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蒼天のヘクス・イェーガー  作者: 銀色オウムガイ
第三章 卒業編
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悪意の影

 アルトエミスと同仕様に改装されたアストライア、それぞれ仕様どころか外見すら異なるアルトエミス三機。

 それらを搭載した輸送機が演習空域へと向かう。

 今回の演習空域はビルケ島ではなく、バミア空域――正式にはバミア浮遊石帯と呼ばれる空域である。

 このバミア空域はかつてバミア島という島があった空域である。だが魔女が出現し、その際の戦闘で島は崩壊。結果、島を構成していた大量のエアリウム鉱石を含んだ岩石が浮遊する空域として現在に至る。

 惑星エアリアでは、こういう空域の総称をエアリウムベルトと呼ぶ。

 エアリウム鉱の宝庫ではあるが、大小様々な岩石が無数に浮遊する空域である以上大型の船舶は接近することすら困難であり、エアリウムベルトでの資源採取は積極的に行われていない。

 その結果、多くのエアリウムベルトは発生当初の状態のまま放置されている。

「あーっと。格納庫、聞こえてるな。輸送機はこれ以上近づけない。各機発進後事前に指定した手順に従って訓練開始」

 輸送機の操縦席でエリマが指示を出す。

 それからすぐに四機のヘクスイェーガーが空に浮かぶ岩石群へと突っ込んで行った。

「姐さん。俺、あんまここに居たくねえっす」

「我慢しろ。あたしはデータ取りに専念する。操舵は任せるぞ。周囲の警戒も怠るな。ビルケ島の件もあるからな」

 エリマは各機の位置を確認しつつ、そのデータの収集を始める。

「しかしシュデム先輩は何時の間にあんなのを用意したんですかね」

「三号機に至ってはもはや別の機体だしね。トリアもアルトエミスじゃなくヘカティアって呼んでるんだろ。アレの事」

「お前等。口を動かす前に手を動かせよ。魔女を見落として落とされました、じゃ笑い話にもならん」




 稼動テストを行う四機の機体はそれぞれのルートで岩石群へと突入した。

 アルトエミス二号機はそのセンサーをフル活用して岩石の位置を早期に把握し、その間をすり抜けて飛行する。エーテルセンサーだけではエーテルを収束させる物しか感知できないが、それと併用するレーザーセンサーによって周囲の状況を把握し、的確に障害物を回避することができている。

 尤も、いくら早期に警戒ができたところでそれを避ける技術がないのならば持ち腐れ。的確に回避できているのは搭乗したアルの技量によるものだ。

 だが肝心のアルはというと、ひっきりなしに表示される情報の多さに戸惑っていた。

 何せ頭部だけでなく、両肩や膝などにも取り付けられた複合センサーからも情報が流れ込み、それらがすべて同時に押し寄せてくるのだ。常人が処理しきれる訳がない。

「要らない情報が多すぎる……!」

 それが実際に操作している人間の感想である。

 不必要な情報も多く表示され必要な情報が得られない以上、岩石漂う空域を高速で飛び回るのは危険過ぎる。

「アル、どうしたの」

「確かに索敵範囲はすごく広いんですけど、入ってくる情報が多すぎて処理しきれないんです。こんなの、まともに戦えない」

「こっちも似たような感じ。スカートアーマーは動かないし、シールドも稼動しない。そもそも人間の身体にない部位を追加してるんだから、動くイメージが出来る訳がない」

 トリアの機体、アルトエミス三号機改めヘカティアは追加された装備が丸ごと役立たずになっていた。

 理由は勿論、追加された稼動部位が人体に存在しない部位である為、ヘクスイェーガーの操作に必要なマナによる疑似神経接続を行っても追加された部位にまでは反映されていないのだ。

