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蒼天のヘクス・イェーガー  作者: 銀色オウムガイ
第四章 遺跡編
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失われた伝説を求めて

 パステークにバトルコスモスが停泊して二週間が経過しようとしていた。

 流石にこの頃になると卒業式で本国へ戻っていた面子もほぼ全員戻ってきているが、それでもここから出航できない理由があった。

「共同調査、だと?」

「はい。ルー陛下から直々に連絡がありました。バトルコスモスの面々には、我々オウカの遺跡調査の支援をして頂きたいのです。これはレヴァンダ陛下も承諾してくださっています」

 ガドルはブリーフィングルームにオウカ国の代表としてやってきたレンナを迎え入れたが、まさか他国の人間であるレンナから新たな任務が伝えられるとは思いもしなかった。

「すまない。まさかこちらの任務を君が持ってくるとは思いもしなかったので、少し面食らっていた」

「私もです。まさかこの任務を他国の人間と共同で行うとは思いませんでした。それと、現在工廠のほうで準備をしてもらっています」

「工廠で? 何を」

「強化外骨格を投入するつもりでいるようで。何せ、遺跡調査ですからね。何が起こるか判りませんし、ヘクスイェーガーは入れませんし」

「遺跡調査? 遺跡といえば、あの遺跡か」

 その問いにレンナは頷いて肯定した。ガドルも渡された指令書に目を通しはじめる。

 世界各地に存在し、現在存在する惑星エアリアのいかなる国家の文明とも異なる技術で作られている謎の施設。

 不自然な形で大地に埋まっていたり、湖底に沈んでいたりと、明らかに今の大地が形成されるよりも前からそこにあったとしか思えないような場所で発見される。

 またある程度はそのまま進めても一定深度まで達すると行く手を阻む壁が現れ、その先の調査が一切できていない、秘境や下界全域と並び惑星エアリアにおける人類の未踏領域の代名詞である。

 しかしパステークの遺跡となれば、調べる必要があるのか、というのはガドルにとっては疑問である。何せパステークはどこの国家にも属しておらず、管理組織にちゃんとした申請と調査費用さえ支払えばどんな国でも遺跡の調査ができる。

 そんな場所の調査など今更やったところで新しい成果など得られないだろう。

「実は、我々は遺跡の壁を突破する鍵を手に入れたかもしれないのです」

「何? あの壁を、か」

「はい。我々の任務はその鍵をパステークまで送り届けることでした。もしその事が外部に漏れでもしたら、大きな混乱が起きる事は必至です。それ故に皆さんにはお伝えできなかったのですが……」

「その口ぶり。君の任務は達成できた、という風に聞こえるが」

「ええ。我々の運んでいた鍵は、人間ですので」

「……すまん。聞き間違えたか」

「いいえ」

 一瞬幻聴かと思ったがそうではないらしい。だが幻聴を疑うくらいには疲れていると自覚したガドルは、そろそろ一度しっかりとした休養を取るべきではないかと考え始めていた。

 尤も、本当に休めるかどうかと言われると、確実に休めないのだろうが。




 中央格納庫では、先日所属不明の敵性勢力との戦闘で鹵獲した機体の解析が行われていた。

 その結果、様々な事が解ってきたが、それを見たエリマやシュデムを始めとした技術畑の人間は鹵獲機のコンセプトを一言のもとに切り捨てた。

 ――狂っている。

 ウィスタリア王国やオウカ国の機体は、姿勢制御のために全身のいたるところに大小様々なエーテルリバウンダーの噴射口が存在し、それによって運動性の向上を図っている。また対魔女戦を想定している為、単純に機動力に特化させるよりも小回りが利くような調整をしたほうが有効だと言う事もある。

