理な話である。

 放たれた超高速の一撃は、容赦なくアターカを貫く。

 それに動揺する事なく、三機のアターカはヴィールへと突っ込んでくる。

 が、既にトップスピードに達していたヘスティオンと接触することはできず、ヴィール機は三機のアターカを置き去りにする。

 これで逃げ切れる。そう思った直後、背後で光が瞬いた。直後に聞こえる二つの爆発音。

「エーテルの乱れは!?」

『魔女の周囲以外には観測できません!』

「ってことはあの時と同じか!」

 最後の一機も、閃光と共に消える。

 短時間で三機――正確には六機が消失した。

 以前戦ったサピュルスよりも連射速度が上がっているような気がした。

「……危険だけど、情報は持ちかえらないとな」

 反転。

 機体の正面を逃げて来た方角へ向ける。

 だが進行方向そのままで、推力もその方向へと進むよう向きを調整する。

 あっという間にアターカを撃破した魔女の姿が、ぼんやりと浮かび上がる。

 それを、ヘスティオンのカメラで捉えて画像を記録させる。これを持ちかえれば、現像して情報の共有ができる。

「≪ホークアイ≫、≪スコープレンズ≫」

 その二つを使いより大きく鮮明なものを残そうと試みる。

 機体のブレもあり、上手く撮れているかどうかは微妙なところだが、とにかく今できることはこのくらいだ。

 魔女は――黒い魔女はヴィールのほうを向いていた。

 だが、追ってくるような事はせず、しばらくするとまるで水死体のように四肢をだらんとさせて動きを止めた。

 不思議な動きであり、不気味さがあった。

「……見逃してもらえた、ってことでいいんだろうか」

 魔女の姿が確認できなくなってから身体の向きを進行方向にあわせる。

 運が良かった。

 そう思うしかない遭遇であった。

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