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蒼天のヘクス・イェーガー  作者: 銀色オウムガイ
第三章 卒業編
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反省する者、しない者

 アディンは胴上げのダメージからある程度回復すると、アルが持ってきたカップを受け取りそれを一気に飲み干して……むせた。

 両ひざをつき、呼吸が心配になるほどむせた後、ぜーぜーと荒い呼吸を繰り返しながらもなんとか息を整え、今度こそ復調。

「うぇ……」

 訂正。まだ大丈夫ではなかった。よろめきながら立ち上がる。

「えっと。何があったのか具体的な説明をお願いします」

「あ、ああ。うん。以前から進めていた強化外骨格なんだけど、ちょっと進んだんでみんなしてテンションあがりまくってたんだよ。おかげで酷い目にあった。ちょっと吐きそう」

 流石に揺られ過ぎたのか、顔が青い。

「具体的には?」

「マナで刺激するんじゃなく、電気を発生させる魔法に変換して刺激すると丁度いい反応をしてくれるんだと」

 グロッキーなアディンに代り、ヴィールが簡単に説明する。

「随分と効率が悪いような」

「あえて効率を悪くするんだよ。何よりマナを直接コントロールするよりも電気系魔法に変換するほうが調整しやすい」

 ヴィールはテーブルに置かれた仮組のマニュピレーターに触れ、そこに≪スタンタッチ≫で電流を送る。

 するとマニュピレーターはゆっくりと関節を曲げる。

 以前見た、手首の関節がへし折れるほどの勢いはない。

「加減は必要だが、それでも操作が可能だとわかった。機械工学科主体で開発は進め、部品の削りだし等は鍛冶科が。制御は魔法科が担当することで試作型を二種類作ってる」

「二種類? 何でまた」

「ここからは俺が話す。うっぷ」

「おい、大丈夫かアディン」

「なんとか。えっと、一つは今まで通りの強化外骨格。アルの親父さんから頼まれたもので、所謂戦闘用。こっちは最終的には装甲も追加していくから基礎設計は機械工学科で、その先は鍛冶科主体で開発していく。そしてもう一方は医療用だ」

 医療用。その言葉が出た瞬間。アルとトリアが首をかしげた。

 今まで散々アルトエミスだのプレスガンだのと戦闘用のものばかり造っていたのに、いきなり医療用といわれてもピンとこない。

「こっちも基本は戦闘用のとは同じだけど、そこに義手のノウハウを持つ技師や医者の意見を取り入れながら開発を進めていく」

「いやいや。待ってください。さも伝わったという風に話を進めないでください」

「……アディン。罪滅ぼしのつもり?」

 アディンを睨みながら、トリアがそう呟く。

 流石にアルもヴィールも凍りつくが、アディンはそんなトリアに向かって自嘲気味の笑みで返した。

「そうかもな」

「自己満足じゃない」

「そうだな。自己満足だ。だが、アイツをこのまま腐らせるのは惜しい」

「それでサギールが納得するわけ? しないでしょ」

「それでも、だ」

 二ヶ月ぶりの、訓練以外での会話がこれである。

 どこか刺のある言い方のトリアに対し、それを気にも留めずかわすように話すアディン。

 そんなアディンの態度に、トリアはみるみる不機嫌になっていく。

 外野になってしまった二人はそんな様子を戦々恐々としつつも口をはさめずにいた。

 もしここで口を挟もうものなら、何を言われるか分かったものではない。主にトリアに。

「自分は罪悪感に耐えられない癖に、他人には引き金を引かせるのか」

「……悪かったよ」

「……」

(俺、あんなトリア嬢見た事ない)

(正直怖いです!)

「いや、本当。悪かったって……」

「……」

 無言で睨みつけながら近づく。たったそれだけだというのにその威圧感に圧され、アディンは後ずさる。

 そして後ずさりながら流れるような動作で両ひざをついて正座。からの土下座の体勢にシフトした。

「すいませんでした」

 声が、震えていた。

 アディンのこのような姿を見るのは珍しい。何せ、自分の国の国王の前でも不敬不遜なアディンが怯えながら謝罪の言葉を口にするなどあり得ない、とこの瞬間まではアルもヴィールも思っていた。

