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蒼天のヘクス・イェーガー  作者: 銀色オウムガイ
第三章 卒業編
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偶然の産物

 鍛冶科と機械工学科に付き合い格納庫で一夜を明かしたアディンは、そのまま強獣から採れる金属繊維を利用した強化外骨格の制作に取り掛かる。ただし以前の失敗があるため、造るのはまず腕の部分だけだ。

 妙な時間に寝たせいか、夜通し作業しても眠くはならなかった。とはいえ、本来は畑違いの作業である。思ったより作業は進まず、基礎となる小型の模型程度しかできなかった。

 問題はこれをどうやって動かすか、である。

 勿論ただ動かすだけならマナを利用したもので十分だ。だが、使おうとしている強獣の繊維はマナで動かそうとすればとんでもない速度で動いてしまう。

 それでは搭乗者の安全が保証できない。有り余るパワーで振り回して手首の関節を吹っ飛ばすほどの勢いで動くものが安全であるはずがない。

 一方で現在解っている事が一つだけある。

 それは、強獣の繊維はマナによって稼動させることが可能であるということだ。

 ならばあとは、どの程度のマナを流せばいいのか、あるいはどの程度の量の繊維を使えばいいのかという調整だ。

 それさえ出来れば外骨格の完成に近づく。

「ふぅ……」

「お疲れさん。っていうかお前本来の授業でなくて大丈夫か?」

「あー。全教科で教師にマウントとったんで」

「……うん。あたしは聞かなかった事にする」

 仮組したマニュピレーターに、とりあえずで金属繊維を取りつけて少しだけマナを送ってみる。

 案の定、勢いよく関節が曲がる。

「やっぱり駄目か」

 かなり供給するマナを減らしていたはずだが、それでもなお過敏に反応する。

 一体どのくらいまでマナの供給を減らせばいいのか。

 試しに取りつける金属繊維の量を減らしてみてはどうだろうか、といくつかの繊維を取り外して先ほどと同じ程度のマナを流してみる。

 だが減らしたら減らしたで今度は反応こそすれ緩やか過ぎて話にならない。

 加減どうこうの話ではない。

 丁度いい反応というのが全くない。過剰反応するか反応がなさすぎるか。そのどちらかしかない。

 マナの量を調整しても反応が機敏すぎる。繊維の数を減らしたら反応が鈍すぎて話にならない。

 八方ふさがりではないだろうか。何かが間違っている。

 その何かとは何か。考えられるとしたら、前提からして間違っているという可能性。

 マナでは動く。だがそのマナを使う事そのものが間違いだとしたらどうか。

「……」

「難しい顔してんな」

「ん。ああ、ヴィールか」

「ヴィールか、じゃねえよ。お前何やってんだ。こんな時間から」

「変な時間に寝たから眠くなくてさ。こうやってちょっと作業を」

「それで眉間にしわ寄せてたって訳か。そんなに考えるもんかね」

「これを相手にしたら、な」

 そういってヴィールに仮組したマニュピレーターを見せる。

 以前のそれとは異なり、金属繊維が随分と減らされた物を見て、ヴィールを首をかしげた。

 そりゃあそうだろう。それだけ見せられても何がなんだかわからない。

「繊維を多くしたら過剰反応。減らしたら全く動かない。マナの供給量が問題じゃないのかもなあ」

「ふーん。まったくわからん!」

「胸を張って言う事か?」

「いや、そりゃ畑違いだもんよ」

 確かにそうだ。元々個人的にスクロールの研究をしていて成果を出したアルはともかく、騎士科の学生でありながら畑違いであるヘクスイェーガーの設計や武器の設計などをこなして成果を出せるアディンやトリアが多才過ぎるのだ。

「まああんまり根詰めるなよ。そのうち倒れるぞ」

「……そうだな」

 ヴィールに言われる通り、根を詰め過ぎているのかもしれない。この辺りで休憩を挟もう、とテーブルに手をついて立ち上がろうとした瞬間。それは起きた。

「痛ッ!? 静電気か?」

「災難だったな……っておい、アディン。その腕、なんかさっきと角度変わってないか?」

「え?」

 痛みを感じた小指をさすりながら、テーブルに置かれた仮設のマニュピレーターに視線を向ける。

 先ほどまで、ほぼ反応していなかったマニュピレーターの関節が曲がっている。僅かではある。だが、確かに曲がったのだ。

「今、何が……?」

 テーブルに手をついた時、小指が何かに当たった。それがこのマニュピレーターから垂れ下がった金属繊維の先端だったのだろう。

 組んでは外してを繰り返している内に適当に垂らしていたものに当たった。完全に偶然だった。

「まさ、か……」

 もしもう少し丁寧に金属繊維の取りつけを行っていたら、きっとこの偶然は起きなかった。

「エリマ先輩、シュデム先輩! ちょっといいですか!」

 興奮したアディンは二人を呼びつけ、何が起きたかを説明する。

(こりゃしばらく格納庫から出てこないなあ……)

