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蒼天のヘクス・イェーガー  作者: 銀色オウムガイ
第三章 卒業編
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王と女王の対談

 バトルコスモスが離陸したのとほぼ同時刻。

 レヴァンダは新しい玩具で遊んでいた。

「いいな。実にいい。ヘスティオンとは違うというのが良く分かる。いや、ラキシスがベースだったな。だが、実に面白い」

 王都工廠で完成した新たな機体。

 なんとかアルトエミスを解析して出来た技術を組み込んだ、技術試験機アトロフォス。その操縦席にレヴァンダはいた。

 自らが機体を操り、それを国土から離れた空域で自由に飛ばしている。これを遊んでいると言わずしてなんと言うのか。

『陛下。自重してください。陛下がそう不用意に出られては、我々の心臓が持ちません』

「すまんな。だがいい機体だ。ここまで出来がいいと遊びたくもなる。それにこの試作一号機。私の機体だと聞いたが?」

『式典用です。アルトエミスは流石にそのまま公表できる機体ではありませんので』

「なるほどな。確かに、素晴らしい技術だ。マナを溜めこんでもレッドゾーンに達する前に外部に放出されるというのは。学生の考案したものとは思えないな」

『それでも大分簡略化しています。彼等の作ったコンバーター二基搭載に耐えられるほどの構造はしていません』

 アルトエミスの技術解析は困難を極めたが、その大まかな構造の把握は完了していた。

 ただできなかったのは、エーテルコンバーター二基から供給される膨大なマナをどうやって処理するか、である。

 アルトエミスに使用されている供給パイプは特殊すぎたのだ。実際、開発にあたりアルトエミスに使用されたパーツの多くがクエルチア騎士学園の格納庫で生み出された一点もののパーツ。そのパーツのデータなどは記録されておらず、工廠での再現ができなかったのだ。

 だが、やろうとしていることが判ればあとはその再現だけである。そうして出来たのがこのアトロフォスだ。

『しかしよろしいのですか? この機体は……』

「構わんよ。それ相応の条件だ。さて、そろそろあちらの空域だな」

『陛下。機内へお戻りください』

「そうだな。流石にヘクスイェーガーであちらの領空に入る訳にもいかないからな。あちらの通信可能範囲に入ると同時に回線開き、伝えよ。ウィスタリア王国国王レヴァンダ・ウィスタリアがそちらの国王に面会したい、とな」



 オウカ国首都、ショウチクは近年稀に見る騒がしさであった。

 無理もないだろう。なにせ他国の国王がアポもとらずにいきなりやってきて面会を求めて来たのだ。これを異常事態と言わずしてなんというのか。

 しかもいつものならば事前に日付を指定してから専用の高速艇を使い港から馬車でやってくるというのに、今回は事前通達もなくコンテナを接続した高速艇で直接首都へとやってきたのだ。

