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蒼天のヘクス・イェーガー  作者: 銀色オウムガイ
第四章 遺跡編
70/315

開門

 蜥蜴人間(リザードマン)に周囲を包囲され、狼狽する調査隊一同。

 背中を預け合い、背後から攻撃を受ける事だけは避けようとしているが、それ故に身動きが取れなくなってしまっている。

 何のための強化外骨格なのだろうか。せっかく少ない時間で用意した専用のブレードやスピアなどは何のための武器なのか、と。

 一方でアディンはどこから片付けるべきかを考えていた。

 放っておいてもエルアは斬り続けてくれるだろうが、それだけに任せている訳にはいかない。

 今後も襲撃を受ける可能性がある以上、エルアの体力は温存しておきた。そうなると当然他の人間が動かなければならないのだが、下手に動いて戦闘力のないシュデムを危険にさらすこともできない。

「レンナさん、シュデムさんを頼めますか」

「防戦だけでいいなら」

「よし。ヴィール、合わせてくれ。トリア、頼む」

「よし来た!」

「了解」

「エルアさんは、あっちの援護に行ってください」

「……了解」

 四人が動きだす。

 アディンとヴィールが≪エアロスラスター≫で立体的な動きで|蜥蜴人間≪リザードマン≫達を翻弄しながら、シュデムから受け取ったキャストブレードで首を跳ねる。

 その手応えは、肉を裂くというのではなく、まるで金属を無理やり引きちぎるような強い抵抗があった。

 まさか、と最初にエルアが斬った蜥蜴人間(リザードマン)を見ると、体液の類が一切見えない。地面に染み込んだ、という風でもなく切断面周辺も湿っているように見えない。

「こいつら、まさか強獣か!?」

「何、強獣とな?」

 それに反応したのは、シュデムであった。

「アディン・アハット! それは誠であるか!?」

「間違いないです。こいつら、体液がないし切断面が生物さがない。強獣の特徴そのままです!」

「なら全部狩り尽くすのである! 今回の生産分で前に保管してあった強獣の素材は使い切ってしまったであるからな! 狩り尽くして全部素材にしてやるのである!」

「そんな風に言われると、やりづらい……」

 そう言いつつとトリアは、攻撃した直後で隙の出来たアディンとヴィールを狙う蜥蜴人間(リザードマン)に切っ先を向け、≪メタルバレット≫で撃ち抜いていく。

 二人の立体的な動きにあわせ、その隙間を魔法で生み出された鉄の弾丸が通過し、エルアの援護すらも同時に行う。

 まさに離れ業である。

「トリアさん、でしたか。あの方のセンスは凄まじいですね」

「ああ。確かに。それにあのあんちゃん達、信頼してるのか知らねえが滅茶苦茶な動きしやがる。あんなのそのうち当たっちまうぞ」

 ヴィールへしがみつこうとする蜥蜴人間(リザードマン)の頭をアディンが踏み台にし、その背後にいる個体を袈裟斬りに。踏み台にされた個体はヴィールによって横一線されて地面に転がる。

 次々と処理されていく蜥蜴人間(リザードマン)だが、その数が減らない。

 倒しても倒しても、また現れる。

 密閉空間だからそう感じるのか。それ以前にどこから現れるのか。

 トリアの証言を信じるのなら、突然現れたとしか思えない。

「このっ、蹴散らしても蹴散らしてもキリがない!」

「エルアさんは……」

 険しい顔ではあるが、まだまだ余裕のある顔でカタナを振い、次々と蜥蜴人間(リザードマン)を蹴散らして行く。

 そしてその足元にはこれでもかと蜥蜴人間(リザードマン)だったものが転がっている。が、その数が異常だ。

「アディン、どうにかならないのか!」

「俺に聞くな!」

 人間とは根本的に異なる相手に効果のあるかは判らないが、延髄斬りで蜥蜴人間(リザードマン)を蹴り飛ばしつつも思考を巡らせる。

 まず強獣がなぜこんな場所にいるのか。どうしてここまで攻撃的なのか。

 その理由がひっかかる。

 シプレース大森林で遭遇した強獣たちは進んで攻撃してくる、というよりも自分の攻撃範囲に入った相手を狙って攻撃しているように思えた。

 だがこの蜥蜴人間(リザードマン)は違う。明確に攻撃意思を持って襲いかかってきている。

 それに迎撃に動いたアディン達を集中して狙っているようにも思える。

 明確な意思がある。ならその意思はなんだ。

 前回の調査隊もここで襲撃を受けた。

 つまりここで襲撃する事に意味がある。その意味はなんだ。

「……進ませない為か?」

「アディン?」

「いや、だって、そうとしか」

 そんな筈はない、と頭のどこかで否定する声が上がる。実際、否定したい。だが、状況はその考察を肯定している。

 事実、攻撃的な対応を行ったアディン達のところへは次々と集まってくるが、怯えてまともな攻撃の出来ていない強化外骨格部隊はあまり攻撃を受けておらず、戦闘すら行っていないシュデムと彼を守る飛燕小隊のほうへは全く近づこうともしない。

