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蒼天のヘクス・イェーガー  作者: 銀色オウムガイ
第三章 卒業編
44/315

旧型と新型2

 貨物船から出来たアルトエミスは力任せにアストライアを押し出し、キャストブレードをへし折る。

 折れた刃をアストライアにめがけて投げつけるが、アディンは刃の腹を裏拳で払う。

 港の舗装された地面に刃が突き刺さると共に、二つのヘクスイェーガーが衝突した。

 取っ組み合い。互いに互いの腕をへし折ろうと、力任せで行われる至近距離の攻防。

 組み合った手に込める力が、強烈な痛みとなってそれを操るアディン達にも伝わっている。それは相手も同じ事だ。だが決して離そうとしない。

「よくこれが偽装船だって判ったな」

「艦船オタクなめんな。偽装が甘いんだよ」

「それだけで斬りかかったのか? バカかお前!」

「カルパ型は十年前に新規製造が停止。運用自体も五年前に終わってるんだ。当然製造元のサポートもな。そんな骨董品みたいなものをわざわざ引っ張り出してくるような連中、まともな訳がないだろ!」

「そうかい!」

 アストライアが上体を大きく反らしてアルトエミスを引き寄せる。そして胸部が衝突するよりも早く勢いを付けて頭を振り下ろす。要するに、頭突きだ。

 完全に不意打ち。よもやそのような攻撃をするとは思いもしなかったのだろう。サギールは想定していない場所から伝わる痛みにうろたえ、掴んでいた手を離す。

 すかさずアストライアは上体を捻ってから勢いを付けて左の拳をアルトエミスの顔面へと叩きこむ。

 避ける事が出来ず、その拳の一撃のクリーンヒットを受け、アルトエミスは転倒する。

 その隙にもう一つのキャストブレードを抜き、それをアルトエミスめがけて振りかぶる。

 が、アルトエミスも腰のキャストブレードを引き抜いてその一撃を受け止める。

 そして寝そべった状態からの蹴りでアストライアの腕を跳ねあげさせると、エーテルリバウンダーの出力を上げて強引に起き上がるとがら空きになった胴体めがけて横一閃。

「≪エアロスラスター≫!」

 だが、刃の触れる寸前にアストライアが後へと下がる。魔法≪エアロスラスター≫によって強引に機体を押したのだ。その勢いの凄まじさは、二筋に抉られた舗装が物語っている。