 故に動かない。そしてそれはそのまま文字通りのデッドウェイトとなる。

「それ以外では問題なし。ヘスティオンより大分乗り易い。けど……」

「扱いやすい訳じゃない、ですもんね」

 ヘスティオンと比較するとその性能差は言うまでもない。何より、一号機の稼動データからフィードバックを受けている為操作性は建造当時と比較するとかなり向上している。

 だがそれでも、暴れる機体には変わらない。過度な加速性を持つが故に、細かい操作がやりづらい。

 この辺りは実際に動かしてみないと分からないもので、開発というものには付いて回るものだ。

 紙の上での理論など、実際に動かしてみるといくらでも覆る。

「この状態で遭遇戦とか考えたくないですね」

「……アル、お願い。そんなこと言わないで。本当になりそうだから」

「イスナイン嬢。トリア嬢。そっちの調子はどうだ」

「見ての通り追加装備が不具合ばっか」

「そっちは……調子よさそうですね」

 ヴィールの搭乗している四号機は量産機のベースとなるように汎用型に調整されている機体。ようはシュデムに弄られていない素の状態のアルトエミスである。

 一号機で得られた稼動データから問題点を洗い出し、効率化を施されたが故に他の二機と比較しても安定した動きを見せている。

 だが、今日初めて動かす機体にヴィールも翻弄されているようで、いつもよりも動きが慎重だ。

 唯一四人の中で高速で岩石群を避けて飛び回るのがアディンである。

 ブラックボックスの時からずっとアルトエミスに付き合ってきたからか、操縦も慣れた様子でこなしている。

 そしてアルトエミスの操作性に、アストライアの親和性を持つ改修型アストライアはアディンにとっては最高の機体である。

 当初のアストライアの完全量産機を造る、という計画はアストライアの完成によって一定の成果を挙げた。

 だが実際に出来たのはアストライアを目指したはずが、全く違う到達点に至ったものであった。

 実際開発計画に携わって解るのが、アストライアの完成度が旧式の機体にも関わらず、後世の機体にも劣らないほど高いと言う事。機体本体の再現は出来ても、専用エーテルコンバーターの再現は不可能であるという事だ。

 専用のエーテルコンバーターの複製が不可能ならば、量産化計画を諦めるのか。

「いいや、まさか」

 今は不可能でも、いつかはそれに匹敵する低コストで高変換率のエーテルコンバーターが生み出されるはずだ。その時にもう一度チャレンジするまでだ。

 だがそれまで何もしないのか、というとそんなことがない。

 機体の開発が楽しくなってきている。きっとアルやトリアも同じ事を思っているだろう。

 ヴィールもそこに居て貰わなくてはならない。何せアディン自身やトリアは突出した能力があり、量産化を目的とした試作機のデータ収集には適さない。アルはアルでスクロール関係の新技術開発も並行するだろうし、そうなると機体のテストにばかり時間をかけることができないだろう。

 故に平均的かつ学生にしては高い技能を持つヴィールの存在は、新型機開発には必要不可欠だ。

「さて、次は何を造るか」

「おいアディン。今すっげー不穏な事言わなかったか!?」

「まだ何か造るつもりなんですか! そろそろ私達中等部卒業するんですよ?」

「そもそもあれだけ問題行動を繰り返す、授業にはまともに出席しない生徒が卒業できるかどうか」

「やめろトリア嬢。妙に現実味があって洒落にならん!」

「まあ、今後もよろしく頼むよ」

「さらっと流すなアディン!」

 岩石群を抜け、アストライアを滞空させる。以前のままならばこの状態を続けるとマナバーストを起こすため出来なかった事だ。

 しばらく佇んだ後に自由落下を始め、再び岩石群に突入する。

 防御術式で全身を包み、それらを弾いていく。

 一応、これも防御性能のテストである。だがその様子を傍から見れば遊んでいるようにも見えるだろう。

 事実。アディンは楽しみながらテストを行っている。

「残りのテストもさっさと終わらせて帰るぞ。帰ったら即座に不具合の修正だ」

「はいはい。まあ、どうせ俺たちのやる仕事じゃないんだけどさ」

「……シュデム先輩、そろそろ過労死するんじゃない?」

「ははは。否定はできませんね。……うん? ちょっと待ってください。これは……」

 二号機のセンサーが何かを捉えたようだ。アルはそれを特定しようと情報を処理していく。

「トリアさん。九時方向。何か見えませんか。ちょっとセンサーだけでは特定が難しくて」

「了解。ちょっと確かめる」

 トリアが≪ホークアイ≫を使い、アルの指定した方向を見つめる。

「何も見えな……いや、何か動いた。エーテルの流れ方からして魔女じゃない。でも使い魔にしては流れ方が大きい」

「まさかとは思うが、ヘクスイェーガーか?」

「それに近いかも。でもヘスティオンやラキシスじゃない気がする」

 それは妙だ。いくら今は島がないとは言え、ここはまだウィスタリア王国の領空である。

 こちらはこの場に赴く前に正式な手続きをして、周囲に展開中の部隊がいないか、または他国の艦船などが通らないかなどをチェックしてからここにきている。

 だというのにヘクスイェーガーらしきものがいる、というのは妙な話で、それでいてウィスタリア王国の機体であるヘスティオンやラキシスではない、とするとそれは何だというのだ。

「……」

 アディンの頭の中に、ヴァイハ港での一戦の事が過る。

 あの時、アルトエミスは撃墜したが、それを収容していた偽装船は取り逃がしている。

 ではその偽装船はどこへ消えたのか。

 そして今目の前にある不審な影。

 これらをイコールで結ぶのは軽率すぎる。だがそれを無関係であると切って捨てるのも無理な話だ。

「出来れば確かめたいな」

「アディン?」

「どっちにしろ領空侵犯の可能性があるんだ。攻撃してきたらしてきたで正当防衛にできる」

 そう言うとアストライアは不審な影のほうへと向かい飛び出して行く。

「あ、ちょっとアディンさん! もう。私とヴィールさんはアディンさんを追います。トリアさんはプレスナイパーライフルの射程限界の位置で待機。モフモフは?」

「大丈夫、持ってる」

「エリマ先輩に連絡をお願いします。最悪戦闘になりますからね」

 自分の装備を一通り確認した後、三機ともアディンを追って動きだした。

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