新たな技術の胎動
艦長室でガドルはアディンから遺跡調査についての報告を受け、頭を抱えた。
シュデムが調査を打ち切らせた、という事はおいておくとして、問題となるのはトリアが他国の人間を魔法で攻撃した、と言う事。
下手をすれば、遺跡の調査を妨害する為に攻撃した、と捉えられかねず、外交問題に至る可能性も否定できないからだ。
「それで、そのあとはどうするって……?」
「シュデム先輩は戻って飛燕小隊とエルアさんと合流。そのまま再度遺跡に突入して調査をする、と」
「……そこまでして調査する必要がある遺跡だということか?」
というよりも、遺跡の奥まで調査の手が伸びた事は今回の件が初めてだろう。
本来ならば正規の調査隊がやるべき事である。
だが、報告にあったアストライアに酷似した人型の機体がシュデムの言う通りの存在であるのならば、目先の欲に目がくらんでそのリスクを考えられなくなるような人間がいる調査隊に任せてはおけない。
その点、シュデムの判断は正しいと言える。その行動まで正しかったか、というとそれはまた別問題であるが。
「いや、違うな」
最低限のリスクは回避している。
もしこの後再調査をウィスタリア王国の人間だけで行えば、間違いなくトラブルに発展する。それを回避する為にオウカ国の人間である飛燕小隊の面々を同行させるというのは有効的だ。
それでいて調査を打ち切らせた事を問題視されたとしても、飛燕小隊がいる事で彼等の任務に同行した、という言い訳ができる。
一方、飛燕小隊は任務であると言い張れば、調査隊からは何も言えなくなるだろう。
そこまでシュデムが考えて行動していたか、というのは把握しかねるが、最悪の事態だけは回避できるように思える。
それでもガドルの胃はキリキリと痛むのだが。
「とにかく。ご苦労。お前達は……そうだな。エリマ・ヴェイフが何やら新しい武器の開発をしているようだ。アディン・アハット、お前はそれを手伝ってやってくれ」
「それむしろ邪魔になりませんかね」
「大丈夫だろう。お前も邪魔したことなどないだろう。それに、実戦に赴く人間の意見というのは重要だ。現場の声を無視した武器の開発などあり得ない」
「それもそうですね。他の三人は……あ、うん。やっぱいいです。あいつらなら勝手になんかやってるでしょうし」
「そうだな。本当、たまには大人しくしておいてくれないものか。ウチの戦力はお前達以外いないというのに、揃いも揃ってまともに休まない人間ばかり揃いおって……」
胃のあたりを押さえるガドルを直視できず、アディンは目線を反らす。
「アディン・アハット。頼む。ヴィールはともかく、あの二人にはあまり無茶をするなと伝えておいてくれないか」
「……それ、俺が言っていいんですかね」
「……」
これまでのアディンの戦い方を思い出し、ガドルは嘆息する。
きっとアディンが無茶をするなと言ったとして、そのあとに返ってくる言葉は決まっている。
――お前が言うな。だ。
工廠エリアにおいて、開発の進む新装備アルブス。
この装備最大の利点は手を使わずとも攻撃が行えるということである。
勿論、魔法の発動においては手を使わずとも可能であるが、照準をつける為にはやはり手というものはあるほうがいい。
だがこのアルブスがあれば、それらをすべて手を介さずに行える。
今はまだブレードタイプのものだけであるが、いずれはプレスガンを内蔵させたものなどの開発も視野に入れてはいる。
問題は、現状浮かせているだけで精いっぱいである、ということだ。
「やっぱり術式はアルツさんに任せないと無理か……」
「動かすまでの術式を組める人間なんて鍛冶科出身者にはそうそういないしなあ」
作業員たちもこれ以上のことは出来ず、頭を抱えてしまう。
浮かせるまでは出来た。
だがこれは遠隔操作攻撃を目標とした装備である。
いっそのことシルキーの動作術式を参考にすれば、とも考えたがそれではヘクスイェーガーの操縦に影響が出る為術式の流用は不可能。
新しい操作術式が必要となるが、それを組める人間がいない。
どうしたものか。
「とりあえずこれは置いておいて、別のものに手を付けるか」
「前に言ってたベイオネットとかいうやつか。あれ、どうなんだ」
「強度問題さえなんとかなれば実現可能だとさ。しかし需要はあるのかね」
「まあ、実現すればキャストブレードとプレスガンを同時装備しなくてもよくなるんだからそれなりに需要はあるだろ」
「つってもなあ」
今までの戦闘を思い出すと、どうしても必要だとは思えない。
特にアディンが使ったキャストブレードはほぼ毎回折れている。そんな荒い使い方をする人間に開発費も維持費も高くなるであろう新装備を与えてもいいものか、と。
アイデアのみは以前から存在したベイオネットは、キャストブレードとプレスガンを一体化させた武器であり、構造的にはプレスガンがメインとなる。