 突然テンションの上がった友人を苦笑して眺めつつ、少しだけアディンの調子が戻った事を喜んだ。




 一方。騎士科の教室ではトリアが机に突っ伏して少しだけ浮いた脚をばたばたとさせていた。

「えっと、トリアさん?」

 座学の授業中であってもずっとそんな様子で、流石に見かねたアルが話しかけたのだが、唸り声だけをあげるだけ。

「そろそろ起きて格納庫行きましょうよ」

 その会話は、どうなんだろう。世間一般的に見て、彼女たちの同年代の少女の口から日時用会話として出てくるような単語ではないのは間違いないが。

 トリアは唸りつつ、頭をかきながら勢いよく起き上がる。

「考えがまとまらない」

「……はい?」

「アディンになんて声をかければいいのか」

「あー二ヶ月もまともに喋ってないとそうなりますよね」

「いざ話しかけようにも妙に緊張するし、何かもやもやする」

「へえ……」

 そんなトリアの様子を見て、アルがにやつく。

「……何?」

「いやあ。トリアさんもクールな風で通してますけど、歳相応なんですね」

「いや、何が」

「だってそれ恋する乙女みたいじゃないですか」

 と、アルが言った瞬間。トリアがアルの襟元を掴む。

 突然の事にアルは驚いて目を丸くする。が、すぐにトリアが混乱している事に気付いてさらににやける。

「こ、ここここここ? いや、いやいやいや。ない。絶対にない」

「そうですか。でもアディンさんへの好感度は高いでしょう?」

「それについては否定しない。けど愛だの恋だのは絶対ない!」

 力強い否定だ。

「第一あの暴走非常識人と付き合って、そういう感情を持つ人間がいると思う!?」

 本人がいないとはいえ、流石に酷い言われ様である。そう教室に残った生徒たちはここにはいないアディンに同情した。

「……否定しかねます」

 ――否定しないのかよ!

 間違いなくこの場にいる誰もがそう思ったに違いない。そして次の瞬間に、自分はどうかと考え、皆が皆アディンならば仕方ない、という結論に至る。

 正直アディン・アハットという人間の評価は、悪人ではないが積極的に関わりたくない人間、というのが大半である。

 事実として彼と関わったエリマやアルツ、そしてシュデムは授業の時間以外の大半を格納庫で過ごし、揚句新型ヘクスイェーガーや新装備の開発をさせられている。

 彼自身が中心となって起こしたトラブルも数知れず。巻き込まれた人間の精神的な傷は決して小さくない。

「それに、アディン。サギールの事で頭が一杯になってる。本当、なんて声をかけたらいいのか」

「……」

 サギールの件は、既に学園中に広まっている。

 彼の身に起きた事は、不幸な事故だったとしか言えない。それはアディンやサギールの同級生一同の共通認識である。

 精神を操られた揚句に頸椎損傷によって人としての自由さえ奪われたサギールは勿論だが、狙った訳ではないが結果的にサギールをそのような状況にしてしまったアディンもまた被害者であり、サギールの件で憎むべきはアディンではなくその状況を作り出した、サギールを操った存在である。そう、学園にいる大多数の人間が思っている。

 だがそうは思わない人間もいる。サギールの肉親などがその最たる例だといえよう。またアディンの存在を良く知らない下級生なども、結果だけを聞いてアディンへ悪感情を持っている人間がいる。

 この教室に居る限りはそのような目にさらされる事はないが、それ以外の場所でのアディンの居場所は、確実に狭まり始めている。

「こんな時、どう声をかけたらいいのか。アルならわかる?」

「私もわかりませんよ。だからできる人に任せてます」

「無責任じゃないの」

「かもしれませんね。でも、だからこそ今は自分のできる事を一つ一つ片付けて行こうと思います」

「……例えば?」

「そうですね。とりあえず格納庫にトリアさんを引っ張って行く事、ですかね」

「むぅ。解った。さっさと行こう」

 今アルに突っかかっても仕方ない。何より笑顔を崩さないアルに、今のトリアが何を言ったところで言い負かされる。

 大人しく従っておこう。アルの怪力で無理やり引っ張られる前に。




 そして、格納庫へとやってきたアルとトリアの眼に飛び込んできたのは、想像していない――いや、想像しろと言われてもどうやったらそんな風になるんだ、という光景であった。

「わーっしょい! わーっしょい!」

「技術革新である! またもや我らは壁を突破したのである!!」

「これで新しい機構も追加できるぞー!」

「ちょ、高い。高いですって!! おーろーしーてー!」

 アディンが鍛冶科と機械工学科の生徒たちに胴上げされていた。

 なんだこれは。それ以外の感想が出てこない。

「おう、来たか」

「ヴィール、これどういう状況」

「ちょっといいことがあったのさ。技術革新だとさ」

「それでどうしてこんな事になるんですか」

「その場のノリだろ」

 それにしてはやたらと高く飛ばされてアディンが本気で怯えているのは気のせいだろうか。いや、確実に怯えている。

 自分の身長よりも高い位置へ、地面に対して水平の姿勢で、垂直方向に投げられれば恐ろしく感じるのは仕方ないが。きっと誰がやっても怖い。高所恐怖症とか全く関係なく。

 何よりも恐ろしいのが、この状態は自分の意思ではなんともできないという点にある。

 魔法を使えば無理やり終わらせることもできるが、それで白けさせてしまうとこれから始まるであろう作業の士気に関わりかねないので、アディンにはできない。

 まあ、要は。

「先導したエリマ先輩達のテンションが落ち着くまであの状態だろうなあ」

 結局胴上げはこの後も続き、テンションが収まった胴上げ部隊の大半は腕が疲れ切ってしまい仕事にならない為この日はそのまま帰宅。胴上げされていたアディンもアディンで物に掴まっていなければ立ち上がれないほど憔悴していた。

 彼等のこの日得た教訓は、何事もほどほどが一番、と言うことだろう。

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