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蒼天のヘクス・イェーガー  作者: 銀色オウムガイ
第四章 遺跡編
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遺跡の襲撃者

 合同調査が決まったあとは、強化外骨格の数がそろい次第目的地へと出発。

 現地で調査隊本体と合流し、軽いブリーフィング後に準備の時間を設け、各々が自分の与えられた職務を全うすべく準備を始めていた。

 といっても、オウカ国側の人間の多くは強化外骨格についての講習をシュデムから受けているだけであり、アディン達もこれといってすべきことがない。

 強いて言うならば、マッピング係を誰がやるかが決まっていない。それを決めない事には入り組んでいる遺跡の調査は困難である。

 進む分には問題ないが、いざ戻るとなった時に正確な位置の把握と地図の存在は不可欠だ。

「俺は無理だな」

「私も」

 ヴィールとトリアが真っ先にその役目を辞退した。

 尤も二人に期待されたのは、遺跡内にいる敵性存在の早期警戒である。マッピングができる出来ないはさほど当てにされていない。

「実は僕達のほうも出来る人間がいないんですよね」

「わたくし等、自分たちの拠点内でも迷子になるくらいでして」

 レンナは、というとこの中で一番上の立場ということもあり調査隊の各部隊の隊長を集めたミーティングに参加し離れている上、最初から出来ないと本人は言い切っていた。

「ゴウトさんは、まあ無理だよなあ」

「強化外骨格の手でマッピングは流石に」

「そちらのほうはどうですか?」

「そもそも遺跡調査なんてした事ないんだから無理だと思うんだが」

 尤もである。

「まあ、可能性のある人は……」

「ん?」

 無口で戦闘要員であるエルアなら出来るかもしれない。

「エルアさん、一応聞きますがマッピングって出来ますか?」

「……ん」

 親指を立てて肯定する。

「できるそうですが、エルアさんに頼むのは最後の手段だな」

「何でだよ。決定でいいじゃないか」

「いや、戦力として確保しておきたい。この人滅茶苦茶強いから」

 その強さを実際に目の当たりにしているアディンは、エルアの戦闘力を奪ってまでマッピング係にしてしまうのは勿体無いと考えた。

 強獣を一太刀で切断するあの驚異的な戦闘力と、いざという時の瞬発力を殺してしまうのは勿体無い。

 故にアディンはエルアにマッピングを頼むのは最終手段にしたいのだ。

「じゃあ誰がやるんだよ」

「調査隊なんだから出来る人いるだろ。その人に任せよう」

「いる事にはいるんだけど、その人今入院中で」

「入院? 事故か何かか」

「いいや。襲撃だ」

 強化外骨格の説明を受けていたゴウトが、受け取った資料を読みながらアディン達の会話に入ってきた。

「ゴウトさん、いいんですか?」

「良いも悪いもない。これからご一緒するんだ、知っておかなきゃならん情報だろう」

「それで、襲撃というのは?」

 穏やかなワードではない。

 遺跡の調査で事故が起きた、ならまだわかるが襲撃と聞いては警戒せざるを得ない。

「調査隊は俺たちが合流するよりも前から幾度となく遺跡に挑んでいる。まあ、例の如く途中で進めなくなって踏破はできてないんだがな」

「物理的に存在する壁、ですね」

「ああ。その壁を突破できるかもしれない、となって今回の調査が行われる事になったんだが……まあ、それは置いておいて。何度目かの調査の時、その壁の前に現れた謎の集団に調査隊が襲われた。その時はまさか戦闘になるなんて思ってなかったからな。死者こそでなかったが甚大な被害が出た。マッピングを担当していた人間もその時重傷を負って入院中。その他多くの人員が今回の調査に同行できないと診断されている。おかげで士気もガタ落ちだったんだが……」

「なるほど。だから強化外骨格が必要だっのか」

 不足したマンパワーを補うために個々のもつパワーを補強し、不足分を補う。そのための手段としての強化外骨格は有効だ。

 何より、それを装備している事によって襲撃された際にも対応が可能だ。

 問題は強化外骨格を使うのがオウカ国の人間であり、その加減を理解していないということか。だが解り易い強化装備は襲撃を受けて下がった士気を立て直すのには有用だったようで、ゴウトが言うほど士気が落ちているようには見えない。

