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蒼天のヘクス・イェーガー  作者: 銀色オウムガイ
第四章 遺跡編
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見つけたもの

 シオによって新たな道が開かれ、調査隊は強化外骨格のバッテリー残量の確認だけ済ませるとすぐさま未踏破領域へと進出する。

 今までの遺跡とは異なり、壁は崩れておらず、照明が煌々と通路を照らしている。

 言うまでもなく人の生活している痕跡はない。当然だ。こんな場所で数千年も人間が命を繋いでいけるはずがない。

 本来管理すべき人間達が死に絶えても、この遺跡――否、この施設は動き続けていた。

 何のために。

「かつてあらゆる面倒事をゴーレムを使役して解決していた国があったのである。勤労、家事、戦争。その全てをゴーレムで賄ったのである。人々は働かずとも平穏な生活を得られ、みな幸福であった。当然であるな。何もせずとも収入を得られ、戦争では人間が死なない。人間のすることと言えば、学ぶ事と子を産み国を維持する事のみ。それ以外は、本当に何も求められなかった。決して疲れず、決して死なないゴーレムによってその国はあっという間に大国になった。だが、その国は滅びた。何故だと思う?」

「さあ?」

「すいません。シュデム先輩がいつものようにどうでもいい事言い出したと思って聞いてませんでした」

「トリア・サラーサ!? 流石に酷いのであるな。おほん。それで、どうしてだと思う?」

 突然のシュデムの問いに少し考えを巡らせる。

 どこまで続くかもわからない真っ直ぐ伸びた通路を進むには丁度いい暇つぶしでもある。

 だが国が滅びる理由などそうそう思いつかない。

 魔女によって攻め落とされたか。あるいは他国との戦争に負けて取り込まれたか。現実的にはそのあたりだろう、と誰もが考えた。

「……自滅、ですか?」

 そう答えたのはレンナであった。

 その答えを聞いたシュデムは笑って肯定する。

「すべてをゴーレムに任せ過ぎ、それが当たり前になってしまったのである。だからその国の人間は自身の修復も出来る(なんでもできる)と勘違いしてしまったのである。だがゴーレムは自身を修復できない。疲れず、死なない労働力であっても、それがゴーレムである以上次第に劣化していくのは避けられない。人々がそれに気付いたのはもう致命的な所まで来た後である。道具の修理ができない。新しく作る事もできない。壊れた建物を誰も直せない。農地はあるが作物の育て方が解らない。家畜の育て方も解らない。そして――誰もゴーレムを直せない。結果、その国は滅びた。労働力(ゴーレム)をすべて失い、知識や技術(ノウハウ)も失い、生活する為に今まで築いた資産を食いつぶし、何もできなくなった後敵対していた国に攻め滅ぼされた」

「結局戦争じゃないですか」

「いいや自滅である。もしもの話は好かんのだが、もしも誰かがゴーレムの修理技術だけでも受け継ぎ続けていたらこうはならなかった。腐った卵が割れた。それだけの話である」

「で、何でそんな事を」

「ああ。いや。ちょっと考え事をしていたのでな。この施設、二千年以上は経つというのに生きている。動いている。メンテナンスをされない機械はあっという間に使いものにならなくなる。さっき話したゴーレムのように、最後にはとんでもない事故(トラブル)を連れてくる事すらあり得るでな」

「えーっとつまり?」

「先史文明の技術力が我々の常識の範疇を越えるものであるという証拠なのか、はたまたいつ爆発するかもわからない時限爆弾のような状態なのか。それをちょっと考えていたのである」

 そのシュデムの言葉に調査隊全体がざわついた。

「こ、言葉の綾である! 実際に爆発するとは限らないであ……」

 何故止まる。

 そのせいで余計に空気が悪くなる。

「先輩。怒らないから今思った事を素直に白状してください」

「アディン・アハット。世の中には言わないほうがいい事もあるのである。決っっっっっして、『電気で動いてるなら発電機あるよね。あ、そういえば発電方法によっては爆発する発電機もあったよなー』とか思ってないであるぉんす!?」

