シュデムの考え
遺跡の調査はシュデムの提言を現場の最高責任者であるレンナが受け入れた為、以前からこの遺跡の調査をしていた調査隊からすれば満足のいく結果ではなかった。
だが、あの場ではレンナの指示に従わなければ調査隊は全滅させられていたかもしれない。
そう思わせたのは、間違いなく最後に起きたトリアが躊躇わずに放った魔法だ。
所属する国が異なる人間でありながら、レンナの指示には従い、かつ何のためらいもなく人間を撃つ人間がいる。
アディンやヴィール、エルアの実力は扉が開く前の蜥蜴人間戦で見せつけられている。それでいて調査隊の面々は戦闘要員は慣れない装備を使い、他の人間は非戦闘要員。
人を撃つ事に躊躇いのない人間が、非戦闘要員を狙わない訳がない。
「あまり望ましいやり方ではありませんでした」
撤収準備を始めるキャンプに用意された仮設ブリーフィングルームの机に突っ伏してレンナは強引過ぎた自分のやり方を思い出して反省する。
「お嬢はよくやったと思うぜ? シュデムとかいうあんちゃんの言う事は、マジっぽいしな」
「我々の技術を上回る超技術で作られた人型兵器、ですか。この事はどう報告すべきなのでしょうね」
「そりゃあ。あれだ。ウィスタリア組と口裏合わせて隠蔽か、両国王に報告するかのどっちかになるだろうな」
「失礼します。レンナさん。シュデムさんが話がある、と」
「ありがとうエクウス。通してください」
「邪魔するのである」
やってきたシュデムは一人で、何も持っていなかった。
パステークへ来る途中で見せたお調子者のような雰囲気は全くなく、至って真剣な目をしている。
「あの話、ですよね」
「うむ」
「俺ぁ外してようか?」
「いや。構わんのである。どうせ聞いてもらわなければならんことであるからな」
「そうかい。じゃあそうさせてもらうが。あんちゃん、一人で来るってことな他の奴等には出来るだけ聞かれたくない、ってことでいいんだよな?」
ゴウトの問いかけにシュデムは頷いて応えた。
「単刀直入に言う。あの遺跡は調べるべきだ」
「なっ、お前さん、あの時と言ってる事が違うぜ?」
ゴウトの反応は当然だろう。
シュデムが再調査したいと言ったのはレンナに対してのみ。ゴウトはその言葉を聞いていないのだから。
「ゴウト・アキツよ。あの時言った言葉も吾輩の真意である。あんなもの、世の中に解き放つべきではないのである。だが、調べるべきと今言った言葉も真意である」
「シュデムさん。今ここにいるのは私達だけ。他の調査隊も撤収準備でここにはまず来ません。貴方の意見を聞かせてください」
「うむ。そもそもの話、あの扉が開いた時から違和感はあったのだ」
「違和感? そりゃどういう……」
「そう。その時は違和感で済んだ。驚きのほうが大きかったから。直前まで襲撃を受けていたからというのもあるだろう。だがその違和感が確信に変わったのが、エクウス・セイランと共にあのアストライアもどきを調べた時である」
「確か操縦席のハッチは開いたんですよね」
「それで機体の性能を見れたような事を……」
そこまで言ってゴウトは自らの言葉に違和感を覚える。
「ちょっと待てよ。どうしてお前さん、あの機体の動力が永久機関だなんて言いきれた? それにスペックも知ったような言い方だったよな」
「そう。それである。数千年も前の文明の文字が読めたのである。断っておくが吾輩古代文字などの知識は一切持ち合わせていないのである。だが、読めたのである。一言一句、読めてしまったのである」
「いや、いや待て。あり得ない。それはあり得ないぞ。有史以後の文字ならともかく、あそこにあったのは有史以前の文明のものだろう。だったら文字の形くらい変わるだろ?」
「それだけではないのである。扉が開いた時の事を思い出すのである。あの時聞こえた声。何故その意味まで我々に理解できたのである。先史文明の文字や言葉。それを我々が理解できるというのは奇妙な話だとは思わないか?」
本来ならばあり得ない。
文字や言葉というのは常に変化を続けるものである。数千年も経てばある程度の基本形を残し、言葉の意味すら変化していく。
言葉ですらそれだ。文字の変化はもっと著しい。現代までにいくつもの文字が造られ、簡略化されて消えて行った。
だというのに、一言一句まで現代と同じ意味と形を持つ言語。それは異常と言うしかない。