 当然ながら首都には港は存在しない。そのため高速艇は王都の上空で待機しているが、その光景が住民たちの不安を煽った。

 とはいえ、ウィスタリア王国王家の紋章が描かれた機体が悪さなどするはずもないのだが。

「今後、首都へ直接乗り込んでくるような真似はやめていただきたいな、レヴァンダ王」

「その点については誠に申し訳ない。ルー女王」

 ルー・オウカ。オウカ国の女王にして、レヴァンダにとっては歳も近く即位した経緯も似ているという、最も信頼できて話しやすい人間の一人である。

 国王二人の会談。だがそれに使われている場――高速艇に接続されたコンテナ内というは不相応と言うほかない。

「第一なんだ。この場所は。わざわざ呼びつけた上にこんな場所とは」

「そう言うな。だが、ここでならアレが良く見えるだろう」

「……ああ。これが例の機体か」

 アトロフォスを見上げるルーに、レヴァンダは得意げな顔をする。

「魔女を単独で倒すヘクスイェーガー。そんなものを作って、一体ウィスタリアはどこと戦うつもりだ」

「魔所以外に何がある。いや、そうも言ってられんか。丁度いい。お前にも関係のある話だ」

「……何?」

「先日、ウィスタリアの領空内でオウカ所属の飛燕小隊の機体を救助した」

「……妙な話だな。輸送機ごとではなく、ヘクスイェーガーをか?」

 明らかにルーの目付きが変わった。

「私は輸送機とは一言も言ってないがな。つまり、何かを運んでいたんだな」

 レヴァンダは飛燕小隊の任務の内容について知っている。知った上で、それをルーに言わせようと会話を誘導しようとしている。

 何せあの場でレンナが嘘を付く事も考えられる。いくらプレッシャーを掛けたとはいえ、自国の機密に携わった人間が簡単に話すとは思えない。

 これは確認だ。どこまでが証言通りで、どこからが偽証なのかを確かめなければならない。

 もしレンナの語った事が本当ならば――レヴァンダが持っていた今までの常識は崩れ去る。

「それを他国のお前に言う必要があるか?」

「ウチのがく……もとい。試験小隊が接触した時には所属不明のヘクスイェーガーに襲われていたという。襲われるだけの理由があると私は考えるが」

「輸送任務を命じたのは確かだ。領空に居たのも途中でウィスタリアで補給を行う予定もあったからだ。襲ってきたのは今頃流行らない空賊か何かじゃないのか」

 空賊。言われてみればその可能性もないわけではない。だが、ただの空賊がどこの国の機体とも異なる独自のヘクスイェーガーを運用するだろうか。

 あり得ない。確かに空賊ならば対人戦闘に長けた装備やマニューバを行えるだろう。

 だが。既存の機体と外見からして大きく異なる機体を用意できるか、というとそれは否である。

 謎の勢力が独自生産した機体であろうと、既存の機体を偽装しただけの機体であったとしても、その作業をする設備というものが必要だ。

 そんなものをただの空賊が持っている筈がない。

 そもそもルー本人が言っている通り、魔女がいつ出現するかもわからないこの大空での略奪行為というのは危険極まる。魔女が出現する以前ならまだしも、流行らないのだ。

「……何を隠している、ルー」

「何も。嘘は言っていないさ」

 そう。何も嘘は言っていない。輸送任務も本当の事。ウィスタリア王国の領空に居たのも、ウィスタリア王国に寄港して補給する為。

 だが、決定的な要素が聞き出せていない。

「そうだな。お前は嘘は言っていない。だが、それで納得できると思うか」

「してもらうしかないさ。空賊が狙うものなんて輸送任務をしていればいくらでもあるだろう。金品、ヘクスイェーガー、資材、食料」

「化学兵器」

「……何?」

 ルーが明らかな怒気を孕んだ声を出す。

「まさかオウカそのものを疑うのか。しかも国の長たる、お前が! その意味する事を判らぬ訳ではあるまいな!」

「理解している。だがな。ヘクスイェーガーに搭載可能なサイズのもので、小隊規模の戦力を護衛として付ける理由のあるモノと考えればそういった危険物に行きつくのは自然だろう」

