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蒼天のヘクス・イェーガー  作者: 銀色オウムガイ
第三章 卒業編
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旧型と新型1

 アルトエミスが盗まれた。その言葉を聞いたアディンとヴィールは、己が耳を疑った。

 ヘクスイェーガーの盗難など聞いたことがない。戦争が活発だった大昔ならまだしも、魔女が出現し戦争どころではなくなった現代において、機体の強奪なんて事をする人間がいるという発想がなかった。

「盗まれたって……マジかよ」

「盗んだ人間は判ってるのか?」

「はい。サギールさんです」

 その名を聞いたアディンは眉をひそめ、ヴィールは目を丸くしている。

「急いで追わないとアルトエミスの速度だと……」

 アルトエミス五号機は先の戦闘で大破し工廠へと運ばれた一号機と異なり高速モードや防御モードといった特殊な機能は搭載されていない。

 あくまでも特化させた能力を持たせない、量産機のベースとして組まれた汎用型。速度にしても一号機ほどの速度が出せるわけではない。

 だがそれでも、ヘスティオンと比較すれば十分な速度が出るし、既に飛び立ってから時間が経過している。

 アルトエミスの出せる速度の事を考えれば一刻も早く追いかけなければ完全に見失う事になる。既にヘスティオンでは追う事ができないだろう。

「どっちに逃げたかわかるか?」

「……いえ、全く」

 肝心なことであるが、失念していた。

 アルトエミスがどの方角へと飛んで行ったのか、確かめていない。そもそも確かめる手段がアルにはない。

 考えていなかった。しまった、とアルが顔を青くする。このままではアルトエミスを持ち逃げされてしまう。

「闇雲に動いても見つかるもんじゃないぞ」

「……いや、ある程度は推測できる」

 アディンはそう断言した。

「何を根拠に?」

「サギールが俺への当てつけでやったとしたら、すぐ近くに居るはずだ。自己顕示欲の塊だからな」

 サギールが持つアディンへの悪感情は相当なものだ。特に、緊急事態とはいえアディンに一度撃墜されてからはもはや憎悪とも言えるほどになっていた。

 それをこじらせたのは、アディンがアルトエミスの開発にかかりきりでそもそもサギールと遭遇しなかったり、シプレースへ出向いて不在だったりと、サギールにとってのガス抜きが出来なかったからというのもあるのだろう。

 パンパンに膨れ上がった不満や不快感が、アディンが魔女アマティスタと戦って功績を残した事によって一気に爆発した。そういう可能性もあり得る。

 だとしたら、アルトエミスは盗まれたとしてもそう遠くへは行っていない。むしろわざと見つかるような、分かり易い場所に居る可能性が高い。

「でもそれ以外の可能性だって」

「あり得ない話じゃない。じゃあ最悪のケース。国外への持ち出しだが、これはあのアルトエミス単独では不可能だ」

「どうしてですか?」

「あ、そうか。仕様の違いか!」

 ヴィールがアディンの言葉の意味に気付く。

 遅れてアルも言葉の意味に気付いた。

「あっ。二号機から四号機には施されていても五号機には施されていない改良……」

「そうだ。あの機体は実戦用に調整されていない。各部はパーツ取り用に四号機と同仕様にされたが、操作系統は初期状態――つまりブラックボックスの時のままだ。あの操作難易度はアルトエミスの比じゃなかった。そんなじゃじゃ馬を国外へ出られるほど長時間操作する精神力をサギールが持っているとは思えない」

「国外へ持ち出すためには協力者と移動手段が必要になるはず、ということですね」

「あり得るとしたら、ウィスタリアの警戒網に引っ掛からないギリギリの位置に迎えがいる。あるいは……港に偽装船が待機しているか」

 そう考えると、学園から向かう方向は限られてくる。

「ここから一番近い港は?」

「たしかクニッツ港だったかと」

「……いや、違うだろ」

 ヴィールは少し考えてからそう口にした。

「あの港だけど、入港するのは観光目的の遊覧船か、島との連絡船ぐらいだ。とてもヘクスイェーガーを運べるような船はあの港には置けないはずだぜ」

「じゃあどこに……」

 ヘクスイェーガーほどの物体を収容できるだけの大きさの船舶ともなれば、遊覧船や連絡船などとは比較にならない大きさが必要になる。

 当然、それを連絡船と言い切るのは無理だ。遊覧船にしてもそこまでの大きさが必要になるはずがないと怪しまれる。

 もっと自然に、違和感なく紛れ込ませるにはどうするか。

「貿易港……!」

「それだッ!」

 多くの貨物をやりとりする為の港。当然大型船舶が停泊することも珍しくない。当然、その港には他国籍の船舶が停泊していてもなんら違和感がない。

「だとしたらどこだ。どこが近い?」

「ヴァイハ港だ。だが本当にそこに行った保障があるのか?」

「分からない。だから二人とも、大型船舶が停泊できるような港を片っ端から洗い出してくれ。近い順にしらみつぶしにする」

「でもそれだと、一直線に目的地へ向かうサギールさんに追いつけなくなるんじゃ……」

「それでも、やらなきゃだろ」

 アディンは覚悟を決め、アストライアへ向かって走り出した。



 久々に座るアストライアの操縦席はなかなかの座り心地であった。何より一体感が違う。

 こればかりはアストライア特有のものである。アルトエミスが傑作機であったとしても、この一体感には劣る。

 この心地よさに浸っていたい気持ちもあるが、それほど悠長にしていられる状況ではない。

 学園の格納庫から飛び立ってどれだけの時間が経過したのかはわからないが、アストライアで出せる最大速度で飛行し続けてヴァイハ港の全景が見渡せる程度の位置に到達していた。

