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蒼天のヘクス・イェーガー  作者: 銀色オウムガイ
第三章 卒業編
50/315

謎のヘクスイェーガー

 機体を加速させていく。不審な影を確認した以上、完全に無視することはできない。

「アディン、待て。急ぎ過ぎだ」

「アディンさん。ヴィールさんと速度をあわせてください」

 後から追ってきた二人に気付き、速度を落としてヴィールのアルトエミスの横に並ぶ。

「悪い。飛ばし過ぎた。アル、何か策は?」

「後方にトリアさんを配置。万が一の時は援護をしてもらいます。アディンさんとヴィールさんは私と速度を合わせてください。センサーの有効範囲内に入ってから動いてもらいます」

「了解だ」

「やけに素直だな、アディン」

「ちょっとは反省したってことだ。あと、無茶やらかしたらトリアが怖い」

「……確かに」

 あの時の凄みを覚えているヴィールはそれに同意する。

「言っとくけど、聞こえてるからね」

「うおっ!? トリア嬢、心臓に悪い」

「ヴィール。アディンがやらかしそうになったらフォローして」

「解ってるって……」

「それじゃ行動を開始してください。トリアさん、周囲の警戒も怠らないでくださいね」

「了解」

 トリアのヘカティアがアディン等三機の機体から離れる。

 一定の距離をとりつつついてきていたヘカティアであるが、ある一定の距離まで追従するとあっという間に距離が離れ始めた。

 そしてプレスナイパーライフルを構え、その場に滞空する。

「アル、センサーの範囲まであとどれくらいだ」

「あと少しではっきりと見えてくるかと」

 姿は捉えている。だがそれが何か、という確証がない。

 魔女や使い魔ならば問答無用で攻撃するが、それ以外の場合――例えば、所属不明のヘクスイェーガーであった場合は慎重な対応が求められる。

 それが本当に領空侵犯した機体なのか、なんらかの理由がありここにいるのか。それによって対応が変わる。

「アル、ヴィール。アストライアに掴まれ。速度はこっちのほうが速い」

「そうします」

「頼むぜ」

 二機のアルトエミスが両サイドからアストライアに接近。その手を握ると、アストライアのほうからもしっかりと握りしめると速度を上げた。

「うっ……」

「これ、はっ……!」

 通常時ならまだしも、アルトエミスの高速飛行を初めて体験する二人にとって、その速度は想像を絶する負荷だっただろう。

 だがこれでもまだアマティスタ戦の時の速度と比較するとまだ遅い。というかあの時の速度が異常だったのだが。

「二人とも、口を開けるなよ。舌を噛むぞ」

「なら、何でお前は平気なんだよッ!?」

「一人でどれだけの間これ以上の速度で戦ってたと思う」

「説明になってません!」

「ほら、加速するぞ。アルはセンサーに注視。確認できたら合図をくれ」

「え、ちょ。まだ速度あがるんですか!?」

 そう言っている間に、アストライアは加速していく。とはいえ、流石に二機もヘクスイェーガーを引っ張っているので出せる速度にも限界がある。

