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蒼天のヘクス・イェーガー  作者: 銀色オウムガイ
第三章 卒業編
45/315

痛みの伴う結果

 ヴァイハ港での戦闘はあっという間に国中に知れ渡った。

 アストライアの知名度を考えれば当然だろう。そして交戦相手である謎のヘクスイェーガーの正体についても、国の公式発表を待たずして様々な憶測が飛び交っていた。

 アストライアを駆る人間の謀反。ヘクスイェーガーを使用したテロ。騎士同士のいざこざ。

 こういうのは毎度何らかの事件が起きるたびに噂されるものだ。そして勝手な憶測で、根も葉もないような話で何時の間にか忘れ去られていく。

 裏付けのない話などいずれは廃れる。だが、今回は違う。

 戦闘を目撃者した人間がいる。それも大勢。

 アディンが戦闘時に人的被害を気にしながら戦った事で、負傷者こそあれど死者はいなかった。故に、その時ヴァイハ港に居た人間全てが戦闘の目撃者となってしまったのだ。

 こうなると、事態は既に学生が新型機を盗んで他国に売り渡そうとしていた、などという話だけでは済まない。

 あの時ヴァイハ港に居たのはウィスタリア王国の人間だけではない。国交のあるいくつかの国の人間もその場に居た。

 当然だ。あそこは貿易港で、外国と物資のやり取りをする場なのだから。

 彼等の口から、彼等の母国へこの一件の話がもたらされた場合、ウィスタリアには説明責任が発生する。幸いこちらは各国へ到着するまでそれなりの時間があるため、回答への猶予がある。問題は国内への対応だ。

「はあ……」

 どうしたものか、とレヴァンダは頭を抱えた。

 アルトエミスの存在は公表するしかない。まず第一にそれだ。でなければヴァイハ港で何故戦闘が起きたか、という説明ができない。

 ではどこまでアルトエミスについて触れる。

 何も悩むことはない。正直にこう答えてはどうだろう。

 ――学生が作った新型機です。でも工廠はその作り方を知りません。

 ……馬鹿なんじゃないか。そんな事を馬鹿正直に言っても信じてもらえるはずがないだろう。

 というかそこにわざわざ触れる必要性がない。単純に、単独で魔女を討伐できるほどの性能を持った試作機が盗まれた、でいいはずだ。

「陛下。回収されたアルトエミスなのですが、いかがします?」

「一号機と同じ扱いでいいだろう。尤も、あの破損状況でどこまで役立つかはわからんがな」

 簡易的にではあるが、モフモフを通じてアディンから直接報告を受けたレヴァンダは、他国あるいは何らかの組織にアルトエミスが奪われるという最悪の事態が回避された事に安堵はした。

 だが同時に貴重な完成した状態のアルトエミスがまた一機失われた事は国としては痛手である。だが何よりも痛手だったのは、ヘクスイェーガーよりも貴重な若い騎士候補を失った事だ。

「後を探れよ。徹底的にだ」

「心得ています。たとえ国家が相手であろうと徹底的に調べ上げてみせます」

「ああ。必ず見つけ出して、落とし前を付けさせろ」

 静かに、冷たくそう告げる。表情にこそ出してはいないが、レヴァンダの中では業火の如き怒りが燃え上がっていた。



 ヴァイハ港での戦闘から三日。自室で机に向かうアディンは、ひたすらにペンを走らせる。

 サギール・カタンの行動には疑問点と違和感が多々あった。それらを全て吐き出すために、疑問や違和感を全てメモしていく。

 全ての原因をアディン・アハット個人への憎悪に起因すると仮定しても、疑問や違和感は拭えきれない。

 まずなぜヘクスイェーガーを盗む必要があったか。

 単純にヘクスイェーガーでの決着を望むのなら、実機訓練でやればいいだけの話であるし、わざわざ乗り慣れていないアルトエミスを使って挑むよりも訓練でも使用するヘスティオン同士でやり合った方がよりフェアに戦える。

 何よりアルトエミスを盗んだ事によってアストライアを引っ張り出されてしまうと、乗り慣れていない機体ではアストライアには勝てないと、流石のサギールでも理解しているはずだ。

 それが二つ目の疑問。なぜアルトエミスである必要があったのか。どうして五号機が狙われたのかという疑問。

 一号機は大破し、工廠で技術解析。二号機から四号機はそれぞれが操縦する人間に合わせた調整中。今回盗まれた五号機はパーツ取り用に作られた予備機であり、ブラックボックスの時からほとんど調整がされていない。