 腰の回転と腕の回転を合わせた物凄く綺麗なフォームかつ素早いアディンの拳がシュデムの顔面にめり込む。

「全部言ってるじゃないですか! 殴りますよ!」

「もう、殴ったであるな……」

「ヴィールが!」

「二発目!?」

 ポキポキと指の関節を鳴らし、ヴィールはいつでも行けるとアピールする。

 ただシュデムの眼には、ヴィールの後で先ほど渡した短剣を取り出し冷たい視線を向けてくるトリアのほうが恐ろしく映るのであった。流石に刃物は命に関わる。

「いや。その。なんていうか、すいませんでした」

 不安を煽ったせいで、先頭を往く人間の歩みが遅くなる。

 レンナは嘆息する。

 強化外骨格を着て士気が上がっていたというのに、襲撃を受ければすぐに士気は急降下。

 なんのための装備なのかと、今ここで言ってやりたい気分にもなるが、こんな状態で妙に刺激してしまうと余計に士気が下がりかねない以上、レンナは堪えた。

「エクウス。どう思います」

「どう、って?」

「この施設についてです。私はシュデムさんのように専門的な知識を持っていませんが、機械の類が好きなエクウスならば何か思う事があるのではないか、と思ったので」

「そうですね。ボクもそこまで詳しい訳じゃないですよ。ただ、ここは異常だとしか」

「異常だぁ? 確かに現文明のものと比較したらあり得ない技術力だとは思うが」

「そうなんですけど、そうじゃなくて。一本道すぎると思いませんか?」

「……そう言えば」

 さっきから曲がり角はおろか脇道すらない。

 ただ只管に一直線。

 それでいてただの通路にしてはやたらと幅が広い。ヘクスイェーガーでも余裕で通れるだろう。

 どういう事なのか、とこの施設について知っていそうな唯一の存在であるシオに訊ねようにも、シオの記憶にはここがどういうものであるか、という記憶が欠落しておりこの通路が何に使われていたか、というのはよく分からない。

 だがこの大きさだ。こんな通路が必要になるものなど、用途が限られてくる。

「報告! 出口が見えました!」

「了解! さて、何が見つかるのでしょうね。少しワクワクします」

「お嬢。結構少年趣味だったのか」

 景色が変わるというだけで期待が持てる。自然と足早になる。

「これは……」

 最初にたどり着いた強化外骨格を纏った調査隊員が、言葉に詰まった。

 彼等に遅れること数秒。アディン達もその光景を目にする。

 だが、アディン達は声が一切でなかった。出せなかった。

 遺跡の未踏破部分を進む以上、自分たちの予想を遥かに越えてくるものがあるのだろう、という予想はしていた。

 確かに予想通り、目の前に広がっている光景は言葉を詰まらせるには十分だった。

 だが、そうじゃない。目に入ってきたモノが、ここにあるべきものではなかったからだ。

「アスト、ライア……?」

 誰からその名を口にしただろうか。

 目の前に広がる巨大な空間にいる無数のアストライア。

 その全てがハンガーによって固定され眠っている。まるで磔刑のようでもある。

「おい、どうなってんだよ! ここ、数千年も前の施設なんだよな!?」

「その、はずだけど……」

「だったら、目の前のこいつらはなんなんだ!?」

 ヴィールの叫びに答える、答えられる者などいない。

 その場に居る全員が驚きを隠せない、という顔をしているのだから。

「アストライアの最終生産数は九機。予備パーツを合わせても全二十一機。ここにあるのは……」

「数えるのが馬鹿らしいな。お嬢、こいつらどうする。一応は発見物だが持ち出せるとは思えねえぞ」

 遺跡の中で見つかったアストライア。確かに調査すべきものではある。

 だが十数メートルもの巨体を持ち帰れるような装備は持ってきていない。

「シュデムさん。エクウス。二人で調べてもらえますか?」

「む? よいのか。我々はあくまでも同行者。ある程度の見返りは求めても、このような世紀の発見とも言えるものを調べるなど、部外者がやっていいことではないと思うであるが」