「二度とあんな事させないで。あんな思いは、二度としたくない」

「それは、約束する」

「……ならいい」

 やっとトリアから放たれていた威圧感が消える。

 この時三人は、絶対にトリアは怒らせないようにしよう、と肝に銘じた。

「……それで、医療用とは言ってもいきなり全身に使えるものが出来るわけじゃないでしょう」

「あ、ああ。だからまずは当初の予定通り戦闘用のを造って、そこからフィードバックしていく感じだ。テストする人は前々から決まってたし」

「え、俺聞いてないぞそんなの。ていうかトリア嬢がやるものかと思ってたが」

「ヤダ。私もうあれ使いたくない」

「まあ、派手に転んだアレよりはマシだけど、やっぱり実際使う予定の人間じゃないと意見を反映できないからさ」

 そこでアルが何かに気付く。

 そもそもこの強化外骨格の開発。誰が持ってきた話だっただろうか、と。そしてその用途はなんだったかと。

「……確認なんですけどアディンさん。もしかしてウチの姉ですか?」

「あれ、言ってなかったっけ?」

「聞いてませんよぉぉぉぉぉ!!」

 アルがアディンの両肩を掴んで激しく揺らす。

 フルパワーで揺らされるアディンの両肩も心配だが、それ以上に前後に揺れる首の動きがかなり危ない事になっている。

「ちょ、落ち付けイスナイン嬢! それ以上やるとアディンの首が折れる!」

「でも身内がそんなのに参加するって話、普通は耳に入れるものでしょう!?」

「そうだけど、落ち着いて。本当にアディン死んじゃうから」

「はあ、はあ……うぷっ」

 落ち着きを取り戻したアルが手を離すと、アディンは膝から崩れた。

 流石に揺さぶられ過ぎたのか、顔を青くし口元を押さえている。

 胴上げされて催していた吐き気がぶり返してきたらしい。

「とりあえず、お前もう帰れ。あとは先輩達の仕事だ」

「そうしよう、かなあ……」

「ほら、掴まれ。部屋まで送る」

「悪い、ヴィール」

 ヴィールに掴まってアディンぎょろよろと歩き出した。

 流石にやりすぎたか、とアルは反省するのだった。



 アディンが胴上げで体調を崩してから二週間。その間にも開発や改造は進む。

 まずは強化外骨格。偶然の発見により稼動方法が確立され、その開発は一気に進んだ。最初は腕だけだったそれも今では全身が完成している。残る問題は稼動に必要な動力の確保のみ。

 なにせ使用するのはマナを使う事ができないような人間である。マナを使える人間であればそれを電気へと変換する装置さえ作ればそれでよかったのだが、そうではない以上動力の確保という問題が付きまとう。

 解決案としてあがったのは、マナを保存しておける装置の開発。マナを一定量保持し続ける事はマナバーストの危険を孕むが、仮にそう言った装置を作れるとしたらそれは画期的な事だろう。エネルギーをマナに依存しているエアリアの人間全ての生活のあり方が大きく変わる。

 が、これは廃案となった。理由は単純。時間がない。

 作業をするのが中等部卒業を控えた学生であり、自身の卒業制作や通常の機体整備などもあり、完全新規の技術を一から開発するとなると時間がかかり過ぎる。

 もう一つの解決案として挙がったのは、スクロールを利用したもの。動力として電気系の魔法を連発させてそれを動力にするというものである。が、当然ながら魔法を連発させる都合上危険が伴う。そもそも記載された魔法以外使用できないスクロールでは、細かな出力調整が不可能である。

 だがしかし。二つの案を並べて見ていたアルツが言った言葉で状況は解決する。

「スクロールで電気を発生させて、それを貯蔵する装置から動力を供給するのはどうだ?」

 と。

 事実、蓄電装置というのは存在している。ただしエアリアにおいてはエーテルやマナが存在し、ほぼ無尽蔵に供給可能なエネルギー源として利用されている以上蓄電装置というものは必要性を失い普及率はほぼゼロに等しい。

 製造技術さえも知っている人間はほぼ居ないといって過言ではなく、その記述があるのは古い書籍のみ。

 誰もが立ちはだかった壁の前になすすべなく諦めかけた。

「もしかしたらウチの実家の書斎にあるかもしれません」

 と、アルが発言するまでは。

 即時にモフモフを使ってアルは実家の姉ムビリへと連絡を付け、蓄電装置についての記載のある本を探してもらう事になった。結果、いくつか本が見つかり、それを送ってもらえる事になったのが五日前。そして到着するとすぐさま作業を開始して完成したのが今日だ。