 距離が開いた状態で、二機は睨みあう。

 剣を構え直し、次の行動に備える。

「サギール。今すぐその機体から降りろ」

「断る。これは俺の機体だ。俺のものだ。俺の力だ!」

 アルトエミスの胸からワイヤーが射出される。

 牽制だ。それは解っている。だが無視することもできない。

 放たれたワイヤーめがけて左腕を突き出す。

 絡みついたワイヤーを掴み、それを引っ張る。

 だが力を入れたその瞬間、ワイヤーユニットの基部がパージされ、アストライアは転倒する。

 頭が揺れる。だがそれで怯んで隙をさらす余裕などない。

 即座に追撃がくる。

 転倒したアストライアめがけて駆け出すアルトエミス。

 剣を逆手に持ち、その切っ先をアストライアの胸めがけて振り下ろさんと両腕を頭の上まであげる。

 が、その腹めがけて足を突き出し、相手の勢いをそのまま利用して後方へと投げ飛ばす。所謂、巴投げのような形になる。

 投げ飛ばされたアルトエミスは頭から整備ドッグへと突っ込み、施設を破壊する。

 本来ならそこから魔法での追撃というのがベストなのだろう。だが撃った後の被害の事を考えればそう易々と魔法の使用はできない。

 だがしかし。それはアディンの事情である。サギールの事情ではない。

 起き上がり、接近を仕掛けようとしたタイミングでアルトエミスがゆらりと起き上がった。

 そして背を向けたままキャストブレードの切っ先をアストライアに向ける。その直後、眩い閃光が放たれアストライアを弾き飛ばした。

「がっ!?」

 今度はこちらが不意打ちを食らう事になった。

 周辺被害を考えない魔法の使用。受けた魔法が何か、それを考えるよりも先に行動へ移る。

 強く踏み込んでアルトエミスめがけて跳ぶ。一直線ではなく、ジグザグにステップを踏みながら狙いを付けさせないように駆ける。

 そして間合いに入るなり横薙ぎに払う。

 同時に、アルトエミスも手に持つ剣を振り下ろす。

 互いの剣がぶつかり合い、火花を散らす。

 この時点で、アディンはある結論に至っていた。だが、それを否定しようと思考を巡らせる。

 しかし何度やっても、何度考えても結果は同じだ。

「アディン・アハット……俺がどれだけ惨めな思いをしてきたか、解るか? 解らないよなァ! お前はいつも仲間に囲まれ、日の当たる場所で、誰からも称賛されて!」

「……サギール?」

「だが俺はどうだ。最初に会った時からそうだ。いきなりお前たちにプライドをズタズタにされ、実機訓練の時もそうだ。お前に落とされた首の痛み。忘れたりはしない。そうだ、そうだ……俺はお前を倒さなきゃ、殺さなきゃァなぁ、前に進めないんだよォ!」