「ですが彼等は機体の事となると素人同然。この中ではシュデムさんが一番詳しいはずですし、信頼できる方だと思っています」

「そこまで言われては、まあやぶさかではないのである。エクウス・セイラン、よろしくである」

「こちらこそ。僕も全力でサポートします!」

 やることが決まればあとは速い。

 シュデムとエクウスは直立するアストライアに向かって駆けて行く。

「他の者は二人一組で周囲の探索。アディンさん達もお願いできますか」

「了解。じゃあヴィール、来てくれるか」

「おう」

 自然な流れでアディンはヴィールと、トリアはエルアとペアを組み、それぞれが調査を始めた。




 ――二時間後。

 結論から言うと、この大部屋は隣にも大部屋があり、そこと繋がっているらしいという事がわかった。

 シオが通路の扉を開けようと試みたが、コンソールらしいものが見当たらず断念することに。

 ここは格納庫か何かだったのであろうか。それならばあの巨大な通路が必要だった事も説明できる。

「ここは基地か何かだったんでしょうか」

 シオは規則正しく並んだ機体を見つめながらそう呟いた。

 確かに基地ならば大量に機体が一か所に集められている理由も説明できるが、なぜわざわざ地下に作る必要があったのか。

 機体を外に出すための装置らしきもの見当たらない。

「わたくしがもっとしっかり覚えていればよかったんでしょうけど……」

「そんなことはありませんよ。シオがいなければここまで来れなかったんですから」

「レンナさん……」

 二人の元へ散っていた調査隊員が戻ってくる。

 彼等の装着していた強化外骨格はバッテリーが尽きかけているのか動きがややぎこちなくなってきている。

 なるほど。エリマやシュデムが投入に否定的だったのはこういうことか、とレンナは理解できた。

 バッテリーが不足すると一気に機動力や運動性が低下。それなのに自分では着脱不可能。

 言葉では聞いていたが、実際に動いている所を見れば納得せざるを得ない。

「やはりあの大部屋への扉らしいもの以外は見当たりませんでしたね」

「こっちもです」

「同じく」

「やはり、駄目ですか」

 これ以上は何の発見も見込めないのかもしれない。

 あとは、二時間も作業しっぱなしのシュデムとエクウスだが、作業する音が止み、しばらくしてから合流する。

 だが二人の表情は明るくはなかった。

「エクウス、報告を」

「……シュデムさん」

「うむ。これは言うべきなのかは非常に悩んだのだが……仕方ない」

 シュデムは躊躇った様子でありながら、これが仕事だ、と割り切って報告をしようと覚悟を決め、何度か肺の空気を入れ替える。

「結論から言えば、あれはアストライアではなかったのである。外見こそ似ているが中身は全く別。というか、どうやっても調べられないからお手上げであるな。二時間かけてわかったのは操縦席のハッチの開け方と、あの機体が生きていると言う事だけである」

「……シュデム先輩。今なんて?」

「だから、生きているのである。あの機体は。動かす方法さえ判れば、実際に動かす事も可能である。尤も、動力源が全く分からぬ故冗談でも動かそうなんて思わない事であるな。我々の良く知るエーテルコンバーターですらマナバーストの危険性があるのだ。まあ少なくとも電気で動いているというのは間違いないであろうと思うであるが……問題はその発電方式であるな」