 何よりあまり速度を上げてしまうと引っ張っている機体に乗っている二人の身体が持たない。

 しばらくして、アル機の手から伝わる力が少しだけ強くなった。

 これが合図だろう、と判断したアディンは速度を緩める。

 一人の時なら即時に制動をかけるが、流石に何も言わずに自分だけ制動をかけたら二人の機体を前に放りだすことになる。

 速度を緩めた事に気付いたヴィールも、それに合わせて速度を下げる。

「アル、何かわかったのか?」

「これ。間違いなくヘクスイェーガーの反応ですね。数は三……いえ、十二!」

「はあ!? 十二機のヘクスイェーガーだぁ? そんなものが申請もなしに飛んでるのはおかしいだろ」

「配置もおかしいです。まるで先に感知した三機は追われているような……」

 それを聞いたアディンは二人を置き去りにして飛び出す。

「アディン!?」

「俺一人で突っ込む。トリア、聞こえているな。背中は任せる」

「では私はこの場で全体の把握に努めます。ヴィールさんは私の護衛を。状況によってはアディンさんの所にも向かってもらいます」

「ああ、もう。結局こうなるのか! わかったよ、行って来いアディン」

 事実、これが現状においては妥当なやり方だろう。

 五体満足どころかアルトエミスの技術が取り入れられた事によって旧式機でありながら最新鋭機をも越える機動性と加速性を発揮するアストライア。

 センサーによってもたらされる膨大な情報を処理しきれない為操作に不具合が出るアルのアルトエミス。

 追加装備が上手く動作しなかったものの機体そのものに不具合はなく狙撃ができる武器を装備しているヘカティア。

 そして突出した性能こそ持たされてはいないが、それ故に不具合がないヴィールのアルトエミス。

 この四機の組み合わせならば自然とアディンが突っ込んで場をかき乱し、アルがその情報を整理し指示を出すことに注力。その護衛をヴィールが担当し、トリアがその後方から前線のアディンを援護するというフォーメーションになる。

 その点は四人とも同意見らしく、誰からもそのフォーメーションを拒否するような発言は出なかった。

「前の三機、多分オウカ国のズワウルです」

(オウカ国? 随分と遠い国の機体がこんなところに。本当に追われているのか……?)




 機体の国籍と機種は判った。だとしたらなおさら妙な話である。なぜこんなところにオウカ国の機体がいるのか。

 深く考えるのは後でいい、と自分に言い聞かせなおも接近する。

 そしてオープンチャンネルで通信の出来る距離までアディンが近づくと、三機のズワウルはこちらに剣を向けた。

「そこのズワウルを操縦している騎士。ここはウィスタリア王国の領空だ。所属と目的を言え」

「ウィスタリア王国……? そうか、その機体アストライアか!」

「私達はオウカ国所属の飛燕小隊です。軍規に抵触する為詳細は言えませんが、輸送任務中に謎の武装集団と遭遇。情けない話ですが輸送機を撃墜され、乗組員を抱えたままで戦闘する訳にもいかずここまで逃げてきました」

(女の声? この人が隊長なのか?)