「それで、襲撃してきた相手について判っている事は?」

「それが、人型で自分たちより少し大きい程度だった、と襲撃を受けた隊員からは報告を受けてるんですが」

「当然。調査隊といっても正規の訓練を受けた軍人だから、不意打ちとはいえ野党やら盗賊やらにそこまで手痛くやられるとも思えないし、何よりそういう奴等が傷ついた相手を見逃すとは思えない」

「脱走軍人という線も考えたが、これもナシだ。それこそ不意打ちなら確実に初撃で仕留めるように教えられているはずだ」

 なのに逃がした。敵意はあるのに、逃げる相手を追わない。

 確かにそれが人間の手によるものであるならば不自然だ。

 そもそも不意打ち――奇襲を使う場合、相手のとの戦力差が大きい場合が多い。

 数の優位性というのは大きく、仮に両者が歩兵装備のみであった場合正面から、仕掛けてもその差が大きければどうやっても勝敗は覆らない。

 だからこそ相手の想定していない攻撃を仕掛け、反撃される前に数を減らし優位性を覆すと同時に相手を混乱させて戦いを有利に持ち込むことができる。

 尤も奇襲は戦略的・戦術的ともに有効であり、たとえ数の優位性の問題がなくても行われるのだが。

 そして奇襲を行う際には、確実に相手を仕留めなければ確実に反撃を受ける。逆に仕留める事が出来ればそれだけで相手を混乱させ撤退あるいは殲滅まで持っていける可能性がある。

 が、今回の場合はそういう訳ではなく、攻撃はする、負傷もさせる、だが殺さず、逃げても追わない。

 遺跡のように道筋がはっきりしていて、入口も一つしかないような場所で、自分の姿を晒しておいて追わないというのは人間ではまず考えられない。

 もし人間が相手ならば、既に遺跡からは撤退しているはずだが、遺跡の入り口には以前の襲撃から今日までずっとオウカ国の調査隊が駐屯しており、何者かが遺跡から出て行ったという話はない。

 つまり、未だ襲撃犯は遺跡の中にいる、ということだ。とはいえ外に駐屯部隊がいる事を知っており、出るに出られない状態にある、という可能性もあるが。

「どっちにしろ相手はこちらを待ちかまえている可能性が高い、という事ですか」

「でもまあ、エルアさんがいるなら……」

 その瞬間。アディンの脳裏にあるイメージが浮かぶ。

 カタナを使った一刀両断。もしその相手が人間だったら?