「レンナ嬢! あんたここを突破できる鍵もってるって言ってたよな!」

「はい。確かに」

「この状況、それで変わるかもしれない。アディンの直感は当たる!」

「……」

 レンナがゴウトに目で合図を送り、ゴウトはそれに頷いて承諾した。

「行くぞ、嬢ちゃん!」

「え、は、はい!?」

 ゴウトがシオを抱え、全力で壁のほうへと駆け出す。

 予想だにしない行動にアディン達は一瞬、そちらに気を取られるも即座に攻撃を受け、再び戦闘へと戻って行く。

 群がる蜥蜴人間(リザードマン)を掻き分け、時には踏み台にして壁までたどり着くと、シオを降ろす。

「頼むぞ、嬢ちゃん」

「はい!」

 シオは壁に近づき、何かを探す。

 壁にびっしりと生えた苔を払うと、彼女が探していたものが見つかる。

「あった!」

 ボタンがいくつも並んだそれは、現代においてもよく見るコンソールに似ていた。

 否。似ているのではない。コンソールそのものである。

 ただ現代において使用されるものよりも大分小型のものであり、押せるボタンも随分と少ない。

『アクセスコードを入力してください』

「コンソールは駄目。音声入力は」

『音声入力モードに切り替えます』

「よし」

 その場に響き渡る機械的な声。その場にた誰の声でもない。だが、確かにこの場に居る全員がその声を聞いた。

「管理者権限発動。番号S29-1954-1103。音声入力。コード:セサミ」

『音声照合開始。確認。管理者番号照合。確認。管理者名シオ・シラギク。コード承認。プロテクト解除。扉が開きます。安全な位置までお下がりください』

 しばらくして壁が左右に動きだし、新たな道が現れる。

 それと同じタイミングで蜥蜴人間(リザードマン)達から戦意が消え、下がり始める。

「な、なんだ……」

「敵が退いていく?」

 交戦していた相手から戦意が失せた事で、アディン達も武器を下ろす。

「ちっ。素材が逃げる」

「言ってる場合ですか?」

 エクウスはこの状況でも素材集めをしようとするシュデムに呆れて思わずそう呟いた。

「調査隊各員。態勢立て直して状況報告!」

「はっ!」

 レンナの号令で、さっきまでうろたえていた強化外骨格隊が落ち着きを取り戻たのか、綺麗な敬礼をし、レンナに対して自分たちの状況を報告する。

 だがそんなことよりも、だ。

「レンナさん……は忙しそうだから、こっちに聞くか」

「ん? 何だ。あんちゃん。そんなに見つめて。俺ぁソッチの趣味はないんだが」

「俺にも無いですよ。ゴウトさん。これはどういう……」

「それについてはわたくしから説明します」

 そう、シオが名乗り出る。

 確かに壁を取っ払った張本人であるシオに訊ねるのが一番早いだろう。

「構いませんよね」

「ああ。お嬢も上と話を付けてくれてる。この場にいる人間にはどうせバレることだ」

 一応は機密に触れる事なのか、シオはレンナにも目で確認を取り、レンナは頷いて応えた。

「わたくしは見ての通り、この遺跡を知っています。いえ、正しくはそう記録していると言うべきですが」

「うん? なんだその曖昧な言い方は」

「わたくしは、この時代の人間ではありません。それどころか人間ですらない」

「ちょっと待て。人間ですらないって、どういうことだよ」

 ヴィールがほぼ反射的に聞き返す。

 だが、アディンにはなんとなく解ってしまった。

 遺跡という存在そのものが、自分たちの技術とはケタ違いに進んだ技術で作られている。遺跡を見れば、それを実感できた。

「落ち着くのである。ヴィール・アルバア。吾輩、道中の壁や天井を見ていたが、病的なまでに規則的かつ機械的で、徹底的に完璧を求めたかのような冷たさすら感じたのである。それに崩れた壁の奥に見えた千切れた配線の先は放電を続けていた(・・・・・・・・)。これの意味する事がどいうことか、わかるであろう?」

「わかりませんよ。そんな事だけじゃ」

「……放電するってことは、この遺跡は電気で管理されていたと推測される。かつ、放電が続いている。つまり」

「今もこの遺跡は――いや、この施設は生きている……のか?」

 比較的確実性の高い記録があるのが二千年前まで。その頃には遺跡が既に確認されている。それほど長期にわたって稼動し続けるような動力源が、今のエアリアに作れる国があるのだろうか。