 何かがおかしい。

 確かにサギールの持つアディンへの感情は、敵意と言ってもいいものである。だが、それは殺意ではなかったはずだ。

 よくあるプライドを傷つけられた事への逆恨みをこじらせただけで、何も殺そうとはしていなかった。

 だが今のサギールはどうだ。明確な殺意を持ってアストライアを破壊しようとしてきている。

「なんだこのプレッシャーは……」

 徐々にアディンも、その異様な圧に気圧されはじめていた。

 明確な殺意。やり返さなければ、間違いなく()られる。

 だがアディンにはそれができない。

 魔女と戦う覚悟はある。実際その経験もある。だが、模擬戦以外でヘクスイェーガーを相手にした事はない。

 ましてや命のやりとりなど経験したことがない。

 ()られる。だが、こちらは()れるのか。その覚悟はあるのか。ましてや顔を知る相手を殺せるのか。

『聞こえるか。アディン・アハット』

「えっ、国王陛下?!」

『うむ。便利だな。モフモフとやら。今後ライセンス生産させてみるか』

 突如聞こえた予想外の声に一瞬気が緩み、その隙に押し込まれる。

 直後にいくらかの思考を操縦に専念させて、レヴァンダの言葉に意識を向ける。

『現在の状況は一応把握している。無論、すべてではないがな』

「陛下こそ、どうしてモフモフを?」

『以前イスナイン姉妹が揃って訊ねてきた事があってな。その時に説明を受けて、私も一つ頂戴したと言うわけだ』

「事情は解りました。ですが現在交戦中でして」

『サギール・カタンとだな。何故アルトエミスを奪い逃げたのかは解らぬが、アルトエミスの技術が国外へ流出するのだけは絶対に避けなければならない』

「……」

 嫌な予感がした。

 その言葉だけは聞きたくない。

『勅命である。アルトエミスを奪還。不可能ならば徹底的に破壊しろ』

「サギールは……」

『生死は問わない。だがお前は誰よりも理解しているはずだ。その機体を奪われる事の意味を』

 痛いほどに解っている。

 あの機体は、決して他国に流出していい機体じゃない。

 そして殺意を向けてくる相手が操るアルトエミスが、生半可な覚悟で挑める相手ではない事も。

 いくつもの思考を巡らせる。だが導き出された答えは――応え(結論)は全て同じ。

 アルトエミスを破壊するつもりで戦え。それ以外の選択肢はない。でなければ死ぬぞ。

 勅命。そう言われた以上アディンにそれを拒む権限はない。

 手加減して無力化できるような相手ではない以上、レヴァンダの言葉は事実上サギールへの処刑宣告でもある。

『……ここからは私個人の言葉だ。アディン。私を怨んでくれていい。憎んでくれていい。だが、その機体は』

「解ってます。陛下。お心遣い感謝します。では一つ確認なのですが……」

 アルトエミスの技術流出だけは――それが強奪などという手段を用いたものであるならば、絶対に阻止しなければならない。

 ならば、とアディンは覚悟を決める。

「港を破壊しつくしてもかまいませんか?」

『……許可する』

 言質は取った。サギールへの配慮も手加減も捨てる。周囲の被害も無視する。

 ここからは一切の加減なし。確実に仕留める為に、機体の出力を上げる。

「な、なんだ!? 急にアストライアのパワーが上がっただと!!」

「悪いな。サギール。今まで手加減してたんだよ。いろいろなしがらみがあってな。だが、もうやめた。無理だ。その機体のヤバさは俺が誰よりも知っている」

 アディンは剣から手を離す。同時に押し込みすぎていたサギールは前のめりに倒れ込む。

 そこへすかさず、膝を突き出された胸部めがけて突き出してまず一撃。続けて少し浮いたアルトエミスの頭部――人間で言うならこめかみのあたりを狙って肘を振り落とす。

「がぁっ?!」

 操縦席へ直堰叩きこまれた衝撃と、鳩尾を穿たれ息が詰まるほどの胸の痛み。そしてこめかみを貫かれる激痛。

 どちらも人的急所である。勿論実際に打たれたのは生身ではなくヘクスイェーガーである。だが、穿たれた痛みは生身で打たれたものと大差ない。

 アルトエミスはよろめきながらもなんとか立っていられるような状態であるが、一方のアストライアは余裕を見せている。

 否。むしろ今まで手加減していたのだと言わんばかりに、落としたキャストブレードを拾い上げる。

「またか……またお前は……」

 だがそれがサギールを刺激する。

 ――またお前はそうやって俺を見下すのか。

「お前は、お前はあああああああ!!」

 狂ったかのように、頭をかきむしり、身体を反らせて悶えるアルトエミス。

 まるでサギール自身の憎悪を表すかのように。あるいは獣の如き咆哮を上げているかのように。

 その姿を見て、改めてサギールが普通ではないと確信した。

 だが、だからといって手を緩める気など、既にない。

 退けないところにまで来てしまっている。

 殺るか、殺られるか。

 壊すか、壊されるか。

 こちらにその気はなくとも、基本性能で勝るアルトエミスに乗るサギールがその気なのだ。

「最終通告だ。サギール。ここからは加減なんてしない。いや、できない。殺すつもりなら、殺される覚悟を持って挑めよ」

「アディン……アハットォォォォォ!!」

 アルトエミスは手を横薙ぎにしながら、≪フレアジャベリン≫を複数同時展開する。

 少し前の、それこそ実機訓練が始まった時くらいのサギールにはできなかった芸当である。

 なるほど。確かにかつてのサギールとは比べるまでもなく成長している。

「死ね、アディン・アハット!!」

 爆槍が一斉にアストライアめがけて放たれる。

 それをすべて両手を突き出して発生させた≪ウォーターウォール≫で防ぎ切る。

 そう。あり得ない光景であった。

 本来≪ウォーターウォール≫は実に中途半端な防御魔法である。≪エアシールド≫のように物理攻撃に対する高い防御力を発揮するのではなく、魔法攻撃にも物理攻撃にも対応した結果どっちつかずな性能になっている≪ウォーターウォール≫は防御手段としてはあまり好ましいものではない。

 たとえ防げたとしても被弾後に爆発する特性を持つ≪フレアジャベリン≫を受ければ展開面積がごっそり失われて追撃には耐えられない。本来使うべきなのは、これよりももっと魔法防御に特化した魔法か、あるいは回避のために機動力を強化する魔法である。

 だが、アディンはそれらを考えるよりも先に展開速度を優先し、同時にアストライアの高い出力にまかせ、やや強引ではあるが通常のものよりも密度の濃いものを作り出していた。

 故にサギールはあり得ない光景を目にすることになる。

 次々と水の壁に衝突しては爆発し、展開された水を蒸発させる。だがしかし、展開した全ての≪フレアジャベリン≫が水の壁を穿ったにも関わらず、それは崩れる事なくその場にあり続けている。

「なんだよそれ、ふざけんなよ……! なんでソレがそんなに持つんだよ!」

「エーテルコンバーターの変換効率の差。そして高い変換効率に由来する高出力がなせる荒技さ」

 荒技と自分で言うだけあり、実際これを他のヘクスイェーガーでやろうとすると出力が足りない。アルトエミスでもできるかどうか。

 当然ながら機体そのものには多大な負荷がかかっているが、それを強引に押し切る。

 むしろアストライア独自の欠点――マナの供給量が多すぎて常時発散していなければマナバーストを起こすという欠点故に、強引にでも機体を動かしていなければ自滅してしまう。

 圧倒的なパワーと引き換えに存在する自滅のリスク。よくもまあ、母はこんな機体で戦っていたものだ、とアディンは改めて母の異常さを思い知る。

「これならどうだああああッ!」

 アルトエミスが剣を投げつける。

 エーテルコンバーター二つ分の出力を使って投げつけられた剣の一撃は、流石に物理的防御力が低い≪ウォーターウォール≫では防ぎ切れずに水の壁を貫きアストライアに襲いかかる。