 逆に言えば五号機は他の機体とは異なり個人に合わせていない分、より訓練用ヘスティオンの感覚に近い操作が可能であり動かそうと思えば誰でも動かせる状態であったとも言える。

 だが、それではなぜ盗んだのかという疑問の解決にはならない。

 三つめの疑問。サギールはなぜアディンを迎え打ったのか。

 確かにあの状況で何もしなければキャストブレードによってサギールの乗ったアルトエミスは切り裂かれていたかもしれないし、そうでなくともその姿をアストライアの前に晒す事になっていただろう。

 だがわざわざ迎え撃つ必要性はあったのだろうか。

「……盗む事が目的じゃなかった?」

 そんなまさか、とは思う。だがそう考えてみるとどうだ。

 盗むだけなら、機体が回収できた時点で出発してしまえば見つかる事もなかっただろう。

 それなのにわざわざ港で待機し、アストライアがヴァイハ港に現れると姿を見せた。

 何故だ。何が目的だ。

「よう、邪魔するぞアディン」

「ヴィールか。どうした」

「いや、な。そろそろ格納庫に顔出せよ」

「……」

 もう三日。徹底的に破壊したアルトエミスを連れて学園に帰還してから三日。

 悪夢にうなされた三日だ。

「それにその顔、ロクに寝てないし外にも出てないだろ。お前」

「まあな」

 そう言えば強烈な眠気を感じるし、空腹もある。まともに寝ていない上に何も食べていないのではそれも当然だろう。

 だがそれらすら忘れてしまうほど、考察に没頭していたと言う事でもある。

 冷静になって部屋を見渡せば、大量のメモで床が見えない状態になっていた。

 いつもならばこんなことはないのに。

「良いニュースが二つ。悪いニュースが一つある」

「良いニュースは?」

「サギールが目を覚ました。一命を取り留めた。だが、わかるだろう」

「ああ。コンバーターを破壊した上にあの衝撃だ。無事なはずがない」

 四肢を失い落下したアルトエミスの操縦席には相当な衝撃があったはずだ。それこそ、意識を失うくらいは容易いほどの。

 制御中枢とも言える回路が集中した場所を破壊され、エーテルコンバーターすら破壊されて操縦者を守る術式すら発動できずに地面に叩きつけられたその衝撃は想像を絶する。

 事実。乗っていたサギールは意識を失っていた。

 そして、搬送された病院で受けた診断は、骨折や内臓破裂。そして――頸椎損傷。

「頸椎を損傷して首から下は駄目なんだとさ。ヘクスイェーガーの操縦だけに限れば不自由はない。だがそれ以前の問題だ。奴は二度と騎士を目指す事はできない」

「それが悪いニュースか」

「ああ。そしてもう一つの良いニュースはな。サギールは精神支配を受けていた事が判った」

「精神支配? それはつまり」

「端的に言うと、サギールを操ってアルトエミスを盗ませた上にお前と戦わせた人間がいるってことだ」

「そうか……」

 あれはやはり正気のサギールではなかったのか。

 確かにサギールはアディンを憎んでいたし恨んでもいただろう。だがあの姿は異様だった。

 だが誰かに操られたものだとしたら。

 そこまで考え始めて、眩暈がしてきた。

 流石に疲労がたまっていたのだろう。それに食事も摂っていないのだから脳に回すエネルギーも足りていない状況で思考を巡らせるのは無理だ。

「ヴィール。俺、ちょっと寝るわ。流石にこれ以上は考えていられない」

「おう。寝ろ寝ろ。そんでそのあとアホみたくメシ食え。お前はいつも突っ走り過ぎなんだ。ちょっとくらい休んだって誰も文句言わねえよ。むしろそっちのほうが喜ばれる」

「ぬかせ」

 先に睡眠。そのあと食事。とにかく一度リセットさせよう。

 ヴィールが部屋から出て行ったのを確認し、アディンはベッドにもたれかかった。

 目を閉じればすぐに身体が重たくなり、意識を手放すのにそう時間はかからなかった。




 格納庫へ足を運んだヴィールは、いつもの面々を見つけて近づいていく。

 彼等もヴィールに気付き手を振って応える。

「アディンさんの様子、どうでした」

「かなり病んでたな。今の今まで飯も食わず、寝てなかったみたいだ」

「アディン……」

 アディンの様子がおかしいのは誰が見ても明らかだった。

 実際、ヴィールが様子を見に行くとかなり思いつめた様子だったわけだが。