 規格外の速度を出せるアルトエミスですら、あくまでもそれは任意で選択できる一つの機能に過ぎない。

 だがこの鹵獲機――アターカと呼称される機体はそれがない。

 何よりエーテルリバウンダーの配置が、彼等の知る機体の位置とは異なり脚部にのみ装備されている。

 これの意味する事は、万が一脚部を失えば推進力を失い、機動力を失うと言う事に他ならない。

 また機体の正面装甲がエアリウムではなく様々な金属の複合装甲で分厚くなっており、その分上半身は重たく、たとえ装甲のエアリウムが浮力を生み出していたとしても脚部のエーテルリバウンダーが機能不全を起こせば浮いていられず、落下は免れない。

 また腕に至っては格闘戦を想定していない、完全に突撃槍とシールドを構えてそれを支える為だけの簡易的な構造をしている。

 簡易的な構造は腕だけにとどまらず、機体の各部がそれぞれの部位の役割に振りきっている。それ以外の機能は完全に削ぎ落とし、脚部ですら接地脚としての機能をほとんど持っていない。

 要点を纏めると、突撃による一撃離脱以外の戦法がまず取れない、機動力は高いが姿勢制御に難があり運動性は低い、構造そのものは単純であり製造コストは低い、といったところか。

 魔女との戦闘という点が一切考慮されていない、完全に人間を狙って攻め落とすような攻撃的な意思すら感じる。

「故にあの支援機、ベイルに回収してもらってたという訳であるな」

「なるほど。興味深いお話ですね」

「む。しかしエクウス・セイランとやらよ。騎士である貴様が敵機の構造について学んだところであまり実りはないと思うであるが?」

「そんなことないですよ。僕、機械とか好きなんで!」

「それは理由になっているのであろうか。いや、まあいい。そちらの隊長がウチの艦長と面会していると言う事は、ウィスタリアとオウカの間で何か動きがあったのであろう。どうせ何らかの共同戦線であるな。故に、これらの機体のデータは纏めておくのである」

 マルチタスク、とはこの事だろう。

 シルキーの改造とアターカの解析や技術検証などを行いつつ、アターカについてのレポートの作成も始めている。

 自身を大天才と称するのは伊達ではない、ということだろう。

 ただ普段の言動がもう少し大人しいものなら、誰も疑ったりはしないだろうが。

「して。たかが遺跡調査に、そちらの駐屯部隊だけでは足りないというのは解せん。何か裏があるとみたが。というか、材料費すべてをオウカが請け負っての強化外骨格の増産指示が回ってきてる時点で何かあるとしか思えないのであるが。むしろなんでオウカからウチの国王の勅令が届くのかと小一時間問い詰めたい。……問い詰める相手もいないのだが」

 シュデムが手にした一枚の指令書。それはレヴァンダの署名がされており、ただの指示書ではなく勅令である。

 そこに書かれたのは強化外骨格の増産指示だけではないが、それ以外の点についてシュデムには関係がないので、まともに読む事なくシルキーを全機投入して強化外骨格の増産に勤めていた。