 だがそれでも水の壁によって大きく勢いはそがれている。避けるまでに必要な時間は十分だ。

 否。完全には避けない。頭を狙ってきた一撃を首をかしげるようにして直撃を避けつつ、その柄を掴む。

「武器を捨てたのは愚行だったな」

 両手にキャストブレードを持ち、力強く踏み出す。

 踏み出した脚は地面を貫き、足首あたりまでは完全に地面に埋まる。

「自ら動きを止めた奴に、愚行など言われたくないなぁ!」

「≪グランドスピアー≫!!」

 その一撃は、たとえアディンと対峙したのがサギールではなくとも――例えばアディンと親しくしている第十二班の面々や騎士としてのガドルであっても避ける事は不可能だっただろう。

 何せアディンの使った魔法は、地面か岩石と触れていなければ使用できないという欠点のある魔法なのだから。

 もしヘクスイェーガーの運用が陸地のみで行われていたのならば、きっと警戒する人間もいたのだろう。

 だがヘクスイェーガーの主戦場は空だ。都合よく毎度毎度触れる事できる大地があるとは限らない。むしろない事の方が多い。

 だというのに、わざわざそんな魔法を覚えている人間がいるのだろうか。普通はいない。そういう意味では、アディン・アハットという少年は普通という枠組みからは外れた位置にいる少年なのだろう。

 踏み抜いた脚から突き出した岩石の槍がアルトエミスの右脚の装甲を穿つ。

「がッ……」

 鈍い痛みを感じたサギールが、一瞬ではあるが機体の操作を手放す。

 瞬間。二発目三発目と岩石の槍がアルトエミスの身体を串刺しにしていく。

 行動を封じるように、両手両脚の機能を奪うように次々と機体を貫く。無慈悲に。徹底的に。

 それでもなお、殺意のみで機体を動かそうともがく。

「が、があああああああああああああああ!!」

 既にそれは、人間の出す声ではなかった。理性を捨てて叫ぶその姿を人であると定義したくはなかった。

 全身が貫かれ、既に各部へ信号を送るための回路すら断裂しているはずなのに、なおもアルトエミスの四肢は動こうとしている。

「殺す、殺す殺す殺すゥゥゥゥゥ! アディン、アディンア、アディィィィィィアアアアアアア!!」

 狂乱するサギール。

 それに応えるかのように、アルトエミスの四肢が千切れ最後の攻撃に打って出た。

 まさか自ら四肢を千切るとは思いもしなかったアディンは一瞬反応が遅れ、その遅れ故にアルトエミスの特攻の直撃を受ける。

 四肢に回す必要のなくなったマナを全て推進のためのエーテルリバウンダーに回し、全速力での突撃。その威力が低い訳がない。

「がっ!?」

 弾き飛ばされ、宙に放り出される。

 ――すぐに追撃が来る。即座に体勢を立て直すと、すでにアルトエミスの姿がそこにあった。

 瞬間に理解する。ここで決まるのだ、と。

「アアアアアアアアアアアアアアア!!」

「サギール!」

 殺意に満ちた叫びをあげながら、死の礫と化したアルトエミスが突撃してくる。

 直情的。野性的。故に単純。

 だが真っ直ぐその突撃を受け止めるように、両手の剣を逆手で持つ。

 二機の機体が衝突する。くの字に折れ曲がるアストライア。だがその必殺の一撃に耐え、両手の剣をアルトエミスの背中に突き刺した。

「……あ?」

 呆気ないものだ。エーテルコンバーターを破壊され、回路の集中した場所である操縦席の裏を破壊されると、ヘクスイェーガーは動くことができない。

 アルトエミスはただの鉄塊となり、地面へと叩きつけられた。

 流石にもう起き上がる事はないだろう、と周囲を見渡せば偽装船の姿がない。

「クソッ」

 どうやら二機のヘクスイェーガーが戦闘状態になった時点で逃げ出したらしい。

 逃げられた事と、このような結果になった事へへの悪態をつきながら、残されたアルトエミスの四肢を徹底的に≪フレアジャベリン≫で破壊し尽くす。

 これでもし色気を出して戻ってきたとしても、技術流出の危険はないだろう。

 アディンは大破したアルトエミスの胴体部分を抱え、空へと舞い上がる。

 その姿は、悲哀に満ちたものであった。

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