ただ近接武器として振り回す事により、プレスガン部分にどのような影響が出るかは未知数であり、少なくとも本来の使い方ではない使い方をするためプレスガンのほうの機能障害の問題が懸念された事と、機体の開発がメインであった為に時間がなく、今の今まで試作型すら作られなかったものだ。
が、今は時間が出来た。この時間を有効活用しない手はない、とアルブスと並行して開発が始まった。
「お前等。一息入れろ。時間はまだまだあるんだ」
「姐さん! あざーっす!」
「それで、進捗は?」
「駄目です!」
「張り切っていうなよ……」
などとエリマは口で言ってはいるが、これがそう簡単に出来上がるものではない事は理解していた。
むしろ短時間で浮かせる事ができる段階まで持っていけただけでもよしとすべきだろう。
今後の問題はアルブスの操作方法。それに関しては全く想定していない。
あくまでも今は浮かすことができた、程度の完成度。急ぐことはない。何せ、これを搭載するつもりの機体はまだ修理中なのだから。
「アルツさんに頼めないんですか?」
「それがなあ。あいつ今あのバカに捕まってるから無理だわ。まああいつの思いつきは割と信用できる」
「姐さん、結構シュデムさんの事気に入ってますよね」
「あ? お前口を縫い合わされたいか?」
「スイマセンッシタ!」
目がマジだった。
「こっちはいいから、ベイオネットのほうを手伝ってやってくれ。あっちはあっちで苦戦してる」
「ウィッス」
人手が足りないのかもしれない。
バトルコスモスほどの大型艦を運用するには、人間が圧倒的に足りていない。
こうやって新装備開発に割ける人数も、クエルチア騎士学園に居た頃よりも減っている。
理由は簡単。この巨大な艦の至る場所に散らばって配備されているからだ。
ノウハウこそあれ、それを有効活用できる人間の頭数が減ってしまっては結局は開発ペースが落ちる。
一番の痛手はアルツがブリッジ要員に回ってしまったことだろう。多少の休憩時間こそあれ、その時間を食いつぶさせてまでこっちの仕事を回す事はできない。
これに関しては魔法科出身者の今後の成長によて解消できるかもしれないが、それは長期的に見た場合だ。
常に現場が求めるのは即戦力。即座に使用できる技術だ。
「全く、ままならんな」
このままではいつかこの艦は沈む。
そんな確信めいたものが、エリマの中にはあった。
一方。工廠エリアの端のほうにあるシュデム専用の工房に連れ込まれたアルツはテーブルに並べられたアイデアスケッチと走り書きの注釈を見ながら唸っていた。
「人間の思考を模倣する装置を作る、か」
「うむ。とはいえそれを実現するならばあと百年ほど技術が進まないと無理であるが。故に、機能を制限させたものを作るのである」
「と、いうと?」
「幸い、ウチにいる騎士見習い……ああ。今はもう騎士か。とにかく、優秀な彼等の思考パターン及び稼動パターンを術式化。状況に合わせてその術式を自動で選択するというものにするのである」
「なるほどな。ってことはそれは」
「以前のシルキーでの遠隔操作ではなく、自己で敵味方を判別し、自身で攻撃、回避などをすべて行う完全なる無人機が可能になると言うわけである。起動のために必要なマナに関してはシルキーで使用したものを流用すればなんとかなるはずである。それに……」
「それに?」
「この艦。大きさに対して実動可能な艦載戦力が少なすぎるのである。このままでは間違いなく沈む」
そのシュデムの指摘は、アルツも感じていた事である。
艦載戦力――つまりは搭載しているヘクスイェーガーの数ということであるが、頭数こそかなりの数を揃えているものの、いざ戦闘になって動かせるのはたった四機。艦長であるガドルが職務を放棄すれば五機となるが、たった一機増えたところでこの巨大戦艦を防衛する為の戦力としては不足している。
「故に、だ。このシステムの完成は急務なのである」
「……だな。しばらくはブリッジ業務もない。出来るだけオレも携わる事にする」
「そう言ってくれると助かるのである。何せ吾輩、また遺跡に出向かなければならんのでな」
「そんなに気になるのか、遺跡とやらが」
「古代のロマン、と言うには見つけたものが衝撃的すぎたのである。もしかすると、あれの真価を我々が理解した時。この世界は魔女以上の脅威を知る事になるかもしれんのである」
「脅かすなよ……」
そうアルツは茶化した風に言ったが、シュデムの表情を見て悟る。
シュデムはそういうものがあの遺跡に眠っているのだと確信しているのだ、と。
「術式のほうは任せたのである。というか、このシステムは機械技術部分よりも魔法技術のほうが重要であるからして、ほぼ全部丸投げなのであるが」
「いいよ。別に。それより、ちゃんとした報告を待ってるぞ」
「うむ。どのような結果であったとしても必ず持ち帰る。そう誓おう」