「サギールが生きているのが不幸中の幸いってところだな。もし死んでたら、アイツ立ち直れないぞ」

「あ、エリマ先輩。機体整備、もういいんですか?」

「まあ、あとはあたし抜きでも大丈夫だろう。幸い修理する必要のある機体は少ないからな」

 サギールが格納庫の天井を破壊した際、その爆心地の近くにいた機体の多くは大なり小なりのダメージを受けていた。一見して無傷のように見える機体でも、調べてみると深刻な被害を受けていたりと被害規模は決して小さいものではない。

 簡単な修理で済むのならばそれでいいが、大掛かりな修理が必要なものは共食い修理でまずは数を揃えた、

 どんな事情があれ、ヘクスイェーガーを使う実機訓練は行われる。それに合わせる為だ。

 結果、実機訓練で使用できるだけの数は近日中に揃えられる目途が立っている。

「一応サギールと面会してきたんだがな。自分の状況を認めなたくない様子だったよ」

「医者は?」

「精神支配。何者かによって精神を狂わされていたらしい、ってのまでは解った。サギールも記憶がないと言っていたが記憶を失う寸前に誰かに会っていた事は覚えていたから、そいつがサギールをおかしくした犯人だろうな」

「ふむぅ。しっかし精神支配なぞオカルトの領域であるな」

 シュデムはヘスティオンの各部をシルキーでくまなく調査し、必要ならばそこに手を加えるという作業を一人で数十機同時に操作しつつ行っている。

 流石に疲労も見え、時折肩を回している姿も見られる。

「魔法もオカルトみたいなものじゃないか?」

「それは違うぞアルツ・エナム」

 アルツの言った言葉にシュデムが反応した。丁度いい休憩になる、と手を休めてヴィール達の集まっている方に向かう。

「魔法は列記とした学問なのである。使用する為に必要な理論が確立されている以上は、それはオカルトなどでは決してないのであるな。というか、魔法科のお前がそれを言うのかアルツ・エナム。吾輩、オカルトというのは現状科学では解明できていない分野の広義であると考えているのである。故に魔法であろうとマナであろうとエーテルであろうと、実在して研究がおこなわれていれば全てそれは学問である。科学である。サイエンスでありマジカルである。実にロジカル」

 そこまで論理的(ロジカル)かなあ、とその場に居た誰もが思ったが言うとややこしくなるので口を紡ぐ。

「んで、変態。精神支配がオカルトとか言ってたが?」

「うむ。良いだろう凡人眼鏡。説明してやろう。この大・天・才。シュデム・セイツェマンがな!」

「やっぱいいや」

「おぅ。説明させてください。お願いします」

 綺麗な土下座であった。何もそこまでする必要はあったのだろうか。いやない。

 むしろシュデムが土下座した事によってエリマが何かやらかしたような空気になっている。

「くっ、いいからさっさと話せ!」

 起き上がったシュデムのにやけた顔を見て、エリマは一杯食わされた事を確信した。

「では改めて。吾輩、一応は機械工学科に籍を置く身ではあるが古今東西あらゆる学問について一通りの知識を持っているのであるが、人の精神を支配するものなどあまり見ないのであるな」

「うん? あまり見ない?」

「ってことはある事にはあるんですね」

「如何にも。ただ魔法にはない。あるのは呪術と呼ばれるものである」

「呪術? 聞いた事ないな」

 ヴィールは周りに意見を求めてみるが、彼等も首をかしげる。

「まあ当然であるな。この話自体、確証のないものであるし。いわば伝承に近いものである。確証がない以上、吾輩はこれをオカルトとして扱っているのだが……ふむ。サギール・カタンが精神支配を受けていると聞いて、今思いだした」

「それで、呪術ってのはどんなものなんです?」

「読んで字のごとく。他者を呪う術、あるいは他者の呪いを増幅する術であるな。他者を呪い、操り、殺す。あるいは他者の中の呪い――例えば憎悪などを増幅させて暴走させる。そういうものだ」

「ちょっと待て。それって……」

「アディンさんの報告にあったサギールさんの異常に似てるような」

「うむ。そうなのだ。どうやら、オカルトと切って捨てるのは難しくなってきたようであるな」

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