「どうした、アディン」

「いや、うん。相手が人間かどうかだけ確認してからエルアさんには動いてもらおう。そっちのほうがみんなの為になる」

 アディンの言葉にその場に居た全員が首をかしげた。




 準備も整い、遺跡の調査がいよいよ始まった。

 強化外骨格を装備した戦闘要員が先行。周囲の安全を確保しながら後続の調査隊本体を護衛。

 その後にアディン達が付いていくような形であるが、最後尾には飛燕小隊の四人が配置されている。

 最も危険なのは先頭であるが、後方警戒もおろそかにできないと言う事で自然とそういう隊列になった。

 なおヴィールとトリアは長い隊列の中央あたりに居り、その聴力と目の力を以って周辺警戒に努めている。

 一応の戦闘要員であるアディンとエルアは主にシュデムと彼が引きつれたシルキーが運ぶ物資の護衛が主な仕事、といったところか。

 道中、何も問題なく進むが空気が重たい。

 無理もないだろう。アディン達や飛燕小隊の四人はともかく、他の人間は一度襲撃を受けている。気を張るのは当然と言える。

 結局、碌な会話もなく当初の目的地である壁の前にまで来てしまった。

 ここまでは無事に進めた、とも言える。

「ゴウトさん」

「ああ、お嬢。ウィスタリア組も警戒してくれ。前に奇襲を受けたのはここだからな」

 まさに事件の起きた現場。襲われた経験のある者達は気を張り詰め、周囲をこれでもかというくらいに見渡し警戒している。

 うす暗く、やたらと広い空間ではあるが障害物が多く隠れる場所も多い。

 ここで奇襲を受けた、と言われてもどうにも違和感がある。

「ヴィール、どうだ」

「何も聞こえないな。ていうか強化外骨格の音がうるさすぎる」

「トリア」

「エーテルの流れに妙な感じはない、かな。こっちも人が多くて流れが見えにくいけど」

 聴覚による探知も、エーテル視認による探知にも問題なし。

 二人の能力については信用するが、それを信用できないほど空気が張り詰めている。

 この空気の張りつめ方。調査隊が原因と言うわけではない。アディンがそう思えるのは、隣にいるエルアの表情が非常に険しいものになっているからだ。

 普段の大人しそうな雰囲気とは異なり、見るからに気を張り周囲を警戒し、今にもカタナを抜かんと構えている。

「エルアさん、どう思います」

「……いる」

 その言葉だけで、確信に変わる。

 この場所には、敵意のあるものが潜んでいるのだ、と。

 だが。だとすればそれはなんだ。

 音がしないのは、動いていないからだと説明ができる。だが、エーテルが見えないというのはどういうことか。

 エーテルは生物であるならば自然とその身に取り込むものであり、生物がいるだけでそこへ流れる。

 なのにその流れが見えない、とトリアは言った。

 だがエルアは確かにその存在を感じている。

「レンナさん、ちょっといいですか」

「どうしました、アディン」

「周辺の警戒をしてください。ヴィールに聞こえないだけならまだしも、トリアに視えないのにエルアさんには感じられている。こんな不気味な事はない」

「……シア、エクウス」

「はい」

「了解です」

「お嬢、俺ぁどうすりゃいい」

「当初の予定通り、最悪の場合は鍵を連れて逃げてください」

「……承服したくねえが、仕方ねえか」

 飛燕小隊が何やら妙な会話をしているが、ここで気にしても仕方ないだろう。

「シュデム先輩、一応聞きますが自分の身は自分で守れますか?」

「はっはっは。無理にきまってるであろう。そもそも眼帯のせいで片目でしか見えないから周りの状況とか全く見えてないのであるな!!」

「だったら外せよ!!」

 思わずツッコんだ。

「まあ落ち着くのである。自分で身を守れない代りに、お前達にはちゃんと得物を用意してあるのである。ほれ、ここに三つの短剣があるじゃろ」

「何キャラですか……」

 そういいつつもアディンはシュデムから短剣を受け取る。

 見た目は普通の短剣。だがそれに触れてみてわかる。

 これは、キャストブレードだ。

「……先輩、これどうしたんですか」

「二週間、ある意味ではヒマであったからな。ちょーっと資材をちょろまか……こほん。折れたキャストブレードを人間サイズに加工したものであるな」

「聞き捨てならない言葉を聞いたのですが」

「気のせい。気のせいである」

 あとで会計担当に確認させよう。

「ヴィール、トリア。お前等の分もあるぞ」

「え、ああ。サンキュ」

「これ、キャストブレード?」

「みたいだな」

 素振りでその感触を確かめる。

 妙に長い剣を渡されるよりはずっと役立ちそうだ。

「エルア・イスナイン。流石に四本目は用意できなかったのである。狭い空間でそのカタナは振い辛いであろうが」

「大丈夫、最悪これでやる」

 そういって手刀を構える。

 この人なら本当にやりかねない。そう思ったアディンは妙に引きつった笑いを浮かべた。

「各員、警戒そのまま。互いに背中を守り合うように」

 レンナの指示に従い強化外骨格の隊員が背中を合わせ、非戦闘員の周囲を囲いあらゆる方向からの襲撃に備える。

 ヴィールとトリアも集中し、警戒にあたるが彼等は異常を感じていない。それが焦りを生じさせているようにも見える。

 が、ついに動きがあった。

「……来る」

 そう呟いた瞬間。エルアの右手はカタナへと伸び、地を蹴って弾丸のように跳び出すとそのまま抜刀。同時に何かを切断した。

「っ! 何これ。囲まれてる!?」

 トリアの叫び。それに呼応したかのようなタイミングで、何もない場所から人型のものが現れる。

 エルアが斬ったのも、それと同じ姿のものであった。

「音もなく、直前までトリア嬢に気付かせないだと! 冗談じゃない!」

「それにあの見た目、まるで……」

蜥蜴人間(リザードマン)、だな」

 気付けば無数の蜥蜴人間(リザードマン)に囲まれている。

 絶体絶命。万事休す。それでも、ここを切り抜けなければ先へは進めないのだ。

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