「確かに、奇妙な話ですね」
「だが吾輩が再調査が必要だ、と言ったのはそれ以上に気になる事があったからである」
「これ以上、だと?」
「うむ。あのアストライアもどきを調べていて気になる一文を見た。そこにあったのは先史文明が生み出したと思われる四つの機体の名前である」
「名前、ですか。その名前は?」
「シオウル、アルテリア、シルディス、ケレブルムである」
その言葉を聞いた二人の表情が変わる。
「それは……魔神の名前と一致している」
「先史文明の生み出した機体の中に、エアリアの伝説に語られる魔神と同じ名前を持つ兵器が存在したというのか?」
魔神。惑星エアリアに数多く存在する伝説に登場する神のごとき存在。
多くの伝説において人類の味方と言うわけではなく、基本的には破壊と再生の化身として描かれる惑星の調停者。
その伝説の中で登場する魔神の名前がシオウル、アルテリア、シルディス、ケレブルムなのである。
「確かに、気になりますね。そこまでの一致、普通はあり得ない」
「もしかすると伝説で語られていたのはおとぎ話などではなく、実際に起きた出来事であるという可能性もある、ということか」
「うむ。だが、この調査は最低限の人数で行う必要があるのである」
調査隊の本体に気付かれてはいけない。
実際に命令を無視してアストライアもどきに向かって走り出した人間もいるくらいだ。
彼等の事を否定するわけではないが、目の前の欲に眩んでリスクが見えていない人間を連れていく事はできない。
「人数は六人。うち四人は飛燕小隊で埋まる。吾輩は是非とも参加したい。あと一人は……そうだな。エルア・イスナインだろう」
「その選出理由を聞いても?」
「まずそちらの立場的な問題である。小隊である以上その中から数人だけ選抜して別行動、というのは不自然である。違和感を無くすために、飛燕小隊は別任務を適当にでっちあげてこの場から離れて貰いたいのである」
「なるほど。それで調査隊が撤退した後に戻ってきて遺跡に再突入、と」
「うむ。アディン・アハット達に見張らせる故、確実に撤退させる。一度撃たれている故、そう簡単に戻ろうとは思わぬはずである」
「で、そのエルア・イスナインってのはあのオウカ流の抜刀術を使う嬢ちゃんか?」
「トリア・サラーサの眼でも捉えられず、ヴィール・アルバアの耳でも聞きとれなかったものを、彼女だけは察知できていたのである。彼女の勘は頼りになる」
「勘、ですか。随分と曖昧なものを信じるんですね」
「勘は別に曖昧なものでもなんでもないのである。経験則による未来予測の一種だと吾輩は考えているのである」
そう言ってにっ、とシュデムが笑う。
話はまとまった。
「決行は、調査隊が撤収する三日後。エルア・イスナイン以外は一度バトルコスモスに戻って準備を整えるのである。見張りは彼女に任せているが、そちらでも見張りを頼むのである。何せ彼女の技では人を殺しかねん故な」
「わかりました。では」
その後。用済みとなった強化外骨格を連れてシュデム達はバトルコスモスへと戻って行った。
◆
バトルコスモスに戻ったシュデムを待っていたのは大量の仕事と、強化外骨格の稼動データのレポート作成。
特に酷いのは放置されたままになっているアルトエミス二号機。正直ここまで破壊されると新しく作り直したほうが早い。
一応は予備パーツでの復旧も可能ではあるが、シュデムの改造した状態のセンサー増設型のパーツは予備がない。
今この機体を修理したところで、結局できるのは四号機仕様の機体となんら変わらない機体である。
「センサー増設型への改造は一日あればできるのであるが……うーむ」
センサーの増設によって広い索敵範囲を確保できはした。が、搭乗者であるアルには表示される情報が多すぎて処理しきれない、と不評であった。
確かにそうだ。戦闘中に無数の情報を同時に処理する余裕など普通の人間ならあるはずがない。
ならば、機械的に情報を処理する装置でも作るか、とそういった発想にまでは行きついた。
だがどうやって。
「おう、変態。珍しく真面目に悩んでるな」
「五月蠅いのである凡人眼鏡。強化プランの安定性を上げるための案を考えているのである」
「あ? 術式で処理できないのか」
「そんな事が出来れば苦労しないのである。そもそも、術式はアルツ・エナムの分野で、吾輩達ではとても弄る事が出来ないのであ……」