 有史以前の超文明。その技術力を目の当たりにし、戦慄する。

 なぜこんな文明が、こんな超技術が今存在しないのだろうか、と。もしそれが滅びるとしたら、一体何があったのか、と。

「そして遺跡を動かしたのがこの子ってことは、だ。現実的な所で言うと、先祖代々その秘密を……いやないな」

 先祖代々遺跡について語り継ぐ一族の末裔である。そうアディンは推測して言葉にしたのだが、それはない。

 壁――動いた以上あれは扉とすべきか。ともかく、それが動く前に聞こえた音声。それによればシオ・シラギクという少女はこの遺跡の管理者として登録されている。つまり、遺跡が出来た当時には既に存在していた人物という事になる。

「まさか、先史文明の生き残りなのか……?」

 信じられない事だが、そう思うしかない。疑いながらシオのほうを見ると、シオは首を横に振った。

「その推測は半分は正しく、半分は誤りです」

「半分?」

「だって、私は本物のシオ・シラギクじゃありませんもの」

 一端深呼吸し、まっすぐアディン達を見つめてシオは語りだす。

「わたくしは、あなた方が先史文明とする文明によって作られた、シオ・シラギクのパーソナルデータを完全模倣した人型制御ユニット。限りなく人間に近い体組織ですが、純粋な人間ではありません」

「?」

 ヴィールが難しい顔をして首をかしげる。

 理解しようとはしているが、彼の理解を越えているようだ。

「当時生きていた人間の複製品(クローン)と思っていただければ。まあ、語弊はありますが」

「なんと。先史時代の技術はそこまで進んでいたのであるか。失われてしまったのが惜しい気もするが……」

 生命への冒涜ではないだろうか。少なくとも倫理的にはアウトだ。シュデムはその倫理に反する行為の結果生まれたと自ら語る少女が目の前に居る為か、それ以上言葉を続ける事はなかった。

「とはいえ、あまりにも長い休眠期間でわたくしのメモリー――記憶は大部分が欠損してしまっています。覚えているのは、自分がシオ・シラギクという数千年以上前の人物のコピーであると言う事。皆さんが言う遺跡の扉を開ける能力を持っていると言う事。そして施設を管理する為の機能を持っていると言う事くらいです」

「ああ、悪い。ちょっと理解の範疇越えてるわ」

「だろうな。そんな顔してるぞ、ヴィール」

「……解った。これ以上は聞かない」

「トリア?」

「重く考えすぎ。切り替えよう。彼女がどんな存在であれ、今を生きる人間と同じパーソナリティがあるなら、それは人間以外の何ものでもない。彼女は私達と同じ人間。それでいいじゃな……ひぅ!?」

 シオがトリアに抱きついた。トリアは突然のことで素っ頓狂な声を上げてしまい、赤面する。

「ありがとうございます。判ってはいたんです。飛燕小隊の皆さんも、バトルコスモスの皆さんもきっとわたくしの正体を知っても受け入れてくれる人なんだ、って。でも、わたくしは解ってなかった……」

「……ありがとな。嬢ちゃん。俺達ぁ、こいつに言うべき事を言ってやれてなかった。仲間だのなんだとのと言っておきながら、伝えるべき事を伝えずにいた。そうだよな。お前は認めてもらいたかったんだよな、人間として」

「不安だったんですね、シオも」

「レンナさん。話はもういいんですか?」

「ええ。例の蜥蜴人間(リザードマン)の脅威はもう無いでしょうから、最初の隊列のままこのまま先へ進みます。それよりも、ありがとうございます。トリアさん」

「私は、何も」

「いえ。それでも。彼女が発見された時、彼女の言った通りの他人の役を与えられた無名の管理者という状態でした。そこには彼女個人というパーソナリティがありません。それに私達は気付けなかった」

「違うよ、隊長。ボク達は気付いていたさ。ただその違和感に目を向けなかっただけ……本当、バカだよなあ」

 そういうものなのだろうか、とアディンとヴィールは顔を見合わせる。

 自分自身という個を定義する名前があり、自分以外の何物でもなく、自分の道は自分で選べる彼等には、きっとシオ・シラギクという役割を与えられてしまった少女の気持ちは理解できない。

 この苦しみと解放感は、彼女だけに与えられた苦悩であり――祝福なのかもしれない。

「トリアさん。ありがとう……」

「うん……シオも。もっと胸張って生きていけばいいと思うよ」

 そう言いながらトリアはそっとシオを抱きしめた。

 確かな感触。確かに感じられる体温。間違いなく、彼女は人として生きている。そうトリアは確信する。

「そう、貴方は人間なんだから……」

 その呟きにどのような意味があるのだろうか。誰に聞かせる訳でもなく、ただ静かに呟いた言葉。

 間近で聞いたシオもその言葉の意味が理解できなかった。

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