 次に、アストライアの近代化改修であるが、こちらは比較的早い段階で作業が終わっていた。といっても完全に終わったのは三日ほど前であるが。

 外見上は大きく変化していないものの、アルトエミスからフィードバックされた技術を使用しており、事実上、『アストライアのエーテルコンバーターを搭載した、アストライアの姿をしたアルトエミス』という状態だ。

 だがこの改修によってアストライア最大の欠点である、過剰供給によるマナバーストのリスクが解決された。

 それだけでなく、アディンが起動させたアストライアの生み出す膨大なマナは既存のエーテルコンバーター二つ分以上のものよりも遥かに多く、防御モード時の防御力はより強固に。高速モードの際の速度はより速く、と旧式の機体がベースとは思えない性能を発揮するに至った。

 とはいえ、まだテスト飛行すらしていないのであくまでも過去の稼動時におけるマナ供給量のデータから算出された、計算上の性能ではある。

 故に、この近代化改修に携わった人間が皆口をそろえてこう言うのだ。やりすぎた、と。

「さて、と」

 外骨格開発が一段落したのとアストライアの近代化改修が終わった今、いつも通りの仕事以外はやることがないはずだ。

 だが、エリマは本来存在しなかったであろうはずの問題達を見上げる。

「何時の間にこんな大改造したんだろうなあ」

「一晩でシュデムがやってくれやがりました」

 アルトエミス強奪事件の後、転倒させられた二号機から四号機は修理も終わりいつでも動かせる状態になっていた。

 そして修理する際にシュデムの手によって大きく手を加えられた(余計な事をされた)結果、三機のアルトエミスは外見こそほぼ同じでありながら全く異なった性能の機体として生まれ変わった。

 二号機は当初センサー強化型であったが、何時の間にかシュデムが試作していた流線形の頭部へと換装されており、それに合わせて機体のほうも調整されていた。

 曰く、小型化させたテントウムシ、らしくその索敵範囲は通常の機体のそれと比較してかなり広い、とのこと。おまけに両肩や脚部などの稼動の邪魔にならない範囲でセンサーが増設されている為、それらすべてを使用した索敵範囲は恐らくであるがテントウムシ装備のヘスティオンを上回る。

 三号機は射撃性能の向上を目的とした改良がくわえられ、より多くの弾を運べるように追加されたスカートのような稼動式アーマーの内側にプレスガンのマガジンをいくつも装着出来るようになっている他、左肩にも稼動するシールドが取り付けられ狙撃時の防御能力の強化も図られている。

「はっはっは。もう笑うしかねえわ」

 あまりの変わりっぷりにアルツも笑い飛ばす。が、全然目が笑っていなかった。

 もはや原型はどこにいったのか、と言わんばかりの改造が施された二号機と三号機。ここまでくれば四号機も、とはいかず、四号機には全く手が加えられていなかった。

 理由は至極単純。改造する時間がなかったのと、汎用性を持たせた機体のデータ収集が必要だからである。

 何せアルトエミス一号機の稼動データは常人には扱えない機体であるとしか思えないし、五号機の稼動データに至ってはブラックボックス仕様のまんまである為、アルトエミスの稼動データとしては採用できない。

「いやあ、実験的な装備ばかり造ってしまったであるなあ。はっはっはー寝ずに頑張った甲斐があったのである! シルキー達もバリバリ働いたであるからな。ふむ、改良プランも浮かんだのである。なのでちょっと、そこなお人よ。助けてプリンス。いや割とマジでヘルプミー。装備造るのと取りつけ作業で寝てないのもやべーし、頭に血が上ってきてやべーのである!」

 全く改造についての反省のないシュデムが格納庫の端に逆さ吊りになっているが、それを誰も問題にしないあたり下級生もシュデムの扱い方を心得始めたようだ。

「えーっと。とりあえず第十二班はそれぞれの機体を輸送機に乗せて演習空域まで移動な。稼動テストするぞ」

「了解」

「え、あの。ちょっと。凡人眼鏡? 吾輩もしかして放置? 放置プレイ? やだ。吾輩そんなアブノーマルな趣味は持ち合わせてないのでごわっはぁっ!?」

 逆さ吊りにされたシュデムの腹めがけてエリマが渾身の右ストレートを叩きこんだ。

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