 シュデムの顔がいつになく真剣なものになる。

「これは吾輩個人の意見であるが、早急に撤収すべきである。そしてこの遺跡に誰も入れないよう封鎖すべきだと提言する」

「なっ……?! ふざけるな! 我々がここに来るためにどれだけの時間と資金を費やしたと――」

「黙って聞くのである!」

 自分より十以上も歳の離れた子供に一喝され、隊員が黙りこむ。

「いいか。吾輩はそっちがどれだけの時間や金を費やしたかどうかなどしったこっちゃないのである! ここにあるものは世界そのものを破壊し尽くせるような、とんでもない兵器の巣窟である! 今は動かし方のわからないただの案山子でも、どこかの誰かがいつか動かしてしまうかもしれない。そうなった時、あの機体の性能を上回る力がなければ、たった一機でエアリアの国家はすべて焼きつくされる!」

「シュデム先輩。もしかして……」

「起動には成功したのである。そしてコンソールを操作し、機体データの閲覧もした。だからこそこう言っている! あの機体の動力は莫大な電力を発生させる永久機関。一度稼働すれば停止させることなく動き続けられる。当然我々の技術では再現不可能。こんなもの、今の世にはあってはならないのである。そして――どこの国にも渡してはならない。これを軍事利用されたら、勝てる国が存在しない」

「ならば我々が管理をすべきだ!」

「だから馬鹿な大人は! いいか。出来る事ならば吾輩のこの意見に反対した人間をすべて殺してでもここで見た物を封印したいほどのものである! 善意で名乗り出た管理者が、腹に一物抱えていない保障がどこにある! 我々の技術が先史文明の技術に追いつかない限り、誰の手にも渡ってはならない。渡っては、ならんのである……」

 その時のシュデムの必死な叫びは、アディンやレンナ達には伝わった。

 その一方で以前よりこの遺跡の調査を続けていた者たちにとっては受け入れがたい言葉である。

 だがこの場の決定権はレンナにある。

「エクウス。貴方もシュデムさんと同意見ですか?」

「僕は……進んだ技術ならばそれを研究・応用してさらなる技術の発展に活かすべきだと思います。ですが、ここの技術は行き過ぎている(・・・・・・・)。僕は、恐ろしさすら感じます」

「解りました。各自、撤収準備」

「なっ……!? 正気ですか!」

「ここまできて、引きさがれるはずが……!」

「命令です。この場における私の言葉はルー陛下の言葉と思いなさい」

 女王の名を出されては、引き下がるしかない。

 事実、レンナはオウカ国の女王ルーのお気に入りである。そんな彼女の命令に背いたともなれば、どういう扱いをされるか。

「くそっ……! 納得できるか!」

 だが一人の隊員がアストライア――に酷似した機体のほうへと駆け出す。

 が、その行く手を阻むようにゴウトの強化外骨格が立ちふさがる。

「お嬢の命令に従ってもらうぜ」

「どけえっ!」

 ≪エアロスラスター≫で飛翔し、ゴウトを飛び越えて行く。

 着地と同時に再び駆け出し、機体へと近づく。

「トリアさん。あの人を撃てますか?」

「……加減はする。≪サンダーシュート≫」

 放たれた雷撃が走る隊員の身体を穿ち、膝から崩れる。

 ゴウトが倒れた隊員を抱えて安否を確認。生きている事を確認し、両手を後ろ手に縛ってから抱えて戻ってくる。

「不満はあるだろうが、この場所の異常さはテメェ等も気付いてるだろうが。このあんちゃん達よか十年以上も長く生きていて、ここの危なさに気付かないとは言わせねえぞ」

 ゴウトの一睨み。これが決定的になり、調査隊は撤退を決定する。

「……レンナ・ムラクモ。少しいいか」

「なんでしょう、シュデムさん」

 シュデムがレンナのそばにより小声で語りかけた。

「日を改めて我々だけで調査を続けよう。少々気になるデータを見つけたのでな」

「……了解しました」

 ここで調査隊の仕事は終了する。だが、秘密裏に第二の調査隊が結成されていた。

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