オウカ国からの客人
アディン達が乗ってきた輸送機に収容できる機体はせいぜい四機である。
これは一個小隊規模を輸送する程度の目的で使用されるものであり、大規模を長距離輸送する為の機体ではない。
クエルチア騎士学園はもっと大型の――アマティスタ戦において使用された、一度に多くの物資や機体を運べる大型機がない訳ではないが、あの時は速度が必要だったため使用したに過ぎない。
今回のように、速度を必要とせず、一個小隊分を運ぶだけで、戦闘にもならない予定の場合は通常は小型機を使う。
故に、オウカ国の飛燕小隊の機体三機を収容すれば格納庫は一杯になってしまう。
「飛燕小隊隊長のレンナ・ムラクモです。助かりました。あなた方と合流できなかったら、我々は全員あの場で殺されていたでしょう」
「クエルチア騎士学園高等部鍛冶科のエリマ・ヴェイフです。いえ。現場の判断に賛同しただけです。礼なら学園についた後で、外にいるアイツに言ってやってください」
非戦闘要員を抱えたズワウル三機を優先して収容した結果、どうしても収容できない機体が出てくる。
収容できるのは一機のみ。四機の中でも機動力に問題を抱えたヘカティアを収容し、輸送機上部にアルトエミス二号機が張り付き、左右にはアストライアとアルトエミス四号機が周囲に目を光らせている。
「エリマ先輩。アルからの連絡。周囲に敵機や魔女の反応はないそうです」
「了解だ。ていうか、お前は連絡係なんてやらず不具合まとめとけ。ハイテンションマッド野郎に直させるんだからな」
「わかってます」
「彼女は?」
「撤退する際に長距離支援を行っていたのが彼女です」
「トリア・サラーサです」
「姿が見えない距離からの長距離支援……! 素晴らしい腕です。レンナ・ムラクモです。よろしくお願いしまあす」
「……どうも」
差し出された手に応えつつも素直に称賛されるのに慣れていないのか、トリアは恥ずかしげに顔を目をそらす。
手を離すと一礼してからその場を離れ、待機室へと駆けて行った。
「一応、国王陛下には連絡を入れてあります。一旦は学園のほうに向かい、機体を降ろしてからあなた方を港へお送りします」
「助かります」
「しかし、あたしとしても驚きましたよ。まさか小隊長が女性。しかもあたしと同世代だとは」
「オウカでは十五で成人です。軍に入ればあとは実力次第で小隊長どころか旅団長すら不可能ではありませんよ。尤も、十五でそれに値する戦果を挙げる人間はまずいません。それよりも……」
レンナは目を輝かせながら格納庫を見まわす。
確かに、オウカ国から来た彼女等にとってこの輸送機に置かれているものは興味を引かれるものばかりだろう。
何せプレスガンはまだ数が揃えられておらず、輸出していない代物である。流石に試作型の投入からしばらく経っている為公表こそされているが、実物を見るのは初めての事なのだろう。
それ以上に、部外者から見ればこの輸送機に搭載されたプレスガンは小隊規模の機体を運用するにしては過剰すぎるほどの数が搭載されている。予備が含まれているとしても、だ。
勿論それほど大量のプレスガンを所有できるのは、クエルチア騎士学園がプレスガン発祥の地であり、今もなお新型や改良型のプレスガンの研究がおこなわれているプレスガン開発の最先端であるからなのだが。
彼女が目を輝かせているのはプレスガンだけが理由ではない。
機内に唯一収容されたヘカティアである。
ヘスティオン、ラキシスに次ぐ新型機が開発されたとは多くの国が知る事である。だがそれが実際に目の前にあるというのは、同じヘクスイェーガーを駆る者としては興味を引かれるものだ。
「一体、クエルチア騎士学園とはどれほど潤沢な資金源を持つ学園なのでしょう。これほどの装備、なかなか正規軍でも揃えられませんよ。いや、軍以上かも知れません」
「あー、うん。それは、その」
エリマはどう説明しようかと渇いた愛想笑いで誤魔化した。
今あなたが見ている大量のプレスガンもヘクスイェーガーも全部学生が造りました。
馬鹿正直にそう伝えたらどのような反応をするだろうか。
仮にそれを信じてもらえたとして、国王陛下直々に開発の許可を出していて、事実上無尽蔵に資金の確保ができるという事までは信じてもらえないだろう。
普通、一国の王が学生に自国の新型兵器の開発を任せるだろうか。普通はしない。
「? どうかされましたか」
「いや、うん。なんでも、ありません……」
言える訳がない。
エリマは事実を告げるのをやめようと心に決めて最後まで誤魔化す事にした。
が、彼女はこの時失念していた。
学園に到着すれば自ずとプレスガン開発の光景は目にするだろと言う事。そして絶対にバラす人間が、今外を飛んでいるということを。
◆
学園に到着するなり、輸送機の外を飛行し続けた三機はそのまま格納庫へ移動し、ハンガーに固定される。
その光景を見たレンナは、いや飛燕小隊の面々は信じられないものを見た。
「ヘクスイェーガーが」
「歩いている……?」
アストライアはともかく、アルトエミスも歩行して所定の位置まで移動する。
学園の生徒ならば見慣れた光景であるが、よくよく考えてみればウィスタリア王国ですらこの学園以外ではあり得ない光景である。
「というか、なんなんですかここの格納庫は!」
レンナの叫びは尤もである。
訓練用のヘスティオンはともかく、公表されていない歩行可能なヘクスイェーガー。さらには組み立て中のプレスガンや、その発展型と思われるもの。
揚句には彼等が見た事のない形の強化外骨格や、奥のほうに放置された強獣の死体。