「貴様……! 何を見た!」

「何も。だが想像はできるさ。尤も、私の想像は常に最悪の結果を描くのだがね。事と次第によっては、我が国は貴国との関係を解消することすら視野に入れるが」

「ッ……! レヴァンダ、貴様」

 それは脅迫である。

 ウィスタリア王国とオウカ国とでは国の規模が異なる。圧倒的にウィスタリア王国のほうが経済力や軍事力、兵器の生産力でも勝っている。

 貿易の相手でも最も大きい取引相手もウィスタリア王国である。

 もしここの対応を誤ってウィスタリア王国との関係が切れてしまうと、それによってもたらされる経済的な不利益はかなりの額になる。

 それよりもオウカ国にとって痛手となるのは、ウィスタリア王国の新兵器であるプレスガンやスクロール弾の技術が渡ってこない、ということだろう。

 もっと言えば今後開発されるウィスタリア王国製の新型機の輸入も難しくなる。国防の観点から見ても、ここでウィスタリア王国との関係解消は痛すぎる。

 両国のパワーバランスがあってこそ生じる脅し文句ではある。だが、ルーの反応からして効果はてきめんである。

「私はな、ルー。知りたいだけなのだ。直前に起きた試作機強奪未遂事件と、輸送機を襲撃した者との関係を。そのためにも、お前の知っている事を話してくれ」

「……解った。断っても、こちらが条件を飲むまで粘るつもりだろうに」

 ルーが折れた。

 レヴァンダの発言を問題視した関係解消ならば、ウィスタリア王国側に非がある。

 だがもしレヴァンダが、オウカ国が領空に危険物を持ち込んだ、と判断してそれを大々的に発表すれば、オウカのほうに非があるとされる。

 さらにそんな事をしていたなどと風潮されれば、国際的な信用も失いかねない。

 故に、素直に喋るしかない状況に追い詰められていた。

「と、言っても正確な事は何も解っている事はない。そして判っている事もほとんどないのだ」

「妙な事を言う。お前の指示だろう」

「確かにそうだ。だがアレは、我々の技術とは異なる、いわば我々にとっての先史時代の遺物。あってはならないものだ」

「……」

 やはりか、とレンナの語った事の裏付けができてしまった。

「時にレヴァンダよ。遺跡についてお前はどれだけ知っている」

「遺跡、だと? それが何と関係がある」

「あるんだよ。アレが眠っていたのは、その遺跡と同時期に作られたカプセルだったのだからな」

「何、だと……いや、待て。そう言うことか。だから目的地がパステークだったのか」

「待て。なぜ目的地がパステークだと知っている」

「そこは聞いたからな。レンナ・ムラクモ、だったか。彼女はいろいろと教えてくれたよ」

「……はあ。全く。あの娘は。どうせ自分の知っている事をベラベラと喋ったんだろう」

 ルーが呆れたようにため息をつき、頭を抱えた。

「彼女、極秘任務には向いていないぞ」

「今まさにそう思っているよ。ってことは何か。お前、最初から知っていてあんなに強気な事を」

「悪いな。だがにわかには信じられない事だ。確かめたくもなるだろう。それに、私があそこまで強気な態度をとったとして、お前が怯むか?」

「言ってくれる」

 先ほどまでの張りつめた空気がなくなり、和やかなものになる。

「まあ彼女を責めないでやってくれ。私が悪いのだからな」

「解っている。むしろ同行者を叱責せねばな。わざわざあの隊へ配属させたというのに」

 そう言えばあの時同行していたゴウトはレンナが機密を話す事を止めなかったな、と思い返す。

 どうやらゴウトは、ルーが指名した、レンナを補佐する為にあの隊へと配属されているベテランだったようだ。

「飛燕小隊は?」

「全員無事だ。ウチの新造戦艦でパステークに向けて今頃出発してるんじゃないか」

「そっちにはバラしてないだろうな」

「輸送物資についてはな。表向きは新造戦艦の運用試験と、次世代試作機の試験と言う事になっている」

「ならいい」

 ルーは完全に気を抜き、緊張で無駄に力の入っていた肩をほぐす。

「侘びと言ってはなんだが、そこの新型機、アトロフォスというのだがな。一機そちらの国に進呈しよう」

「いいのか? 最新鋭機だろう」

「構わん。何せこいつが件の機体とは別の機体だからな。まあ、その機体の技術はフィードバックされているが」

「……その件の機体はくれんのか? 魔女を倒すほどの機体ならば是非ほしかったのだが」

「……あんなものを他国に渡したって、誰も信じてくれないからな」

 学生が造った機体が単独で魔女を圧倒した。そんな事、流石に親しい関係であるルーにも言えなかった。

 そして、いつの間にかアルトエミスは単独で魔女を倒せる機体だと、噂に尾鰭がついている事を認識し、なおのこと本当の事を言えなくなってしまった。

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