 投入当初は操れる人間が少なかったシルキーも、なんだかんだと使用する機会が多い為か、今や機体の整備を担当する人間なら最低三機は同時に操作できるようになっていた。

 これにより、バトルコスモスの工廠設備の生産能力はウィスタリア王国本土の工廠に劣らないほどに向上していた。

 その分、個々の負担は増したと言えるが。

 その工廠機能をフル回転させて増産し続けている強化外骨格であるが、シュデムとしては複雑な気分であった。

 指示された数を生産する事に異論はない。だが、それなりの数が必要とされていると言う事は、それ相応の事に使うつもりがある、と言う事。

 テストは繰り返しているし、パステークに来て二週間もの間遊んでいた訳でもない。

 だがそれでもシュデム自身は実戦に耐えうる完成度ではないと感じている。

 最大の問題となるのが稼動時間。現行の方法では短すぎる。

 それを投入するつもりならば、稼動時間の短さはどうにかしなければならない問題である。

「どういうつもりなのだろうな。上は」

「どうもこうもねえよ。バカ。さっさと手を動かせ」

「そうはいうが凡人眼鏡。貴様も吾輩同様、強化外骨格の実戦投入は尚早だと思っているであろう」

「まあ、実戦投入するにしては稼動時間の問題がな」

「そんなに短いんですか?」

 完全に外部の人間であるエクウスは知らないが、現状の強化外骨格は稼動時間がかなり短い。

 恐らくではあるが、実戦投入などしようもなら行軍だけでバッテリーを消費しきる。

 こればかりはどうしようもない。バッテリーの大型化はそのまま重量増加に繋がり、結局は稼動時間の低下に繋がる。

 マナでの運用に切り替えればこの問題は解決するようにも思えるが、ここで製造される強化外骨格は強獣から採取される金属繊維を使ったもの。マナなどで動かそうとしたら中の人の身体が持たない

「とにかく。行軍時点でバッテリー切れを起こす、予備の充電用スクロールの携行数にも限界がある。歩兵用装備としては大き過ぎる欠陥だ。バッテリーも予備スクロールもなくなれば、ただの重たい鉄の塊になる」

「しかも自分では着脱不能。そんなものを遺跡探索などというどこまで進むか未知数な状況で使うようなものではないのである。正直、本来の用途である強獣戦での運用にもゴーサインなど出せない状態であるというのに」

「でも、使えない事はないんですよね」

「それが問題なのである……」

 そう、ただの未完成品とは異なり、強化外骨格は使えるのだ。使えてしまう。

 稼動時間の問題はあるが、それ以外は問題がない。稼動時間の問題も山ほど充電用スクロールを用意すれば問題がない。

 それはそれでランニングコストの問題はあるが、運用方法がないわけではない。

「まあ技術屋のワガママみたいなもんだと思ってくれていい。より完璧に。より高性能に。そう思いだすと、現行性能に満足できなくなってくるのさ」

 そこへ、エクウスを迎えに来たゴウトとシオが合流する。

「強化外骨格の生産はどんな感じで?」

「指令書通りにやっているのである。もうじき頭数だけは揃う」

「すいません。ウチの遺跡調査なのに」

「それはシオの気にする事じゃない。あたし達はあたし達でやる事をやるさ」

 続々と工廠では強化外骨格が出来上がって行く。

 これを使用するのはバトルコスモスのクルーではなく、オウカ国の遺跡調査隊である。

 備えあれば憂いなし。そういうつもりで強化外骨格を用意させているのだろうが、開発に携わったエリマとシュデムは不安しかなかった。

 稼動時間の問題を理解していない人間が使っても大丈夫なのだろうか、と。




 パステークの遺跡調査はオウカ国主動で行われる事が決まっている。

 あくまでもバトルコスモスはウィスタリア王国の代表としてその調査に同行、支援するという形をとる。

 オウカ国は以前から遺跡調査をしていた調査隊および飛燕小隊の四人が参加。

 調査隊の戦闘部隊にはバトルコスモスで製造された強化外骨格が与えられ、安全の確保を担当。飛燕小隊でもゴウトが強化外骨格を着用する。

 一方ウィスタリア王国からは、アディン、トリア、ヴィールの三人に、シュデムとエルアを加えた計五人が同行する。

 この選抜になった理由は、トリアの眼やヴィールの聴覚によって早期警戒が可能である点、シュデムは強化外骨格のメンテナンス、アディンとエルアは単純に戦闘要員として選抜された。エルアに関しては医者としての技能も求められたから、という理由もある。

 オウカ国側と異なり、こちらは強化外骨格を使用しない。代りに小改造を加えて運搬能力を強化したシルキーを複数機同行させ、発見された研究史料および充電用スクロールの運搬を担当する。

 万が一遺跡内で分断された時のために各員にはモフモフを配布。これによって連絡を密に行える状況を作り、遺跡の踏破へ挑む。

 この調査によってどのような発見があるのか。またどのような動乱が起きるのか。その答えは、今はまだ遺跡に眠っている。

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