真っ当な場所ではない。彼等にそう思わせるには十分すぎるほどの光景である。が、それを異常であると格納庫にいる生徒は誰ひとりとして認識できていない。
「この反応が普通だよなあ」
エリマは、レンナ達のその新鮮な反応に、いつの間にか毒されていた自分を思い知らされる。
数ヶ月前のエリマならばレンナのような反応をしていただろう。だが、アディンと出会ってからは異常だと理解しつつもそれに驚く事が少なくなってきている。
「え、本当にここ学園なんですよね? なんでこんなに本格的な工廠として機能してるんですか?」
「混乱するのは解るが、落ち付けお嬢」
「ゴウトさん、これが落ち着いていられますか!? ここ学び舎ですよね。そりゃヘクスイェーガーの運用をしている以上、ある程度の設備はあるだろうな、とは思ってましたよ。でもなんですかこれは。完全に工廠じゃないですか!」
「隊長の気持ちも解るが、取り乱し過ぎですって」
「だったらシオはあの強獣の死体を見ても動揺してないって言えるんですか言い切れるんですか!?」
「……」
「ほら、エクウスとかもうキャパオーバーで固まってるじゃないですかあッ!」
レンナがこの場にいる学園の生徒全員が抱いていながら忘れようとしていた事をすべて口にした。
隊長が一番取り乱しているが、それが年相応の反応ではないだろうか。
「それはそうと、お嬢。アストライアに乗ってた騎士が降りてくるぜ」
「まだ学生だから騎士じゃないですよね」
アストライアをハンガーに固定し、ハッチを開くと同時にアディンがそこから跳び下りた。
地面に接触する寸前に≪エアシールド≫によるクッションの発生と、≪エアロスラスター≫による制動を行いスムーズに着地する。
「彼がアストライアの?」
「どうも。アディン・アハットです」
「私は飛燕小隊隊長のレンナ・ムラクモです。ありがとうございます。あの時は助かりました」
「事情はおおむね理解できましたので。それに、あいつ等どう見ても普通じゃありませんでしたし」
思い返してみると確かに不気味な連中であった。
何よりも対人戦を想定しているかのような装備。高い精度の連携。そして、見た事のない機体。
どの国、あるいはどんな組織に所属する部隊かは判らないが、少なくとも真っ当な連中ではない。
「それはそうと、俺はちょっとあんちゃんに質問があるんだが」
「えっと、貴方は?」
「ゴウト・アキツ。年齢は見ての通りオッサンだ」
確かに、ゴウトはこの場にいる誰よりも歳上だと思える見た目をしている。がたいもいい。
普通なら彼が小隊長になりそうなものだが、そこはオウカ国なりの理由があるのだろう、とアディンは納得する事にした。
「俺の記憶じゃあ、現存する稼動状態のアストライアはウーノ・ミデン以外には動かせねえはずだが、どうしてあんちゃんが動かしてる」
「国王陛下から貰ったからですが?」
「貰っ……!?」
アディンとしては本当の事を言っているだけ。だがそれを聞いたゴウトは目を見開き、口を開いたままエリマの方を向いて確認をとる。
そりゃそうだろう、とエリマも思うのだが事実なので首を縦に振る。
「いや、その。なんだ。助かった、ぞ」
「? はい」
言葉に詰まるゴウトの様子が不思議に見えたのか、アディンは首をかしげる。
「わたくしはシオ。シオ・シラギクと申します。放心しているのはエクウス・セイラン。わたくし達の中では最年少の騎士です」
「自己紹介は……いちいち要らないか」
「はい。アディン・アハットさん」
「アディンで構いませんよ。そちらの方々も。そちらのズワウルですが、騎士が四人に対して機体は三機というのは……」
数が合わない。騎士が四人いるのに機体が最初から三機しかない、というのは普通はあり得ないだろう。
何らかの理由で置いて来たか、あるいは操縦する騎士に何らかの問題があるのか。
「輸送機の格納庫に被弾した際に一機損失してしまいまして」
「ああ、なるほど」
格納庫ごと吹っ飛んだ、と言うことだろう。
(しかし輸送任務と言っていたはずだ。格納庫が破壊された時点で物資を損失していそうなものだが)
回収した機体は三機。そして操縦席からは輸送機のパイロットと彼等飛燕小隊の面々だけ。
輸送機が撃墜された、というのならば任務の対象物も損失していそうなものだ。だが、彼等は任務に失敗した、という風な様子を見せていない。
気になる。だが、むやみに掘り返す事もない。アディンはそう考えてこの場での追及はしなかった。
何より他国の内情に踏み込むものではない。
「さて、あたしは本業に戻る。レンナ隊長。各機の整備、よろしいか?」
「はい。お願いします。ブラックボックスさえ開かないのであれば」
「それは保証しますよ。お前等、他国の機体を触るのなんて滅多にないぞ。手の空いてる奴等は手伝え!」
「うぃーっす、姐さん」
そうは口でいいつつ、エリマはまっすぐ作業中のシュデムのほうへと歩いていく。
徐々に速度が上がり、両手を大きく振って綺麗なフォームで走りだす。
「あっ、このパターンは」
「絶対やりますね、アレは」
走るエリマが次にやる行動は解り切っていた。これも、慣れだ。
効き足で地を蹴り、エリマが宙に浮く。
「お前は何しでかしてくれてんだこの野郎ォォォォォ!!」
「りげるぐっ!?」
それはもう、綺麗なフォームでの跳び蹴りであった。
くの字に曲がりながら吹っ飛び、格納庫を転がるシュデムの姿を見たオウカ国の一同は、ただ茫然とその様子を見ていた。
そろそろ一度、設定とかをまとめた設定回とかつくろうかと考え中。
ただやったらやったで矛盾出しそうですが。