 初めて乗った時は翻弄されたスピードであるが、アルトエミスでの高速戦闘を経験したからなのか、随分と落ち着いて操作することができている。

 そして、ヴァイハ港に近づいてから気付いたことがある。

「どうやって調べるんだ……」

 全くその点には考えていなかった。

 アディンが立場のある人間ならば国家権力を振りかざして調査に踏み込む、というのもありだろう。

 だがアディンは学生である。そんな権限など持っているはずがない。

 仮に持っていたとしても、相手はどこかの国の船舶である。証拠もなく踏み込めば国際問題に発展するのは間違いない。

 何よりも問題となるのが、今アディンが乗っている機体が、国外にも認知されておりなおかつ国内ならば知らない人間がいないほどの知名度を持つアストライアだということ。

 この機体を動かしていると言う事そのものが異常事態であり、間違いなく周辺への良くない影響が出る。

 勿論、今起きているのは非常事態ではあるが、問題なのはアルトエミスという機体の存在である。

 アルトエミスは公にされていない機体である為、その性能が認知されていない。

 魔女と対等に戦える新型機が存在している、という情報こそ発表されたがそれがイコールでアルトエミスと結び付くかというと一般的にはそうはならないだろう。

 アルトエミスの姿と性能を知るのはあくまで生み出されたクエルチア騎士学園の関係者と、国の上層部のみだ。

 たとえ、新型のヘクスイェーガーが盗まれたと言っても、その脅威度が認知されていない以上はアストライアを持ちだすほどの理由には結びつかないだろう。

「どうする……」

 思考を巡らせる。

 瞬時にいくつもの分割した思考が答えを求めて走り出す。

 ――提案。痕跡の捜査。

 ――提案。全船舶の襲撃。

 ――却下。非効率的かつ法的に問題。

 毎回必ずといっていいほど過激な提案をする思考があるのはなぜだろう、と自問する。

 どうしたものか。

 確かに痕跡を探せば特定はできるのだろう。だが、その時間が惜しい。逃げられてしまっては意味がない。

 ――考察。目標がこの港以外の場所に待機している可能性。

 否定はできない以上、考える必要はある。だが考えたところでどうやって特定する。

 今必要なのは特定する手段だ。

 出来るのならば、あちら側から出てきてくれるとありがたいが、そのような事にはまずならないだろう。

「いや、待てよ」

 可能性はある。サギールが自分の意思で行動しているならば、アストライアが出てくればそれだけで挑発としては十分だ。

 サギールが近くにいた場合、間違いなく仕掛けてくる。騎士見習いとしての技量はともかくあの男はそういった単純さを持っている。それがアディンのサギールに対する評価である。

 ならどうする。決まっている。

『アディンさん。ヴァイハ港の次に近い港ですが……』

「後でいいか。ちょっと思いついた」

 モフモフを通じてアルの声が聞こえたが、それを遮り機体を降下させていく。

 前傾姿勢でヴァイハ港めがけて速度を上げる。

 そして広い場所を探してそこへと着地した。

「さて、どうなるか」

『アディンさん? 何をしたんです?』

「いや、ちょっとヴァイハ港に着地を」

『何やってるんですか!?』

 怒鳴られた。まあアストライアという機体がもたらす影響を考えれば無理もないが。

 実際、着地した途端蜘蛛の子を散らすように走り去っていく人々が見える。

 軽い――否、完全にパニック状態になっている。

 やってしまったか、と考えるのは一瞬だけ。やってものは仕方ない、と割り切る。開き直るともいうが。

 港を見回して、停泊している船舶を確認する。

 どれもこれも大型の船舶で、その多くが貿易のためのものだ。だがどれもヘクスイェーガーを隠すには小さいように思えた。

 ここはハズレか。そんな考えも過った。

 だが、なぜか違和感を感じる。

 その違和感を探す。この感覚は大事だ。

 案外、その違和感がそのまま答えへと繋がる事もあるのだから。

 目を凝らし、集中し、感じた違和感の正体を探す。

 そして、その正体に気付くと同時に腰のキャストブレードを抜き、その切っ先を違和感の正体へと向ける。

 切っ先の先にあるのは一隻の大型貨物船。

「アル、どうやらここで当たりだったみたいだ」

『見つけたんですか?』

「いや。だが少なくとも、歓迎できるお客さんではないな。そして利口でもない。何せ、偽装が半端だ」

 切っ先を向けたまま偽装船だと目星を付けた貨物船へと近づいていく。

『待ってください。アディンさん。それが本当に偽装船かどうかは……』

「わかるさ。俺がどれだけ空を見ていたと思う。通った船は徹底的に調べてすべて覚えている。その形だけでなく、全長や本体重量は勿論。積載可能重量から窓の数までな」

『だからといって……』

 更に距離を詰め、切っ先が船体に触れるか触れないかまでキャストブレードを近づける。

「イングヴェア連邦のラブラクス型貨物船。確かにそう見える。だが姿勢制御用エーテルリバウンダーの噴射口が少ない。片側三つだから両舷で三対足りないんだよ」

『アディンさん?』

「それにな、ラブラクス型はもっと大きい。つまり、この貨物船はラブラクス型ではなくもっと小型で、似た姿のものに偽装をしたもの。ラブラクス型に見せかけたカルパ型。その改造機だ!」

 そしてアストライアは剣を振りあげ、それを貨物船めがけて振りおろす。

 瞬間。貨物船の装甲を貫いて巨大な鋼鉄の腕が二つ飛び出し振り下ろした刃を受け止める。

「やっぱり居やがったか……サギール!!」

 刃を受け止めた機体がゆっくりと出てくる。それは紛れもなく、盗み出されたアルトエミスであった。

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