「アル、聞こえたか?」

『はい。エリマ先輩にも確認しました。確かに、オウカ国に飛燕小隊という部隊は存在します。輸送任務というのも嘘ではないでしょう』

「見つけたのは全部で十二機。ということは残りの九機は」

『敵です』

 そうはっきりとアルが言い切った。

「こちらウィスタリア王国クエルチア騎士学園中等部騎士科三年アディン・アハット。これより人命を優先し、飛燕小隊の支援を行う」

『エリマさんにも連絡しました。すぐに迎えに来てくれると思います。それまで持たせてください』

「了解だ。オウカ国の人たちはあっちの方へ出せる限界速度で行ってください。俺の仲間がいます」

 自分の飛んできた方向を指さし、飛燕小隊に指示を出す。それに彼等の機体は首を縦に振って応えた。

「アル、ヴィール。ズワウルがそっちに行く」

『了解。アディンさん、無茶は……』

「解ってる。トリア、当てなくていい。散らしてくれ」

『解った』

 迫ってくる敵と思われる九機の機体に備え、武装の確認をする。

 両腰のキャストブレードに、以前ブラックボックスが使用した改良型プレスガンの発展させたプレスライフル。予備のマガジンは三つ。

 これでどこまでやれるか。

「来るか」

 それらが視界に入ると、アディンはその違和感に警戒を強くする。

 まるで突撃槍のような武器と機体を隠してしまえそうなほど大きなシールドを持った黒い機体の集団。

 機体そのものも見た事のない機体であり、何よりも全機がシールドを持っているというのが異常だ。

 まずヘクスイェーガーが出撃した際、シールドを持っている事はある。だがそれは魔女と直接戦闘する機体を使い魔から守る為の盾役としての役割を持っているからだ。

 そもそもヘクスイェーガー用シールドの耐久力では魔女の攻撃に耐えられず、直接対峙した時にはデッドウェイト以外の何物でもない。

 故に、全機がシールドを装備しているというのは魔女や使い魔を相手する部隊の装備としては異常なのだ。

「トリア、前言撤回だ。当てろ!」

 違和感に自分なりの答えを出したアディンが叫ぶ。自分の想像が確かならば、ある意味では魔女より厄介な存在である。

 隊列を整えて迫ってくるそれらを、トリアが狙う。だが放たれた弾丸はどの機体にも当たることはなかった。

 当たらなかったのではない。避けられたのだ。

「あの距離の狙撃を避ける!?」

 驚愕している場合ではない。散開した今こそ各個撃破するまたとない機会である。

 まずは最も近い位置の敵を叩く。

 キャストブレードを抜いて戦闘態勢を取る。

 リーチでいえばあちらのほうが長い。だが相手の得物が槍である以上一度攻撃させてしまえばこちらが攻撃する隙はいくらでもある。

 左手のプレスライフルで牽制しつつ距離を詰め、こちらの間合いに持ち込もうとするが、槍を突き出して反撃してきた。

 それさえ避ければ反撃に転じる機会もある。そう思って攻撃を避けて接近した。だが相手は盾を突き出しての反撃――つまりシールドバッシュである。

「っ!?」

 咄嗟に機体を後に下げる。

 突き出されたシールドの直撃を受けることなく、後退しつつプレスライフルで反撃に転じるも、それすら悠々と回避する。

 戦い慣れた相手である。それはすぐに解った。

『アディンさん、上!』

「チィッ!」

 真上からもう一機。強引に機体を動かしてギリギリではあるが槍の一撃を回避する。

 攻撃はこちらが足を止めかけていたとは言え正確。もし避けていなければ肩から操縦席まで貫通していただろう。

 相手の練度の高さに恐怖を感じる。同時にアストライアの反応速度と運動性の高さに感謝する。ヘスティオンで同じタイミングで同じ事をしようとしても、きっと避けられなかったはずだ。

 避けた後は即座に横へ加速して距離を取る。だがそこにも別の機体が待ち構えている。

 今度はシールドを前に突き出しての突撃。直線的ではあるが、その速度はアディンが対峙した敵ではアマティスタに並ぶほどのものだ。

 それほどの速度だ。普通の人間が耐えきれるものではない。

「普通の部隊じゃない。こいつら、人狩りに慣れてやがる!」

 正々堂々とした一騎打ちではなく、編隊を組んでの対人戦に慣れた動きをしている。

 対人戦に慣れていないアディンにとってはこれ以上にない強敵であり、相手から見たアディンはよく避ける獲物に過ぎない。

 気を抜いた瞬間に呑まれる。一度噛みつかれたらそのまま食い殺される。

「≪サンダーシュート≫!」

 弾速の速い魔法での攻撃。

 直撃コースであったはずだが、シールドによって防御され本体には戦闘不能になるほどのダメージが与えられていない。

 だがアストライアが放った高出力の魔法の一撃により、シールドとそれを持つ左腕を丸ごと吹き飛ばす。

 これほどの威力の攻撃だとは想像していなかったのか被弾した機体は左腕を根元からパージして撤退していく。

 背を向けた相手を撃墜する。そういう選択肢もあったはずだが、逃げる相手を追って今自分に迫る敵に背を向けるのは愚行だ。

 それに、先ほどの一撃によって空気が変わっている。

 良く動いて避ける相手の反撃が、自分たちにとっては必殺の一撃になるほどの威力を持つ。一撃の威力が必殺の一撃となると、そのプレッシャーはかなりのものになる。

 そしてこうも考えるはずだ。単一の目標を狙うのではなく、広範囲を撒きこむ魔法を使われた場合どうなるのか、と。

 残された八機の動きに乱れが見えた。

 直後、一機の頭が吹き飛び浮力を失い落下し始める。トリアの狙撃だ。

 それを左右から支え、三機が撤退し始める。

 続いてトリアの放った弾丸が次々と殺到し、所属不明の機体は次々と撤退していく。

 最後に、閃光弾を放ち目くらましも忘れない。

「くそっ……」

 流石に目の前が真っ白になってしまえば追う事もできない。

 閃光が消えた後は、既に姿が見えなくなっていた。

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