その瞬間、シュデムはある案を思いついた。答えは初期型シルキーの操作方法にあった。
初期型シルキーは操作用の術式が本体には存在せず、それを操作する人間が複雑な術式をいちいち入力して操作してやる必要があった。それをアルツの協力のもと半自動化したのが今のシルキー?である。
「マニュアルで情報処理する術式さえ判れば、それを自動化できる……」
「おう?」
「凡人眼鏡! アルツ・エナムは今どこにいる!?」
「えっ? 今は魔法研究室に顔だしてると思うが……っておい!? ていうか速っ!」
アルツの居場所を聞くなり。シュデムは走りだした。
居ても立っても居られない、という風でその足取りは非常に軽く、そして普段の彼からは想像できないほど速かった。
「まあ、いいか。あたしはあたしの仕事をするか」
走り去るシュデムに背を向け、エリマは工廠奥で行われてる新兵器の技術試験現場に向かう。
「どういう感じだ」
「あ、姐さん。一応単独での起動には成功したんですが……これ、本気ですか?」
「本気って、何が?」
「いや。だって……キャストブレードを飛ばすなんて正気じゃないですよ」
作業員達が見つめる先には、ブーメランのような形状をしたキャストブレードが浮いていた。
装甲や武器作りが本業であるエリマにとって、久々の本業らしい仕事である。
そもそもぼんやりとしたイメージは、クエルチア騎士学園でアディン達に付き合っていた頃からあった。具体的にいうと、シュデムがシルキーを誕生させた頃からだ。
人間の思ったように動くシルキー。エリマはそれに着想を得て、搭乗者の意思を受けて自在に飛び回る武器というものを作ろうとしていた。
尤もこんなものを作ろうとした直接の原因は先日の戦闘でヘスティオンを真っ二つにした、あのエイ型の機体。解析によってベイルと呼称されている機体の存在である。
今までは常識にとらわれ過ぎていた。剣だの槍だの。銃だのと、人間が手に持って使う武器ばかりにこだわっていたのが、あの一撃を見て馬鹿らしくなったのだ。
「まだまだ実現には遠いですが、これを使えるようになれば戦術の幅が広がりますね」
「ああ。それにあのバカがまた便利なものを作ってくれそうだしな。それはそうと、こいつの名前どうなった?」
「そうですね。シルキーから発展した武器ですから、アルブスでどうでしょう」
「アルブスか……」
まだ完成していない新しい武器、アルブス。
未だ産まれい出てはいないが、その鼓動は確かに始まっていた。
一方、魔法研究室では久々にアルツが研究員達の前に顔をだし、術式の添削をしていた。
ブリッジクルーになってからと言うものの、碌に顔を出せずにいたが、研究員たちは皆アルツを歓迎していた。
当然だろう。彼は間違いなく、魔法という分野においては天才だ。その天才の手ほどきを直接受けられるのだから、これ以上にない経験だ。
尤も、そう言う事をアルツ本人に言ってしまうと、上には上にいる、と謙遜するのだろうが。
「んー。もうちょっと効率よく出来るんじゃないか。だが発想はいい。収束率とマナの変換効率さえ上げれば使えるな」
術式を書いただけではただの文字に過ぎない為、暴発ということはまず起こらないが、アルツにとってはその術式を見るだけで、その魔法がどんな効果やどんな威力を発揮するのかという事が大体わかる。
最近多いのはスクロール弾に使用する魔法の開発。なぜそんな事をするのか、というとスクロール弾の仕様上その術式は複雑であり、既存の魔法では術式が多すぎたり、術式同士が干渉して暴発したりと問題が多いためである。
結果、今までスクロール弾として使用できたのは最初にアルツが試作で造った爆発するあの魔法のみ。
あれですら術式が干渉した結果アルツの想定以上の爆発を生んでいる為、アルツとしては失敗作である。
流石のアルツも多数の術式が同時に発動して干渉しあうというところまでは読みとれない為、スクロール弾の開発には慎重さが求められる。
「ァァァァアアアアルツゥゥゥゥ! エッッッナァァァァム!!」
突然扉が開くなり、シュデムが滑り込んできた。
「うおっ!? どうした、シュデム」
「た、頼みがあるのである!!」
「はっ? 頼みぃ?」
この時、ヘクスイェーガー開発史において革命的な出来事が起きようとしていた。




